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最終章
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しおりを挟む【最終章】
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“夏帆の住所は宛先不明ではない”
そう誠也に教えてもらってから、前にも増して日中にくる郵便配達のバイク音が気になり出した。
期待と緊張と…よくわからない感情が続いて、もう心も体も疲れていた。
そんな矢先。
いつものようにバイクの音が去ってから、ポストを覗くとダイレクトメールに挟まれた便箋があった。
表にはここの住所と【森宮優香様】の名前。
そして裏返すと、住所とその横に“夏帆”と書いてあった。
自分の心臓が耳の横に移動したようだ。
大きく奏でる心音は、近隣住民にも聞こえているんじゃないかと思った。
ダイレクトメール達は玄関の靴箱の上に置いた。
お目当ての手紙だけを持ち、部屋へ入った。
夏帆らしい花柄の封筒だった。
綺麗な封筒だった。
はやる気持ちを最大限に押さえ込みながら、私は極力破かないよう封を開けた。
落ち着いていればハサミで丁寧に開封出来ただろうが、そんな余裕はない。
私は中から出てきた紙を広げ、書かれている文字を目で追った。
読み進めていく度、自分の眉間が中央に寄っていくのが分かった。
あんなにあった緊張の気持ちが、嘘のようにスッと消えていた。
“私は優香ちゃんを裏切ってしまいました”
人は驚いた時、口が開くと言うがまさにその状態だ。
私は訳がわからず、一語一句を何度も読み直してみた。
それでも“裏切り”の意味へ結びつかない。
意味と言うか、何も書いていない白紙の手紙を貰ったのと同じくらい意図も分からない。
誰かと勘違いしてるんじゃ…と思う程だった。
「良かったじゃん!」
帰宅した誠也に返信があった事を伝えると、誠也は満面の笑みで喜んだ。
しかし私の方は、最初に夏帆からの手紙を読んだ時からずっと、眉間にシワが寄りっぱなしだ。
「近藤さん何だって?手紙渡し忘れた事、気にしてないって?」
私が夏帆に書いた手紙の内容を誠也は知らない。
私は「その事は手紙に書かなかったの」と言ったが、「ん?どーゆー事?」とすぐに返された。
「“約束破った事直接謝りたい”って書いただけ」
「…何か回りくどい事を…」
気付くと誠也の眉間にもシワが出来ていた。
「…まぁいーや。それで?近藤さん会ってくれるって?」
「うん…たぶん…」
煮え切らない返事に、誠也は口元をへの字に曲げた。
私は無言で夏帆からの手紙を差し出す。
本当に一語一句確認した。
それを何度もした。
「見ていーの?」
私が頷くと、誠也は封筒から便箋を取り出した。
目の前にいる誠也の目線が、左から右へと行き来する。
私は良き所で「夏帆の方が…私に謝りたいって」と内容の一部を口に出した。
「え…君達はどーゆー感じなの?」
誠也の感想は、その通りだと思う。
「近藤さんに何かされたの?」
「ううん…考えてたんだけど、何も思い当たらないの」
「うーん…」
誠也は唸り声を上げながら、「近藤さんの方も、優香の言ってる手紙の約束の事“覚えてない”って書いてるね」と続ける。
先日のように探偵気取りの推理を始めそうだったが、夏帆からの手紙に関してはぜひとも解決までいってほしい。
「一旦落ち着こう、落ち着いて一個ずつ整理しよう」
誠也は一呼吸吐き、手紙をテーブルに置いた。
「この文章でわかる事は…近藤さんは今元気で、優香からの手紙に驚いた…と」
人差し指で書いてある字をなぞりながら、誠也は呟く。
その後、「へー…」と言った。
「優香の言ってたとおり、最初から電話とかって勇気いるもんなんだな」
誠也は頷きながら、「それと都内に住んでるんだ」と続けた。
「うん。結構近いよね」
私が便箋の裏面を掲げると、「本当だ」と誠也は書かれている住所を見て言う。
「最寄駅から電車1本で行けるんじゃない?」
「うん」
誠也は再び便箋に視線を戻した。
「“優香ちゃんに謝らないといけない事があります。私は優香ちゃんを裏切ってしまいました。ごめんなさい。きっと何の事かわからないと思います。ごめんなさい。本当にごめんなさい…”」
誠也は声に出して読み上げ、「…すっげー謝ってる」と苦笑いした。
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