転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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24.朝美の独り言

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「はぁああ、つっかれた……」

 むくんで脱ぎづらくなったパンプスを玄関に蹴飛ばすように履き捨てた。先日買ったばかりのパンプスは、夜になるときつく、爪先が痛くて仕方ない。営業回りでどうせすぐ履きつぶすし……と思ったけど、安物はやっぱり駄目だった。
 あぁ、私って本当安物買いの銭失いって得意だなぁと、毎日そんなことを玄関で思う羽目になってしまった。それもまた疲れを上塗りする。

 狭い1Kの部屋、日々終電で寝に帰るばかりのそこは、足の踏み場もない。
 電気を付けると朝の慌ただしさが残ったままの部屋が照らされた。
 開けっ放しのクローゼット、ベッドとこたつ。
 むわっと籠った空気。とりあえずエアコンを付けて、唯一空いてるベッドの上に今日コンビニで買った袋を置いた。
 スーツのジャケットを脱いで、一応しわにならないようにハンガーにかける。コンビニ袋からビールを取り出し、まずは立ったまま一口飲む。

「……ぷ、はぁっ」

 やっと一息ついた。
 次に冷凍パスタを電子レンジにかけながら、残ったワイシャツとスーツのスカート、ブラ、ストッキングを脱ぎ捨てる。

(はぁ……あんな時間に見積もり再提出だなんて、ひどすぎる……。絶対やめる、今度こそやめる。今月辞める。明日辞表だす)

 ……仕事辞めるって、まず何からするんだっけ……。
 辞表、……判子、あとは職探し……?  あ、そういえば、前の仕事辞めた時に買ったストール見つからないなぁ、気に入ってたのに……。
 疲れていると、考えもまとまらない。散らかった部屋を眺めながら、立つのもしんどい体を壁にあずけた。ぼんやりと浮かび上がる取り留めもないことを思いながら、今何かを決めるのは無理だなぁと悟る。
 何かをやめるのも始めるのも気力が必要だ、今はとにかく疲れていて、止まらない思考が面倒くさい。とりあえず今はご飯を食べて、それからにしよう。

 キャミとショーツの姿で冬から片付けられていないこたつに座り、メイク落としシートで顔を拭きながら、温まったパスタの封を開けた。
 スマホを片手に、こたつ机に陣取ってるパソコンの電源を入れる。

(あ、お母さんから着信あったんだ)

 あぁ、何もかもが面倒くさい。
 母親が何を言ようと電話をかけてきたのか想像するだけで、口の中のパスタが味をなくす。
 母親と電話、ってこれほど相性の悪いものはないと思う。延々同じ昔の話か、今の愚痴、私の現在を慮っているように見せかけた、あんたもそろそろ結婚しなさいよがくるだけだ。悪気がない分、たちが悪い。

 もうね、疲れてて、そんな余裕ないのよ。一人で生きるだけで精一杯なのよ。出会いとか、新しいこととか、そんな余裕ないのよ。今は無理なの、でもやらなきゃいけないってことも分かってる。お願いだから黙ってて。

「……はぁ……」

 知らず力がこもってた眉間を、ため息でほどいた。
 ビールをぐっと飲みほす。

「ダメだ……何も考えたくない……、ゲームしよ」



 うーーん、正直ライのルートだけやって幸せに浸りたいけど、スチル回収にアルレーヌのもやっておくか……。
 確か途中で飽きたセーブデータがあったはず……、あ、あった。
 このルート、他では可愛くて理知的なヒロインが、盲目的にアルレーヌ大好きっ子で、ライ推しの私にはつらかったんだよねー。
 ライルートの時の、一瞬の気も抜けない最大限に思考回路を働かせないと即中途BADエンドだった時の会話の応酬に比べ、このルートのセレーネは盲目的だ。

 うーん?  なんだっけ、このルート、あぁ学園でアルレーヌの暗殺未遂事件があって、怪我したアルレーヌを月の魔力で癒した後か。
 うーんアルレーヌのGOODルートいけるかなぁ……。


「私は、アルレーヌ様のことをお慕いしています……!  どうかお傍にいさせてください!」

「セラ……」


(いやいや、セラさーん、その男はあとで苦労すると思うよー)

 アルレーヌルートは流れ作業になってるので、片手にコロコロで周囲を掃除しながらプレイする。コンビニ袋からもう一本缶チューハイを取り出した。


 二人の絆は深まり、学園の卒業と同時に結婚式を行うことになった。

 でも暗殺未遂等、政情が不安定な中なので、大々的に国を挙げてのものではなく、ひっそりと王家の由来の教会で二人で式を挙げるというもの。

 セラの部屋は王城の一室に設けられ、その部屋には誂えられたウェディングドレスが飾られる。
 セラは結婚式を明日に控え、広いバルコニーに出て一人で月を眺めている。


「いよいよ、明日アルレーヌ様と……」


 ガタンッ


「誰……!?  ……え、貴方だれ!?  何故、どうやってここに?」

 音に驚き振り返ると、そこには降って湧いたかのように、黒い装束に身を包んだ男がいた。

(えー!  これ顔隠してるけどライだー。ここでライが出てくるなんて、私得すぎるー)

 ライはフードをあげ、金色の瞳で真っ直ぐこちらを見つめてくる。
 赤い燃えるような髪が月明かりに照らされ、夜の闇に浮かび上がる。

「……今世の月の乙女、セレーネ・アイルスよ」

 一歩ずつこちらに近づいてくる。真っ直ぐに見つめてくるその黄金の瞳に、たじろぐ。

「お前は何を望む?お前の望みはそこに留まることか?」

(え……)

「お前の望みはなんだ?」




 ――…ハッ


「……あ、れ……?  夢?」

 ドキドキと、痛いくらいに心臓が激しい鼓動を打つ。
 今はどこにいるのか分からなくて、しばし薄暗い天井を見つめた。

 気怠い身体を引きずるようにベッドから起き上がり、周りを見回した。頭や顔をペタペタと触り、その感触でやっと自分がセレーネであると自覚する。

 そこでやっと、詰めていた息を大きく吐いた。

(あんな……、朝美だった頃のリアルな夢……初めてみた……)

 いつも見る夢は、もっと取り留めのない、断片的なシーンばかりだった。今もまだあの部屋の匂いが、指先に部屋のラグの感覚が残っているようだ。

「はぁ……」

(…ゲームであんなシーンあったんだっけ…)

 ネグリジェの胸元から、チラリと先日のライが残した痕が見える。

(ライ…)

 頭の中で先程の夢の中のライの声がこだまして離れない。

『 お前の望みはなんだ? 』
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