- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
254 / 260
第六章 四種族大戦編

繋ぐ力

しおりを挟む
 まず、切断された左腕の止血だ。
 治療術で傷口を塞ぐ。痛みはアドレナリンで麻痺しているが、出血多量で意識が飛ぶのだけは避けなければならない。

龍胆りんどう』は……。あった、あそこか。
 
 地面に落ちた龍胆の柄には、オレの左手がまだしっかりと握られたままだ。戦いの壮絶さを物語っている。
 エミリーに治療を頼むまでは、このまま保存しておかなければならない。オレは刀ごと左手を異空間収納に放り込んだ。

 時空凍結を解除する。
 世界が再び動き出す。

 ドサリ。
 ルシフェルの上半身が、重力に従って地に落ちた。

「クッソ……! なんでオレ様が殺されてんだ……テメェ何しやがった……!」

 ルシフェルの亡骸から、半透明の靄が抜け出た。霊体だ。
 こいつの特異能力は『体外離脱』。肉体が死んでも、魂だけで活動し、他者に憑依して生き延びる厄介な力だ。
 まだ終わってない。
 霊体とはいえ強大な魔力を持っている。オレが視認できるのは、その魔力を感知できるからだ。

 オレはインカムに手を当てた。

「全軍に伝達! 魔神ルシフェルの肉体はたおしました。しかし奴は体外離脱し、霊体となって逃走を図っています。現在交戦中! 至急対策を!」

 即座にレイさんの応答が入る。

『承知した。某《それがし》がソフィアと共に向かおう。封印の準備はある。それまで持ちこたえてくれ』
「了解! 場所は……オレが魔力を全解放します。それを辿ってください!」
『分かった!』

 オレは残った右腕で不動フドウを構え、全身の魔力を解き放った。
 父さんの記憶では、錬気を纏った刀なら霊体にも干渉できたはずだ。聯気れんきなら尚更効くはずだ。
 絶対に誰かに憑依させてはいけない。ここで逃せば、また同じ悲劇が繰り返される。

『剣技 風車輪ふうしゃりん!』

 浮遊して逃げようとするルシフェルに、風の斬撃を飛ばす。
 霊体になったせいか、動きは速くない。いくらでも対処可能だ。

「クッ……鬱陶しいな……! あっちに行け!」
「逃がすかよ! 誰にも憑依させねーぞ!」

 オレが攻撃し続けている限り、奴は回避に専念せざるを得ず、移動もままならないようだ。

 少しすると、背後から足音がした。
 トーマス、エミリー、ジュリアが合流する。

「魔力全開放って事は、何かあったんだろうとは思ったけど、なるほどね」

 トーマスが霊体を見上げる。

「ユーゴ……左腕……」

 エミリーが青ざめる。

「あぁ、異空間に入れてる。後でいい。……ここに来たって事は、皆勝ったんだな?」
「そっか、なら問題無いね。……うん、アレクサンドはもういないよ」
「僕も復讐を果たしたよ。マモンは討ち取った」
「パク一族の女も、もういない」

 三人が力強く頷く。
 さすがオレの仲間達だ。こんなに心強い事はない。

「よし! あいつを絶対逃がすな! 誰かに憑依されたら終わりだ!」
「「「了解!」」」

 霊体のルシフェルが放つ魔術は、肉体があった時と比べて威力が落ちている。これならトーマスの守護術でなくとも対処可能だ。
 皆が武器を構え、波状攻撃で奴の動きを封じ込める。

「おまたせ! 私に任せて!」

 空から母さんとレイさんが降りてきた。
 母さんは『魔封眼まふうがん』による封印術のスペシャリスト。この難局を完全に終わらせられるのは、彼女しかいない。

「チッ……小娘……! テメェはどこまでもオレの邪魔をしやがる!」
「私をあの時の無力な小娘だと思わない事ね。……終わりよ、ルシフェル」

 母さんは『春雪しゅんせつ』を抜き放ち、ルシフェルの霊体に突き刺した。
 刀身が光り輝き、ルシフェルの動きを縫い止める。

「ぐあああっ! ……ちょっと待て小娘……! 話を聞け! 一緒に天界に帰る道を模索しねぇか……? テメェも故郷に帰りてぇんじゃねぇのか!?」

 ルシフェルが必死に命乞いをする。

「私は人生のほとんどをこっちで過ごしてるの。今更帰りたいなんて思わないわ。……あんな血塗られた歴史を知ってしまえば尚更ね」

 母さんの瞳に迷いはない。
 レイさんが後ろに付き、母さんの背中に右の掌を置いた。

「やれ、ソフィア。全ての因縁を断ち切るのだ」

 レイさんの言葉の後、母さんは目を瞑り詠唱を始めた。

神式封印術しんしきふういんじゅつ 破邪滅魂はじゃめっこん!』
 
 ルシフェルが眩い光に包まれる。
 その輪郭が徐々に薄れ、粒子となって分解されていく。

「クッソォォォォォォ――!!!」

 断末魔の叫びと罵詈雑言を残し、魔神は完全に消滅した。
 
 それを見届けた直後。
 レイさんの身体が、砂のように崩れ始めた。

「えっ……ちょっとレイさん! まさか私に全魔力を注いだの!?」

 母さんが振り返り、悲鳴を上げる。

「この世界は、亡霊である某《それがし》が生きていて良い場所では無い。……ここらがいい引き際だ。其方そなたら、まだ戦は終わっておらんぞ。前を向け」

 レイさんは穏やかに微笑み、そう言い残して完全に塵となり、風に消えた。

 何が起きた……?
 あまりに唐突な別れに、思考が追いつかない。
 でも、レイさんの言う通りだ。まだ戦の最中だ。感傷に浸るのは後だ。

 オレはインカムに向かって叫んだ。

「全軍に伝達! 魔神ルシフェルは消滅! 魔王マモン、アレクサンドも撃破!」

 すぐに仙王からの応答が入る。

『本当か!? ……よくやった! こちらも魔族軍の幹部を撃破した! 良し、全軍前進だ! 奴らが二度と再起できぬよう、徹底的に殲滅せよ!』

 通信機を持つ隊長たちが戦況を全軍に伝え、士気は最高潮に達した。
 王たる幹部の殆どを失った魔鬼連合軍は、統率を失い、為すすべもなく敗走を始めた。
 追撃戦、そして殲滅戦が始まった。

 
 ◇◇◇

 
 正午過ぎに始まった大戦は、夕日を待たずに仙龍連合軍の大勝で幕を閉じた。
 各軍が戦場の処理をする中、オレは腕の治療の為、後方に設置された医療テントに来ていた。
 治療の準備をするエミリーに、気になっていたことを聞いてみる。

「エミリー。……眼の事は、もう良いのか?」

 彼女は、あの鮮やかな青い瞳を隠さずに晒していた。

「あぁうん。アレクサンドを目の前にしたら、この眼を隠して戦うのは違うと思ったんだ。多分……トラウマを抱えて戦うのは負けだと思ったんだろうね。なんか……吹っ切れたよ」

 エミリーが晴れやかに笑う。
 トラウマは、元凶を自らの手で倒すことで払拭されたようだ。これからは堂々と、その美しい眼で世界を見ていくんだろう。 
 
「じゃあ、エミリー。腕を頼めるか?」

 オレは異空間から、切断された左腕と、龍胆を取り出しエミリーに渡した。
 肘の下あたりから、綺麗に切断されている。

「うわぁ……。私、人の腕くっつけるの実は初めてなんだよね……。失敗したらどうしよ……」

 エミリーが急に弱気になる。

「普通は元に戻る事なんてないんだ。指の一本や二本動かなくたって文句言わねーよ。あるだけマシだ」
「そう言われると更に緊張するね……」

「んじゃ、ウチに任せてょ」

 テントに入ってきたのは、シャルロット女王だった。

「ウチの眼の力は『結眼ゆうがん』って言って、あらゆるものを『繋ぐ』力なんだ。神経や血管、各組織を完璧に繋げてから、エミエミが治療したら元通りだよ。メイリンちゃんから貰った知識も大きいね」

 女王がウィンクする。
 シャルロット女王も回復術師の心得があるとは思っていたけど、そんな便利な能力を持っていたとは。
 メイリンさんは傷跡もなく四肢を再生させたという伝説の術師だ。その知識があれば頼もしい。

 女王はオレの左腕の断面を合わせ、魔力を流し込む。
 温かい光が傷口を包み込むと、左手の感覚が徐々に戻ってきた。痛みはない。

「よし、繋がったよ。エミエミ、仕上げよろしく」
「はい!」

『治療術 四肢再生!』

 エミリーの術が発動し、傷口が完全に塞がった。
 動かしてみる。指の一本一本まで思うままに動く。傷跡すら残っていない、完璧な治療だ。

「どう……?」
「全く問題ない。元通りだ、ありがとうエミリー。シャルロット女王も、ありがとうございます」

 オレは二人に頭を下げた。

「いいょいいょ。……あと、クリちゃんも命は繋ぎとめたからね。心配だったでしょ」

 クリちゃん……? あぁ、クリカラ……里長か!
 そうだ、一番気がかりだったことだ。

「里長は……無事なんですか?」
「うん。さっきも言ったけど、ウチの眼は繋ぐ力。説明が難しいけど、肉体と魂を繋ぎ止める事も出来る。息さえあれば、ウチの魔力が続く限りは延命できるんだ。メイファちゃんの懸命な治療で、なんとか一命は取り留めたょ。……ただ、元通りに動けるかどうかはまた別の話だね」

 女王の表情が少し曇る。

「じゃ、私行ってくる! メイファさんの手伝いしなきゃ!」
「あぁ、頼むよエミリー」

 エミリーが飛び出していく。
 良かった……生きてさえいれば、それでいい。

 その時、インカムから通信が入った。

『ユーゴ、聞こえるか?』

 仙王だ。

「はい、ユーゴです」
『宝玉は誰が持っている?』
「あぁ、紅と黄ですか」

 そうだ。誰が回収したんだろう。

「マモンが二つとも持ってたよ。アレクサンドから流れてきたのかもだけどね」

 横からトーマスが口を挟む。

「なるほどな。……仙王様、トーマスが持ってます」
『そうか。……四つ合わせると何が起きるか分からん。良い事が起こるのか、悪い事が起こるのか。様々な可能性を考えて、今は四つを近付ける事はしたくない。我々は西の砦に引くが、君たちは東の砦に宝玉を厳重に保管してから来て欲しい。戦後の話もしたいからな』
「分かりました、そのように」

 通信を終え、オレはテントを出た。
 そこは龍族の治療エリアだった。
 忙しく動き回る治療班。そして、白い布をかけられた動かぬ者たち。
 息を引き取った人達も少なくない。これが戦だ。頭では分かっていても、やるせない気持ちが込み上げる。

 オレ達も治療の手伝いをして回り、日没後に東の砦に帰陣した。
 長い一日が終わろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...