転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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22.聞きたいこと 4

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 私はどうしてもそのポジションを譲らなかったライに肩を抱かれ、ライを挟んでキースとオーランドと共に寮に向かって歩いていた。
 ライはとりあえず殺気を収めたものの、一触即発の鋭い空気はそのままに、その黄金の瞳は色濃く睨みをきかせている。
 授業中の学園内は静かで、中庭に面した回廊では微かな鳥の鳴き声くらいしか聞こえてこない。
 白い大理石が敷き詰められた豪奢な床に4人の足音だけが響いていたその時、ふとキースが尋ねてきた。

「――そうだ、セラ。その節は癒しのペンダントを本当にありがとうございました」
「……あ!  お役にたてたなら何よりです! 妹君の御加減はいかがですか?」

「……なんの話だ」
「以前キース様の妹君のご療養に、祈りを込めた魔石のペンダントを贈らせて頂いたのよ」
「お前……」
「??  何かいけなかった?」

 なんだろう?  ライの不機嫌さが増した。怖くて咄嗟にライの方から目を背けた。

「おかげさまで、見違えるようですよ。やっと……、これからの回復が楽しみだ、と言えるほどになりました。最近色々と話もしてくれるようになったんですよ。をね……。
 そうだ、セラはフィオーナの教会の出身だと言っていましたか?」
「そうです、フィオーナの町はずれにある小さな教会の出身です」

「あぁやはり、そうでしたか……」
「?」

 私はひょい、と顔を出しライ越しにキースの方を窺い見た。
 ……声音はいつもの調子だったのに、水色の瞳は僅かに顰められ、とても真剣な表情をしている。
 不思議に思っていると、私の視線に気が付いたキースがにっこりと微笑んだ。

「あの……?」
「ねぇセラ、僕も、君のあの魔石欲しい」

 ひょこっ、とオーランドが私とライの間に割り込んでくる。黒い大きな目を輝かせ、なんだか楽しそう。

「えぇ?  オーランド先生が??  な、なんでですか?」
「これから忙しくなるけど、君の、あの魔力のこもった魔石があれば、どんな襲撃も心配いらない。ふふ……それに僕も、君のあの甘い香りを身に着けたい、な」

 襲撃って。
 なんでそんな物騒なことを……?  ゲームの記憶で間諜だって知っているとはいえ、オーランドっていま何の任務についてるの?  突っ込みどころが多すぎる……。
 私の怪訝な表情に、オーランドはますます楽しそうに笑みを深める。

「ふふふ、僕のこと、知りたい?  ねぇ、君になら、知ってほしいなぁ」

 そう言うとオーランドは蠱惑的な笑みを浮かべ、赤い唇をぺろりと舌なめずりした。

「俺が許可するはずないだろうが」

 そう吐き捨てるように言うと、苛立ちを隠さない様子で、ライはオーランドを押しのけ、ぐいっと私を抱き寄せた。

「あぁ確かに、それは名案ですね。セラ、私にも君のあの祈りの魔石をくださいませんか?」
「え?  えぇ?」
「君の教会のあの祈りの魔石、素晴らしい活動をされているなと感服していたのです。もし頂けるなら先日のお礼もこめて、是非今度フィオーナのセラが育った教会に寄付をさせていただきますよ」
「わぁ!  有難うございます!  それでしたら是非、わっ」

 ぐいっとライに位置を戻された。ライに肩を抱かれると、身長差からライの胸元にぴったりと付く形になる。

(話している途中だったのに)

 非難めいた視線を頭上にむかってあげると、金色の瞳と視線がかち合う。と同時に、多分に呆れを含んだため息が落ちてきた。

「――お前の魔力を込めた魔石だと……?  浅慮が過ぎるだろう……。お前は本当に迂闊だな」
「??  なにが??  ライも魔石のお守り欲しい?」
「そういうところがだ、……もういい、黙って歩け」
「?  はーい」

 静かな回廊を抜け、そうこうしている内に寮に着いた。門を抜け、扉の前まで3人は付いてきた。

「――くれぐれも、学園内であったとしても、一人では行動しないように気を付けてくださいね?」
「?  はぁ」
「ね?  約束ですよ?」
「わかりました……」

 なんでキースにそんなことを言われるんだろう??  本当に今日のことはよく分からない。

「それではこれで私は失礼します……。送って頂いて有難うございました」

 寮の扉を閉める瞬間、一瞬にして三人から殺気が漏れ出る気配を感じたが、見なかったことにして私はそのまま扉を閉めた――。




 扉が閉められた寮の門の前、何かを察したかのように、バサバサと音をたて鳥達が飛び立つ。そこには、周囲に存在する全ての生物達が息を潜め、吐息一つもためらわれるような静寂のみが残された。

 三人から発せられた魔力が、陽炎のようにゆらゆらと揺らめく。その危うい均衡を崩すが如く、口火を切ったのはライだった。

「……いつまでも、こんな国の諍いになど付き合っていられるか。俺がセレーネを竜の里に連れ帰ればそれで話は終いだろう?」

「だから君は……!  いま月の乙女を連れていかれたらまずいことくらい分かるでしょう?」

    大仰にため息をつくキースの周囲は、放たれた冷気にまたうっすらと白くけむる。

「貴様たちの政変など知るか。そんなことをあいつが望むとでも?  ……あいつの望みを反することは、俺が許さぬ」

    踏みしめる、ライの足元の地面が焦げ付く。

「またキースは、そんなこと言って、るの?  どちらでもいいじゃない。僕は、セラが、竜の里にいても、問題ない。僕も、いけばいいから」

 二人の間に漂う殺気など我関せずといった様子のオーランドの発言に、ライは眉間に皺を寄せた。前から感じていたこいつの底の知れない力はなんなのか。

「どうやって竜もなしに山脈を越えるつもりだ」
「問題ない、よ。僕この国に、来たとき、山脈から入ったし」

「……」
「……」

「お前の所の頭は……、こんなやつを仲間に引き入れて、本当に大丈夫なのか……?」

「……。信用、してますよ?  オーランド」

「ふふふ……、仲良くしようね?」

 オーランドの何を考えているか分からない笑みは、吹いた強い風にかき消されたのだった。
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