Promise〜あなたへ

コウ

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最終章

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約束の金曜日までが早く感じた。

時計が進むのはいつもと変わらないはずなのに、気付くともう当日になっている。


しかし、いざ当日になると約束の時間までが長く感じる。


夏帆の住んでいる場所まで、電車で30分も掛からないだろう。



ネットで自宅を調べてみると、どうやら夏帆の住んでいる場所は駅前みたいだ。

ここから最寄駅までは徒歩で15分程度。

つまり、ここから夏帆の家まで、全部で約1時間くらいの計算だ。


12時に待ち合わせしたので、11時に出れば間に合う。


仕事に行く誠也を送り出すのが7時半。


それから、朝食の片づけをして洗濯機を回し、部屋の掃除機をかける。

一通り掃除したが、まだ洗濯機が活動しているので少し時間が空いた。

テレビを点け、今日の天気を調べる。





「今日は全国的に晴れ間が広がるでしょう」

女性のキャスターがそのままニュースを読み始める。

3つ目のニュースを読み終わった時、洗濯機から終わりを告げる音が響いた。



私はテレビを消し、脱衣所へ向かう。

置いてあるカゴに洗い終わった衣類を移動し、それを持ってベランダに出た。




誠也と住み始めた時、衣類の洗濯の仕方や干し方で、何かこだわりがあるのか聞いてみたが、特にないという。

その言葉通り、今まで一度も文句を言われた事がない。

私自身も特にこだわりがないので、実家の母がやっていたようにやっている。



一通り洗濯物を干し終わり、入った部屋ですぐに時計を見た。

まだ9時前だ。


私はソファーへと座って一息吐いた。

その時、着信を音が室内に響いた。

私はドキッとした。

スマホに手を伸ばしかけた所で音は止み、急いで画面を表示すると、“誠也”の文字。



夏帆からキャンセルの電話かと思ったので、誠也の文字で一安心した。

でもこの時間に誠也から電話が来る事は珍しいので、完全な安心となった訳じゃない。

すぐに誠也へ電話を掛けてみる。

すると『ごめん、間違って電話しちゃった』と腑抜ける返事が返ってきた。


「…なんだ」

とも思ったし口にも出したが、それならそれで問題はない。


『ごめんって』

「うん」

『じゃ近藤さんによろしく』


誠也の声はそれでプツッと切れた。


私はふと気が付いた。

家にお邪魔するなら、何か手土産を持っていかないと…。

買い物をする時間を考え、少し早めに家を出ようと思った。





外出着に着替え、それに似合う鞄を選ぶ。



「これにしようかな…」

手に取った鞄を持ち、中を開く。

見えたのはクリアファイル。


「あぁ…」

私はファイルを取り出し、中の紙を眺めた。

婚姻届を書いたのは随分前の事に思える。


ファイルを鞄に戻し、テーブルに置いてある手紙を取った。

少し変色している花柄の便箋。

私はそれも鞄に入れた。

まだまだ早い気もしたが、じっとしていられず私は家を出た。




通勤で電車を使っていたが、通勤時間以外は滅多に乗らなかった。


こんなにも違うものなのか…。

席もちらほら空いている。

私はドアの前に立ち、流れる景色を眺めていた。


地元の電車に比べ、東京は各駅の間隔が短い。

駅を出てすぐに次の駅の知らせがあり、ほとんど間も空かないでまた次の駅になる。

地方出の私からすれば、東京は慌しかった。

電車も人の歩くスピードも。

最近じゃ随分それに慣れてきたが、やはり心地良いとは感じなかった。

たぶん、いつになってもそれは感じないと思う。





お目当ての駅は、私が立っていた側のドアが開いた。

私は足早に電車を降りる。

改札を出て、すぐ目の前にある駅の中のビルへ入った。

お土産売り場コーナーはすぐに見つけた。

しかし、お土産というよりは、手土産の方がいいだろう。

ましてや、この駅が最寄のお宅に、わざわざ東京土産と書かれた物を渡す意味はない。

私は何も思いつかずに、店内をウロウロしていた。

時間は早めに出てきたが、それでもそろそろ決めないと間に合わなくなる。


そう思っていた矢先、「いらっしゃいませ」とショーケースの向こう側にいた店員さんから声が飛んできた。

顔を向けると、そのショーケースには芸術品のように綺麗なケーキ達が並んでいた。

洋菓子なら手土産として無難かも知れない。




私は全ての商品をざっと見た後、「オススメは何ですか?」と尋ねた。

いつからか、買い物時に悩む場合、とりあえずそう聞く事にしている。



「こちらのロールケーキが、当店の一番人気です」

店員さんが指す方へ、目を向ける。

真ん中にあるクリーム部分に果物が沢山見えた。


「じゃあそれください」

「お持ち歩きのお時間はどれくらいですか?」

「えー…」

私は左腕にしてきた腕時計の文字盤を見た。

現在11時30分。


「30分位です」

「では保冷剤お入れしますね」


店員さんは慣れた手つきでケーキを箱に詰めた。



すると横から同じ格好をした店員さんが現れ、店員同士で何か話した後、商品の代金を告げられた。

私は鞄から財布を取り出し、丁度のお金を渡す。

レシートを受け取ってすぐに、ケーキの箱も差し出された。



「ありがとうございました」

2人の揃った声は、爽快感があった。

私は軽く一礼し、その場を去った。



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