転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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27.王子様のお人形 2

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 目に映るアルレーヌの笑顔が歪む。瞬きをする度に、私の意識は遠くに攫われそうで、必死に歯をくいしばった。
 恐ろしいアルレーヌの言葉、でもその恐怖すら緩慢に通り過ぎた。今のこの光景のどこまでが夢で、どこからが現実なのかの境目が分からない。
 足元の砂が波に浚われるように、どんどんと自分が立っていた位置が、自分の意識が、自我が分からなくなる。見上げるシャンデリアの光が滲み、ただ私はぼんやりと自分自身が遠ざかっていくかのように感じていた。

「…あぁ起きた?ふふ、君が目覚めるのを待ってたよ」

 彼がそう言うということは、私は意識を失っていたのだろうか。それすらも分からない。昼夜の区別もつかないこの暗い部屋では時間の経過もまた曖昧だ。
 アルレーヌの冷たい手は、私の首元をするりと撫でた。

「い・や、いやよ…!」

 私は首をぶんぶんと横に振ったつもりだったが、実際は小刻みに震えただけだった。
 恐怖に震える私をよそに、アルレーヌのの笑みは深まっていく。

「やっぱり最初は意識がある方が楽しいからね」

 クスクスと笑いながらそんなことを言う。しゅるり、とベビードール人形の衣装の前のリボンが解かれた。外気にさらされて、甘苦しい匂いの影響で火照った肌が粟立つ。

「わぁ…プレゼントの箱を開ける時の気分だ…。本当に綺麗だよ、セラ…。味見くらいいいよね?ふふ、僕、ケーキの苺は先に食べるタイプなんだ」

 ぢゅっ
「やぁんっ!!」

 いきなり胸の頂きを口に含まれて、身体が大きく跳ねる。――その感覚に、身体の勝手な反射に、心は強い嫌悪感で引き裂かれそうだ。

(やだ…!やだ、やだ…!!ライ!助けて…!)

「ん…?気のせいかな?何か魔力の残り香がするね…?他の男の匂い、かい?」
 ガリッ
「い゛っ…!」

 首元を噛まれた痛みまでを敏感に感じとる。ジンジンと響く噛みつかれた痛みが、徐々に堪えようのない疼きを伴って主張を始める。

「君の身体は全て僕の色に染めてあげるよ、喜んでね?」

 ぺちゃぺちゃと首元の血を舐めとりながら、今度はきつく吸い上げる感覚が走る。

「ふふ、これからのことを知りたい?まずは君と僕との結婚式だよ。僕の子どもをたくさん産んでね?
 でももし君が…聞き分けのない子だったら、ここで…うふふ、僕がずっとお世話をしてあげるのもいいなぁ…。友達も欲しいだろう?あ、君の仲の良かったあの子!連れてこようっか!
 逃げ出せないように二人ともちゃあんと処置してあげるよ。それとも、他のお友達もほしい?
 あぁ楽しみだなぁ、美しいままでずぅっとここにいてほしいなぁ…。あぁ、いつか歳をとっても醜くなんてさせないから大丈夫だよ?色々方法はあるし。
 君の瞳を、伝説の通りの本物のアメジストに替えてあげるのもいいな…んふふっ」

 アルレーヌは私の双方の乳房を揉みしだき顔を埋めながら、時にケタケタと笑い、そんなことを語りかける。
 現実感のない感覚、現実感のないアルレーヌの言葉。金の髪を身体中に浴びながら、痛みと疼きに必死に耐える。シャンデリアの蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、視界が定まらない…眩暈が止まらない。

 自由に身動きのできない身体の代わりに、瞳から次々と涙が溢れてはこめかみを濡らした。

 これは悪夢だ。
 どうしても回避したかった悪夢だ。

 あんなに頑張ったのに。
 こんな未来欲しくなかったのに。
 涙が溢れ続けるが、この甘苦しい香りの中、嗚咽をすることもできない程、感覚は緩慢だ。

「…ひぐっ、……や、だ…!助けて…ラ、イ…」
「あぁ…閨で他の男の名前なんて呼んじゃだめだよ?ましてやあんな浅黒い肌の下賤の輩なんて」

 ガリッ
「…痛っ!」

 今度は乳房を思い切り噛まれた。
 痛みに固まる私の表情を窺いに、アルレーヌが顔をあげる。ニヤァっとゆがんだ笑みを浮かべる。

「そんなこと言っていると、優しくできないよぉ?ふふ…」

 …痛い、恐い、恐い…

 意識が朦朧とする。いっそのこと意識を失ってしまいたいのに、もたらされる痛みと疼きに意識を失うこともできない。



 ―――私、こんなところでこんな目に遭うために転生したの?

 …ち、がう

 ―――セレーネの人生はこんなところで、こんな目に遭うためにあったの?
 これまでの行いはこんなところに繋がるようなものだったの?


 ちがう ちがう


( 「お前が俺を選んだんじゃない 俺がお前を選んだんだ」 )

( 「 おまえは なにを のぞむ 」)

 私が望んだの 私が望んで、ここにきたの 私があなたを望んだの

 私があなたに会いたかったの 貴方を望むのは私の意思なの

 何故、この世界に転生が叶ったかなんてわからない。なんでここに存在してるかなんてわからない。この前世の記憶が本物かもわからない。

 でもこの記憶の中の“上田朝美”が“セレーネ”になったのは、それは、それだけは私が望んだからだってわかる。

 私は、ライをのぞむわ

 アルレーヌ、このひとは違う、ここは違う

( 「何かあったら、俺を呼べ」 )

 私の声は届かないかもしれない、それでも、それでもライに会いたい。ライ以外はいや

 ら、い、ライ、ライ―――――!!!

(( ルナリア… ))

 私の中で、優しい女性の声が響いた。…そして

 ”ぱりん”

 どこかで何かが砕け散った気がした。
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