人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

文字の大きさ
上 下
48 / 85

動き出す運命~達磨の過去

しおりを挟む
達磨は夕霧の片足の動きが悪い事に気が付いた。
少し引きずる様な動きに目についた。
その視線に苦笑して夕霧は言った。

「この足は前にある事件が原因で怪我をしました。まあ、若気の至りってところですね。」
「叔父貴…本当に無茶ばっかしてたからな~本当に生きてるのが不思議な人だよ。
  ウチの母方の親戚筋は武闘派だからな…。」

こんな大人しい感じの人が無茶をするってのが今ひとつ信じられないと感じていた達磨だったが夕霧の強い意志をその視線の強さに感じて怖く思った。

「さあ、ここで話しするのも失礼だし母屋に行きましょう。お茶淹れますから。」
「叔父貴、茶菓子も宜しく!」
「はいはい…高校男子に食べさせる様なのあったかな~?」
「そこは質より量でお願いします!小腹がすいた!」
「あはははは…陸は相変わらずだな~そういえば悠ちゃんが美味しいって言ってた饅頭があった。」
「悠夜が?それは絶対美味しいよ!悠夜はグルメだからな!」

相も変わらない弟愛を爆発させてる陸とそれを笑いながら先を歩く夕霧にちょっとした疎外感を感じながら達磨も大人しく付いて歩いた。

「さて、お茶とお菓子も出揃ったし私が何故君を待っていたか話しをしよう。」
「はい…どうして俺を知ってるんですか?」
「そうだね、この足を悪くした事件に関わりあると言ったら驚くよね。」
「!?」
「私の仕事は警察官なんだ…ちょっと特殊なね。ある国際的犯罪を担当していた、いや今も担当しているんだ。」
「警察…」
「私はある犯罪組織を10年近く追っている。小さな日本の子供を攫って外国人に売り捌く悪質で狡猾な犯罪組織をね…。」
「人身売買なんて…そんな事が…」
「日本ではあり得ない事の様に思えるけど、外国では特に後進国では結構ある話しでね。勿論違法ではあるのだろうけど、貧しい農村ではある話しなんだ。奴隷の様に働かせる場合と己の欲望処理に使われる場合と…言いたくは無いけど日本人の子供は高値で売買されている。」

陸が甘いはずの饅頭を苦い顔して食べていた。
達磨も口の中が苦い感じがして気持ちが下がる思いだ。

「この10年に消えた子供達は56人…その犯罪組織は巧妙でね、そして我々が手を出せない所を隠れ蓑にして立ち回っている。1度取引現場に踏み込んだんだが、力及ばずで結果この足と助け出した子供達が5人、その他の子供達は死体で見つかったんだ。」
「そんな事件が…ニュースとか聞いてない…」
「ああ、ニュースに出来なかったんだよ。悪質な事件だったけど、ある事が原因でね。」
「ある事って?」
「達磨君、君にこんな話しをするのも陸や悠夜が君は信用出来ると言ったからだ…そして一般人である君を巻き込むのはと思わない訳じゃないのだが私はこのチャンスを逃したくない。亡くなった子供達、そして攫われた子供達を救う為なら、私は鬼にも悪魔にでもなると決めている。」
「………。」
「君を巻き込んでいいだろうか?」

鬼にも悪魔にもなると言いながら夕霧が達磨を思って迷いの心があるんだと、強いはずの瞳が揺れていた。
その思いに達磨の心は逆に落ち着いた。
そして、巻き込まれてもいいと思った。
息を深く吸い込んで、達磨は返事した。

「巻き込まれてもいいです。俺、何にも力無いけど何か出来る事があるのなら…」

その答えを聞いた夕霧は、目を閉じて静かに息を吐いて言った。

「ありがとう…そして、ごめんね…。」
「いいえ、謝らないで…俺ちょっと嬉しいから!」
「ありがとう…本当にありがとう…。」

頭を下げたままの夕霧に、こんな大人も居るのかと驚きもある。
そして、どこか心が暖かく感じていた。

「叔父貴言ったろ?達磨は凄い強い奴だって!どっか叔父貴と似てるよ!」
「そうか?そうか同じ護る立場だからな…。」
「護る立場…そうか、そう言って貰うの嬉しいよ。凄いへなちょこだけどな…。」
「へなちょこ上等だよ~あはは」

緊張した心が少しだけ緩む、陸の存在にいつも助けて貰ってる。
達磨は陸こそ凄いと思っている。
同じ歳なのに、懐ろの深さと情け深い対応にいつも助けて貰っている。

「さて、話しを進めようか?これから話す事はトップシークレットになる。そして、話した以上、巻き込む事になって場合によっては命がけになる。覚悟はいいかな?」
「はい!」
「達磨がいいなら俺もいいよ。」

2人の返事を聞いて夕霧がもう一度深呼吸した、そして達磨が驚く事を言った。

「分かった…達磨君、君が今住んでいる施設の院長先生は外国人じゃないかい?」
「!!!」
「院長先生は中国語の様な言葉を喋らないか?」
「…し、喋りま…す…。俺以外は知らないけど…確かに、中国語の様な言葉を喋ります。」
「そうか…尻尾が出たのか…彼奴らにしては珍しいポカだな。」

達磨は全身で慄いていた。
全てを話す時が来たのだと、身体が小刻みに震えていた。
そんな達磨の様子に気が付いた夕霧が痛ましい顔をした。

「全て…これまであった事を全て…は、話します。」

震えながら言った達磨の言葉を夕霧は静かに頷いた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ま、間に合った~(>_<)
次回も土日のどちらかに更新予定です。
お気に入り&読んで頂き、ありがとうございます(^人^)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,455pt お気に入り:3,013

〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:50

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,237pt お気に入り:450

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:686

処理中です...