転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

文字の大きさ
10 / 39

10.ルート考察

しおりを挟む
 次の日からも変わらぬ日常だった。
 歴史の授業を受けつつ、数日ぶりに登校している窓辺の席のライを見やり、興奮する心を落ち着けようと深呼吸をする。

(はぁ……、格好いい……! なんて素敵なんですか……!)

 「荒野に降り立った月の女神は--」
 
 緑色の長い髪を揺らしながら、先生は淡々と教科書に記された通りの歴史を語る。
 この時間は月の女神の建国神話と、この国の歴史についての授業だ。その抑揚のない語り口調にいつもなら睡魔に襲われる時間だ。ぐるぐると手元の書付を汚しながら、ゲームのことを思い起こす。

(昨日は多分オーランドとのイベント回避できたけど、今後もうまくいくかなぁ……。月の乙女だってバレたらおしまいだよなぁ……)

 月の乙女が持つ月の魔力は、光属性のなかでも最も希少な聖属性になる。この世界では水や風の魔力にも癒しの力があるけれど、威力は弱く、病は治せないし、大きな傷痕なんかは残ってしまう。でも月の魔力の癒しの力は絶大だ。傷や病を治すことも出来る。
 そして尊ばれるのは何よりも、愛するものにその自らが持つ膨大な魔力を分け与えることが出来るから、らしい。

 今まさに先生が語っているように、建国史では神として描かれている。
 建国1000年を数えるこの地では、国の体を為す前、他部族との交戦で、収拾の目途がつかない騒乱が100年以上続いた時代があったそうだ。
 その混乱を極める戦乱を収めたのが、この地に降り立った月の魔力をもつ乙女。突如として現れたその姿は、白銀に輝き、そのあまりの神聖な様は何人たりとも触れることすら厭われるほどであった。
 絹糸のようになびく白銀の髪、アメジストのように輝く紫の瞳、甘く匂い立つその白い肌は、月光のようにほのかに輝いていた。
 そして何よりも、驚くべき聖なる力で、戦禍に喘ぐ人々を癒し、他部族を制した。その後、国を自然が織りなす堅牢な守りで固め、後の世に王族となる一族に聖なる光の力を授け、本人は消えてしまった。消えた乙女は正しく神格化され、その存在は、この国の伝説となって伝わっている
 この殆どが何らかの魔力をもつこの国の住人であっても、月の魔力を持つ者は生まれない。本当に稀に、産まれることがあるらしい、とだけ伝わっている。そして月の魔力をもつ乙女は、もれなく王家に嫁ぐことになるという。

 キースルートとオーランドルートでは、好感度があがっていった佳境で、ヒロインが月の乙女だと判明する展開になる。
 その為、王家に狙われるヒロイン。王家から隠すために、キースは監禁(もしくは軟禁)するし、オーランドは亡命するエンディングにつながる。

 アルレーヌのGOODエンドはアルレーヌの正妃になる、王道シンデレラストーリー。
 でも、順調にGOODならいいけど、蓋を開けたらお人形BADエンドだったら目もあてられないしなー…。王道シンデレラストーリーでお嫁に行ったとしても、前世から筋金入りの平民だった私からすると、なんの妃教育も受けていない身分の私が、王族に迎え入れられても幸せになれるとは到底思えない。
 第一シンデレラストーリーって言っても、シンデレラなんて、絶対その後幸せになってないと思う!
 なおかつ、美しいものが大好きなアルレーヌだ。
 シンデレラの王子様よろしく、美醜に拘る王子様なんて、他に美しい娘がいたら、即なびいていきそう。それでなくてもナルシストだし。……そして何よりもどこかで選択肢を間違えたら、一寸先はお人形だしな……アルレーヌルートは絶対いや……。

 そして……ライ……。

 ライはなんていうか、籠絡されるというか……。
 いや、ライの見た目が私のすっごく性癖なキャラっていうのも多分にあるんだけど。
 これはもう公式ありがとう。キャラデザの勝利。
 ライはこっちの意思はお構いなしで、見初められちゃったら終わりというか……。竜の血を継ぐという一族の中でも先祖返りが著しく、力の強いライは、竜の性質を色濃く持っている。
 その中でも一度“番”と見定めた相手に対する執着は激しく、他のキャラのルートでの私に対してなんて、まったく興味も関心もありませーんっていう、面倒くさがりな態度なのに。
 そんななのに、ルートに入って好感度が上がってくると、急に手のひらを返したように、ヒロイン溺愛モードに変わる。
 そりゃあもう、一回でもライのルートに入ったら、もう逃れられない感がすごい。
 
 ゲーム内のセリフで「お前はもう俺のものだ。他の男のものになるくらいなら殺す」とか普通に言っちゃっててさ! きゃあ! 好き!
 そうこうして好感度がマックスになると、ヒロインの意思もそこそこに竜の里に連れ帰ってしまう。私の話も聞いてよ! なんて自分勝手! うぅひどい、でも好き。そう、画面の中なら、たまらなく大好き……。
 思えばライのルートでは、月の乙女っていうことは大した関係しないんだよなぁ。

 そして、ライのBADエンドは、多分、ライに殺される……?
 ライのBADはどうしてもプレイできなくて、途中のヤバい!! ってところでリセットした所までのストーリーと、うっかり見てしまったビジュアルブックのスチルしか覚えていない。
 返り血だと思われる血で赤く染まったライ。蒼白い顔でぐったりと傍らに横たわる私。
 あの、もしもーし、その私生きてる……?

 やっぱりBADエンドは誰のルートに入っても監禁か死かなのかなぁ……なにその恐ろしい二択……。

 とにかく! これまで通り! 想定しうるイベントは回避! 誰との好感度もあげない! 月の乙女は隠す! 学園は卒業! やれることをやる!

 決意を新たに拳を握る私だったが、ふとライと目があった。

「……ふふっ」

(ほ、微笑まれた……!!)

 それだけで、私の顔は赤面し、身体は硬直してしまう。それを見たライは、今度は肩を揺らしてくつくつと笑っている。

 うぅ……誰との好感度も、上げない、上げない……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...