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10.ルート考察
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次の日からも変わらぬ日常だった。
歴史の授業を受けつつ、数日ぶりに登校している窓辺の席のライを見やり、興奮する心を落ち着けようと深呼吸をする。
(はぁ……、格好いい……! なんて素敵なんですか……!)
「荒野に降り立った月の女神は--」
緑色の長い髪を揺らしながら、先生は淡々と教科書に記された通りの歴史を語る。
この時間は月の女神の建国神話と、この国の歴史についての授業だ。その抑揚のない語り口調にいつもなら睡魔に襲われる時間だ。ぐるぐると手元の書付を汚しながら、ゲームのことを思い起こす。
(昨日は多分オーランドとのイベント回避できたけど、今後もうまくいくかなぁ……。月の乙女だってバレたらおしまいだよなぁ……)
月の乙女が持つ月の魔力は、光属性のなかでも最も希少な聖属性になる。この世界では水や風の魔力にも癒しの力があるけれど、威力は弱く、病は治せないし、大きな傷痕なんかは残ってしまう。でも月の魔力の癒しの力は絶大だ。傷や病を治すことも出来る。
そして尊ばれるのは何よりも、愛するものにその自らが持つ膨大な魔力を分け与えることが出来るから、らしい。
今まさに先生が語っているように、建国史では神として描かれている。
建国1000年を数えるこの地では、国の体を為す前、他部族との交戦で、収拾の目途がつかない騒乱が100年以上続いた時代があったそうだ。
その混乱を極める戦乱を収めたのが、この地に降り立った月の魔力をもつ乙女。突如として現れたその姿は、白銀に輝き、そのあまりの神聖な様は何人たりとも触れることすら厭われるほどであった。
絹糸のようになびく白銀の髪、アメジストのように輝く紫の瞳、甘く匂い立つその白い肌は、月光のようにほのかに輝いていた。
そして何よりも、驚くべき聖なる力で、戦禍に喘ぐ人々を癒し、他部族を制した。その後、国を自然が織りなす堅牢な守りで固め、後の世に王族となる一族に聖なる光の力を授け、本人は消えてしまった。消えた乙女は正しく神格化され、その存在は、この国の伝説となって伝わっている
この殆どが何らかの魔力をもつこの国の住人であっても、月の魔力を持つ者は生まれない。本当に稀に、産まれることがあるらしい、とだけ伝わっている。そして月の魔力をもつ乙女は、もれなく王家に嫁ぐことになるという。
キースルートとオーランドルートでは、好感度があがっていった佳境で、ヒロインが月の乙女だと判明する展開になる。
その為、王家に狙われるヒロイン。王家から隠すために、キースは監禁(もしくは軟禁)するし、オーランドは亡命するエンディングにつながる。
アルレーヌのGOODエンドはアルレーヌの正妃になる、王道シンデレラストーリー。
でも、順調にGOODならいいけど、蓋を開けたらお人形BADエンドだったら目もあてられないしなー…。王道シンデレラストーリーでお嫁に行ったとしても、前世から筋金入りの平民だった私からすると、なんの妃教育も受けていない身分の私が、王族に迎え入れられても幸せになれるとは到底思えない。
第一シンデレラストーリーって言っても、シンデレラなんて、絶対その後幸せになってないと思う!
なおかつ、美しいものが大好きなアルレーヌだ。
シンデレラの王子様よろしく、美醜に拘る王子様なんて、他に美しい娘がいたら、即なびいていきそう。それでなくてもナルシストだし。……そして何よりもどこかで選択肢を間違えたら、一寸先はお人形だしな……アルレーヌルートは絶対いや……。
そして……ライ……。
ライはなんていうか、籠絡されるというか……。
いや、ライの見た目が私のすっごく性癖なキャラっていうのも多分にあるんだけど。
これはもう公式ありがとう。キャラデザの勝利。
ライはこっちの意思はお構いなしで、見初められちゃったら終わりというか……。竜の血を継ぐという一族の中でも先祖返りが著しく、力の強いライは、竜の性質を色濃く持っている。
その中でも一度“番”と見定めた相手に対する執着は激しく、他のキャラのルートでの私に対してなんて、まったく興味も関心もありませーんっていう、面倒くさがりな態度なのに。
そんななのに、ルートに入って好感度が上がってくると、急に手のひらを返したように、ヒロイン溺愛モードに変わる。
そりゃあもう、一回でもライのルートに入ったら、もう逃れられない感がすごい。
ゲーム内のセリフで「お前はもう俺のものだ。他の男のものになるくらいなら殺す」とか普通に言っちゃっててさ! きゃあ! 好き!
そうこうして好感度がマックスになると、ヒロインの意思もそこそこに竜の里に連れ帰ってしまう。私の話も聞いてよ! なんて自分勝手! うぅひどい、でも好き。そう、画面の中なら、たまらなく大好き……。
思えばライのルートでは、月の乙女っていうことは大した関係しないんだよなぁ。
そして、ライのBADエンドは、多分、ライに殺される……?
ライのBADはどうしてもプレイできなくて、途中のヤバい!! ってところでリセットした所までのストーリーと、うっかり見てしまったビジュアルブックのスチルしか覚えていない。
返り血だと思われる血で赤く染まったライ。蒼白い顔でぐったりと傍らに横たわる私。
あの、もしもーし、その私生きてる……?
やっぱりBADエンドは誰のルートに入っても監禁か死かなのかなぁ……なにその恐ろしい二択……。
とにかく! これまで通り! 想定しうるイベントは回避! 誰との好感度もあげない! 月の乙女は隠す! 学園は卒業! やれることをやる!
決意を新たに拳を握る私だったが、ふとライと目があった。
「……ふふっ」
(ほ、微笑まれた……!!)
それだけで、私の顔は赤面し、身体は硬直してしまう。それを見たライは、今度は肩を揺らしてくつくつと笑っている。
うぅ……誰との好感度も、上げない、上げない……。
歴史の授業を受けつつ、数日ぶりに登校している窓辺の席のライを見やり、興奮する心を落ち着けようと深呼吸をする。
(はぁ……、格好いい……! なんて素敵なんですか……!)
「荒野に降り立った月の女神は--」
緑色の長い髪を揺らしながら、先生は淡々と教科書に記された通りの歴史を語る。
この時間は月の女神の建国神話と、この国の歴史についての授業だ。その抑揚のない語り口調にいつもなら睡魔に襲われる時間だ。ぐるぐると手元の書付を汚しながら、ゲームのことを思い起こす。
(昨日は多分オーランドとのイベント回避できたけど、今後もうまくいくかなぁ……。月の乙女だってバレたらおしまいだよなぁ……)
月の乙女が持つ月の魔力は、光属性のなかでも最も希少な聖属性になる。この世界では水や風の魔力にも癒しの力があるけれど、威力は弱く、病は治せないし、大きな傷痕なんかは残ってしまう。でも月の魔力の癒しの力は絶大だ。傷や病を治すことも出来る。
そして尊ばれるのは何よりも、愛するものにその自らが持つ膨大な魔力を分け与えることが出来るから、らしい。
今まさに先生が語っているように、建国史では神として描かれている。
建国1000年を数えるこの地では、国の体を為す前、他部族との交戦で、収拾の目途がつかない騒乱が100年以上続いた時代があったそうだ。
その混乱を極める戦乱を収めたのが、この地に降り立った月の魔力をもつ乙女。突如として現れたその姿は、白銀に輝き、そのあまりの神聖な様は何人たりとも触れることすら厭われるほどであった。
絹糸のようになびく白銀の髪、アメジストのように輝く紫の瞳、甘く匂い立つその白い肌は、月光のようにほのかに輝いていた。
そして何よりも、驚くべき聖なる力で、戦禍に喘ぐ人々を癒し、他部族を制した。その後、国を自然が織りなす堅牢な守りで固め、後の世に王族となる一族に聖なる光の力を授け、本人は消えてしまった。消えた乙女は正しく神格化され、その存在は、この国の伝説となって伝わっている
この殆どが何らかの魔力をもつこの国の住人であっても、月の魔力を持つ者は生まれない。本当に稀に、産まれることがあるらしい、とだけ伝わっている。そして月の魔力をもつ乙女は、もれなく王家に嫁ぐことになるという。
キースルートとオーランドルートでは、好感度があがっていった佳境で、ヒロインが月の乙女だと判明する展開になる。
その為、王家に狙われるヒロイン。王家から隠すために、キースは監禁(もしくは軟禁)するし、オーランドは亡命するエンディングにつながる。
アルレーヌのGOODエンドはアルレーヌの正妃になる、王道シンデレラストーリー。
でも、順調にGOODならいいけど、蓋を開けたらお人形BADエンドだったら目もあてられないしなー…。王道シンデレラストーリーでお嫁に行ったとしても、前世から筋金入りの平民だった私からすると、なんの妃教育も受けていない身分の私が、王族に迎え入れられても幸せになれるとは到底思えない。
第一シンデレラストーリーって言っても、シンデレラなんて、絶対その後幸せになってないと思う!
なおかつ、美しいものが大好きなアルレーヌだ。
シンデレラの王子様よろしく、美醜に拘る王子様なんて、他に美しい娘がいたら、即なびいていきそう。それでなくてもナルシストだし。……そして何よりもどこかで選択肢を間違えたら、一寸先はお人形だしな……アルレーヌルートは絶対いや……。
そして……ライ……。
ライはなんていうか、籠絡されるというか……。
いや、ライの見た目が私のすっごく性癖なキャラっていうのも多分にあるんだけど。
これはもう公式ありがとう。キャラデザの勝利。
ライはこっちの意思はお構いなしで、見初められちゃったら終わりというか……。竜の血を継ぐという一族の中でも先祖返りが著しく、力の強いライは、竜の性質を色濃く持っている。
その中でも一度“番”と見定めた相手に対する執着は激しく、他のキャラのルートでの私に対してなんて、まったく興味も関心もありませーんっていう、面倒くさがりな態度なのに。
そんななのに、ルートに入って好感度が上がってくると、急に手のひらを返したように、ヒロイン溺愛モードに変わる。
そりゃあもう、一回でもライのルートに入ったら、もう逃れられない感がすごい。
ゲーム内のセリフで「お前はもう俺のものだ。他の男のものになるくらいなら殺す」とか普通に言っちゃっててさ! きゃあ! 好き!
そうこうして好感度がマックスになると、ヒロインの意思もそこそこに竜の里に連れ帰ってしまう。私の話も聞いてよ! なんて自分勝手! うぅひどい、でも好き。そう、画面の中なら、たまらなく大好き……。
思えばライのルートでは、月の乙女っていうことは大した関係しないんだよなぁ。
そして、ライのBADエンドは、多分、ライに殺される……?
ライのBADはどうしてもプレイできなくて、途中のヤバい!! ってところでリセットした所までのストーリーと、うっかり見てしまったビジュアルブックのスチルしか覚えていない。
返り血だと思われる血で赤く染まったライ。蒼白い顔でぐったりと傍らに横たわる私。
あの、もしもーし、その私生きてる……?
やっぱりBADエンドは誰のルートに入っても監禁か死かなのかなぁ……なにその恐ろしい二択……。
とにかく! これまで通り! 想定しうるイベントは回避! 誰との好感度もあげない! 月の乙女は隠す! 学園は卒業! やれることをやる!
決意を新たに拳を握る私だったが、ふとライと目があった。
「……ふふっ」
(ほ、微笑まれた……!!)
それだけで、私の顔は赤面し、身体は硬直してしまう。それを見たライは、今度は肩を揺らしてくつくつと笑っている。
うぅ……誰との好感度も、上げない、上げない……。
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