あいつだけは敵に回さないほうがいい

星上みかん(嬉野K)

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聞かせてくれないか?

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「ソラさん。お強いって聞きましたけど、ちょっと勝負しませんか?」
「……」
「ソラさんソラさん。掃除うまいですよね。いつからここで働いてるんですか? 1年は働いてます?」
「……」
「ソラさん。やたらチンピラたちに怖がられてましたけど、何したんですか?」
「……」
「ソラさん。師匠に興味ありません?」
「……」

 暖簾のれんに腕押しとはこのことか。ここまで手応えのない会話は初めてだ。

 あれから、私はソラさんに絡み続けていた。嫌な顔をされたらやめようと思っていたのだが、どうにもソラさんは常に無表情。ということで、3日は私から一方的に話しかけている。

 話せど話せど、ソラさんの反応はない。喋れないと聞いたので、すべてYESかNOで答えられる質問にしているのだが、彼はこちらに興味を示さない。
 
 むぅ……旅人って伝えたら、結構興味を持ってくれる人が多いんだけどな。どうやらソラさんは旅人には興味がないらしい。

 どうしたら反応してくれるのだろうか。このまま無策で突っ込んでも埒が明かないのは確かだから、ある程度作戦を練り直す必要があるだろう。

「お前さんも懲りないねぇ……」ある日、主人が呆れ気味に言ってきた。「ソラに話しかけたって、反応なんて返ってこねぇよ。もっと他のことやりな。弟子の世話とか」
「弟子ですか」悪魔の血を引いている少年、アルのことである。「割とセンスが良いので、ほぼ免許皆伝ですよ」
「なんだそりゃ。適当だな」
「適当ですよ、私は」

 だから師匠なんて向いてないのだ。

 だが、アルのセンスが良いのは本当だ。潜在能力や素直さ、思考なども悪くない。このまま修行を続ければ、おそらくかなり強くなるだろう。

 たぶん戦闘に関しては、私が教えなくても強くなる。だから、主に教えているのは生きていく術である。
 この草は食べられるとか、火の起こし方とか、方角の確認とか、眠り方とか、そういったことを多く教えている。

 生きている、というのは強い証なのだ。どんな方法であれ、生き残ることには意味がある。
 生きていれば、楽しいことなんていくらでも存在するのだ。当然悲しいことも存在するけれど、悲しいことからは逃げればいい。

 だが、逃げられないときだってあるのだろう。そうなったときの対処法は……私にはわからない。
 私は、逃げられないという状況に陥ったことは、ありがたい事にないのだ。旅人という性質上、嫌なことがあれば、大抵は逃げることで解決できた。

 逃げ、というのは素晴らしい。何も恥ずべき行為ではない。だが、どうしても逃げることを許してくれない集団も存在する。

 生きていくってのは難しいものだ。せめて夜の人間すべてが、逃げることに対して寛容であってくれればいいのだけれど。

「なぁルナ」主人は言う。「旅の話を聞かせてくれないか?」
「……旅の話?」
「ああ。なんでもいい。あんたが旅の中で心に残ったこと、思ったこと、見たもの、なんでもいいんだ。ちょっと聞かせてくれ」
「はぁ……別に構いませんけど」

 話して無くなるようなものじゃない。聞きたいというのならば、お話しよう。

「えーっと……じゃあ、こないだ行った国なんですけど――」
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