謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

文字の大きさ
18 / 19
遊び人

第18話 あとはお願いします。師匠

しおりを挟む
 酒場の治安の悪さに正直ビビりながら、エトワールは扉を開けて店に入る。

 先程、少女と男が暴れた形跡がある。窓は割れているし、お酒も席も散乱している。しかし、それを気にしている客がいるようには見えない。皆、楽しそうに顔を赤くしてお酒を飲んでいる。下品な笑い声が響き、さっきのケンカが日常茶飯事であることを物語っていた。

 昼間だというのに酒場は大盛況。よほど人気のある酒場らしい。あるいは、荒くれ者たちのたまり場なのか。

 メルはカウンター席に座っていた。エトワールはその隣に恐る恐る座って、

「に、にぎやかなところ、ですね」
「そう思う。ここには……自分の力に自信がある人しかいないから。だから……余裕がある。だから楽しめる」
 
 余裕があるから楽しめる……なんだか深い話のような、そうでもないような……まだエトワールにはわからない話だった。

「オムライス1つ。それと……ガラクシア1つ」
「あ……僕もオムライスでお願いします」

 それぞれ注文をする。ガラクシアとはこの辺で作られているお酒の名前だ。エトワールはお酒を飲まないのでどんなお酒なのかはわからない。

 注文した品ができ上がる間、手持ち無沙汰なので店内の声に耳を傾けてみる。すると、先程ハデなケンカをしていた少女を含む会話が聞こえてきた。

 なんとなく少女の容姿を確認してみる。短い黒髪はその健康的な容姿によく似合っていた。特筆すべき点はないかもしれないが、それゆえに整った容姿だった。

「今度から酒場に来るときはもっと準備してきなよ。ここにはイカサマ野郎ばっかりいるからさ……子供の来るところじゃないよ」
「ごめんなさい……」少女と話しているのは、10歳くらいの少年だった。どうにも酒場には似合わない年齢の子供だ。「ありがとう……助けてくれて……」
「助けたつもりはないね。あのお兄さんがカモだっただけ。儲けさせてもらったから、キミにも分け前をあげたいだけなのさ。感謝される覚えはないよ」
「でも……」
「面倒だなぁ……私は感謝されるの苦手なの。ムズムズするからやめてくんな」それから少女は、話題を変える。「そんで、なんでキミは酒場なんかに来た? 見る限り、お酒飲みに来たわけじゃなさそうだけど」
「その……お父さんが……」
「お父さん? 待ち合わせ?」
「違う……その、ここでお酒買ってこいって」
「おつかいか……」少女はため息をつく。「こんな危険な場所に子供送り込んで……お父さん自身はなにしてんだい?」

 子供は下を向いて黙り込む。それを見た少女は手元のジュースを飲み干して、

「答えたくないならいいさ。別に私には関係ないからね。面白くない話なら、私は興味ない」
「……」
「さっさとおつかいを済ませて、家に帰りなよ。いつも誰かが助けてくれるとは限らないからね」
「……ありがとうございました……」

 子供は頭を下げて、店員と話をする。そして酒瓶を1つ購入して、酒場から出ていった。酒場から出るときも、少女に向かって頭を下げていたが、少女はそれを見ていなかったようだった。

 どうやら、あの少女はイカサマでお金を巻き上げられていた子供を助けるために、男と揉めていたようである。じゃあ良い人なのかな、とエトワールが思っていると。

「ようマーチ」ガラの悪そうな5人の男たちが入店して、少女の所に近づいていった。「この間はよくもやってくれたなぁ……」
「この間?」少女……マーチと呼ばれた少女は首を傾げて、「えーっと……ライヒトゥームの人たち? それともシーガル? ごめんね、心当たりがありすぎてわかんない」
「ディーンスタークだよ」
「でぃーんすたーく? えーっと……なんだっけ?」
「3日前にお前とカードで勝負をした……その時にお前、イカサマしただろ?」
「カードゲームでイカサマ? 悪いね、それも心当たりが多すぎるんだわ。そんで……そのリンスパックさんがなんの御用?」
「ディーンスタークだ……!」

 男はテーブルを叩いて威嚇する。しかしマーチはまったく気にした様子はない。

「悪い悪い。それで……だからなんの用? また勝負したいの?」
「ああ、そうだ」男は手を鳴らして、「ただし……今度はギャンブルじゃない」
「力ずくで? やだなぁ……5対1? こんなかわいい少女相手に5人でかかってくるなんて……」
「いや、5対1じゃない」男が言うと、さらに10人ほどのチンピラたちが入店して、マーチを取り囲んだ。「15対1だ」
「わぁ……私、絶対に自分が勝てる勝負しかしたくないんだけど。一方的に勝つのが好きなのであって、戦うことは別に好きじゃねーし」
「じゃあどうする?」完全に勝ち誇った様子のチンピラたちだった。「有り金全部おいていくというのなら、見逃してやってもいいぜ?」
「有り金全部?」マーチはポケットをあさって、コインを2枚ほど取り出した。「これだけしかないけど」
「あ? そんなバカな……俺たちから巻き上げた金はどこ行った?」
「使った」
「……かなりの額があっただろう?」
「宵越しの銭は持たない主義なのさ」
「……さっきのチンピラの金はどうした?」
「ああ……さっきの少年にあげたよ。ポケットに潜り込ませといた。家に帰ったら気づくんじゃない?」

 さっきの少年……酒のおつかいに来ていた少年か。その少年に気づかれないように、お金を渡していたらしい。このマーチという少女、良い人なのか……それとも悪い人なのか……

「金がないならしょうがない。痛い目見てもらうしかないな」
「それはやだなぁ……よし、しょうがない」マーチは立ち上がる。15人相手に戦うのかと思ったら、不意にメルに向かって、「師匠! やっちゃってください!」

 そんなことを言い出したのだった。チンピラたちの目線がメルに奪われる。その瞬間、マーチは人の間をすり抜けて、裏口らしき場所まで到達する。

「それじゃ」マーチはメルに言う。「あとはお願いします。師匠」

 そのまま、マーチは裏口から逃げていった。
 エトワールはメルに聞く。

「し、師匠って……あの人、お知り合いですか?」
「……初対面」
「だったら……」
「押し付けられたみたいだね」

 適当な師匠をでっち上げて、チンピラたちから逃げ切ろうという魂胆らしい。仮にチンピラたちが釣られなくても、一瞬だけ気を引ければいい。そんな考えなのだろう。

 しかし、

「おう。お前」15人のチンピラたちはあっさりとメルに釣られた。本当にメルがマーチの師匠だと思いこんでいるらしい。「お前、弟子にどんな教育してんだよ」
「弟子じゃない」
「あ?」
「さっきの女の子とは、初対面」
「そうやって逃げるのか? 師匠ともあろうものが……」
「……」メルは小さく息を吐く。たぶんため息だろう。「……店内では暴れたくない」
「心配はいらねぇよ。店が壊れるような戦いには……」途中で、男は何かに気づいたようだった。「ちょっと待て……お前、もしかしてメル・キュールか?」

 メルが頷くと、男は舌打ちをして、

「ライヒトゥームが潰されたって聞いたが……まさかお前がマーチの師匠だったとは……」
「だからそれは違う……」
「そうなのか? まぁそんなことはどうでもいい。問題は、あんたとマーチに繋がりがあるってことだ」
「だから……初対面……」

 メルの声は無視されて、男が言う。

「あんたなんか相手にしてられねぇよ。退散だ、退散」

 男のその言葉で、チンピラたちは帰っていった。何人かは渋々と言った感じだったが、ともあれ騒ぎは収まった。

 それにしても、ライヒトゥームを壊滅させたという噂は、すでに町に出回っているらしい。メルの名前は、少なくとも荒くれ者たちの間では有名なようだった。
 
 そしてそのメルを勝手に師匠だと言って、面倒事を押し付けていったマーチという少女……いったい何者なのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。 ※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。 「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」 魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。 しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。 一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。 「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」 嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!

雑魚狩りスキルはCランクまでの魔物しか経験値にできないがそれでも多くの魔物を倒す経験で最強冒険者ライフを送る

銀雪 華音
ファンタジー
主人公のアオイは持っていたスキルが雑魚狩りというスキルだった。この主人公は作業を繰り返しすることが好きだった。ほかの人に比べて弱いスキルだと気づき努力をして経験値にはならないけどCランク以上の魔物も倒せるようになった。この主人公は何をするのか分かりません。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

処理中です...