- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

届かぬ想い

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「昨日初めて来たが、里長がはまってしまってな」
「うむ、里では食えぬ味故な。今日もここを所望した」

 里長が満足げに髭を撫でる。
 意外だ。龍族の長である里長までもが、この店の虜になるとは。確かにこの『冒険野郎』には、そういう不思議な魔力がある。
 醤油と味噌をこよなく愛する人すらも陥落させる、ジャンクフードの暴力的な旨味。恐るべしだ。

 店に入り、まずは冷えたビールで乾杯だ。
 オーダーは里長たち四人に任せたけど、誰が頼んでもメニューはさほど変わらない。テーブルにはソーセージの盛り合わせ、スパイシーな肉料理、ピッツァやパスタといった人気メニューが所狭しと並ぶ。

「皆さん、ケルベロスはどうだったんですか?」

 オレは興味津々で尋ねた。
 里長たちは昨日狩猟者ハンターカードを作成し、あろうことか初めての依頼にSSランクを選んだ、規格外の新人だ。ケルベロスといえば、地獄の番犬とも呼ばれる三つ首の魔物だ。

「あぁ、俺が犬の攻撃を受けてる間に、三人が一本づつ首を落として終わりだ」

 ヤンさんがピッツァを頬張りながら、散歩の話でもするかのように答える。
 SSランクの魔物の討伐話をサラッと……やっぱりすごい新人たちだな……見たかった。

「このビールとやらが美味いな。今回の遠征ですっかりはまってしまった」
「里にも大陸から輸入しねーといけやせんね」

 シャオウさんがジョッキをあおる。
 里長がとろけるチーズの乗ったピッツァにかぶりついている姿なんて、里に帰れば二度と見られない貴重な光景だ。

 食事が進んだ頃、ヤンさんが切り出した。

「里長。明日出発ってぇ話ですが、俺はちと仙神国せんしんこくに合金を買いに行きてぇと思ってるんですが、構いませんか? 里の在庫も尽きかけてますし」
「あぁ、別に咎めはせぬ。では、儂らは先に帰っておくとしよう」
「ありがとうございます。おいトーマス、お前ぇも来てくれねぇか? 売ってる場所の案内と空間魔法があればありがてぇ。大量に欲しいからな」
「へい、師匠! もちろんご一緒しますよ」

 トーマスが快諾すると、すかさずジュリアが手を挙げた。

「じゃあ、アタシも行くよ。里帰りがてらおすすめの店を紹介しよう」
「本当か? ありがてぇ、頼むよ」

 ジュリアとトーマスが共に行動か。
 ヤンさんというお邪魔虫も……いや、付き添いが居るけど、道中でいい感じに進展すればいいな。

 仙神国への往復となると、五日くらいは掛かるだろうか。

「オレもここでヤンさんたちを待って、一緒に帰りましょうかね」
「じゃあ、私もそうしようかな」

 エミリーも賛同する。

「左様か、分かった。帰ったら屋敷に顔を出すが良い」
「エミリーとジュリアはうちで面倒を見よう。帰ったらうちに来い」
「分かりました!」
「あぁ、世話になるよ」

 メイファさんの言葉に二人が頷く。
 
 こうして食事を終え、里長たちとは店で別れた。予定変更で、五日程度の追加滞在だ。

「明日はオリバーさんの所に行ってこようかなぁ」
「私は何しようかなぁ」

 手持ち無沙汰になりそうな空気を察し、オレは提案した。

「とりあえず四人でエマの店に行かないか?」
「あぁ、行ってみたいな」

 
 ◇◇◇

 
 オレたちは、ソレムニーアベニューの中心に店を構えるクラブ『Perchパーチ』に到着した。
 店の入り口を見て、ふと気付く。
 大きな両開きの重厚なドアは、内にも外にも開く構造になっている。
 なるほど。前の店では荒くれ者にドアを蹴破られまくっていたからな。どちらにも開くなら、壊れる心配もそこまでない。エマなりの工夫か。

「あ、ロンだ! カッコイイじゃん!」

 エミリーが声を上げる。
 入り口には、黒服としてビシッと決めたロンが立っていた。

「あ、四人で来たの? お席にご案内致します」

 少し大人びた所作で、ロンがオレたちをボックス席へと案内する。

 席に着くとすぐに、エマとニナがやってきた。

「いらっしゃい! みんな今日はありがとうね! ジェニーは他のお客様に着いてるから、後で来るように伝えたよ」

 エマの手際よい采配で席が決まる。
 ジュリアはちゃっかりとトーマスの横を陣取っている。ニナはエミリーの隣だ。

「明日からトーマスとジュリアがヤンさんたちと出かけるから、オレとエミリーはあと五日ほどここにいようと思うんだ」
「そうなんだ! うち、勝手に使っていいからね」
「じゃあエミリーちゃん、私の家に泊まらない?」

 ニナが嬉しそうに提案する。

「え、いいの? じゃあ行く!」

 寝床は決まった。明日は皆と一緒にホテルをチェックアウトすればいい。

 少しして、接客を終えたジェニーが合流した。
「お待たせー!」
 いつも通りの明るく元気なジェニーだ。彼女はジュリアと、トーマスを挟む位置に座った。
 三人で楽しそうに談笑している。
 昨日の今日だ、気まずくないかと心配したが、杞憂だったようだ。良かった。

「ユーゴ君、明日用事ある? ショッピングに付き合って欲しいんだけど」
「あぁ、いいよ。ホテルをチェックアウトしたら行くよ」

 夜が更けるまで皆で楽しく飲み、オレたちはホテルに戻った。

 
 ◇◇◇

 
 翌朝。
 豪華なホテルの朝食も今日で最後だ。
 里長たちも、焼きたてのパンやオムレツを名残惜しそうに食べているように見える。

 チェックアウトを済ませ、皆がホテルの前に集合する。

「では、またな」

 里長、シャオウさん、メイファさんが手を振り、東門へと向かう。彼らは一足先にリーベン島へ帰還する。
 続いて、ヤンさん、トーマス、ジュリアの仙神国組も出発した。

 彼らを見送り、残ったのはオレとエミリー。

「さぁ、オレはエマに付き合ってくるわ」
「私もとりあえずニナんとこ行こうかなぁ」

 エミリーと別れ、オレはエマのマンションへ向かった。
 呼鈴を鳴らすと、すぐにドアが開く。エマは既にバッチリと準備を終えていた。

「おはよう! 紅茶淹れるね」

 部屋に入ると、芳醇な香りが漂ってくる。オレの好きな銘柄だ。
 ソファに座り、温かい紅茶を飲みながら一息つく。

「一昨日……みんなと別れた後、ジェニーが店で泣いてたんだ」

 エマが静かに切り出した。

「え……? トーマスとジュリアの事か」
「……うん。ジェニー、結構前からトーマス君の事が好きだったからね」

 やっぱりそうだったのか。

「でも、思いっきり泣いてスッキリしたって言ってた。相手がジュリアちゃんだもん、勝ち目ないよ、って」

 エマはカップの縁を指でなぞりながら続ける。

「トーマス君ってさ……ジェニーと何回か一夜を過ごしてるけど、一度も手を出してきた事ないんだって言ってた」

 え……?

 オレは絶句した。

 マジで? 酔った勢いとか、雰囲気に流されるとか……一度もないのか? 同じ男として信じられない。凄い精神力だなトーマス……。

「そうか……トーマス、本当にいい男だもんな。タイミングもあったのかもな。付き合いはジェニーの方が長いのに、筋を通したんだな」
「そうかもね。私も、ジュリアちゃんが相手なら諦めるかな……」
「あいつ雑でだらしないけど、中身は良い奴だし、見た目は綺麗だもんな……」

 ふと視線を感じて顔を上げると、エマがジトーッとした目でオレを見ていた。

「な……なんだよ?」
「ふーん……ジュリアちゃんは綺麗なんだ」
「オ、オレはエマ一筋だぞ!?」

 慌てて弁解すると、エマが吹き出した。

「ハハッ、何焦ってんの。冗談よ、信じてるって」

 そう言って微笑む彼女を見て、オレは心底ほっとした。
 こんな風に恋愛の話ができるというのは、平和な証拠だ。この平和を、絶対に守らないといけない。

 今日から五日ほど、ここにお世話になる。
 その間、皆に術の指導もできるだろう。とはいえ、連日はきついだろうから、あと一日くらいにしておくか。
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