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第二章
2 【5】
しおりを挟む「どこ入る?」
佐伯君は周囲を見ながら聞いて来た。
私も同じように周囲を見渡す。
今日の朝、お母さんからここまでの電車代の他に、多めにお金を貰ってきていたので、入るお店は何処でも良かった。
と言っても、高校生の私にはファーストフードかファミリーレストランくらいしか思い付かない。
「マックにしない?」
大通りの向かい側を指して、私は言った。
全国チェーンのマクドナルドは、慣れない地域でも安心する気がする。
大体頼むものは決まっているし、何より安い。
「うん」
佐伯君は相槌を打ち、角のマックへ移動する。
家の近くのマックは広めの平屋作りで駐車場も多く、お客の半数はドライブスルーを活用するが、都内は1階で注文をし、2階や3階が食べられるスペースになっている店舗が多い。
もちろんドライブスルーなんて見当たらないが、運転免許を持っていない自分としては、得に不便さは感じなかった。
佐伯君の後ろでレジを待っていると、佐伯君は自分の分を頼んだ後「一緒に頼んじゃおう」と私へ言った。
「俺が出すよ」
「ううん。自分の分は払うから」
「大丈夫」
レジの前で言い合うのも恥ずかしい気がして、私は「じゃあ…」と一歩前に出てメニューを覗き込む。
私達より年上のお姉さんが「いらっしゃいませ」と笑顔をくれた。
注文をしてすぐ2人分のセットがトレーの上に乗せられ、佐伯君が受け取った。
「大丈夫?」
2つのトレーに分けてくれても良かった気がしたが、「大丈夫」と佐伯君は言った。
2階に上がる前、やはり私は「鞄持つよ」と声を掛けた。
「ありがとう」
佐伯君は肩に掛けていた鞄を腕にズラし、私はトレーを支えながら受け取った。
階段を佐伯君の後ろから登り、2階の店内を見渡すと半分くらい席が埋まっていた。
その人達はほぼ先ほどの試験終わりの学生に見えた。
今更、参考書を広げている人もいた。
「何処がいい?」
佐伯君はそう聞くも、「窓際がいいかな」と自分の意見も述べた。
「うん。いいよ」
向かい合わせのテーブルにお互い腰を下ろす。
丁度、周辺に人はいない。
佐伯君はトレーの上から、自分のハンバーガーとポテトと飲み物を取り、トレーごと私の方へテーブル伝いに移動させる。
「鞄、ありがとう」
佐伯君は両手が空いた所で言い、私は鞄を渡した。
「試験お疲れ様」
「うん。お疲れ様」
私達は紙コップ同士を合わせた。
もちろんグラスのように華やかな音などせず、中身の氷が移動した音が小さく鳴っただけだ。
それでも大人びた行動に嬉しさもあった。
「頂きます」
佐伯君は丁寧に両手を合わせる。
私も「頂きます」と真似したが、佐伯君に向けても「頂きます」と言った。
「どうぞ」
それに気が付いた佐伯君は、なんだか照れくさそうに笑った。
そして左手で拳を握り、口元に持っていってから咳払いをした。
その拳を膝上に乗せた後、「近藤さん」と呼ばれた。
「はい?」
佐伯君の口調が急に変わったので、私は瞬時に身構えた。
が、佐伯君の声は「大学、一緒に合格してるといいね」と続いた。
「あ…うん。そうだね」
私は飲み物のストローに口をつける。
「それでさ…こうやって毎日一緒にいれたらいいね」
私が目を向けると、「いいね…って言うか…いいなかな」と佐伯君は苦笑いする。
私はドキンと奏でられた自分の心臓が、急に重く感じた。
何も答えられず、心音だけが鳴り続ける。
「知ってると思うけど…ずっと君が好きです」
佐伯君からの3度目の告白は、耳で受け取った。
1度目も2度目も手紙の文字だったから。
同じ言葉なのに、直接言われるのはこうも違うのかと思った。
「ありがとう」
私も気持ちを伝えようとしたが、周囲に人がいたことを思いだした。
だから直接的な言葉を避けようと思った。
でも、伝わるように「私も…同じ気持ちです」と返した。
食事なんて喉を通りそうもない。
佐伯君と初めて2人で食べた食事は、いつの間にか冷え切ったハンバーガーとポテト、それに氷が解けた飲み物だった。
それでも美味しく感じた。
ずっと想ってくれてる事が、本当に幸せに思えた。
私もずっと想っていたから。
想いの長さは佐伯君の方が長いかも知れないが、想いの重さは私の方が大きいだろうと思った。
でもそれを伝えるのは止めた。
口に出してしまうと、また会えない日々が余計に寂しく感じてしまいそうな気がした。
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