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最終章
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しおりを挟む「“出来れば直接謝りたいです”…か」
手にしていた便箋を下げ、誠也は言った。
「優香も直接謝りたいんでしょ?」
私は頷く。
「じゃあ会って来なよ」
誠也はニコリと微笑み、「それで解決出来るじゃん」と続けた。
「近藤さんの電話番号も載ってるし、掛けてみれば?」
「うん…そうだね」
このままじゃ、私も夏帆もよくわからない状態だ。
誠也に言われる前に、そうしようとは思っていた。
一度手紙のやり取りをしているから、電話をしても“誰?”とはならない。
そこは結構重要だ。
部屋の時計を見てみると、針は9時前を指している。
「今掛けても平気だと思う?」
私は時計を指し、「遅いかな?」と誠也に向けて尋ねる。
「携帯に掛けるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ大丈夫じゃない?家の電話とかだと家族に迷惑掛けちゃうけど…」
誠也はそこまで言って、「ん?近藤さんって1人暮らしかな?」と続けた。
「さぁ…」
「ま、電話しても大丈夫だと思うよ」
誠也の後押しを貰い、私は意を決した。
スマホの画面を起動し、夏帆からの便箋に書かれている番号を1つずつ確認しながらダイアルを押す。
11桁入力した時、「俺いない方がいい?」と誠也の声が飛んできた。
私は画面から誠也の方を向く。
「風呂にでも入ってこようか?それか…」
「ううん。大丈夫」
私はすかさず、「でも黙っててね」と繋げた。
誠也は頷いてテレビの前へと移動する。
誠也が点けたテレビでは、アイドルが歌を歌っていた。
誠也はリモコンで音量を下げ、「どうぞ」と背を向けてソファーへ座った。
通話開始ボタンを押し、1度目のコールが鳴った。
4度目のコールでプツッと音がした。
『はい』
若い女性の声だった。
「あ、もしもし…近藤夏帆さんですか?」
夏帆の声がわからない。
声が思い出せない。
数字の押し間違えはないと思ったが、私は一応確認してみる。
『あ…はい、そうです』
電話越しに聞こえてくる夏帆の声は、『もしかして…』と繋がれた。
『優香…ちゃん?』
向こうは声でわかったのだろうか。
それとも私からの電話を待っていたのだろうか。
私は自分の名前が出たことに少し安心した。
「そうです。小学校の時、同じクラスだった森宮優香です」
『あ、はい。わかります。こんばんは』
「こんばんは…お久しぶりです」
『お久しぶりです』
お互い敬語で話す距離感で、私は時間の重さを本当に感じた。
しかし、声だけのやりとりなので、浮かぶのは当時の夏帆の姿だった。
小学生相手に敬語で話している感じがして、少し変にも思った。
ランドセルを背負っているイメージだから。
「突然電話してごめんなさい」
『いえ、掛かってくると思ってましたから』
夏帆の言葉で、私は緊張が和らいだ。
「今、電話大丈夫ですか?」などと気の利いた事も言えた。
『はい。大丈夫ですよ』
私は一旦落ち着いたところで、「手紙の事なんですけど…」と話題を切り出した。
「私、夏帆…ちゃんに謝らないといけない事があるんです」
当時は夏帆を呼び捨てに呼んでいて、誠也と話すときも夏帆と呼んでいたが、本人を前にすると出来なかった。
不自然になっていたが、“ちゃん”をつけた。
しばらく間があいた。
夏帆からの返事を待つ。
私は無意識に身構えた。
『私も手紙に書きましたけど…』
夏帆はポツリと『謝るのは私の方なんです』と返事をした。
「あ、その事なんですけど…」
私は強めの口調で言った。
「私、夏帆ちゃんから何かされた覚えがないんで…謝る事なんてないと思うんですけど…」
『それは私もです』
「いや、私の方はあるんです」
私がもっと強めに告げるも、夏帆からも『私の方がです』と強めの口調がきた。
「んー…」
平行線の会話をどう収集着けようか…。
私がそう思った時、電話の向こうで小さい笑い声がした。
押し切ろうとした気持ちを切り替え、私も自然と表情が緩んだ。
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