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第六章 四種族大戦編
繋ぐ力
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まず、切断された左腕の止血だ。
治療術で傷口を塞ぐ。痛みはアドレナリンで麻痺しているが、出血多量で意識が飛ぶのだけは避けなければならない。
『龍胆』は……。あった、あそこか。
地面に落ちた龍胆の柄には、オレの左手がまだしっかりと握られたままだ。戦いの壮絶さを物語っている。
エミリーに治療を頼むまでは、このまま保存しておかなければならない。オレは刀ごと左手を異空間収納に放り込んだ。
時空凍結を解除する。
世界が再び動き出す。
ドサリ。
ルシフェルの上半身が、重力に従って地に落ちた。
「クッソ……! なんでオレ様が殺されてんだ……テメェ何しやがった……!」
ルシフェルの亡骸から、半透明の靄が抜け出た。霊体だ。
こいつの特異能力は『体外離脱』。肉体が死んでも、魂だけで活動し、他者に憑依して生き延びる厄介な力だ。
まだ終わってない。
霊体とはいえ強大な魔力を持っている。オレが視認できるのは、その魔力を感知できるからだ。
オレはインカムに手を当てた。
「全軍に伝達! 魔神ルシフェルの肉体は斃しました。しかし奴は体外離脱し、霊体となって逃走を図っています。現在交戦中! 至急対策を!」
即座にレイさんの応答が入る。
『承知した。某《それがし》がソフィアと共に向かおう。封印の準備はある。それまで持ちこたえてくれ』
「了解! 場所は……オレが魔力を全解放します。それを辿ってください!」
『分かった!』
オレは残った右腕で不動を構え、全身の魔力を解き放った。
父さんの記憶では、錬気を纏った刀なら霊体にも干渉できたはずだ。聯気なら尚更効くはずだ。
絶対に誰かに憑依させてはいけない。ここで逃せば、また同じ悲劇が繰り返される。
『剣技 風車輪!』
浮遊して逃げようとするルシフェルに、風の斬撃を飛ばす。
霊体になったせいか、動きは速くない。いくらでも対処可能だ。
「クッ……鬱陶しいな……! あっちに行け!」
「逃がすかよ! 誰にも憑依させねーぞ!」
オレが攻撃し続けている限り、奴は回避に専念せざるを得ず、移動もままならないようだ。
少しすると、背後から足音がした。
トーマス、エミリー、ジュリアが合流する。
「魔力全開放って事は、何かあったんだろうとは思ったけど、なるほどね」
トーマスが霊体を見上げる。
「ユーゴ……左腕……」
エミリーが青ざめる。
「あぁ、異空間に入れてる。後でいい。……ここに来たって事は、皆勝ったんだな?」
「そっか、なら問題無いね。……うん、アレクサンドはもういないよ」
「僕も復讐を果たしたよ。マモンは討ち取った」
「パク一族の女も、もういない」
三人が力強く頷く。
さすがオレの仲間達だ。こんなに心強い事はない。
「よし! あいつを絶対逃がすな! 誰かに憑依されたら終わりだ!」
「「「了解!」」」
霊体のルシフェルが放つ魔術は、肉体があった時と比べて威力が落ちている。これならトーマスの守護術でなくとも対処可能だ。
皆が武器を構え、波状攻撃で奴の動きを封じ込める。
「おまたせ! 私に任せて!」
空から母さんとレイさんが降りてきた。
母さんは『魔封眼』による封印術のスペシャリスト。この難局を完全に終わらせられるのは、彼女しかいない。
「チッ……小娘……! テメェはどこまでもオレの邪魔をしやがる!」
「私をあの時の無力な小娘だと思わない事ね。……終わりよ、ルシフェル」
母さんは『春雪』を抜き放ち、ルシフェルの霊体に突き刺した。
刀身が光り輝き、ルシフェルの動きを縫い止める。
「ぐあああっ! ……ちょっと待て小娘……! 話を聞け! 一緒に天界に帰る道を模索しねぇか……? テメェも故郷に帰りてぇんじゃねぇのか!?」
ルシフェルが必死に命乞いをする。
「私は人生のほとんどをこっちで過ごしてるの。今更帰りたいなんて思わないわ。……あんな血塗られた歴史を知ってしまえば尚更ね」
母さんの瞳に迷いはない。
レイさんが後ろに付き、母さんの背中に右の掌を置いた。
「やれ、ソフィア。全ての因縁を断ち切るのだ」
レイさんの言葉の後、母さんは目を瞑り詠唱を始めた。
『神式封印術 破邪滅魂!』
ルシフェルが眩い光に包まれる。
その輪郭が徐々に薄れ、粒子となって分解されていく。
「クッソォォォォォォ――!!!」
断末魔の叫びと罵詈雑言を残し、魔神は完全に消滅した。
それを見届けた直後。
レイさんの身体が、砂のように崩れ始めた。
「えっ……ちょっとレイさん! まさか私に全魔力を注いだの!?」
母さんが振り返り、悲鳴を上げる。
「この世界は、亡霊である某《それがし》が生きていて良い場所では無い。……ここらがいい引き際だ。其方ら、まだ戦は終わっておらんぞ。前を向け」
レイさんは穏やかに微笑み、そう言い残して完全に塵となり、風に消えた。
何が起きた……?
あまりに唐突な別れに、思考が追いつかない。
でも、レイさんの言う通りだ。まだ戦の最中だ。感傷に浸るのは後だ。
オレはインカムに向かって叫んだ。
「全軍に伝達! 魔神ルシフェルは消滅! 魔王マモン、アレクサンドも撃破!」
すぐに仙王からの応答が入る。
『本当か!? ……よくやった! こちらも魔族軍の幹部を撃破した! 良し、全軍前進だ! 奴らが二度と再起できぬよう、徹底的に殲滅せよ!』
通信機を持つ隊長たちが戦況を全軍に伝え、士気は最高潮に達した。
王たる幹部の殆どを失った魔鬼連合軍は、統率を失い、為すすべもなく敗走を始めた。
追撃戦、そして殲滅戦が始まった。
◇◇◇
正午過ぎに始まった大戦は、夕日を待たずに仙龍連合軍の大勝で幕を閉じた。
各軍が戦場の処理をする中、オレは腕の治療の為、後方に設置された医療テントに来ていた。
治療の準備をするエミリーに、気になっていたことを聞いてみる。
「エミリー。……眼の事は、もう良いのか?」
彼女は、あの鮮やかな青い瞳を隠さずに晒していた。
「あぁうん。アレクサンドを目の前にしたら、この眼を隠して戦うのは違うと思ったんだ。多分……トラウマを抱えて戦うのは負けだと思ったんだろうね。なんか……吹っ切れたよ」
エミリーが晴れやかに笑う。
トラウマは、元凶を自らの手で倒すことで払拭されたようだ。これからは堂々と、その美しい眼で世界を見ていくんだろう。
「じゃあ、エミリー。腕を頼めるか?」
オレは異空間から、切断された左腕と、龍胆を取り出しエミリーに渡した。
肘の下あたりから、綺麗に切断されている。
「うわぁ……。私、人の腕くっつけるの実は初めてなんだよね……。失敗したらどうしよ……」
エミリーが急に弱気になる。
「普通は元に戻る事なんてないんだ。指の一本や二本動かなくたって文句言わねーよ。あるだけマシだ」
「そう言われると更に緊張するね……」
「んじゃ、ウチに任せてょ」
テントに入ってきたのは、シャルロット女王だった。
「ウチの眼の力は『結眼』って言って、あらゆるものを『繋ぐ』力なんだ。神経や血管、各組織を完璧に繋げてから、エミエミが治療したら元通りだよ。メイリンちゃんから貰った知識も大きいね」
女王がウィンクする。
シャルロット女王も回復術師の心得があるとは思っていたけど、そんな便利な能力を持っていたとは。
メイリンさんは傷跡もなく四肢を再生させたという伝説の術師だ。その知識があれば頼もしい。
女王はオレの左腕の断面を合わせ、魔力を流し込む。
温かい光が傷口を包み込むと、左手の感覚が徐々に戻ってきた。痛みはない。
「よし、繋がったよ。エミエミ、仕上げよろしく」
「はい!」
『治療術 四肢再生!』
エミリーの術が発動し、傷口が完全に塞がった。
動かしてみる。指の一本一本まで思うままに動く。傷跡すら残っていない、完璧な治療だ。
「どう……?」
「全く問題ない。元通りだ、ありがとうエミリー。シャルロット女王も、ありがとうございます」
オレは二人に頭を下げた。
「いいょいいょ。……あと、クリちゃんも命は繋ぎとめたからね。心配だったでしょ」
クリちゃん……? あぁ、クリカラ……里長か!
そうだ、一番気がかりだったことだ。
「里長は……無事なんですか?」
「うん。さっきも言ったけど、ウチの眼は繋ぐ力。説明が難しいけど、肉体と魂を繋ぎ止める事も出来る。息さえあれば、ウチの魔力が続く限りは延命できるんだ。メイファちゃんの懸命な治療で、なんとか一命は取り留めたょ。……ただ、元通りに動けるかどうかはまた別の話だね」
女王の表情が少し曇る。
「じゃ、私行ってくる! メイファさんの手伝いしなきゃ!」
「あぁ、頼むよエミリー」
エミリーが飛び出していく。
良かった……生きてさえいれば、それでいい。
その時、インカムから通信が入った。
『ユーゴ、聞こえるか?』
仙王だ。
「はい、ユーゴです」
『宝玉は誰が持っている?』
「あぁ、紅と黄ですか」
そうだ。誰が回収したんだろう。
「マモンが二つとも持ってたよ。アレクサンドから流れてきたのかもだけどね」
横からトーマスが口を挟む。
「なるほどな。……仙王様、トーマスが持ってます」
『そうか。……四つ合わせると何が起きるか分からん。良い事が起こるのか、悪い事が起こるのか。様々な可能性を考えて、今は四つを近付ける事はしたくない。我々は西の砦に引くが、君たちは東の砦に宝玉を厳重に保管してから来て欲しい。戦後の話もしたいからな』
「分かりました、そのように」
通信を終え、オレはテントを出た。
そこは龍族の治療エリアだった。
忙しく動き回る治療班。そして、白い布をかけられた動かぬ者たち。
息を引き取った人達も少なくない。これが戦だ。頭では分かっていても、やるせない気持ちが込み上げる。
オレ達も治療の手伝いをして回り、日没後に東の砦に帰陣した。
長い一日が終わろうとしていた。
治療術で傷口を塞ぐ。痛みはアドレナリンで麻痺しているが、出血多量で意識が飛ぶのだけは避けなければならない。
『龍胆』は……。あった、あそこか。
地面に落ちた龍胆の柄には、オレの左手がまだしっかりと握られたままだ。戦いの壮絶さを物語っている。
エミリーに治療を頼むまでは、このまま保存しておかなければならない。オレは刀ごと左手を異空間収納に放り込んだ。
時空凍結を解除する。
世界が再び動き出す。
ドサリ。
ルシフェルの上半身が、重力に従って地に落ちた。
「クッソ……! なんでオレ様が殺されてんだ……テメェ何しやがった……!」
ルシフェルの亡骸から、半透明の靄が抜け出た。霊体だ。
こいつの特異能力は『体外離脱』。肉体が死んでも、魂だけで活動し、他者に憑依して生き延びる厄介な力だ。
まだ終わってない。
霊体とはいえ強大な魔力を持っている。オレが視認できるのは、その魔力を感知できるからだ。
オレはインカムに手を当てた。
「全軍に伝達! 魔神ルシフェルの肉体は斃しました。しかし奴は体外離脱し、霊体となって逃走を図っています。現在交戦中! 至急対策を!」
即座にレイさんの応答が入る。
『承知した。某《それがし》がソフィアと共に向かおう。封印の準備はある。それまで持ちこたえてくれ』
「了解! 場所は……オレが魔力を全解放します。それを辿ってください!」
『分かった!』
オレは残った右腕で不動を構え、全身の魔力を解き放った。
父さんの記憶では、錬気を纏った刀なら霊体にも干渉できたはずだ。聯気なら尚更効くはずだ。
絶対に誰かに憑依させてはいけない。ここで逃せば、また同じ悲劇が繰り返される。
『剣技 風車輪!』
浮遊して逃げようとするルシフェルに、風の斬撃を飛ばす。
霊体になったせいか、動きは速くない。いくらでも対処可能だ。
「クッ……鬱陶しいな……! あっちに行け!」
「逃がすかよ! 誰にも憑依させねーぞ!」
オレが攻撃し続けている限り、奴は回避に専念せざるを得ず、移動もままならないようだ。
少しすると、背後から足音がした。
トーマス、エミリー、ジュリアが合流する。
「魔力全開放って事は、何かあったんだろうとは思ったけど、なるほどね」
トーマスが霊体を見上げる。
「ユーゴ……左腕……」
エミリーが青ざめる。
「あぁ、異空間に入れてる。後でいい。……ここに来たって事は、皆勝ったんだな?」
「そっか、なら問題無いね。……うん、アレクサンドはもういないよ」
「僕も復讐を果たしたよ。マモンは討ち取った」
「パク一族の女も、もういない」
三人が力強く頷く。
さすがオレの仲間達だ。こんなに心強い事はない。
「よし! あいつを絶対逃がすな! 誰かに憑依されたら終わりだ!」
「「「了解!」」」
霊体のルシフェルが放つ魔術は、肉体があった時と比べて威力が落ちている。これならトーマスの守護術でなくとも対処可能だ。
皆が武器を構え、波状攻撃で奴の動きを封じ込める。
「おまたせ! 私に任せて!」
空から母さんとレイさんが降りてきた。
母さんは『魔封眼』による封印術のスペシャリスト。この難局を完全に終わらせられるのは、彼女しかいない。
「チッ……小娘……! テメェはどこまでもオレの邪魔をしやがる!」
「私をあの時の無力な小娘だと思わない事ね。……終わりよ、ルシフェル」
母さんは『春雪』を抜き放ち、ルシフェルの霊体に突き刺した。
刀身が光り輝き、ルシフェルの動きを縫い止める。
「ぐあああっ! ……ちょっと待て小娘……! 話を聞け! 一緒に天界に帰る道を模索しねぇか……? テメェも故郷に帰りてぇんじゃねぇのか!?」
ルシフェルが必死に命乞いをする。
「私は人生のほとんどをこっちで過ごしてるの。今更帰りたいなんて思わないわ。……あんな血塗られた歴史を知ってしまえば尚更ね」
母さんの瞳に迷いはない。
レイさんが後ろに付き、母さんの背中に右の掌を置いた。
「やれ、ソフィア。全ての因縁を断ち切るのだ」
レイさんの言葉の後、母さんは目を瞑り詠唱を始めた。
『神式封印術 破邪滅魂!』
ルシフェルが眩い光に包まれる。
その輪郭が徐々に薄れ、粒子となって分解されていく。
「クッソォォォォォォ――!!!」
断末魔の叫びと罵詈雑言を残し、魔神は完全に消滅した。
それを見届けた直後。
レイさんの身体が、砂のように崩れ始めた。
「えっ……ちょっとレイさん! まさか私に全魔力を注いだの!?」
母さんが振り返り、悲鳴を上げる。
「この世界は、亡霊である某《それがし》が生きていて良い場所では無い。……ここらがいい引き際だ。其方ら、まだ戦は終わっておらんぞ。前を向け」
レイさんは穏やかに微笑み、そう言い残して完全に塵となり、風に消えた。
何が起きた……?
あまりに唐突な別れに、思考が追いつかない。
でも、レイさんの言う通りだ。まだ戦の最中だ。感傷に浸るのは後だ。
オレはインカムに向かって叫んだ。
「全軍に伝達! 魔神ルシフェルは消滅! 魔王マモン、アレクサンドも撃破!」
すぐに仙王からの応答が入る。
『本当か!? ……よくやった! こちらも魔族軍の幹部を撃破した! 良し、全軍前進だ! 奴らが二度と再起できぬよう、徹底的に殲滅せよ!』
通信機を持つ隊長たちが戦況を全軍に伝え、士気は最高潮に達した。
王たる幹部の殆どを失った魔鬼連合軍は、統率を失い、為すすべもなく敗走を始めた。
追撃戦、そして殲滅戦が始まった。
◇◇◇
正午過ぎに始まった大戦は、夕日を待たずに仙龍連合軍の大勝で幕を閉じた。
各軍が戦場の処理をする中、オレは腕の治療の為、後方に設置された医療テントに来ていた。
治療の準備をするエミリーに、気になっていたことを聞いてみる。
「エミリー。……眼の事は、もう良いのか?」
彼女は、あの鮮やかな青い瞳を隠さずに晒していた。
「あぁうん。アレクサンドを目の前にしたら、この眼を隠して戦うのは違うと思ったんだ。多分……トラウマを抱えて戦うのは負けだと思ったんだろうね。なんか……吹っ切れたよ」
エミリーが晴れやかに笑う。
トラウマは、元凶を自らの手で倒すことで払拭されたようだ。これからは堂々と、その美しい眼で世界を見ていくんだろう。
「じゃあ、エミリー。腕を頼めるか?」
オレは異空間から、切断された左腕と、龍胆を取り出しエミリーに渡した。
肘の下あたりから、綺麗に切断されている。
「うわぁ……。私、人の腕くっつけるの実は初めてなんだよね……。失敗したらどうしよ……」
エミリーが急に弱気になる。
「普通は元に戻る事なんてないんだ。指の一本や二本動かなくたって文句言わねーよ。あるだけマシだ」
「そう言われると更に緊張するね……」
「んじゃ、ウチに任せてょ」
テントに入ってきたのは、シャルロット女王だった。
「ウチの眼の力は『結眼』って言って、あらゆるものを『繋ぐ』力なんだ。神経や血管、各組織を完璧に繋げてから、エミエミが治療したら元通りだよ。メイリンちゃんから貰った知識も大きいね」
女王がウィンクする。
シャルロット女王も回復術師の心得があるとは思っていたけど、そんな便利な能力を持っていたとは。
メイリンさんは傷跡もなく四肢を再生させたという伝説の術師だ。その知識があれば頼もしい。
女王はオレの左腕の断面を合わせ、魔力を流し込む。
温かい光が傷口を包み込むと、左手の感覚が徐々に戻ってきた。痛みはない。
「よし、繋がったよ。エミエミ、仕上げよろしく」
「はい!」
『治療術 四肢再生!』
エミリーの術が発動し、傷口が完全に塞がった。
動かしてみる。指の一本一本まで思うままに動く。傷跡すら残っていない、完璧な治療だ。
「どう……?」
「全く問題ない。元通りだ、ありがとうエミリー。シャルロット女王も、ありがとうございます」
オレは二人に頭を下げた。
「いいょいいょ。……あと、クリちゃんも命は繋ぎとめたからね。心配だったでしょ」
クリちゃん……? あぁ、クリカラ……里長か!
そうだ、一番気がかりだったことだ。
「里長は……無事なんですか?」
「うん。さっきも言ったけど、ウチの眼は繋ぐ力。説明が難しいけど、肉体と魂を繋ぎ止める事も出来る。息さえあれば、ウチの魔力が続く限りは延命できるんだ。メイファちゃんの懸命な治療で、なんとか一命は取り留めたょ。……ただ、元通りに動けるかどうかはまた別の話だね」
女王の表情が少し曇る。
「じゃ、私行ってくる! メイファさんの手伝いしなきゃ!」
「あぁ、頼むよエミリー」
エミリーが飛び出していく。
良かった……生きてさえいれば、それでいい。
その時、インカムから通信が入った。
『ユーゴ、聞こえるか?』
仙王だ。
「はい、ユーゴです」
『宝玉は誰が持っている?』
「あぁ、紅と黄ですか」
そうだ。誰が回収したんだろう。
「マモンが二つとも持ってたよ。アレクサンドから流れてきたのかもだけどね」
横からトーマスが口を挟む。
「なるほどな。……仙王様、トーマスが持ってます」
『そうか。……四つ合わせると何が起きるか分からん。良い事が起こるのか、悪い事が起こるのか。様々な可能性を考えて、今は四つを近付ける事はしたくない。我々は西の砦に引くが、君たちは東の砦に宝玉を厳重に保管してから来て欲しい。戦後の話もしたいからな』
「分かりました、そのように」
通信を終え、オレはテントを出た。
そこは龍族の治療エリアだった。
忙しく動き回る治療班。そして、白い布をかけられた動かぬ者たち。
息を引き取った人達も少なくない。これが戦だ。頭では分かっていても、やるせない気持ちが込み上げる。
オレ達も治療の手伝いをして回り、日没後に東の砦に帰陣した。
長い一日が終わろうとしていた。
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