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遊び人
第18話 あとはお願いします。師匠
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酒場の治安の悪さに正直ビビりながら、エトワールは扉を開けて店に入る。
先程、少女と男が暴れた形跡がある。窓は割れているし、お酒も席も散乱している。しかし、それを気にしている客がいるようには見えない。皆、楽しそうに顔を赤くしてお酒を飲んでいる。下品な笑い声が響き、さっきのケンカが日常茶飯事であることを物語っていた。
昼間だというのに酒場は大盛況。よほど人気のある酒場らしい。あるいは、荒くれ者たちのたまり場なのか。
メルはカウンター席に座っていた。エトワールはその隣に恐る恐る座って、
「に、にぎやかなところ、ですね」
「そう思う。ここには……自分の力に自信がある人しかいないから。だから……余裕がある。だから楽しめる」
余裕があるから楽しめる……なんだか深い話のような、そうでもないような……まだエトワールにはわからない話だった。
「オムライス1つ。それと……ガラクシア1つ」
「あ……僕もオムライスでお願いします」
それぞれ注文をする。ガラクシアとはこの辺で作られているお酒の名前だ。エトワールはお酒を飲まないのでどんなお酒なのかはわからない。
注文した品ができ上がる間、手持ち無沙汰なので店内の声に耳を傾けてみる。すると、先程ハデなケンカをしていた少女を含む会話が聞こえてきた。
なんとなく少女の容姿を確認してみる。短い黒髪はその健康的な容姿によく似合っていた。特筆すべき点はないかもしれないが、それゆえに整った容姿だった。
「今度から酒場に来るときはもっと準備してきなよ。ここにはイカサマ野郎ばっかりいるからさ……子供の来るところじゃないよ」
「ごめんなさい……」少女と話しているのは、10歳くらいの少年だった。どうにも酒場には似合わない年齢の子供だ。「ありがとう……助けてくれて……」
「助けたつもりはないね。あのお兄さんがカモだっただけ。儲けさせてもらったから、キミにも分け前をあげたいだけなのさ。感謝される覚えはないよ」
「でも……」
「面倒だなぁ……私は感謝されるの苦手なの。ムズムズするからやめてくんな」それから少女は、話題を変える。「そんで、なんでキミは酒場なんかに来た? 見る限り、お酒飲みに来たわけじゃなさそうだけど」
「その……お父さんが……」
「お父さん? 待ち合わせ?」
「違う……その、ここでお酒買ってこいって」
「おつかいか……」少女はため息をつく。「こんな危険な場所に子供送り込んで……お父さん自身はなにしてんだい?」
子供は下を向いて黙り込む。それを見た少女は手元のジュースを飲み干して、
「答えたくないならいいさ。別に私には関係ないからね。面白くない話なら、私は興味ない」
「……」
「さっさとおつかいを済ませて、家に帰りなよ。いつも誰かが助けてくれるとは限らないからね」
「……ありがとうございました……」
子供は頭を下げて、店員と話をする。そして酒瓶を1つ購入して、酒場から出ていった。酒場から出るときも、少女に向かって頭を下げていたが、少女はそれを見ていなかったようだった。
どうやら、あの少女はイカサマでお金を巻き上げられていた子供を助けるために、男と揉めていたようである。じゃあ良い人なのかな、とエトワールが思っていると。
「ようマーチ」ガラの悪そうな5人の男たちが入店して、少女の所に近づいていった。「この間はよくもやってくれたなぁ……」
「この間?」少女……マーチと呼ばれた少女は首を傾げて、「えーっと……ライヒトゥームの人たち? それともシーガル? ごめんね、心当たりがありすぎてわかんない」
「ディーンスタークだよ」
「でぃーんすたーく? えーっと……なんだっけ?」
「3日前にお前とカードで勝負をした……その時にお前、イカサマしただろ?」
「カードゲームでイカサマ? 悪いね、それも心当たりが多すぎるんだわ。そんで……そのリンスパックさんがなんの御用?」
「ディーンスタークだ……!」
男はテーブルを叩いて威嚇する。しかしマーチはまったく気にした様子はない。
「悪い悪い。それで……だからなんの用? また勝負したいの?」
「ああ、そうだ」男は手を鳴らして、「ただし……今度はギャンブルじゃない」
「力ずくで? やだなぁ……5対1? こんなかわいい少女相手に5人でかかってくるなんて……」
「いや、5対1じゃない」男が言うと、さらに10人ほどのチンピラたちが入店して、マーチを取り囲んだ。「15対1だ」
「わぁ……私、絶対に自分が勝てる勝負しかしたくないんだけど。一方的に勝つのが好きなのであって、戦うことは別に好きじゃねーし」
「じゃあどうする?」完全に勝ち誇った様子のチンピラたちだった。「有り金全部おいていくというのなら、見逃してやってもいいぜ?」
「有り金全部?」マーチはポケットをあさって、コインを2枚ほど取り出した。「これだけしかないけど」
「あ? そんなバカな……俺たちから巻き上げた金はどこ行った?」
「使った」
「……かなりの額があっただろう?」
「宵越しの銭は持たない主義なのさ」
「……さっきのチンピラの金はどうした?」
「ああ……さっきの少年にあげたよ。ポケットに潜り込ませといた。家に帰ったら気づくんじゃない?」
さっきの少年……酒のおつかいに来ていた少年か。その少年に気づかれないように、お金を渡していたらしい。このマーチという少女、良い人なのか……それとも悪い人なのか……
「金がないならしょうがない。痛い目見てもらうしかないな」
「それはやだなぁ……よし、しょうがない」マーチは立ち上がる。15人相手に戦うのかと思ったら、不意にメルに向かって、「師匠! やっちゃってください!」
そんなことを言い出したのだった。チンピラたちの目線がメルに奪われる。その瞬間、マーチは人の間をすり抜けて、裏口らしき場所まで到達する。
「それじゃ」マーチはメルに言う。「あとはお願いします。師匠」
そのまま、マーチは裏口から逃げていった。
エトワールはメルに聞く。
「し、師匠って……あの人、お知り合いですか?」
「……初対面」
「だったら……」
「押し付けられたみたいだね」
適当な師匠をでっち上げて、チンピラたちから逃げ切ろうという魂胆らしい。仮にチンピラたちが釣られなくても、一瞬だけ気を引ければいい。そんな考えなのだろう。
しかし、
「おう。お前」15人のチンピラたちはあっさりとメルに釣られた。本当にメルがマーチの師匠だと思いこんでいるらしい。「お前、弟子にどんな教育してんだよ」
「弟子じゃない」
「あ?」
「さっきの女の子とは、初対面」
「そうやって逃げるのか? 師匠ともあろうものが……」
「……」メルは小さく息を吐く。たぶんため息だろう。「……店内では暴れたくない」
「心配はいらねぇよ。店が壊れるような戦いには……」途中で、男は何かに気づいたようだった。「ちょっと待て……お前、もしかしてメル・キュールか?」
メルが頷くと、男は舌打ちをして、
「ライヒトゥームが潰されたって聞いたが……まさかお前がマーチの師匠だったとは……」
「だからそれは違う……」
「そうなのか? まぁそんなことはどうでもいい。問題は、あんたとマーチに繋がりがあるってことだ」
「だから……初対面……」
メルの声は無視されて、男が言う。
「あんたなんか相手にしてられねぇよ。退散だ、退散」
男のその言葉で、チンピラたちは帰っていった。何人かは渋々と言った感じだったが、ともあれ騒ぎは収まった。
それにしても、ライヒトゥームを壊滅させたという噂は、すでに町に出回っているらしい。メルの名前は、少なくとも荒くれ者たちの間では有名なようだった。
そしてそのメルを勝手に師匠だと言って、面倒事を押し付けていったマーチという少女……いったい何者なのだろう。
先程、少女と男が暴れた形跡がある。窓は割れているし、お酒も席も散乱している。しかし、それを気にしている客がいるようには見えない。皆、楽しそうに顔を赤くしてお酒を飲んでいる。下品な笑い声が響き、さっきのケンカが日常茶飯事であることを物語っていた。
昼間だというのに酒場は大盛況。よほど人気のある酒場らしい。あるいは、荒くれ者たちのたまり場なのか。
メルはカウンター席に座っていた。エトワールはその隣に恐る恐る座って、
「に、にぎやかなところ、ですね」
「そう思う。ここには……自分の力に自信がある人しかいないから。だから……余裕がある。だから楽しめる」
余裕があるから楽しめる……なんだか深い話のような、そうでもないような……まだエトワールにはわからない話だった。
「オムライス1つ。それと……ガラクシア1つ」
「あ……僕もオムライスでお願いします」
それぞれ注文をする。ガラクシアとはこの辺で作られているお酒の名前だ。エトワールはお酒を飲まないのでどんなお酒なのかはわからない。
注文した品ができ上がる間、手持ち無沙汰なので店内の声に耳を傾けてみる。すると、先程ハデなケンカをしていた少女を含む会話が聞こえてきた。
なんとなく少女の容姿を確認してみる。短い黒髪はその健康的な容姿によく似合っていた。特筆すべき点はないかもしれないが、それゆえに整った容姿だった。
「今度から酒場に来るときはもっと準備してきなよ。ここにはイカサマ野郎ばっかりいるからさ……子供の来るところじゃないよ」
「ごめんなさい……」少女と話しているのは、10歳くらいの少年だった。どうにも酒場には似合わない年齢の子供だ。「ありがとう……助けてくれて……」
「助けたつもりはないね。あのお兄さんがカモだっただけ。儲けさせてもらったから、キミにも分け前をあげたいだけなのさ。感謝される覚えはないよ」
「でも……」
「面倒だなぁ……私は感謝されるの苦手なの。ムズムズするからやめてくんな」それから少女は、話題を変える。「そんで、なんでキミは酒場なんかに来た? 見る限り、お酒飲みに来たわけじゃなさそうだけど」
「その……お父さんが……」
「お父さん? 待ち合わせ?」
「違う……その、ここでお酒買ってこいって」
「おつかいか……」少女はため息をつく。「こんな危険な場所に子供送り込んで……お父さん自身はなにしてんだい?」
子供は下を向いて黙り込む。それを見た少女は手元のジュースを飲み干して、
「答えたくないならいいさ。別に私には関係ないからね。面白くない話なら、私は興味ない」
「……」
「さっさとおつかいを済ませて、家に帰りなよ。いつも誰かが助けてくれるとは限らないからね」
「……ありがとうございました……」
子供は頭を下げて、店員と話をする。そして酒瓶を1つ購入して、酒場から出ていった。酒場から出るときも、少女に向かって頭を下げていたが、少女はそれを見ていなかったようだった。
どうやら、あの少女はイカサマでお金を巻き上げられていた子供を助けるために、男と揉めていたようである。じゃあ良い人なのかな、とエトワールが思っていると。
「ようマーチ」ガラの悪そうな5人の男たちが入店して、少女の所に近づいていった。「この間はよくもやってくれたなぁ……」
「この間?」少女……マーチと呼ばれた少女は首を傾げて、「えーっと……ライヒトゥームの人たち? それともシーガル? ごめんね、心当たりがありすぎてわかんない」
「ディーンスタークだよ」
「でぃーんすたーく? えーっと……なんだっけ?」
「3日前にお前とカードで勝負をした……その時にお前、イカサマしただろ?」
「カードゲームでイカサマ? 悪いね、それも心当たりが多すぎるんだわ。そんで……そのリンスパックさんがなんの御用?」
「ディーンスタークだ……!」
男はテーブルを叩いて威嚇する。しかしマーチはまったく気にした様子はない。
「悪い悪い。それで……だからなんの用? また勝負したいの?」
「ああ、そうだ」男は手を鳴らして、「ただし……今度はギャンブルじゃない」
「力ずくで? やだなぁ……5対1? こんなかわいい少女相手に5人でかかってくるなんて……」
「いや、5対1じゃない」男が言うと、さらに10人ほどのチンピラたちが入店して、マーチを取り囲んだ。「15対1だ」
「わぁ……私、絶対に自分が勝てる勝負しかしたくないんだけど。一方的に勝つのが好きなのであって、戦うことは別に好きじゃねーし」
「じゃあどうする?」完全に勝ち誇った様子のチンピラたちだった。「有り金全部おいていくというのなら、見逃してやってもいいぜ?」
「有り金全部?」マーチはポケットをあさって、コインを2枚ほど取り出した。「これだけしかないけど」
「あ? そんなバカな……俺たちから巻き上げた金はどこ行った?」
「使った」
「……かなりの額があっただろう?」
「宵越しの銭は持たない主義なのさ」
「……さっきのチンピラの金はどうした?」
「ああ……さっきの少年にあげたよ。ポケットに潜り込ませといた。家に帰ったら気づくんじゃない?」
さっきの少年……酒のおつかいに来ていた少年か。その少年に気づかれないように、お金を渡していたらしい。このマーチという少女、良い人なのか……それとも悪い人なのか……
「金がないならしょうがない。痛い目見てもらうしかないな」
「それはやだなぁ……よし、しょうがない」マーチは立ち上がる。15人相手に戦うのかと思ったら、不意にメルに向かって、「師匠! やっちゃってください!」
そんなことを言い出したのだった。チンピラたちの目線がメルに奪われる。その瞬間、マーチは人の間をすり抜けて、裏口らしき場所まで到達する。
「それじゃ」マーチはメルに言う。「あとはお願いします。師匠」
そのまま、マーチは裏口から逃げていった。
エトワールはメルに聞く。
「し、師匠って……あの人、お知り合いですか?」
「……初対面」
「だったら……」
「押し付けられたみたいだね」
適当な師匠をでっち上げて、チンピラたちから逃げ切ろうという魂胆らしい。仮にチンピラたちが釣られなくても、一瞬だけ気を引ければいい。そんな考えなのだろう。
しかし、
「おう。お前」15人のチンピラたちはあっさりとメルに釣られた。本当にメルがマーチの師匠だと思いこんでいるらしい。「お前、弟子にどんな教育してんだよ」
「弟子じゃない」
「あ?」
「さっきの女の子とは、初対面」
「そうやって逃げるのか? 師匠ともあろうものが……」
「……」メルは小さく息を吐く。たぶんため息だろう。「……店内では暴れたくない」
「心配はいらねぇよ。店が壊れるような戦いには……」途中で、男は何かに気づいたようだった。「ちょっと待て……お前、もしかしてメル・キュールか?」
メルが頷くと、男は舌打ちをして、
「ライヒトゥームが潰されたって聞いたが……まさかお前がマーチの師匠だったとは……」
「だからそれは違う……」
「そうなのか? まぁそんなことはどうでもいい。問題は、あんたとマーチに繋がりがあるってことだ」
「だから……初対面……」
メルの声は無視されて、男が言う。
「あんたなんか相手にしてられねぇよ。退散だ、退散」
男のその言葉で、チンピラたちは帰っていった。何人かは渋々と言った感じだったが、ともあれ騒ぎは収まった。
それにしても、ライヒトゥームを壊滅させたという噂は、すでに町に出回っているらしい。メルの名前は、少なくとも荒くれ者たちの間では有名なようだった。
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