19 / 39
19.聞きたいこと
しおりを挟む
「うぅーん、やっぱりわかんないな……」
いまは昼食時、私は中庭の木陰の大きなベンチに腰かけて途方に暮れていた。
この学園は生徒のための庭園がたくさんある。授業や実技を行うための広大な園庭から、花々が咲き乱れる花園、そしていつも私がキャロラインたちと食事をとっている木陰の多い中庭をはじめとする、大小様々な庭園。
今日は以前見つけた、そんな庭の中でも学園の奥まったところにある、人気のない庭だ。
この季節は花を落とし、その緑の勢いも段々と落ち着いてきたサクラの木が数本植わっていて、木陰には申し訳程度にいくつかベンチが置いてある。
授業を行う教科棟と、魔道士の先生方の居住区の教師棟を繋ぐ一本道沿いにあり、日中は殆ど誰も通らない。
(……うぅ、やっぱり課題わからない……)
座るベンチの傍らには、図書館から借りた本を積み上げている。
今日魔法学で出た課題をやっつける為に借りてきたのだが、いかんせんちんぷんかんぷんだ。前世での勉強も、社会人経験も何にも役立たない。
(ゲームにも定期テストの前のパラメーター上げがあったけど……実際は辛い……)
このゲーム、18禁ゲームのくせに、学園ものなせいか、ミニゲームも色々とあった。
テストの前には、コマンドを選択して、教養のゲージを規定値まであげていく。ゲームの中でミニキャラがうんうん言いながら勉強して、やったーってピョンピョンしてた、あれ。
いやいや、実際はそんな簡単な話じゃない。
「……ふぅ……」
目を閉じて私はベンチでうーーーんと伸びをした。
(卒業できないのはあり得ないから、とにかくやらないと……。それでなくても、攻略対象から逃げるだけでも大変なのに)
そして実際はアルレーヌをはじめとして、全然攻略対象から逃げられてない。う、涙がでそう……。
「!」
ふいに、私の両頬が暖かい手で包まれた。
「……!! ライ!!」
目を開けるとライの金色の目が間近に見える。吐息の触れる距離に褐色の端正な顔立ちがある。
「……こんな所で一人か、お前は本当に危機感がないな……」
やだ!心配してくれてる!? 好き!
……いやいやいやいや、平常心!
「……大丈夫デスよ、学園の中だし」
……ってこの体勢!?
と、私が逃れようと身をよじろうとするやいなや、ライは左隣にすとんと座ってしまった。
「この本、魔法学か?」
「うん、そう……全然わからないんだよね…」
「ふん……」
(うわーうわーうわー! ライだっ! 久しぶり……!)
星見があったあの日から、もう1ヶ月は経つ。その間、ライはあまり学園に来ていないようだった。見かけてもすぐに何処かに消えてしまっていて、話をするのはすごく久しぶりだ。
「……その様子だと俺のことなど、すっかり忘れていたか?薄情なことだな」
「! いえいえいえ! 忘れていません!」
(そうだ……ライとのこと、他で頭がいっぱいで保留にしたまま忘れてた……!!)
冷や汗が滲む。
「今日はこの時間に珍しく、一人か」
ライはこちらを見ないまま、本を手繰っている。あら? 私がいつもキャロライン達と昼食をとっていたのを知ってるのかな? どこかで見かけたのかな。
「う、うん……」
なんとなく、この間の竜使いの一族に対する発言を聞いて以来、キャロライン達と懇意にするのは気が重くて、今日の昼食はテスト前だから自習する、という理由で断っていた。
キャロラインは私が孤児院出身だと話しても、態度を変えはしなかったけれど……。
改めて知ることになった、貴族の彼女の価値観に、どうしようもなく淋しさを覚えてしまったのだ。そして、何を話せばいいのか分からなくなってしまった。
竜使いの一族や彼らが住む竜の里については、ライのルートでも、さした詳しい描写はなかった。
ライのルートに入ってGOODエンドを迎えると連れ帰ってくれる、山間の花々が美しいその場所。そのスチルの記憶しかない。
(ライに聞かなくちゃ、この間のこと……)
右手の制服の裾からチラリと蔦のような入れ墨が見えた。
(あ、入れ墨……初めて見えた……素敵……)
「……そんなに俺のことが気になるか?」
「!!」
知らずに彼のことを凝視していたらしい私は、バッと飛びのいた。
「き、気になって、なんてっ?」
「お前はわかりやすい。何か聞きたいことがありそうだが」
……ライに聞きたいことなんて……、……ありすぎる……。
まず、よよ嫁って!? 本気!?
ライのこと好きか嫌いかって言われたら、もちろん好きですよ!
そして怖いか怖くないかって聞かれたら、もんのすごぉく怖い!!
ライは好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。好きが嫌いに転換するのも、どういうポイントか全然わかんない上に、飽きっぽい。
……実はライのBADエンドにうっかり入りそうになったことがある……。
もう、これ絶対GOODエンドじゃん! ってウキウキしてたら、突然冷たい声で「飽きたな」って言われたの!! トラウマ!!
もう、その瞬間、リセットしたよね……。
ゲームの中くらいは、辛い現実を忘れたいのに、ハッピーエンド以外は精神がもたない。
それにしても、この間のライのセリフはなんだろう?
何でライは私を?? 好感度イベントなんて何もした覚えがない。
ゲームの中では少なくともライのルートに入って、竜の里に行くのは卒業間近だったはずなのに……。
そして、ライとキスしちゃった……んだ……。
うぅ、思い出すと顔が熱い。
すり……
「!」
左頬を撫でられた。
知らずに下げていた視線をあげ、ライの金色の瞳を見つめる。
「……ふふ、お前の浅はかな頭で何か考えても、大抵は徒労だろうよ」
ぐさぐさっ
「今はまだ機が熟していないとも言える、だが……」
ライはじっと私のことを見つめる。
「お前が望むなら、俺はいつでも、お前を連れさってやるぞ?」
いまは昼食時、私は中庭の木陰の大きなベンチに腰かけて途方に暮れていた。
この学園は生徒のための庭園がたくさんある。授業や実技を行うための広大な園庭から、花々が咲き乱れる花園、そしていつも私がキャロラインたちと食事をとっている木陰の多い中庭をはじめとする、大小様々な庭園。
今日は以前見つけた、そんな庭の中でも学園の奥まったところにある、人気のない庭だ。
この季節は花を落とし、その緑の勢いも段々と落ち着いてきたサクラの木が数本植わっていて、木陰には申し訳程度にいくつかベンチが置いてある。
授業を行う教科棟と、魔道士の先生方の居住区の教師棟を繋ぐ一本道沿いにあり、日中は殆ど誰も通らない。
(……うぅ、やっぱり課題わからない……)
座るベンチの傍らには、図書館から借りた本を積み上げている。
今日魔法学で出た課題をやっつける為に借りてきたのだが、いかんせんちんぷんかんぷんだ。前世での勉強も、社会人経験も何にも役立たない。
(ゲームにも定期テストの前のパラメーター上げがあったけど……実際は辛い……)
このゲーム、18禁ゲームのくせに、学園ものなせいか、ミニゲームも色々とあった。
テストの前には、コマンドを選択して、教養のゲージを規定値まであげていく。ゲームの中でミニキャラがうんうん言いながら勉強して、やったーってピョンピョンしてた、あれ。
いやいや、実際はそんな簡単な話じゃない。
「……ふぅ……」
目を閉じて私はベンチでうーーーんと伸びをした。
(卒業できないのはあり得ないから、とにかくやらないと……。それでなくても、攻略対象から逃げるだけでも大変なのに)
そして実際はアルレーヌをはじめとして、全然攻略対象から逃げられてない。う、涙がでそう……。
「!」
ふいに、私の両頬が暖かい手で包まれた。
「……!! ライ!!」
目を開けるとライの金色の目が間近に見える。吐息の触れる距離に褐色の端正な顔立ちがある。
「……こんな所で一人か、お前は本当に危機感がないな……」
やだ!心配してくれてる!? 好き!
……いやいやいやいや、平常心!
「……大丈夫デスよ、学園の中だし」
……ってこの体勢!?
と、私が逃れようと身をよじろうとするやいなや、ライは左隣にすとんと座ってしまった。
「この本、魔法学か?」
「うん、そう……全然わからないんだよね…」
「ふん……」
(うわーうわーうわー! ライだっ! 久しぶり……!)
星見があったあの日から、もう1ヶ月は経つ。その間、ライはあまり学園に来ていないようだった。見かけてもすぐに何処かに消えてしまっていて、話をするのはすごく久しぶりだ。
「……その様子だと俺のことなど、すっかり忘れていたか?薄情なことだな」
「! いえいえいえ! 忘れていません!」
(そうだ……ライとのこと、他で頭がいっぱいで保留にしたまま忘れてた……!!)
冷や汗が滲む。
「今日はこの時間に珍しく、一人か」
ライはこちらを見ないまま、本を手繰っている。あら? 私がいつもキャロライン達と昼食をとっていたのを知ってるのかな? どこかで見かけたのかな。
「う、うん……」
なんとなく、この間の竜使いの一族に対する発言を聞いて以来、キャロライン達と懇意にするのは気が重くて、今日の昼食はテスト前だから自習する、という理由で断っていた。
キャロラインは私が孤児院出身だと話しても、態度を変えはしなかったけれど……。
改めて知ることになった、貴族の彼女の価値観に、どうしようもなく淋しさを覚えてしまったのだ。そして、何を話せばいいのか分からなくなってしまった。
竜使いの一族や彼らが住む竜の里については、ライのルートでも、さした詳しい描写はなかった。
ライのルートに入ってGOODエンドを迎えると連れ帰ってくれる、山間の花々が美しいその場所。そのスチルの記憶しかない。
(ライに聞かなくちゃ、この間のこと……)
右手の制服の裾からチラリと蔦のような入れ墨が見えた。
(あ、入れ墨……初めて見えた……素敵……)
「……そんなに俺のことが気になるか?」
「!!」
知らずに彼のことを凝視していたらしい私は、バッと飛びのいた。
「き、気になって、なんてっ?」
「お前はわかりやすい。何か聞きたいことがありそうだが」
……ライに聞きたいことなんて……、……ありすぎる……。
まず、よよ嫁って!? 本気!?
ライのこと好きか嫌いかって言われたら、もちろん好きですよ!
そして怖いか怖くないかって聞かれたら、もんのすごぉく怖い!!
ライは好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。好きが嫌いに転換するのも、どういうポイントか全然わかんない上に、飽きっぽい。
……実はライのBADエンドにうっかり入りそうになったことがある……。
もう、これ絶対GOODエンドじゃん! ってウキウキしてたら、突然冷たい声で「飽きたな」って言われたの!! トラウマ!!
もう、その瞬間、リセットしたよね……。
ゲームの中くらいは、辛い現実を忘れたいのに、ハッピーエンド以外は精神がもたない。
それにしても、この間のライのセリフはなんだろう?
何でライは私を?? 好感度イベントなんて何もした覚えがない。
ゲームの中では少なくともライのルートに入って、竜の里に行くのは卒業間近だったはずなのに……。
そして、ライとキスしちゃった……んだ……。
うぅ、思い出すと顔が熱い。
すり……
「!」
左頬を撫でられた。
知らずに下げていた視線をあげ、ライの金色の瞳を見つめる。
「……ふふ、お前の浅はかな頭で何か考えても、大抵は徒労だろうよ」
ぐさぐさっ
「今はまだ機が熟していないとも言える、だが……」
ライはじっと私のことを見つめる。
「お前が望むなら、俺はいつでも、お前を連れさってやるぞ?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,198
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる