- Mix blood -

久悟

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第六章 四種族大戦編

駆け引き

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 東の砦に戻り、龍族の幹部たちが一室に集まった。
 殺風景な会議室だが、そこに集う面々の顔ぶれだけで、室内の空気密度が変わったように感じる。

「儂らが仙族隊と共に先鋒隊を受ける事になった。まさか仙王自ら出ると言い始めるとは思わなんだがの」

 里長が髭を撫でながら、不敵に笑う。

「ヤマタノオロチとの戦闘以来か……。儂も久しぶりに、本気で暴れるとするかの」

 その言葉に、室内の空気がビリビリと震えた。
 里長の特異能力が、ついに見られるのか……。
 伝説の龍王の本気。想像するだけで肌が粟立つ。
 他の皆も、シャオウさんや父さんを含め、確実に奥の手を持っているはずだ。

「もう、里長ぁ何言ったって聞きゃしねぇからな」

 シャオウさんがやれやれと肩をすくめるが、その目は真剣だ。

「あぁ。里長を守るのぁ俺の役目だ。前線は任せとけ、親父」
 
「さて」

 里長が切り出し、シャルロット女王から預かった二つの小型通信機『インカム』をテーブルに置いた。

「この二つの通信機、誰が持つがよいかの。後方で戦況を俯瞰し、広く指示を出せる頭の良い者がよい。儂はメイファが良いと思うが」

 全員の視線がメイファさんに集まる。

「私……ですか……?」

 メイファさんは里一番の治療術師だ。負傷者の治療の指示も的確に出せる。
 しかもかなり頭が切れる。大昔の魔族との大戦でも、後方支援の役目を完璧にこなした実績がある。適任だ。
 皆が賛成の意を示すと、メイファさんは覚悟を決めたように頷いた。

「そんな大任を……分かりました。責任を持って連携を取ります」
「今や殆どの力を失っている某《それがし》は、前線では役にたたん。メイファの補佐をするとしよう」

 レイさんが申し出る。

「レイ殿が補佐してもらえるのなら磐石であろうの。……さて、もう一つはユーゴ、お主に任せよう」

 里長の視線がオレを射抜く。

「龍眼により、前線で広く戦場を視て指示を出せる。その上、メイファと繋がっておれば、さらに緻密な連携が取れよう」
「オレ、ですか……?」

 とんでもない大任を任された。
 確かにオレは少し先の未来を視ることができるし、戦場の空気を感じ取ることもできる。周りを見ずとも、何となく状況がわかる。
 しかし、アレクサンドの時の例もある。視えたところで、身体が追いつかず対処がギリギリになる事もある。
 けど、視えないよりは遥かに有利だ。

「分かりました。仙族との連携もありますし、オレはメイファさんの指示を皆に伝えます」
「うむ。頼んだぞ。では仙王からの指示があるまで、英気を養ってくれ」

 幹部会は解散となった。

 気を張って待っていても、リラックスしていても、敵は来る。
 オレたち四人は、酒を飲みに行く事を選んだ。

 東の砦内に出店している『冒険野郎』の出張店。
 仮設店舗のような造りだけど、意外にも多くの兵士たちが飲みに来ていた。
 命を落とす事もある戦だ。悔いのないように生きるなら、最後に仲間と酒を酌み交わすのも悪くない。皆、そう思っているんだろう。

 ジョッキをぶつけ合い、一息つく。

「とうとう、奴らとぶつかるんだね」

 トーマスが泡を拭いながら呟く。

「うん。復讐なんて考えてたら周りに迷惑をかける。皆で連携を取って、奴らに勝てればそれでいい」

 エミリーが自分に言い聞かせるように言う。その表情に迷いはない。

「そうだな。皆の力であのクズ共を仕留めるよ。アタシ達の刀でな」

 ジュリアが愛刀を撫でる。

「アイツらが別行動をしていれば、各個撃破で当たる事になるな」
「その時はそうだな。……オレ達はかなり強くなった。でも、ヤバいと思ったら引こうな。絶対に死ぬなよ、みんな」

 三人は静かに、力強く頷いた。
 適度な緊張感を持ちながらも、気を張り詰めすぎない。
 店を出た後、オレたちはトーマスに武具の最終整備を任せ、それぞれの部屋で決戦に備えた。

 
 ◇◇◇

 
 三日後の午後。
 招集がかかり、オレたちは西の砦へ移動した。
 作戦会議室の空気が張り詰めている。

「奴らは魔都の最南端の町から少し離れた所に、軍を収容する施設を建設している。今はそこで移動の疲れを癒しているようだ」

 仙王が地図の一点を指差す。

「そっか。移動の疲れでウチらに有利に働くかと思ったけど、あっちもそこまでバカじゃなかったね」

 シャルロット女王が舌打ちする。
 王国と魔都の地図はある程度正確だ。魔都出身者であるモレクさんや、こちらの斥候の情報を合わせれば、正確な地図を作るのは容易だった。

「『ヴェネシテラ』ね。ノースラインから山を真北に越えた所にある町よ」

 魔都の地理に詳しいモレクさんが補足する。

「初代魔王の死後、大戦で使っていた砦近くを開墾して発展した町ね。元々は小さな町だったはずだけど……魔鬼連合軍数万を収容するとなると小さいわ。拡張させたのね」
「あぁ。奴らは金山を掘り当てたらしいからな、資金はあるようだ。王国に一番近い町だ、前線基地として拡張工事を指示していたのか」

 仙王が頷く。
 となれば、疲れを癒し、数日後に動くと見ていい。

「この地図によると、そのヴェネシテラ付近から戦場となる平原までは、ここと同じくらいの距離か」
「そうね。少し向こうの方が遠いくらいかな」
「シルヴァニア城からこのヴェネシテラへの移動速度から計算すると、奴らも『聯気れんき』に似た新たな術で移動速度が上がっていると見て良い。動く気配が見えたら連絡しよう」

 仙王が結論づけようとした。
 皆が頷きかけたその時、オレの中で違和感が膨らんだ。

 いや、オレはそうは思わない……。
 
 相手は狡猾なマモンだ。ただ休んでいるだけとは思えない。ダメ元で意見を言ってみよう。オレは挙手して発言を求めた。

「どうした、ユーゴ」
「はい。……向こうは、自分たちの動きが仙王様の『千里眼』によって、こちらに筒抜けになっている事を知っています。声までは聞こえないだろうというのも含めて」

 皆の視線が集まる。

「だとすれば、向こうが動くまでは、こちらは動かないだろう……と、こちらの思考を読んでいるはずです」
「うむ。そう思う故に、動きがあるまで待機し、皆には後ほど連絡すると言ったのだが」
「例えばですが……敵がこのまま、一週間動かないとすればどうでしょう?」
 
 オレの言葉に、シャルロット女王がハッとした顔をした。

「成程ね……。コッチは『いつ来るか』って一週間気を張り詰めて待ってるのに、敵はそれを知った上で、完全にリラックスして一週間後を迎えることが出来るね」

 皆がオレの言わんとしていることを理解し、ざわめきが広がる。

「そうか……気の持ちよう、精神的な消耗戦か。確かに、動き始めるのをただ待つ我々の方が、圧倒的に精神的ストレスを受けるな……長引けば尚更だ」

 仙王が唸る。

「はい。そのストレスはかなりの物でしょう。兵の士気にも関わります。だとすれば、こちらから攻めるのも手ではないかと。……向こうも斥候を出しているはずです。こちらが動けば、慌てて出てくるのでは? こちらは今まで十分に休養を取っています」

「……なるほどな、一理ある。皆はどう考える?」

 仙王は皆に意見を求めた。
 皆それぞれ腕を組んで目を閉じたり、地図を見たりして思案している。

「奴らは今日着いたのか?」
「うむ、昼前に町に着いて荷を解いているのが見えた」
「ならば数日は休む可能性は高い。奴らを休ませず、こちらが出るのも手ではある」
「奴らも、そのヴェネシテラの砦を攻められるのを良しとしねぇだろう。町に被害が出れば補給も断たれる。必ず打って出てくると見て良いんじゃねぇか?」

 議論が交わされる。
 待つべきか、攻めるべきか。この駆け引きは難しい。
 だが、主導権を握るのはこちらだ。

 仙王が決断を下した。

「よし。向こうが出てこなければ、山間の平地を越え、ヴェネシテラまで攻め込む気概で進軍する。十万の軍でプレッシャーをかければ、奴らも動かざるを得まい。……出陣は明日の朝だ。よいな?」

 仙王の力強い言葉に、皆が静かに頷いた。
 オレたちは各々の陣に戻り、明日の出発に向けて準備を始めた。

 皆、十分に休んでいる。体調は万全だ。
 いよいよ、決戦の火蓋が切られる。
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