- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

それぞれの想い

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 エマはその後、アルミラージ数頭と、ついでに現れたスレイプニル数頭を、危なげなく切り刻んだ。
 オレが口を出すまでもない。見事なもんだ。
 夕方になり、皆と合流するために森の入り口へ向けて歩く。

「疲れただろ? 今日はお店、大丈夫なのか?」
「あれ、言ってなかったっけ? 今日はお店、定休日なの」
「あぁ、そうなのか。じゃあ、今日はエマの部屋に泊まっていい?」

 エマは満面の笑みで頷いた。

「もちろん! いっぱいイチャイチャしようね」

 その言葉に、下腹部が熱くなる。約一年ぶりのイチャイチャだ。
 オレは一切浮気をしていない。他の女性の裸を見て反応したくらいでは、浮気には当たらないはずだ。

 集合場所に到着すると、皆は既に集まってい
 た。
 トーマスの右腕にジュリアが、左腕にジェニーが、それぞれしがみついている。

「何してんの二人とも……」
「指導が終わった途端、ジェニーがトーマスを独り占めしようとするからさ! アタシも片腕貰ってるんだよ!」

 ジュリアが対抗心を隠そうともせず言い放つ。

「ふふっ、ジュリアちゃんと私、どっちがトーマス君を射止めるか勝負するんだよね!」
「なっ!? アタシは……そっ、そんなんじゃないからな! 指導の一環だ!」

 ジュリアの顔が真っ赤だ。
 よしよし、いいぞジェニー、もっと煽れ。
 トーマスも困った顔をしているけど、さすがにジュリアの好意に気付いたようだ。さて、どう出るか。

「それはいいけど、ジェニーの術はどうだった?」
「うん、完璧だよ。メイファさん式イメージ法がバッチリハマったみたい」
「あぁ、オレもそれで教えたよ。……オレらは切りつけられたけどな」

 苦笑すると、エミリーとニナがキャッキャと盛り上がっているのが見えた。

「ニナは私と同じ症状で苦手意識持ってたんだよね! 里長さんから貰った『魔法の言葉』で一発だったよ!」
「エミリーちゃん教え方すっごく上手なんだもん! 明日も教えてくれない?」
「いいよ! 任せて!」

 二人はすっかり意気投合している。空気感が似ているとは思っていたけど、波長が合うんだろう。
 里長からの魔法の言葉。今度こっそり教えてもらおう。

「今日は店休みらしいから、皆で飲みに行かないか?」
「賛成!」
「よし、じゃあエマはオレがおんぶして行くよ。疲れたろ?」
「えへへ、ありがとう」
「じゃ、ニナは私がおんぶする!」
「じゃあ、ジェニーちゃんは僕が……」
「ジェニーはアタシが運ぶからいいよ! ほら乗れ!」

 ジュリアが強引にジェニーを背負おうとしている。
 ジュリア、いいぞ! 負けるな!

「よし、全力で飛ぶからな! 舌噛むなよ!」

 エマを背負い、全力の浮遊術でレトルコメルスを目指して飛び立つ。
 背中に感じるエマの温もりと、二つの柔らかな感触。
 はぁ……夜が待ち遠しい……。

 
 ◇◇◇

 
 オレたちの全力飛行だ、レトルコメルスにはあっという間に到着した。

「速すぎるよ……さすがだね……」

 エマが目を回しかけている。

「明日も大丈夫ならAランク試験付き合うぞ? その後にでも、この浮遊術を教えるけど」
「私はお願いしたいけど、みんな大丈夫?」
「私は大丈夫! こんな機会無いもん!」
「勿論大丈夫です!」

 三人ともやる気満々だ。

「よし、じゃあ明日の朝、狩猟者協同組合ハンターギルドに集合でいいか?」
『はい!』
「では、一旦解散して汗を流してから、冒険野郎に集合で!」
「了解! もうスッピンで行くよー!」

 エマたちはBランクだけど、レトルコメルス在住者の証明証を持っているから、検問の列に並ぶ必要はない。スムーズに街中へ入る。

 今日の分の報酬は明日まとめて貰えばいいけど、討伐した魔物の肉は新鮮なうちに売った方がいい。ギルドから紹介された精肉店に売り捌き、ロンと三人娘に分配して解散した。
 皆それぞれの家に帰っていく。オレたちもホテルに戻り、シャワーを浴びることにした。

 さっぱりと汗を流し、ロビーのソファで涼んでいると、エレベーターからバッチリお洒落をしたジュリアが降りてきた。

「おぉ、気合い入ってるなジュリア」
「気合い? いつも通りだろ」

 澄ました顔でそう言うが、明らかにメイクに力が入っている。
 メイクは勉強中だと言っていたけど、彼女はスッピンでも十分美しい。少し着飾るだけで、他の女性を置き去りにするほどの華がある。
 しかし、相手はソレムニーアベニューの人気者、ジェニーだ。美のプロフェッショナル相手に、ジュリアも危機感を抱いているんだろう。

 いやぁ……面白い戦いだ。楽しんですまん、トーマス。

 すぐに全員が揃い、オレたちは冒険野郎へ直行した。

 席はホテルに帰る前に予約しておいた。
 店に入ると、ラフな私服姿の三人が、宣言通りスッピンでビールジョッキを傾けて待っていた。高級クラブでの煌びやかな姿とはかけ離れているが、その無防備な姿に親近感を覚える。彼女たちのこんな姿を見られるのは、かなりレアだろう。

「おまたせ、遅かったかな?」
「いや、私達もさっき来たとこだよ」

 ロンは相変わらず、リンゴジュースを美味しそうに飲んでいる。

「まずはロン、この三人をここまで鍛えてくれてありがとう。お前をエマの店に押したのは間違いじゃなかった。ロンを誇りに思うよ」

 オレはロンの肩を叩く。

「あと二年、お前なら騎士団で大出世すると思う。そしてその指導を受けた三人は、よく一年足らずでここまでの戦士になった。明日はAランク試験だ。話が長くなったけど、乾ぴゃ……」

 一番良いところで盛大に噛んだ。

「ぷっ……締まらないねユーゴは……私が請け負うよ! カンパーイ!!」

『カンパーイ!』

 エミリーに良いところを全部持っていかれた。
 グラスがぶつかり合う。
 トーマスの両サイドにはジュリアとジェニー。両手に花のトーマスは、困りつつもまんざらでも無さそうだ。さて、彼はどちらを選ぶのか、あるいは……。

 エミリーの横には、一日で意気投合したニナが、オレの横にはエマが座っている。オレとエミリーの間にはロン。

 ふと、思考が現実的な問題へと飛ぶ。
 ロンは二年後には騎士団に入団する予定だ。
 しかし、五年後には例の奴ら――魔神ルシフェルを擁したマモン達がこの国に攻めてくる可能性がある。
 オレたちはもちろん戦う。そして、ロンもその戦いに巻き込まれる可能性が高い。騎士団に入れば当然だ。
 さすがに五年で昇化しょうかの域に達するのは難しいだろう。いくらロンが強いとはいえ、人族の身であのレベルの戦いに介入するのは危険すぎる。
 オレはこいつを、死地に送り込む手助けをしているんじゃないか? だとしたらオレは……


「ユーゴ君!」
「んあぁ! どうした?」

 耳元で呼ばれ、我に返る。

「何難しい顔してブツブツ言ってるの……?」
「え、あぁ……ブツブツ言ってた……? いや、何でも無い、今日は飲もう!」

 そうだ、考えても仕方ない。

 前線は王都だ、オレ等が抑えればそれでいい。でも……先日の物見で兵を亡くしている。戦はもう始まってるんだ。
 エマたちだってそうだ。明日にはAランクになるだろう。有事の際には高ランク狩猟者ハンターとして徴兵される可能性も考えられ……。

「ユーゴ君って! 私が横じゃ楽しくない……?」

 エマが不安げに上目遣いで見てくる。

「あぁーっ! いや、ごめんごめん!! 何か最近考え込んだら止まらなくてさ……ちょっと癒して欲しいかも……」
「もう……もっと甘えてくれて良いんだよ……? 甘えてるの私ばっかりなんだから」

 エマがオレの腕に頬を寄せる。

「いや、そんなことない。どれだけエマの存在がオレの支えになってるか」
「ちょっと二人とも、俺が間横にいるの忘れてない?」

 ロンが呆れた顔でツッコミを入れてきた。

「えっ、あぁ……昼も気使ってくれたもんな……すまんすまん。よし、飲むぞぉー!」

 そうだ、まだ五年ある。
 悩むのには十分すぎる時間だ。オレたちも更に強くなれる。これから里に帰って更なる研鑽も出来る。
 里からレトルコメルスまでは二日もあれば来れる距離だ。今日みたいに、大切な人たちを鍛える時間はいくらでも……。

「おーっと! また思考のループに入りかけた!」
「いや、かけたじゃないよ、完全に入ってたよ」
「ごめん……よし、乾杯!」

 ロンとエマ、三人で改めてジョッキを合わせた。
 こうして皆が楽しく酒を飲める、この当たり前の幸せを守るために、オレは戦うんだ。

 結局、狩猟者ハンターが酒を囲めば盛り上がるのは世の常だ。
 エマたちは接客のプロ集団だけど、店での顔とは違う、素の笑顔で楽しんでいた。なんだかんだで、ジュリアとジェニーも意気投合して仲良くなっている。良かった。

 明日の約束をして解散となった。
 ジュリアとトーマスが二人で腕を組んで帰って行くのを、ジェニーが笑顔で見送っている。余裕なのか、諦めたのか、それとも……女心は分からない。

 オレは方向が同じロンと、エマの家に向かう。

「いやぁ、楽しかったなぁ。ロンも年頃だ、好きな女とかいないのか?」
「いやぁ……そんな暇ないよ……」

 ロンが顔を赤らめて視線を逸らす。これは良い子がいるな、分かりやすい奴だ。

「ロン君はねぇ、ニナが好きなんだよねー」
「アァーッ! エマさんバカァ!」

 ロンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ふふっ、私は応援してるんだよ?」
「そうか、いい子だもんなニナちゃん。あの子からしたら、ロンが居たから今の店にいる事ができてるっていう恩もあるしな。あながち無謀な恋じゃ無いかもよ? なんたって師匠と弟子だしな」
「ユーゴさん、笑わないの……?」
「笑うわけないだろ。年の差なんて関係ない。たかが五歳くらいだろ? うちの両親なんて、100歳以上は離れてるし」

 空気が固まった。

「……は!? 100歳!?」
「あっ! いやっ……10歳の間違いだ! 酔っ払ってるなオレ!」

 ふぅ、何とも思わず喋ってた……二人が昇化したら言おうかな……。

 そうだ。もしエマがこれから武術に打ち込み続けて、昇化する可能性だってゼロじゃない。そうなれば、ずっと一緒に居る事が出来る。
 そんな未来を夢見てもいいだろうか。

 エマのマンションに着いた。
 ロンを見送り、二人きりで部屋に入る。
 
 シャワーを浴びて汗を流し、そのままベッドの上で、互いの愛を確かめ合った。
 出会いは最悪だったけど、今となっては笑い話だ。
 腕の中で微睡むエマの寝顔を見つめながら、オレは誓った。
 この女性を愛している。一生守っていくと。
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