- Mix blood -

久悟

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第六章 四種族大戦編

戦の後

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 東の砦に戻ったのは、日付が変わる頃だった。
 泥のように眠り、目を覚ましたのは次の日の午後。
 身体のあちこちが悲鳴を上げている。それ以上に、鉛を飲み込んだような精神的な疲労が重くのしかかっている。

 そんな中、里長が目を覚ましたという連絡が入った。
 エミリーは既にメイファさんと共に病棟に入っているらしい。オレはトーマスとジュリアを誘い、急いで病室へ向かった。

 病室のドアを開けると、ベッドから半身を起こしている里長の姿があった。顔色はまだ青白いが、その眼光は衰えていない。

「里長、お加減はいかがですか?」
「あぁ。命を捨てて斬りかかったのだ、まさか再び目を覚ますとは思うておらなんだ。……おい、メイファを呼んでくれぬか。もちろん手が空いておればで良いが」

 里長が看護に当たっていた術師に声をかける。術師は慌ててメイファさんを呼びに走った。

「少し話を聞いたが、お主らも活躍した様だな。流石は儂が見込んだ者たちだ」
「里長こそ。あの鬼王を……」
「ふん、年甲斐もなく暴れすぎたわ。……さて、儂もすぐに動かねばの。仙王の所に行き、戦後処理をせねばならぬ」

 里長が布団を剥ごうとする。

「それは他の者に任せて、今はゆっくりして下さい。くれぐれも無理なさらないように」
「そうはいかぬ。あまり年寄り扱いするでない」

 頑固な里長をなだめていると、メイファさんがエミリーと母さんを連れて部屋に入ってきた。

「父上、お目覚めですか。良かった……」

 メイファさんが安堵の息を吐く。
 だが、里長の表情が険しくなった。

「その事だ、メイファよ。最後の記憶にあるが……お主、敵前にも関わらず儂の治療を優先したであろう。誰が倒れようとも、まずは目の前の敵を叩くことを優先しろと言うたはずだ。あれだけ言うたものを、お主は……」
「まぁまぁ、里長が倒れれば誰だって動揺しますよ……」

 オレが助け舟を出そうとするが、里長は止まらない。

「口を挟むでない。儂は死を覚悟し鬼王に向かった、敵もそうである。それをこやつは……戦に勝利した故良かったものの、万が一があればどうするつもりであったか」

 メイファさんが直立不動で説教されている。
 彼女は俯いて「申し訳ありません」と謝ってはいるが、その口元が僅かに緩んでいるのを、オレは見逃さなかった。
 小言を言われるのも、里長の命あればこそだ。心底安心しているんだろう。その姿を見て、オレも胸を撫で下ろした。本当に良かった。

「まぁ、済んだ事をあれこれ言うても仕方あるまい。以後気をつけよ。……もっとも、以後があるのは困るがな」

 長い説教が終わり、里長がベッドから降りて立ち上がる。

「父上、まだ寝ていてください!」
「問題ない、歩ければそれで良い。……遅くなったが、治療感謝する。痛みを感じられるのは命あればこそだ。シャルロットにも礼を言わねばの」

 里長はぶっきらぼうだが、感謝の意を込めて言った。メイファさんとエミリーは、軽く礼をしてそれに応えた。

 
 ◇◇◇

 
 通信を入れ、仙族が本陣を置く西の砦に向かう。いつもの円卓で、仙王以下幹部たちが既にティーカップを手に待っていた。

「歩けておるという事は、心配は要らぬようだな、龍王」
「うむ。シャルロットに助けられたようだ。感謝する」
「いいょいいょ。息があって良かったね」

 シャルロット女王が微笑む。
 オレ達も円卓の空いている席に座った。

「仙族の被害は、思いの外大きかった。今しがた、兵達の治療と安置は一段落したところだ」

 仙王の声が沈む。

「また多くの同胞達を失った……。しかし、皆覚悟しておったことだ。彼らの覚悟の上に、これからの平和な世を築いて行かねばならん」

 皆が静かに頷いた。犠牲になった者たちへの想いが、部屋を満たす。

「さて。大戦の元凶である魔王マモンとアレクサンド、そしてパク一族の女は死んだ。……復讐を終えてどうだ、二人とも」

 仙王が、トーマスとエミリーに視線を向ける。

「何も変わりませんね」

 トーマスが静かに答える。

「家族が戻る訳じゃない。虚しさすらあります。……ただ、僕の気持ちは前に進もうとしています。家族や皆の分まで、幸せに生きていこうと」
「私もです」

 エミリーも続く。

「死んだ人は戻らない。でも、これで胸のつかえが取れました。お祖父さん達のお墓に、やっと行けます。『終わったよ』って、報告しないと」

 二人の顔には、憑き物が落ちたような穏やかさがあった。
 仙王は大きく二、三度頷き、話を本題に進めた。

「魔神ルシフェルも、ユーゴとソフィア、そしてレイ殿の活躍で消滅した。……レイ殿は、残念ではあったが」
「レイ殿が……どうかしたのか?」

 事情を知らない里長が眉をひそめる。
 母さんが立ち上がり、震える声で口を開いた。

「ユーゴの通信を受けたレイさんは、私を伴ってルシフェルの霊体の元に向かいました。その道中に話した事です。私の封印術には『破邪滅魂はじゃめっこん』という、魂そのものを消滅させる最上位の術があります。ただそれは、私の命を賭した所で扱えないほど高度で、魔力を食う術なんです」

 母さんは言葉を詰まらせ、深呼吸をした。

「それを話したところ、レイさんは自身の魔力を全て私に注ぎ、足りない魔力に当てろと言われ……実行しました。まさか、全魔力を私に預けるなんて……。レイさんはルシフェルの消滅を見届けた後、崩れる様に静かに消えていきました……」
「『この世界は自分が生きていて良い所じゃない。ここらがいい引き際だ』と言ってましたね……」

 オレが補足する。
 皆が俯いて聞いている。創造主の一人である神龍レイの最期。それはあまりに潔く、切ないものだった。

「『聯気れんき』を皆が扱えるようになったのは、レイ殿のお陰だ。この戦に勝てたのは、レイ殿の力が大きい」
「オレも……片手を落としながらもルシフェルに勝てたのは、レイさんとの会話を思い出したからです。あれが無ければ、オレは確実に命を落としていた」
「左様か。お主の神眼しんがんでなければ、あやつを抑える事は出来んかった。よくぞ仕留めた」

 里長がオレを労う。

「アタシ達が勝てたのも、能力の相性が良かったからに過ぎないよ。強かったよ、ヤツ等は」

 ジュリアがポツリと言う。
 皆が紅茶に口を付けることなく、沈黙が降りる。
 大勝したとはいえ、紙一重の戦いだった。誰か一人が欠けていても、結果は逆転していたかもしれない。

「レイ殿の御霊みたまは、丁重に祀ろう」
「うむ。儂ら龍族が承る」

 レイさんの遺した武具は戦場から持ち帰って、今は母さんが預かっている。
 この大戦で散っていった仲間達と共に、島で丁重に供養しなければならない。

「仙王様」

 トーマスが立ち上がり、懐から赤い輝きを取り出した。

の宝玉は東の砦に預けてきましたが、仙族は魔族と交戦し勝利しました。この『あかの宝玉』は、仙族が持つべきだと判断し、持参しました」

 そう言ってトーマスは紅の宝玉を仙王に手渡した。

「そうだな。我々と龍族で二つづつ持つのが、バランスが良いか。……分かった、預かろう」

 仙王は宝玉を受け取り、異空間に厳重にしまった。
 これで宝玉は分散され、再び一つに集まることはないだろう。

 仙王は皆を見渡し、会議の総括に入った。

「さて。軍の状況を見つつではあるが、一旦王都に戻ろう。そして、一ヶ月後に酒宴を設ける故、皆で参加して欲しい」

 仙王の表情が少し柔らかくなる。

「その様な気分では無い者もいるだろう。が、これは同胞達の鎮魂の意味も込めたものだ。彼らのお陰で平和を勝ち取れたと、皆で酒を酌み交わそうではないか」
「承知した。では我々龍族は一度島に戻り、傷を癒してから、一月後にまた世話になろう」

 こうして、長い戦いの事後処理方針が決まった。

 二日後には全負傷兵の治療を終え、軍は一度王都に凱旋した。
 その後、里長以下龍族達は、戦死した同胞たちを連れて、静かにリーベン島へと戻って行った。

 オレたち四人と両親は、残務処理やエマたちへの報告もあるため、後で帰る事を告げ、王都に残った。
 
 見上げた空は、どこまでも青く澄み渡っていた。

 
【第六章 四種族大戦編 完】
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