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第一章 刑事、獣の主人(あるじ)となる
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「何をでしょう?」
「とぼけるな、銃だよ。あれは子どもの玩具じゃない。
……さすがに報告は勘弁してやる。処分は俺がなんとかするから……」
「おや、いけませんねえ那臣さん。昨夜の超カッコいい啖呵と矛盾してますよ?
たとえ大事な大事な可愛いみはやちゃんでも、罪状は立派な銃刀法違反です。心を鬼にして交番へ突き出し号泣、もうしませんからと一緒に土下座する。それが父親の役目じゃありませんか」
「……だから誰が父親だ」
痛いところを突かれて、那臣は顔をしかめた。
まさしくみはやの言うとおりだ。たとえ暴漢から那臣を守ってくれたのだとしても、銃を隠し持っていてよいことには決してなりはしまい。
葛藤し唸る那臣に、みはやがあどけない笑顔を向けた。
「冗談です。大丈夫ですよ、わたし、銃なんて持ってないし、握ったこともありませんから」
「……おい」
「『守護獣』は主人の望みどおり動くもの。なので那臣さんが『銃・ダメ・絶対』とおっしゃるなら、そのとおりにします。
ただですね、那臣さんの身の安全は譲れないところだったりしますので、夕べみたいなおじさんたちが遊びにきた際には、他のなにかが視界に入るかもです。予告」
「なにかって何なんだよ」
「美少女忍者は道具を選びませんので。ちなみに最近のお気に入りはクマさんのランチセット、です」
要するに銃ひとつ取り上げても、いくらでも銃以外の他の武器の調達が可能だということか。
なにやらうまくはぐらかされた気がするが。
「…………なら、なるべく襲われないよう努力するよ……で、だな」
これがどれほどの制約になるかは判らないが、言っておかねばならないと思った。
「殺しはするな。極悪非道な奴らでも、人間だ」
みはやがくすりと笑う。きっちりと合わせてきた目線が、意図は判っているぞと応えていた。
「承知しております。以後昨日のような事態になっても、原則無傷、最悪でも半殺しで止めるべく努力します。
きっちり治してしっかり送検、がっつり受刑。このライン希望でよろしいですね?」
「基本そうなんだが、どうにかならないのかその略……っつか、手加減することでお前の方が危険になるなら、その……。
……いや、そもそもいくら強いとはいえお前は子どもなんだ。守ってやるなら俺の方だろう」
いつの間にか、みはやが『守護獣』という超人的な能力を持つことを前提に物事を語ってしまっている。いや、みはやはまだ十四歳の少女なのだと思い返しては、そのジレンマで身悶えする那臣を見て、みはやはまた笑った。
「那臣さん、やっぱり優しいですね、『守護獣』なのに守られ女子気分に浸っちゃいそうです。
でも全く!その心配はありませんから。完全究極美少女みはやちゃんはほぼ無敵。ゲームキャラだったら、そのゲームは間違いなく、ビジュアルのみを楽しむ攻略不能のクソゲーです」
「いちおう女子ならクソとか言うな……」
まあいいか、と、納得半分諦め半分で、那臣は冷めかけたお茶を音を立てて啜った。
とん、とテーブルに置かれた空の湯飲みに、みはやが間髪おかず、お替わりを注いでくれる。
僅か数日で那臣の部屋に馴染んでしまった少女を、また那臣も自然に受け入れている。
そんな自分に呆れてはみたものの、みはやと過ごす時間はなぜだかとても心地よい、まるで、ぬるま湯にまどろむような感じを覚えるのだ。
(なんだかんだで似たもの同士、なんだろうか)
自分と同じもので出来た、自分ではない他人。
みはやがいつか覚えた感じを、知らずまた那臣もなぞっていた。
「さて那臣さん、本日からめでたく再びの本格出勤、ですね。二階級特進後のお仕事、頑張ってきてください」
「……どんだけ針のむしろだか……まあ適当に流してくるさ」
キッチンの椅子から立ち上がりドアに手を遣る。背中にみはやの楽しげな声が掛かった。
「頼もしいです! イジメられて帰ってきたら、またあの鉄板の台詞でお出迎えして差し上げますから。
那臣さん、お風呂にしますか? お食事にしますか? それともわ・た・し?」
「……………………飯。一択だ」
「あっさりすぎます那臣さん、ではせめてお出かけ前のお着替えのお手伝いを」
駆け寄ってきて、また腕にぶら下がりじゃれつく。無邪気な笑顔の横で、今日もぴょこぴょことツインテールが揺れている。
軽やかに野を駆け、跳ね回り、時にその脚は獰猛な敵を翻弄し、痛烈な一撃を喰らわす。
(兎、みたいだな)
「いらん!」
かくして愛らしく物騒な獣と、那臣の同居生活は始まった。
「とぼけるな、銃だよ。あれは子どもの玩具じゃない。
……さすがに報告は勘弁してやる。処分は俺がなんとかするから……」
「おや、いけませんねえ那臣さん。昨夜の超カッコいい啖呵と矛盾してますよ?
たとえ大事な大事な可愛いみはやちゃんでも、罪状は立派な銃刀法違反です。心を鬼にして交番へ突き出し号泣、もうしませんからと一緒に土下座する。それが父親の役目じゃありませんか」
「……だから誰が父親だ」
痛いところを突かれて、那臣は顔をしかめた。
まさしくみはやの言うとおりだ。たとえ暴漢から那臣を守ってくれたのだとしても、銃を隠し持っていてよいことには決してなりはしまい。
葛藤し唸る那臣に、みはやがあどけない笑顔を向けた。
「冗談です。大丈夫ですよ、わたし、銃なんて持ってないし、握ったこともありませんから」
「……おい」
「『守護獣』は主人の望みどおり動くもの。なので那臣さんが『銃・ダメ・絶対』とおっしゃるなら、そのとおりにします。
ただですね、那臣さんの身の安全は譲れないところだったりしますので、夕べみたいなおじさんたちが遊びにきた際には、他のなにかが視界に入るかもです。予告」
「なにかって何なんだよ」
「美少女忍者は道具を選びませんので。ちなみに最近のお気に入りはクマさんのランチセット、です」
要するに銃ひとつ取り上げても、いくらでも銃以外の他の武器の調達が可能だということか。
なにやらうまくはぐらかされた気がするが。
「…………なら、なるべく襲われないよう努力するよ……で、だな」
これがどれほどの制約になるかは判らないが、言っておかねばならないと思った。
「殺しはするな。極悪非道な奴らでも、人間だ」
みはやがくすりと笑う。きっちりと合わせてきた目線が、意図は判っているぞと応えていた。
「承知しております。以後昨日のような事態になっても、原則無傷、最悪でも半殺しで止めるべく努力します。
きっちり治してしっかり送検、がっつり受刑。このライン希望でよろしいですね?」
「基本そうなんだが、どうにかならないのかその略……っつか、手加減することでお前の方が危険になるなら、その……。
……いや、そもそもいくら強いとはいえお前は子どもなんだ。守ってやるなら俺の方だろう」
いつの間にか、みはやが『守護獣』という超人的な能力を持つことを前提に物事を語ってしまっている。いや、みはやはまだ十四歳の少女なのだと思い返しては、そのジレンマで身悶えする那臣を見て、みはやはまた笑った。
「那臣さん、やっぱり優しいですね、『守護獣』なのに守られ女子気分に浸っちゃいそうです。
でも全く!その心配はありませんから。完全究極美少女みはやちゃんはほぼ無敵。ゲームキャラだったら、そのゲームは間違いなく、ビジュアルのみを楽しむ攻略不能のクソゲーです」
「いちおう女子ならクソとか言うな……」
まあいいか、と、納得半分諦め半分で、那臣は冷めかけたお茶を音を立てて啜った。
とん、とテーブルに置かれた空の湯飲みに、みはやが間髪おかず、お替わりを注いでくれる。
僅か数日で那臣の部屋に馴染んでしまった少女を、また那臣も自然に受け入れている。
そんな自分に呆れてはみたものの、みはやと過ごす時間はなぜだかとても心地よい、まるで、ぬるま湯にまどろむような感じを覚えるのだ。
(なんだかんだで似たもの同士、なんだろうか)
自分と同じもので出来た、自分ではない他人。
みはやがいつか覚えた感じを、知らずまた那臣もなぞっていた。
「さて那臣さん、本日からめでたく再びの本格出勤、ですね。二階級特進後のお仕事、頑張ってきてください」
「……どんだけ針のむしろだか……まあ適当に流してくるさ」
キッチンの椅子から立ち上がりドアに手を遣る。背中にみはやの楽しげな声が掛かった。
「頼もしいです! イジメられて帰ってきたら、またあの鉄板の台詞でお出迎えして差し上げますから。
那臣さん、お風呂にしますか? お食事にしますか? それともわ・た・し?」
「……………………飯。一択だ」
「あっさりすぎます那臣さん、ではせめてお出かけ前のお着替えのお手伝いを」
駆け寄ってきて、また腕にぶら下がりじゃれつく。無邪気な笑顔の横で、今日もぴょこぴょことツインテールが揺れている。
軽やかに野を駆け、跳ね回り、時にその脚は獰猛な敵を翻弄し、痛烈な一撃を喰らわす。
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「いらん!」
かくして愛らしく物騒な獣と、那臣の同居生活は始まった。
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