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ねこのこ編予告、第一章《偽りのねこのこ》
00《忘れない》
しおりを挟む天はその物語の終焉に相応しいよう、2つに違えし我が身を戻すことなく魅入っている。
悲しき、勇者と大賢者と魔王、3人の子供達が紡いだ物語が間も無く終わりを迎える。
敵対する筈の者達が、友情を……愛を……それ以上の何かを持ってしまったが故の悲劇の終局。
流す涙を隠すように、天の優しさは塔を避け降り注ぐ。
「……すすむ……はるる……えと……」
悪しき魔力より開放された幼き少女の顔を2人は黙って見ていた。
心配かけんじゃねぇよ!! 相変わらず小さいな!
言いたかった言葉は山ほどあったが、勇者は言葉にならずただ昔と変わらない姿の少女を見ている。
これから沢山遊ぼうね! ボクはもうねこのこちゃんより魔法が強くなったよ!
大賢者もまた、想いは募るが……その存在を抱きしめることが出来ないでいた。
魔神王ですら予期しなかった現象。
少女の精神を残し、魔王の精神のみを切り裂いた筈の勇者の剣。
だというのに、何故目の前の救った筈の少女の肉体は、こうも儚げに見えるのだろうか?
そう、すすむとはるは気付いてしまったから声を出せずに、ただ俯くしか出来ない。
助けると、絶対大丈夫だと、何十年もまたせようやく果たした悲願。
けれど奇しくもその必ず救う為と儲けた時間、それが彼女の存在を……奪っていたというのだから
「くそっ……くそぉ……なんで、なんでだよ!!」
「……すすむ」
魔王の軍勢を前にしようが、魔神王と対面しようが、決して折れなかった心が……ここに折れてしまった。
「どうして……ボクはちゃんと……何度も何度も何度も何度も!!!! どうして運命は……ねこのこちゃんが幸せになるのを拒むのよ!!!」
ここに来るまで数十年、人間にとっては殆どの生をつぎ込むほどの時間を費やしたというのに、どうしようもない現実にハルもまた、心を折る。
膝をつき消沈する2人。
けれどやはり、そんな2人を励ますのは彼女の存在。
ふわっと、まるで触れていいのか迷ったような手つきで、けれどどこまでも求めてやまない友へ、どうしても我慢できず……抱きついたのはねこのこである。
「……あのね、ねこのこは……すすむとはると、また3人とこうして会えたの……それだけでもう、充分なの……」
「ねこのこ……?」「ねこのこちゃん……」
自身の死を控えていることはわかっている。
だからこそ、それを友のせいにしまいと、友に後悔なんてさせない為に……抱きつくのをやめ、2人の手を握り、言葉を紡ぐ。
「ごめんね……こんなになるまで、私に時間を使わせちゃった」
ねこのこが握る2人の手は、人間の歳に見合った年老いたしわしわの手となっていた。
力を使い果たした代償、2人の姿を若く保っていた魔法も解けたようだ。
「はるる……結婚とか、したの?」
「してないよ、ねこのこちゃんを差し置いて幸せになんてなれる訳ないよ……」
「はるるらしいね、でもはるるなら……子供に戻るぐらい出来るよね……? もうねこのこの事は忘れていいから、もう充分ねこのこは幸せになったから、だから……すすむも、はるるも、幸せになって……」
握る手の力はスっと抜けた。
ねこのこは最後の力を振り絞り2人と会話するため、自身の存在をなんとか維持していた。
もう、ねこのこには立ち上がる力も、起き上がる気持ちさえもなく、その場に──
「ねこのこ!!」「ねこのこちゃん!!」
2人はそんなねこのこを捕まえ、抱きしめた。
「わかった!! ボクはちゃんと幸せになる!! だから……最後に1つ、お願いを言って!!」
「俺達がなんだって叶えてやる!! だからどんな願いでも言いやがれ!! 幸せになりたいなら幸せになりたいって言え!! 俺達が絶対、何があっても叶えてやるから!!!」
2人の抱きしめる力なき少女の手が一瞬ギュッと力強く握りしめられた。
それはもう、崩れそうな自身の身体をなんとか留め……2人に、最後に言葉を残したい。そう思ってしまったから──
「ごめんなさい!! ごめんなさいぃ……ねこのこ、やっぱりやだよ!! 2人とばいばいなんてやだ!! 居させてよ……どうしてねこのこだけなの!! どうしてねこのこはダメなの!! なんで……ねこのこ悪いことしてないのに……なんで!!」
最後の最後、ようやく見せた彼女の本音に、2人は何も言えず何も返せず、ただ抱きしめる。
「……だから……ねこのこのこと、忘れないで……ねこのこもう、1人は嫌なの………………」
とうとう、ねこのこの意識は途絶えた。
意識が途絶えると共に、彼女の形を支えるものが失われた。
きらきらと崩れゆく小さな少女の肉体に何もする術はない。
「……諦める事は「逃げるって事だ!!」」
勇者と賢者は一つの方法を隠していた。
なんせそれは……たった1人の少女の為、世界を巻き込む大魔法となるから……
「ねこのこは怒るかな?」
すすむの肉体から突如きらきらと透明な何かが溢れ出した。
すると不思議なことに、少女の肉体の崩壊は止まった。
「きっと怒ると思うよ、だって……これはボク達のわがままだもん」
大賢者の杖からは世界を包み込む程の光が溢れ出ている。
「でもまぁ仕方ないよな」
「ボク達はイノセント・ロアーだからね……無邪気なねこのこちゃんの叫びを果たす為に生きる者達なんだからさ」
「でもよ、この魔法って異世界の神から盗んだものだけどさ……この世界で使っても大丈夫なのか?」
「んー流石にボクでもそれはわからないかな、ただ分かるのは……この魔法を使うと、ボク達イノセント・ロアーのメンバーはねこのこちゃんに全てを託す事になるって事だね」
「あーそういや言ってたな、まぁでも……こいつなら任せても大丈夫だろ」
「うん、ねこのこちゃんはボク達なんか足元に及ばないぐらい、強くてとっても優しい人だからね……何千何万……何億回繰り返すかはわからない、けどきっと……幸せな世界を紡いでくれるよ」
「途中で飽きなきゃいいけどな~こいつ、面倒臭がりなとこあるし」
「あはは、ボクもそれだけが心配だなーって思ってたとこ、流石すすむはわかってるね~……で、すすむはねこのこちゃんを助けたら告白するって言ってたけど、どうするの? 寝ちゃってるし答えは分からないけど、唇ぐらいなら許してくれるよきっと」
「なっ!? ……はぁ、今更恥ずかしがるには俺も歳をとり過ぎたな……まぁなんだ、それはまだ取っとくよ、こいつが……もしも俺を好いてくれてるなら、新しく生まれ変わる俺にキスぐらいしてくれるだろうしな」
「へぇ~案外ロマンティストなんだぁ~」
「ぐっ……お前なぁ、むしろ……こんな場面で、ふざけられるお前の方がおかしいんだぞ」
「あはは、それも言えてるね! けどボクはねこのこちゃんがきっと見つけてくれるって信じてるからね、だからまぁ……少し眠るだけって感じかな」
「……そうだな、ここからは俺達の出番は終わりだ……任せたぞ……ねこのこ──」
勇者の肉体は賢者の放つ光に同化し消え去った。
とうとう何も見えなくなる程の光で世界は包まれる
森羅万象に存在する様々な生き物から建物や自然までがその身を崩壊させ、透明な輝きとなり集まってゆく。
全てが無に帰した完全なる無の世界。
残ったのはとても小さな女の子と、その女の子の大親友ただ1人。
「へぇ……流石に一つの世界を丸々使う魔法……とても綺麗だな、記憶の欠片達が……まるで──」
たった1人の幼なじみの女の子を救う為の物語は、親友が紡ぐ想いの言葉で幕を降ろす。
「世界の創始者にして、全世界を司りし破壊の神よ──」
数年は続く長く長い最後の魔法。
その想いを紡ぐ為、大賢者はとうとう唱えきる。
「ねこのこちゃん、次は君の番だよ? これはボク達から1度も送れなかった……君へのプレゼント。
だからボク達のことは気にしなくていい……1番望む、1番幸せな世界を選んでね」
バッドエンドに降りたはずの幕は
諦めない友への想いを閉じ込めることは出来ず
再びその想いを示す為、たった1人の少女の為、幕を開く。
♢
これにて、ねこのこ編第1章《偽りの猫》をここで終わります。
良ければ、ブクマ、感想して頂けましたら作者のモチベがあがります!
誤字報告あれば教えて頂けましたらとても助かります。
次章より。
第2章《Lv255の赤ちゃんギルド編》
ギルド・イノセントロアー始動。
とっとことことことーーーー!!! ずっさーーー!!!
「にゅ! ちち、宣伝しろ!」
「なっなんだよいきなり連れてきて……って!? ……ここ、俺が出るとこじゃないだろ……」
「ちち、さっさとする」
「………………じっ次回より、ギルド中心の物語が展開されます!! 見てくれよな……ってこれ、考えてみたら……俺の事見てくれって言ってるようなもんじゃね!?」
「ちち、ひわい、きもい」
「……………………」
「お楽しみに、にゃ!」
「おっお前!! いいとこだけとりやがったなぁーーーー!!! って……もう居ねぇし……」
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