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言うと思いましたよ
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「――という感じです」
旅の話を終えて、私は一息つく。ちょっと長話になったので、疲れ気味だった。私は話すのがあまり得意じゃないので、長話は疲れてしまうのだ。
「そんなに面白い話でもないでしょう?」
「いや、そんなことはないさ。楽しませてもらったよ。ありがとう」それから、主人は続ける。「ルナに質問がある」
「なんでしょう」
雇ってもらっている+宿泊もさせてもらっている身だ。大抵のことなら答えよう。
「もしも、もしもの話だぞ? もしもあんたに旅の同行者ができたとする」
「はぁ……ないと思いますけど」
「だから、もしもの話だよ」
もしも……ふむ。もし私に旅の同行者ができたら……
想像できないな。ずっと私は一人旅をしてきたし、これからもする予定だから。
「どうしても同行者を連れる予定はないのか?」
「……どうでしょうね。よっぽど気に入った相手なら、可能性はあるかもしれないです」
その人と旅をして、楽しいと思えるのなら、同行してもらう可能性はある。
「だったら、もしもあんたが気に入った相手がいたとしよう。そいつとあんたは旅をして、道中で危険な目にあったとする」
ほう……私が危険な目に……面白そうだ。
「その時に……あんたは同行者を助けるか?」
「……?」
「もしあんたが犠牲になったら同行者を助けることができるって状況になったら、あんたはどうする?」
ふむ……私の身を犠牲にして、同行者を助けるか否か、という質問か。
ならば、
「愚問ですね」即答できる。「私が自分を犠牲にして、何かをすることはありません。もしも同行者を助けるならば、絶対に自分の安全が確保されてから、です」
私は自分の命が一番大切だ。それ以上に大切なものなど存在しない。誰を犠牲にしてでも、自分の命を守る。
……ああ、いや……一番大切は言いすぎたかもしれない。面白いことをする、面白い人生を送る、あたりと並んで大切なこと、と言い換えておこう。
楽しんで生きる、それが私のモットーだ。生きることも楽しむことも、私にとっては大切なのだ。
だが、同行者を助けないというのは確実だ。自分が大切なのは変わらないから。
「よし」主人は満足げに頷いて、「ルナ、あんたに頼みがある」
「なんですか?」
「ソラを連れてってくれ」
主人の言葉に、私は肩をすくめた。
「言うと思いましたよ」
同行者がなんとかだとか言い出したのは、私と誰かを同行させる予定だったから。私が、その同行者にふさわしいかを試すための質問だったのだろう。
そして、どういうわけか主人のお眼鏡にかなってしまったので、こうして同行者の候補が生まれたわけだ。
「なぁ頼むよ」主人は手を合わせて、「あいつは……こんなとこにいていい奴じゃないんだよ。もっと……広いところに行ってほしい」
「知りませんよ、そんなこと」
確かにソラさんは面白い人だ。積極的に絡みたい人ではある。
だが、別に一緒に旅をしたいという感情は抱いていない。ソラさんでなければならない理由もない。世界には、もっと面白い人だっているだろうから、ソラさんがかまってくれないなら、別の街に行けばいいのだ。
「どうしてもダメか?」
「ダ……」
ダメ、と言いかけて、踏みとどまる。主人の目を見ると、なんだか言葉を飲み込みたくなった。
真剣な目だった。子供の進路を心配する親のような……悲哀と自愛のこもった優しい目だった。それでいて不安も持っているような……
なぜだろう。なぜ主人は、ここまでソラさんのことを心配しているのだろう。
「……ソラさんって……息子さんとかですか?」
「いや、違う。あいつとは血縁関係はない。だが、他人と言うには深く関わり過ぎちまった」
……歴史がある、ということか。主人とソラさんの、私の知らない歴史。
「ちょっと話を聞いてくれ」主人は私の目を真っ直ぐ見つめて、「昔話だ。この話を聞いて、どうするかはルナ次第だよ」
そんなことを言われても……正直私の心は変わらないけれど。
だけど……ちょっと気になるな。主人とソラさんの昔話……それを聞けるのならば、おとなしく話の続きを待つとしよう。
旅の話を終えて、私は一息つく。ちょっと長話になったので、疲れ気味だった。私は話すのがあまり得意じゃないので、長話は疲れてしまうのだ。
「そんなに面白い話でもないでしょう?」
「いや、そんなことはないさ。楽しませてもらったよ。ありがとう」それから、主人は続ける。「ルナに質問がある」
「なんでしょう」
雇ってもらっている+宿泊もさせてもらっている身だ。大抵のことなら答えよう。
「もしも、もしもの話だぞ? もしもあんたに旅の同行者ができたとする」
「はぁ……ないと思いますけど」
「だから、もしもの話だよ」
もしも……ふむ。もし私に旅の同行者ができたら……
想像できないな。ずっと私は一人旅をしてきたし、これからもする予定だから。
「どうしても同行者を連れる予定はないのか?」
「……どうでしょうね。よっぽど気に入った相手なら、可能性はあるかもしれないです」
その人と旅をして、楽しいと思えるのなら、同行してもらう可能性はある。
「だったら、もしもあんたが気に入った相手がいたとしよう。そいつとあんたは旅をして、道中で危険な目にあったとする」
ほう……私が危険な目に……面白そうだ。
「その時に……あんたは同行者を助けるか?」
「……?」
「もしあんたが犠牲になったら同行者を助けることができるって状況になったら、あんたはどうする?」
ふむ……私の身を犠牲にして、同行者を助けるか否か、という質問か。
ならば、
「愚問ですね」即答できる。「私が自分を犠牲にして、何かをすることはありません。もしも同行者を助けるならば、絶対に自分の安全が確保されてから、です」
私は自分の命が一番大切だ。それ以上に大切なものなど存在しない。誰を犠牲にしてでも、自分の命を守る。
……ああ、いや……一番大切は言いすぎたかもしれない。面白いことをする、面白い人生を送る、あたりと並んで大切なこと、と言い換えておこう。
楽しんで生きる、それが私のモットーだ。生きることも楽しむことも、私にとっては大切なのだ。
だが、同行者を助けないというのは確実だ。自分が大切なのは変わらないから。
「よし」主人は満足げに頷いて、「ルナ、あんたに頼みがある」
「なんですか?」
「ソラを連れてってくれ」
主人の言葉に、私は肩をすくめた。
「言うと思いましたよ」
同行者がなんとかだとか言い出したのは、私と誰かを同行させる予定だったから。私が、その同行者にふさわしいかを試すための質問だったのだろう。
そして、どういうわけか主人のお眼鏡にかなってしまったので、こうして同行者の候補が生まれたわけだ。
「なぁ頼むよ」主人は手を合わせて、「あいつは……こんなとこにいていい奴じゃないんだよ。もっと……広いところに行ってほしい」
「知りませんよ、そんなこと」
確かにソラさんは面白い人だ。積極的に絡みたい人ではある。
だが、別に一緒に旅をしたいという感情は抱いていない。ソラさんでなければならない理由もない。世界には、もっと面白い人だっているだろうから、ソラさんがかまってくれないなら、別の街に行けばいいのだ。
「どうしてもダメか?」
「ダ……」
ダメ、と言いかけて、踏みとどまる。主人の目を見ると、なんだか言葉を飲み込みたくなった。
真剣な目だった。子供の進路を心配する親のような……悲哀と自愛のこもった優しい目だった。それでいて不安も持っているような……
なぜだろう。なぜ主人は、ここまでソラさんのことを心配しているのだろう。
「……ソラさんって……息子さんとかですか?」
「いや、違う。あいつとは血縁関係はない。だが、他人と言うには深く関わり過ぎちまった」
……歴史がある、ということか。主人とソラさんの、私の知らない歴史。
「ちょっと話を聞いてくれ」主人は私の目を真っ直ぐ見つめて、「昔話だ。この話を聞いて、どうするかはルナ次第だよ」
そんなことを言われても……正直私の心は変わらないけれど。
だけど……ちょっと気になるな。主人とソラさんの昔話……それを聞けるのならば、おとなしく話の続きを待つとしよう。
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