- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

三人娘の基礎修練

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 ターゲットである『アルミラージ』は、北西に広がる深い森に生息している、大型のウサギ型の魔物だ。
 愛らしい見た目に反して凶暴で、額の鋭い一本角で魔法を操る厄介な相手だ。普段は森から出てくることはほとんど無い。

 門を出たところで、オレたちは足を止めた。

「さぁ、強化術は出来る?」
「私とジェニーはまだいまいち掴めないの。ニナが治療術と強化術が得意で、私たちが練気を武具に纏うのが得意なの」
「なるほどなぁ。ニナちゃん、二人に迅速をかけてくれる?」
「うん、分かった!」

 ニナが短く詠唱すると、エマとジェニーの身体が淡い光に包まれる。強化術で脚力が強化されたのを確認し、オレたちは森へ向けて駆け出した。
 風を切って走る。
 ふと横を見ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

「ユーゴさん! 見て!」

 ロンが叫ぶ。
 何もない空中を足場にするように、軽やかに空を駆けていた。

 おぉ……ロンの奴、本当に空を駆けてやがる。凄いなコイツは。

「相当頑張ったなロン……凄いよ」
「へへっ、でしょ?」

 ロンは皆に褒めてもらって上機嫌だ。鼻の下を擦る仕草はまだ子供っぽくて、少し安心した。
 女性三人もある程度のスピードでしっかりと付いてきている。ジェニーは背中に盾を背負っているから、盾役だろう。ニナが後衛サポートで、エマがアタッカー。上手いこと基本のパーティー構成になっている様だ。
 どうせなら、皆が全ての術に精通できるように指導してやりたい。

 鬱蒼とした木々が並ぶ森に到着した。
 木漏れ日が差し込む薄暗い獣道の先に、影が見える。

「さぁ、森に着いたな。まずはロン、手本として魔法剣技を見せてくれ」
「分かった!」

 前方には、Bランクのアルミラージがこちらを警戒して身構えていた。額の角が鋭く光っている。
 ロンは迷いなく刀を抜き放つと、風遁を一気に刀身へと圧縮させた。

魔法剣技まほうけんぎ 流刀乱舞りゅうとうらんぶ!』

 疾風が吹き荒れた。
 流れるような連続の斬撃。目にも留まらぬ速さでアルミラージを切り刻み、ロンが着地した瞬間、魔物はどうと地に伏した。
 十三歳の剣技ではない。空を駆けるほどの精度に達した練気操作。斬れ味も以前とは比べ物にならない。

「よくここまで物にしたな……スピードも精度もかなり上がったな。オレも負けてられないな……」
「ホントに!? もっと頑張るよ!」

 無邪気に笑うロンを見て、オレは冷や汗をかく。いや、お世辞抜きでホントに抜かれないようにしないと……。

 次は三人娘の番だ。
 師匠であるロンの凄さを目の当たりにして、彼女たちもやる気に溢れた顔をしている。

「よし、ここにはそれぞれのエキスパートがいる。ニナちゃんはエミリーの指導を受けてくれ。エミリー、治療術と強化術は勿論だけど、武具に練気を纏えるように指導してくれるか? 後はサポート役としての立ち回りもな」
「分かったよ! ニナ、よろしくね!」
「エミリーさん! お願いします!」

 元気な似た者コンビだ。相性は良さそうだ。

「盾を持ってるって事は、ジェニーは盾役だよな? トーマス、頼むよ。治療術と強化術もな」
「あぁ、分かったよ。基本からやろう」
「トーマス君、よろしくね!」

 ジェニーは嬉しそうに、トーマスの腕にギュッと抱きついた。

「おい! くっつきすぎだろ!」

 鋭い声が飛ぶ。ジュリアだ。
 彼女は眉を吊り上げて二人を睨んでいる。

「え? あっ、トーマス君の彼女さんだった?」
「え!? いっ……いやそういう訳ではないが……」

 ジュリアが狼狽える。

「なぁんだ! じゃあ良いじゃん! 行こっ、トーマス君!」
「む……!」

 ジェニーがさらに腕に力を込めると、ジュリアのこめかみに青筋が浮かんだ。
 あんな顔をするジュリアを初めて見た。完全に嫉妬している。エミリーの話では、自覚はなさそうだけどジュリアはトーマスに恋をしているらしい。強力な恋敵の出現で、自分の気持ちに気付く良い機会かもしれない。

「ユーゴ、アタシはトーマスと一緒にジェニーの指導に当たるぞ!」
「あぁ……分かった。頼むよ」

 トーマスが困った顔でこちらを見ているけど、オレは親指を立てて見送った。
 頑張れジュリア、そしてトーマス。

「じゃあ、エマはオレとロンで指導するよ」
「うん! お願いします!」

 オレたちが向き合うと、ロンが空気を読んだのか、スッと手を挙げた。

「オレ、どっか行こうか? 二人の邪魔でしょ?」
「いやっ……邪魔って事はないけど……」

 エマが顔を赤らめる。

「オレ、向こうのアルミラージで自主練しとくね! 二人でゆっくりどうぞ!」

 そう言って、ロンは風のように空を駆けて行ってしまった。
 あいつ、強くなっただけじゃなく、気を遣う事まで覚えやがって。

 残されたオレとエマ。気を取り直して指導に入る。

「さぁ、早速刀に練気を纏ってみようか」

 エマは刀を抜き、正眼に構えた。
 ロンがしっかり教えたのが分かる。重心が安定した、基本に忠実な良い構えだ。そして刀身には、薄く丁寧に練気が纏われている。

「その木を『剣風』で切ってみようか」

 オレが指差した手頃な木に向かい、エマは左側に切っ先を傾け身構えた。

剣技けんぎ 剣風けんぷう!』

 鋭い風切り音と共に放たれた斬撃は、対象の木をスパンと切り裂き、さらに後ろの三本をも斬り倒して消えた。

「ほぉ、いい剣風だな。筋がいい」
「へへっ、ありがとう」

 エマが嬉しそうに汗を拭う。

「あと、守護術は防具や武器を媒介に張ると硬さが増す。練気の扱いは問題ないな。これで治療術や強化術が苦手って事は……エマは魔法は扱えるのか?」
「魔法は生活魔法くらいだね……火を点けたり、水を少し出したりとか」

 戦闘に使う魔法の他に、一般の人族が扱う生活魔法がある。薪などに火を付けたり、バケツ程度の水を出したり、生活に欠かせない簡単な魔法だ。もっとも、皆ができる訳じゃないから、魔法具が開発された経緯もあるんだけど。

「生活魔法レベルで十分だ。大事なのはイメージする力だよ。火や水は日常で扱うからイメージしやすいだろ? 回復魔力の生成も同じだ。イメージなんだよ」

 さて、メイファさん直伝のスパルタ指導法といこうか。
 でも、エマを斬りつける訳にはいかない。オレは異空間から自分の刀を取り出すと、迷わず自分の左腕を斬りつけた。
 鮮血が滴り落ちる。

「え!? ちょっとユーゴ君! 何してんの!」

 エマが悲鳴を上げて駆け寄ろうとする。

「そう思うなら早く治療してくれ。治したいか? その思いをイメージに乗せて、魔力を回復用に変換するんだ。それを練気に練り込んで、傷に纏わせて治療する」
「で、でも……!」
「落ち着けエマ。おまえならできる」

 オレはエマの目を真っ直ぐに見つめた。
 エマは一瞬あたふたしたが、深呼吸をしてカッと目を見開いた。
 迷いが消え、集中力が高まる。いい目だ。これは掴んだ。

治療術ちりょうじゅつ 再生!』

 エマの手のひらから温かい光が溢れ、オレの腕を包み込む。
 傷口が塞がり、痛みがあっという間に引いていった。完全に元通りだ。

「出来た!」
「うん、掴んだな。分かったか? 魔法と何ら変わらない、イメージする力だ。強化術も一緒だよ」
「なるほど……力、速さ、硬さ。そのイメージで魔力を変換して練気に混ぜれば強化術になるのか。ニナはイメージ力が優れてたんだね」
「まずは基本をしっかり反復する事だな。一度掴めば後は早い。属性魔力がイメージ出来れば、自然エネルギーを取り込むのも容易になる。それは次の段階だな」

 エマは頷くと、すぐに実践に移った。
 剛力、剛健、迅速。三つの強化術を自身に施す。
 そのまま刀に練気を纏い、森の奥から現れたアルミラージと対峙した。

 キシャーッ! と鳴き声を上げ、アルミラージが無数の風の刃を放つ。
 エマは冷静だ。すぐに反応し、刀を前に出して守護術を展開する。
 キンキンキンッ! と甲高い音が響き、全ての風魔法を弾き飛ばした。しっかり武具を媒介にして張れている。強固な守護術だ。

 風が止んだ一瞬の隙を見逃さず、エマが踏み込んだ。

剣技けんぎ 撫斬なでぎり!』

 強化された脚力で間合いを詰め、横一閃。
 練気を帯びた刃が閃き、アルミラージを胴から真っ二つにした。
 魔物は声を上げる間もなく地に伏せた。

「お見事!」
「やったぁ!」

 エマが飛び跳ねて喜ぶ。
 その姿はいつもの可愛いエマそのものだけど、実力は確実に一流の狩猟者ハンターへと近づいている。
 まさかエマに戦闘法を指導する時が来るとはな。
 とりあえず、練気術の基本はマスターだ。これなら試験も問題ないだろう。
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