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私が嘘を言うとでも?
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「あれ……ここは……?」
アルが目を覚まして、寝ぼけ眼で周囲を見回した。
酒場の主人とソラさんはすでに移動していた。おそらく別の場所で話し合っているのだろう。ならば、私がこれ以上口を出すことなんて存在しない。
「目が覚めましたか?」
「……師匠……?」アルは頭痛でもするのか、頭を抑えた。「……あれ……? 僕は……」
「……どこまで覚えていますか?」
「え?」
「最新の記憶はいつですか?」
「えっと……ヴェロスのいる場所に行って……それから……」
どうしたんだっけ?とアルは首をかしげた。
……覚えていない、のか。街を破壊して、悪魔の血を暴走させて暴れまわっていたことを。
いや……むしろ覚えていなくて好都合だったかもしれない。嫌なことなんて忘れられることなら忘れてしまったほうがいい。
しかし……納得できない人もいるだろう。アルの手によって、不幸になった人だっているのだ。
……私は……アルに真実を伝えるべきだろうか。あなたは暴走して街を破壊したのだと、言うべきだろうか。
伝えるべきなのだろう。理解させるべきなのだろう。償わせるべきなのだろう。自分のしでかした行為に、責任を取らせるべきなのだろう。それが師匠の役目であり、一般的な対処だろう。
だが、私は……そんなこと望んでいない。他の人がどう思おうが、私はわたしの道を行くだけだ。
真実なんて隠蔽してしまえばいい。それでアルが幸せになるのなら、それでいい。
「アル」
「なんですか?」
「私と一緒に旅に出ませんか?」
「え……?」
「明日の朝……旅立ちましょう。もしよかったら、私と一緒に来てください」
悪魔の力。あの力を、このままここに置いていくのはもったいない。私の懐に入れておきたい。またいつか、体験してみたい。今度は、ブチのめしてやりたい。
「でも……ヴェロスが……」
ああ……そうか。この子はヴェロスという友達のために力を求めたのだった。裏切られたことも気がついていないのだから、まだ友達という認識なのだろう。
「いじめ問題は解決しました。ソラさんが動いてくれたみたいです」
「ソラさんが?」
「はい」
嘘だ。ソラさんはいじめ問題には関与していない。間接的に解決したとは言えなくもないけれど……まぁ広義で見ればソラさんが解決したのか? よくわからん。
とにかく、私は嘘つきなのだ。
「ヴェロスも言ってましたよ。アルの旅を応援するって」
「……本当ですか?」
「はい。私が嘘を言うとでも?」
「……なるほど……それなら……」
完全に信じてくれたようだ。ここまで純粋だとちょっと罪悪感あるな……まぁ明日には消えている罪悪感だけれど。
「うーん……どうせ両親もいないし……どうしようかな……」
両親いないのか。それは知らなかった。もしも両親がご健在ならば、一応旅立ちの許可を貰いに行くつもりだったのだが……まぁそれならアルに任せればいいか。
「師匠はいいんですか?」
「何がです?」
「僕が旅についていって」
「構いませんよ」
悪魔の力がすぐ近くにあると、おそらく楽しいだろう。つまらなくなったら、この街に返せばいいのだ。それまでに最低限一人旅ができるくらい成長していただかなくては。
「じゃあ……行ってみても……いいですか?」
「はい。どうぞ、歓迎しますよ」
元より私から誘っているのだから、断るはずもない。
さて、これで旅の同行者が一人増えた。
このまま二人旅になるのか……それとも……三人での旅になるのか……
ま、明日になればわかることだ。今日はぐっすりと眠ろう。
アルが目を覚まして、寝ぼけ眼で周囲を見回した。
酒場の主人とソラさんはすでに移動していた。おそらく別の場所で話し合っているのだろう。ならば、私がこれ以上口を出すことなんて存在しない。
「目が覚めましたか?」
「……師匠……?」アルは頭痛でもするのか、頭を抑えた。「……あれ……? 僕は……」
「……どこまで覚えていますか?」
「え?」
「最新の記憶はいつですか?」
「えっと……ヴェロスのいる場所に行って……それから……」
どうしたんだっけ?とアルは首をかしげた。
……覚えていない、のか。街を破壊して、悪魔の血を暴走させて暴れまわっていたことを。
いや……むしろ覚えていなくて好都合だったかもしれない。嫌なことなんて忘れられることなら忘れてしまったほうがいい。
しかし……納得できない人もいるだろう。アルの手によって、不幸になった人だっているのだ。
……私は……アルに真実を伝えるべきだろうか。あなたは暴走して街を破壊したのだと、言うべきだろうか。
伝えるべきなのだろう。理解させるべきなのだろう。償わせるべきなのだろう。自分のしでかした行為に、責任を取らせるべきなのだろう。それが師匠の役目であり、一般的な対処だろう。
だが、私は……そんなこと望んでいない。他の人がどう思おうが、私はわたしの道を行くだけだ。
真実なんて隠蔽してしまえばいい。それでアルが幸せになるのなら、それでいい。
「アル」
「なんですか?」
「私と一緒に旅に出ませんか?」
「え……?」
「明日の朝……旅立ちましょう。もしよかったら、私と一緒に来てください」
悪魔の力。あの力を、このままここに置いていくのはもったいない。私の懐に入れておきたい。またいつか、体験してみたい。今度は、ブチのめしてやりたい。
「でも……ヴェロスが……」
ああ……そうか。この子はヴェロスという友達のために力を求めたのだった。裏切られたことも気がついていないのだから、まだ友達という認識なのだろう。
「いじめ問題は解決しました。ソラさんが動いてくれたみたいです」
「ソラさんが?」
「はい」
嘘だ。ソラさんはいじめ問題には関与していない。間接的に解決したとは言えなくもないけれど……まぁ広義で見ればソラさんが解決したのか? よくわからん。
とにかく、私は嘘つきなのだ。
「ヴェロスも言ってましたよ。アルの旅を応援するって」
「……本当ですか?」
「はい。私が嘘を言うとでも?」
「……なるほど……それなら……」
完全に信じてくれたようだ。ここまで純粋だとちょっと罪悪感あるな……まぁ明日には消えている罪悪感だけれど。
「うーん……どうせ両親もいないし……どうしようかな……」
両親いないのか。それは知らなかった。もしも両親がご健在ならば、一応旅立ちの許可を貰いに行くつもりだったのだが……まぁそれならアルに任せればいいか。
「師匠はいいんですか?」
「何がです?」
「僕が旅についていって」
「構いませんよ」
悪魔の力がすぐ近くにあると、おそらく楽しいだろう。つまらなくなったら、この街に返せばいいのだ。それまでに最低限一人旅ができるくらい成長していただかなくては。
「じゃあ……行ってみても……いいですか?」
「はい。どうぞ、歓迎しますよ」
元より私から誘っているのだから、断るはずもない。
さて、これで旅の同行者が一人増えた。
このまま二人旅になるのか……それとも……三人での旅になるのか……
ま、明日になればわかることだ。今日はぐっすりと眠ろう。
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