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28.順光
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ピシッ
家鳴りのような音がしたかと思うと、ゆらゆらとシャンデリアに灯された炎が揺れはじめた。その炎が落とす影は、徐々にそのふり幅を増す。
「…ん?」
アルレーヌが顔を上げた。
ド…ドド、、ド、ド、、、
遠くから地鳴りのような音がする。深いところから響くような、みしみしと軋むような音。それはどんどんと大きくなって突き上げるように寝台を揺らす。寝台の周りに備えつけられていた蝋燭や水差しが次々にその音にしたがい、振り落とされるかのように落ちていく。
「な、なんだ…!? 地震…!?」
乱暴に扉をたたく音が響く。
「…殿下!地震です!かなり大きいものなので、避難を…!」
「殿下!!この塔ではもちません!」
「なんだと…!?」
熱い、熱い、力の流れを感じる…。
吐き出す息すらこの喉を灼くように熱い。身体の奥底から、自分では到底抑えることのできない衝動が駆け上がってくる。
魔力の奔流、熱い、熱い…抑えきれない…!
私はその衝動に耐え切れず背を反らし、獣のように声をあげた。
「あ、ああああああ―――…!」
ドドドドド…
塔が一気に傾くような地響きを伴って、突き上げるような激しい震動と共に揺れは最高潮に達した。
「な、なんだ、どんどん揺れが強く…!?」
凄まじい揺れに、膝立ちに起き上がったアルレーヌも再び私に覆いかぶさるように、四つん這いになって身体を支える。立ち上がることが出来ない程の激しい揺れが続く。
ガシャーンッ
荒波に揉まれ引きちぎられんばかりに大きく揺さぶられていたシャンデリアが、寝台の足元に大きな音を立てて落ちた。それと共に絨毯を焦がす臭いが漂う。
「く・くそ…っ!」
「殿下!早くここを開けてください!お逃げになって下さい!!」
「くそっ…!お前も来い!!」
まだ馬乗りになったままアルレーヌは私を連れ出そうと腕をとった。瞬間、私の身体を拘束する鎖が引っかかり、私の身体は寝台に落ちる。アルレーヌは舌打ちをすると、ぐったりと身動きも出来ない私を後目に、寝台の横に立ててあった剣で、私を拘束する鎖を断ち斬った。
その時、一際大きな崩落の音が耳を貫いた。
ズ、ドン…!
「な…!!なんだ!?」
溶けだした蝋燭の蝋が、その重さに堪えきれず首元から垂れ落ちるかのように、部屋の向こう側、塔の半分ほどが崩れ落ちていった。――扉の向こうでアルレーヌの名を呼んでいた者達の叫び声を道連れに。
砂埃と共に、ガラガラと寝台の上にも塔を成していた物が降り落ちてきて、目を伏せた。
ここは塔の最上階だったらしい。開けた視界の先に目を向けると、空には大きな満月が浮かんでいる。
「――!?」
周囲の破片や埃をはらいのけると、私を強引に起き上がらせたアルレーヌが違和感に目を見開いた。大きな音をたて傾き続けるこの塔をよそに、外に見える王城は一糸乱れることもなく静寂を保っているのだ。
「え…なんだ…?まさかこの揺れは、地震ではない…?月の乙女の力…!?」
アルレーヌの顔から一気に血の気が引く。
「まさか…!月の乙女は魔力を増幅させる力しか持ち合わせてないはずだろう…!?」
ぐったりと力のない私の身体を、乱暴にガクガクと壊れた人形に癇癪を起こす子供のように揺さぶる。
私には何も分からない。ただ分かることは身体が熱く、呼吸が苦しいことだけ。
「―――い、や!貴方じゃ、ない」
熱い喘ぐような息を吐きだし、その言葉だけはハッキリと発した。たとえ、たとえ魔力を与えるとしても、それが、貴方なんかのはずがない。
ありったけの力をこめて、アルレーヌを睨みつけた。
「―――セレーネ!!」
突如、声が響いた。
見上げると、ぽっかりと浮かんだ月を背に黒い竜に乗った人影――。長い三つ編みの赤い髪をたなびかせ、暗闇でも見えるその黄金の瞳。
「…ラ、イ…!!」
「な…お前…!?」
「――離れろ、それは俺のものだ」
低い声が響いた瞬間、一瞬の衝撃を感じたかと思うと私の上にいたアルレーヌが吹き飛んだ。
「え……?」
何が起こったのか分からず、目線を上げると、寝台の脇にライが着地する音がした。
ライは竜から飛び降りると同時に、アルレーヌを蹴りつけたのだ。
ゴォオオオオオ…
「!!」
そこで塔の間近でその大きな翼で風を切る音をたてていた竜が、激しい轟音とも言える咆哮をあげたかと思うと、その身を炎に包まれた。
竜が地上に吸い寄せられるように、落下していこうとした時、一瞬遅れて、音も立てず一つの黒い影が部屋に降り立った。
「やぁ、セラ。僕もいるよ」
「…オーランド…?」
以前ライが纏っていたような、顔まで覆った黒いローブに身を包んでいたのは、オーランドだった。
オーランドは揺れの収まらない中にも関わらず、すっと私のいる寝台に走り寄ると、その白い指先で首元に触れた。
その瞬間、鋭い熱さを感じて「ごほっ」と咽る。私の首に巻かれていた何かが、音を立てて外された。――すぅっと呼吸が通るのを感じる。
「僕には、傷は治せない、けどね」
くいっと口元の覆いをずらしてそう言うと、間近に迫る黒い瞳が細まりオーランドはにっこりと笑った。まだ眩暈の収まらない私の頬をするりと撫でる。
「ライ、僕は、外にいるのを片付けてくる。キースとの約束、忘れないで。ソレは殺さないで、ね」
家鳴りのような音がしたかと思うと、ゆらゆらとシャンデリアに灯された炎が揺れはじめた。その炎が落とす影は、徐々にそのふり幅を増す。
「…ん?」
アルレーヌが顔を上げた。
ド…ドド、、ド、ド、、、
遠くから地鳴りのような音がする。深いところから響くような、みしみしと軋むような音。それはどんどんと大きくなって突き上げるように寝台を揺らす。寝台の周りに備えつけられていた蝋燭や水差しが次々にその音にしたがい、振り落とされるかのように落ちていく。
「な、なんだ…!? 地震…!?」
乱暴に扉をたたく音が響く。
「…殿下!地震です!かなり大きいものなので、避難を…!」
「殿下!!この塔ではもちません!」
「なんだと…!?」
熱い、熱い、力の流れを感じる…。
吐き出す息すらこの喉を灼くように熱い。身体の奥底から、自分では到底抑えることのできない衝動が駆け上がってくる。
魔力の奔流、熱い、熱い…抑えきれない…!
私はその衝動に耐え切れず背を反らし、獣のように声をあげた。
「あ、ああああああ―――…!」
ドドドドド…
塔が一気に傾くような地響きを伴って、突き上げるような激しい震動と共に揺れは最高潮に達した。
「な、なんだ、どんどん揺れが強く…!?」
凄まじい揺れに、膝立ちに起き上がったアルレーヌも再び私に覆いかぶさるように、四つん這いになって身体を支える。立ち上がることが出来ない程の激しい揺れが続く。
ガシャーンッ
荒波に揉まれ引きちぎられんばかりに大きく揺さぶられていたシャンデリアが、寝台の足元に大きな音を立てて落ちた。それと共に絨毯を焦がす臭いが漂う。
「く・くそ…っ!」
「殿下!早くここを開けてください!お逃げになって下さい!!」
「くそっ…!お前も来い!!」
まだ馬乗りになったままアルレーヌは私を連れ出そうと腕をとった。瞬間、私の身体を拘束する鎖が引っかかり、私の身体は寝台に落ちる。アルレーヌは舌打ちをすると、ぐったりと身動きも出来ない私を後目に、寝台の横に立ててあった剣で、私を拘束する鎖を断ち斬った。
その時、一際大きな崩落の音が耳を貫いた。
ズ、ドン…!
「な…!!なんだ!?」
溶けだした蝋燭の蝋が、その重さに堪えきれず首元から垂れ落ちるかのように、部屋の向こう側、塔の半分ほどが崩れ落ちていった。――扉の向こうでアルレーヌの名を呼んでいた者達の叫び声を道連れに。
砂埃と共に、ガラガラと寝台の上にも塔を成していた物が降り落ちてきて、目を伏せた。
ここは塔の最上階だったらしい。開けた視界の先に目を向けると、空には大きな満月が浮かんでいる。
「――!?」
周囲の破片や埃をはらいのけると、私を強引に起き上がらせたアルレーヌが違和感に目を見開いた。大きな音をたて傾き続けるこの塔をよそに、外に見える王城は一糸乱れることもなく静寂を保っているのだ。
「え…なんだ…?まさかこの揺れは、地震ではない…?月の乙女の力…!?」
アルレーヌの顔から一気に血の気が引く。
「まさか…!月の乙女は魔力を増幅させる力しか持ち合わせてないはずだろう…!?」
ぐったりと力のない私の身体を、乱暴にガクガクと壊れた人形に癇癪を起こす子供のように揺さぶる。
私には何も分からない。ただ分かることは身体が熱く、呼吸が苦しいことだけ。
「―――い、や!貴方じゃ、ない」
熱い喘ぐような息を吐きだし、その言葉だけはハッキリと発した。たとえ、たとえ魔力を与えるとしても、それが、貴方なんかのはずがない。
ありったけの力をこめて、アルレーヌを睨みつけた。
「―――セレーネ!!」
突如、声が響いた。
見上げると、ぽっかりと浮かんだ月を背に黒い竜に乗った人影――。長い三つ編みの赤い髪をたなびかせ、暗闇でも見えるその黄金の瞳。
「…ラ、イ…!!」
「な…お前…!?」
「――離れろ、それは俺のものだ」
低い声が響いた瞬間、一瞬の衝撃を感じたかと思うと私の上にいたアルレーヌが吹き飛んだ。
「え……?」
何が起こったのか分からず、目線を上げると、寝台の脇にライが着地する音がした。
ライは竜から飛び降りると同時に、アルレーヌを蹴りつけたのだ。
ゴォオオオオオ…
「!!」
そこで塔の間近でその大きな翼で風を切る音をたてていた竜が、激しい轟音とも言える咆哮をあげたかと思うと、その身を炎に包まれた。
竜が地上に吸い寄せられるように、落下していこうとした時、一瞬遅れて、音も立てず一つの黒い影が部屋に降り立った。
「やぁ、セラ。僕もいるよ」
「…オーランド…?」
以前ライが纏っていたような、顔まで覆った黒いローブに身を包んでいたのは、オーランドだった。
オーランドは揺れの収まらない中にも関わらず、すっと私のいる寝台に走り寄ると、その白い指先で首元に触れた。
その瞬間、鋭い熱さを感じて「ごほっ」と咽る。私の首に巻かれていた何かが、音を立てて外された。――すぅっと呼吸が通るのを感じる。
「僕には、傷は治せない、けどね」
くいっと口元の覆いをずらしてそう言うと、間近に迫る黒い瞳が細まりオーランドはにっこりと笑った。まだ眩暈の収まらない私の頬をするりと撫でる。
「ライ、僕は、外にいるのを片付けてくる。キースとの約束、忘れないで。ソレは殺さないで、ね」
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