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第一章
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しおりを挟む『 植野君へ。
もう知ってると思うけど、お父さんの仕事の都合で私は皆と同じ中学校へ行けません。
家も引越します。
千葉県って知ってるかな?
この前お父さんとお母さんと一緒に電車で行ったけど、とても遠い所でした。
何回も違う電車に乗りかえしました。
テーマパークの近くだから、これからいっぱい行こうってお父さんは言ってるよ。
私はまだ行った事がないけど、いっぱい乗り物があるんだって。
まほうの国なんだって。
そこに行けば、だれも友達がいない中学校でも大丈夫なように、まほうをかけてくれるんだって。
お母さんもそう言うんだよ。
でも、それが本当だとしても、私は引越したくないです。
植野君、5年生の時、私を助けてくれたのを覚えてますか?
お礼もちゃんと言えないままで、ごめんなさい。
本当にありがとう。
植野君がまほうを見せてくれたこと、うれしかったです。
その日からずっと、私は植野君が好きです。
新しい住所も書いておきます。文通出来たらうれしいです。
千葉県…
近藤夏帆』
今の今まで忘れていた、この手紙。
夏帆の手紙。
私はゆっくりとベッドの横へ置いた。
重い腰を上げて部屋の押入れを開けると、そこには三段のカラーボックスが入っている。
私がこの部屋を使っていた当時からあり、ベッドとこれだけは残しておいてもらった。
寮や一人暮らしする時、保管場所に困るものをここにまとめて置いておいた。
家を出る際にいらない物の大半を処分したが、卒業アルバムは捨てられない。
でも、分厚いアルバムと共に、住居を転々とする考えはなかった。
だから、ずっとここに置いておいた。
“◎◎小学校 卒業アルバム”
お目当てのアルバムを手前に引っ張ると、少しホコリが舞った。
手で擦ってホコリを落とす。
こんな場面を母が見たら怒るだろうが、今はそこまで頭が回らなかった。
何年ぶりにこのアルバムを開くのだろうか。
私はベッドへと戻り、最初の分厚い表紙を捲ってみる。
学校の校歌や先生方が写っているページを飛ばし、記憶の中にあるクラスを探す。
確か、2組だった。
男女別、名前の順に並んだ顔写真。
全員こちらを見て微笑んでいた。
「近藤…近藤…」
私は人差し指で写真とその下にある名前をなぞりながら、手紙に書かれている差出人の名前を探した。
そして、お目当ての文字で動きを止めた。
「あった」
近藤夏帆。
名前の上に載っている写真は、薄っすらと笑顔の女の子がいる。
髪の毛を両サイドで縛り、前髪は目の少し上で綺麗に揃っていた。
肌の色は白く、頬が少しぷっくらしており、それが可愛らしさを増している。
当時も思っていたが、今見ても可愛いと思った。
この写真ではわからないが、小柄で華奢な体つきだった。
“守ってあげたくなる”なんて、女が女に使う言葉ではないが、それでもそう思ってしまう程、夏帆は可愛かった。
同じページに載っている自分とは、比較対象にもならない。
「なんでこんな髪型してたんだろ…」
私は呆れながら、夏帆の傍で笑っている当時の自分へと呟いた。
ショートカットで、少し写っている服も真っ黒。
寝癖もついている姿は、「…男みたい」と思わず言ってしまう風貌だ。
そんな自分への感情を押し込め、周囲のクラスメイトにも目を向ける。
もう一人。
さっきの手紙にあった名前を探す。
「植野…植野…あ、あった」
その写真は、ページの左上の方にあった。
当時の顔を見て、思い出した。
短い髪が無造作に仕上がっている少年は、確か地元のサッカーチームに入っていた。
決して勉強の成績は良い方ではなかったが、スポーツ万能でクラスの中心人物。
男女隔てなく接する気さくな性格で、友達も多かったように思える。
けど、どちらかと言えば恋愛よりも、友達と遊ぶ方が好き。
走り回っている方が…ボールを蹴っている方が似合っている。
そんな子だった。
まぁ、小学生の男の子は大抵そんな気もするが…。
大きな口を全開にして笑っている顔は、本当に日々を楽しんでいるように見える。
何の悩みもなく、その瞬間を全力で楽しむ。
一枚の写真だけで、日々の生活環境がわかるような気がした。
まだ表情に嘘をつける程、大人ではない年齢だ。
その他の子も見れば思い出すが、今まで意識して思い出して来なかった。
地元から離れてしまったせいか、町中で遭遇する事も滅多にない。
いつから日常に追われる生活になったんだろう。
過去を振り返る時間をとった日が少しくらいあっても、良かった気がした。
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