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ソラ、さん?
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チンピラたちが凍りついたのがよく分かる。見ては行けないものを見た、というような表情で、チンピラたちは一点を見つめて固まっていた。
「なんでお前……こんなところに……」
「?」
お前、とは誰のことだろう。その『お前』を見て、チンピラたちがフリーズしたのは言うまでもない。
そして、その人物は私の後ろにいるらしい。
このチンピラたちをビビらせる人、か。いったい何者なのだろう。なんとなく想像はつくけれど、私はゆっくりと振り返った。
「……やっぱり……」
そこにいたのは、バイトの先輩だった。無口で無表情で、何を考えているのかさっぱりわからない先輩だった。
「って……なんですか、その荷物の量」
先輩は異常な量の荷物を持っていた。おそらく食品や飲料のたぐいが入っているであろう巨大な袋を3つ持っていた。
……若干汗をかいて息を切らせて、苦しそうな表情をしているあたり、相当重いらしい。
「おう、帰ったか」店の主人が緊張感のない声で、「こっちに持ってきてくれ。にしても、今回は迷わなかったみたいだな」
「迷う?」
私が聞くと、主人は笑いながら、
「ああ……こいつ方向音痴でな。行きつけの店でも、迷うことがあるんだよ」
買い出しを頼むには向いていない先輩のようだった。しかも無口だから接客も向いていないだろう。……だから主に清掃してるのか。
「さて……」とりあえずチンピラたちを掃除して……「あら……?」
振り返ると、チンピラたちはいなかった。少年だけが腰を抜かして床に座っているだけだった。
「おう。あいつらなら、さっき逃げてったぞ」
主人はこともなげに言う。その事柄に対して、別に驚いていないような口調だった。
……ふむ……気にかかる。このバイトの先輩。その正体が気になる。
チンピラたちは、バイトの先輩を見てから逃げ出した。それもそれが当然という速度で逃げ出していた。地面がなくなれば落下するように、それが法則だと言わんばかりの速度だった。
『あいつだけは敵に回さないほうがいい』
主人に言われた言葉が脳裏に蘇る。そして、バイトの先輩と初めてであったときに感じた、あの恐怖。
確認の意味を込めて、呼んでみる。
「ソラ、さん?」
チンピラたちの反応。私が感じた畏怖。それらはこのバイトの先輩がソラさんであるなら説明できる。
直感はこの人がソラさんだと告げている。だが理性は違うと言っている。無口だし無害そうだし、何より弱そうだし。とてもチンピラたちを恐怖させる力があるとは思えない。
だから、別人だと思っていた。本当に確認のためだけにその名前を呼んでみただけだった。
「……?」
その先輩は、首をかしげながら振り返った。私に名前を呼ばれて反応して、私のほうを見たのだった。
ソラさん、と呼ばれて振り返るのは、それはその人がソラさんだからだろう。あるいは、家族か親戚か知り合いか。
この人がソラさんであって欲しくない、という私の失礼な願望を、店の主人が破壊する。
「なんだ知ってたのか? 驚かそうと思って黙ってたんだが……、自己紹介、なんてコイツはしないよな……なんでわかった?」
「それは……」一言で言うならば、「勘、です」
「勘……?」
「旅人の、勘です」
生き残るための本能、と言い換えてもいい。自分より強い人に手を出さない。それは生存するための鉄則なのだ。
まぁ私の場合、その鉄則はまったく守れていないけれど。やはり私は旅人失格だと思う。だが、自分の運の強さには自信があるので、今まで生き残っているわけだ。
しかし、なるほど。この人がソラさんか。ちょっと意外で、少しばかりチープな出会いだったが、とにかく目的の人物に出会うことができた。
やはり、私は運が良い。
「なんでお前……こんなところに……」
「?」
お前、とは誰のことだろう。その『お前』を見て、チンピラたちがフリーズしたのは言うまでもない。
そして、その人物は私の後ろにいるらしい。
このチンピラたちをビビらせる人、か。いったい何者なのだろう。なんとなく想像はつくけれど、私はゆっくりと振り返った。
「……やっぱり……」
そこにいたのは、バイトの先輩だった。無口で無表情で、何を考えているのかさっぱりわからない先輩だった。
「って……なんですか、その荷物の量」
先輩は異常な量の荷物を持っていた。おそらく食品や飲料のたぐいが入っているであろう巨大な袋を3つ持っていた。
……若干汗をかいて息を切らせて、苦しそうな表情をしているあたり、相当重いらしい。
「おう、帰ったか」店の主人が緊張感のない声で、「こっちに持ってきてくれ。にしても、今回は迷わなかったみたいだな」
「迷う?」
私が聞くと、主人は笑いながら、
「ああ……こいつ方向音痴でな。行きつけの店でも、迷うことがあるんだよ」
買い出しを頼むには向いていない先輩のようだった。しかも無口だから接客も向いていないだろう。……だから主に清掃してるのか。
「さて……」とりあえずチンピラたちを掃除して……「あら……?」
振り返ると、チンピラたちはいなかった。少年だけが腰を抜かして床に座っているだけだった。
「おう。あいつらなら、さっき逃げてったぞ」
主人はこともなげに言う。その事柄に対して、別に驚いていないような口調だった。
……ふむ……気にかかる。このバイトの先輩。その正体が気になる。
チンピラたちは、バイトの先輩を見てから逃げ出した。それもそれが当然という速度で逃げ出していた。地面がなくなれば落下するように、それが法則だと言わんばかりの速度だった。
『あいつだけは敵に回さないほうがいい』
主人に言われた言葉が脳裏に蘇る。そして、バイトの先輩と初めてであったときに感じた、あの恐怖。
確認の意味を込めて、呼んでみる。
「ソラ、さん?」
チンピラたちの反応。私が感じた畏怖。それらはこのバイトの先輩がソラさんであるなら説明できる。
直感はこの人がソラさんだと告げている。だが理性は違うと言っている。無口だし無害そうだし、何より弱そうだし。とてもチンピラたちを恐怖させる力があるとは思えない。
だから、別人だと思っていた。本当に確認のためだけにその名前を呼んでみただけだった。
「……?」
その先輩は、首をかしげながら振り返った。私に名前を呼ばれて反応して、私のほうを見たのだった。
ソラさん、と呼ばれて振り返るのは、それはその人がソラさんだからだろう。あるいは、家族か親戚か知り合いか。
この人がソラさんであって欲しくない、という私の失礼な願望を、店の主人が破壊する。
「なんだ知ってたのか? 驚かそうと思って黙ってたんだが……、自己紹介、なんてコイツはしないよな……なんでわかった?」
「それは……」一言で言うならば、「勘、です」
「勘……?」
「旅人の、勘です」
生き残るための本能、と言い換えてもいい。自分より強い人に手を出さない。それは生存するための鉄則なのだ。
まぁ私の場合、その鉄則はまったく守れていないけれど。やはり私は旅人失格だと思う。だが、自分の運の強さには自信があるので、今まで生き残っているわけだ。
しかし、なるほど。この人がソラさんか。ちょっと意外で、少しばかりチープな出会いだったが、とにかく目的の人物に出会うことができた。
やはり、私は運が良い。
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