転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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26.王子様のお人形

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 …頭が割れるように痛い。
 どうにかぐるぐると目眩のする重い瞼を持ち上げても、視界はぼんやりとしていて、周りの様子をなかなか認識することができない。

(暗い…)

 ここはどこ…?呼吸を重ねる度に、甘苦しい匂いが鼻をつき、とにかく頭が重く痛い。首に何か固いものが巻かれていて、それもまた呼吸を苦しくする。
 億劫な気持ちを抑え込み、やっと周囲に視線を巡らせると、どうやら自分は今どこかの寝台に寝かされているようだ。視界の端に色とりどりの花々があり、その中に埋もれるようにして横たわっているようだった。
 花…?なんのために?横たわる周りを花で埋めつくすだなんて、まるで死人を送る葬礼のようではないか。
 顔に触れる花を除けようとした時、

 ガシャン
(手に…何?手枷…?)

 私を寝台に縫い留めるように伸びたそれのせいで、右手は僅かに持ち上げる以上は動かなかった。バラのような、大輪の華をモチーフに作られたであろう豪奢な装飾の手枷からは、銀色の鎖が伸びている。
 一見美しく、それがその用途と相まって一層グロテスクだ。

 視線を下に落としたことで、視界に自分の身体が目に入る。
 私の身体…?視線を自分の身体に落とすと、見たことのない艶やかな絹の服を着せられているようだった。
 この薄暗い光にすらチラチラと反射する紫色の宝石を散りばめた刺繍で縁どられた服に、胸元には大きなリボンが結ばれている。両足は露になっているようで、敷き詰められた花の花弁の感覚をさわさわと感じる。

(これ…!!!)

 その服に、その装飾に気が付いた瞬間、ぼんやりと見回していただけの意識が急に明らかになった。前世の記憶が伝えるこの服の意味に、全身の毛が総毛立つ。

 これ 王子の コレクション、お人形の 衣装、だ…!

 ギシリ、と、私の横たわっている寝台が揺れた。
 いつの間にか隣に人影がある。

「ヒッ…!」
「あぁ、起きたんだね おはよう」

 王子、アルレーヌ…!
 アルレーヌは私の頬をすり…と撫であげる。その冷たい指の感触に、一気に全身に怖気が走り、冷や汗が背を伝う。

「ねぇ君、ひどいじゃないか。君、僕の探していた“月の乙女”だったのに隠していたんだろう?」

 ドクンっ
 怖い怖い怖い…!!
 一刻も早く逃げだしたいのに、身体が動かない。
 私の怯えに染まる瞳を見て、アルレーヌはうっそりと微笑んだ。

「あぁ、この茶色の髪…、一部分が白銀の筋が残っているねぇ。
 このまま君の乙女を散らしたら、伝え聞く美しい白銀の姿にかわるかなぁ」

 私の髪を一筋すくい、ちゅ、とそれに口づける。その蒼い瞳からは、感情を読むことが出来ない。

「あぁ、何か魔力を使おうとしても無駄だよ。この塔の地下には魔力を無効化する魔法陣が描かれているからね」

 ガシャリ…

 手枷の嵌められた右手を持ち上げキスをされる。
 何かの力によって、全く力が入らない身体では、右手もだらんと持ち上げれるがままだった。


「あぁ、ここがどこか気になる?安心して、王城の敷地内だよ。
 中には悲しいことに従順になってくれない乙女もいるそうだから…ね。この孤月の塔はそんな乙女の為に作られたんだ。ふふふ、僕のお気に入りの場所だよ。
 ここで、王家の子を生し、この国の発展を見守れるんだよ 素晴らしいだろう?」

 アルレーヌの目線は鉄格子のはまった、手を差し入れるのがやっとなほどの小さな窓をチラリと見やった。そしてふぅっと、大げさにため息をつく。

「君の両親は愚かにも月の魔力をもって産まれた君を隠した。嘆かわしい、これは国家に反旗を翻すにも等しい罪だねぇ。
 そして…そんな醜い魔力を纏わせることで、君を王家から隠したんだ」

 アルレーヌの顔が近づいてくる。

「でも僕は君を許すよ。ねぇ…君は僕のものだよ」

 アルレーヌが私の上に覆いかぶさってきた。頬をぺろりと舐め上げられる。

「やっ…」
「あぁ君の恐怖にゆがむ表情もいいけれど、快感に蕩ける表情も見たいなぁ。
 もう何日かしたら、僕の従順なお人形になれるよ…ふふふ。君が僕を愛してくれないと、魔力を得られないらしくてね?父上からはそれまで乙女を奪っちゃいけないって言われているんだけど…」

 耳たぶを舐め上げる。
 ゾワリと這わされる舌。その行為にただただ嫌悪しか感じない。

「でも、僕我慢できるかなぁ…、ずっと君のことを奪いたいなって思っていたんだ」

 アルレーヌは、私の手をとり、口づけを降らせる。

「あぁ、君の指先は固くなっているねぇ…。
 チッ…貧しい暮らしのせいか…。産まれてきた時にすぐに王家に匿われていれば、そんな苦労をさせることはなかったのになぁ」

 ちゅう…
「ねぇ、安心してセラ。僕は君のことをとっても優しくするよ?だって乱暴に遊んで壊しちゃったら勿体ないからね」

 ぺちゃ…
 手に取った私の人差し指を口に含み、舐め上げる。
 指先に口づけるように、そして温かい舌でゆっくりと口内に含んでいく。
 ちゅぱ、ちゅ

「ぁあっ…!…え…?」

(え!なんで?どうして??)

 思わず出た大きな声に、私は目を見開いた。
 指先から電流が走ったかのように、快感が私の身体を巡ったのだ。
 今の指を舐められる行為だけで、下腹部が熱く重くなった感覚がある。

「あぁ、敏感になってくれて嬉しいよ。
 君にも楽しんでもらいたいからさ。逃げ出したくならないように、媚薬を焚いてるんだ。
 ゆっくり楽しもうねぇ」
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