人は神を溺愛する

田中さんの後継者 10

朝、朝番夜番と全員が揃う時間に報告されたのはセキュリティの一斉点検のため一時的にセキュリティの全てがオフになるという事だった。

「今週木曜日の朝9時から昼14時位まで全てのセキュリティがオフになる。その日は神城一家も平日なので全員居ないし、悠夜様もまだ入院しているだろうから丁度良いだろうという事で急遽決定した。邸内の従業員も全員半日の休暇を出すので、邸内から出て欲しい。以上が警備からの報告です。」
「皆さん、今回の一斉セキュリティ点検において奥様より特別にランチ代が出るとの事です。ゴッドシャトー東京のメインダイニングと中華、イタリアンと和食割烹及び鉄板焼きの店全て貸し切りにしてあるのでお好きな所でランチを楽しんで下さいとの伝言です。お腹が許すなら全て回っても良いそうですよ。」

うわぁぁぁぁ～と歓声が起こり、従業員一同の顔が明るい笑顔が広がった。
ゴッドシャトー東京といえば五つ星ホテルで、その中にあるレストランも星が付くガイドブックに載る有名店で中々予約が取れない店でもあるからだ。
ランチであっても１万以上はする庶民には敷居が高い店でもある。
そこが貸し切りで、しかも奢りでランチを食べられるなんて夢の様な話しだ。

「うわー俺、あそこの鉄板焼きの所でステーキ食べるの夢だったんだ～！」
「私はメインダイニングに行く！こんな事でも無かったら絶対行けないもの！」
「俺は中華と和食とハシゴしたい…。」

こんな感じで、何時もは冷静な態度の面々が蜂の巣突いた様に大騒ぎになった。

「では皆さん、木曜日は朝9時以降は邸内から出て下さいね…勿論従業員棟からもです。ご協力お願い致します。」
「「「「「はい！！！！」」」」」
「では、これにて解散致します！」

キビキビ動き出した従業員達の中で、俺は一人色々な考えが頭を締めていた。
大きなチャンスが来た。
しかも、こんなに早く…。
準備がまだ整っていないが、こんな大きなチャンスは無い。
そんな風に頭の中で考えていた時、田中さんが俺に声をかけた。

「鈴木君、少しいいですか？」
「あ！はい！」
「本日ですが私は悠夜様の着替えを病院に持って行く予定です。なので、本日の鈴木君は以前住んでいたアパートとの整理と本格的にこちらに移り住む様に準備をなさって下さい。」
「！！俺、いや私は本採用になるのですか？」
「はい…少し早いですが鈴木君が良いのであれば、このまま本採用にしたいと思います。」
「あ…ありがとう…ございます…。」
「…いいえ、貴方が頑張った事を正しく評価されただけの事です。しかし、執事という仕事は決して楽な訳でもありませんし、今流行りのブラック企業並みの勤務体制ですけどこれ程面白い仕事は無いと思っております…多種多様の事を学ぶ仕事でもあります…鈴木君はこの仕事に合っていると思いますよ。」
「本当…ですか？私も頑張れば田中さんの様になれますか？」
「勿論です！貴方が望むのであれば私は私の持てる力の全てを鈴木君に教えます。」
「…田中さん…。」
「貴方が望むなら、奇跡なんて案外近くにあるのですよ。」
「………」
「しかし、奇跡は本気で望まなけれななりません…。」
「田中さん…。」
「そして貴方は今その奇跡の前髪を掴む事が出来る場所にいる事を自覚なさい。」

そう言った田中さんの瞳は優しい光があった。
顔は厳しい表情なのに…。
そして、俺は全て田中さんには知られていると感じた。
俺の目的を…そして、俺の本当の思いを…。

「では、本日は予定通りでお願い致します。」
「はい！よろしくお願い致します！」

背を向けた田中さんに俺はしばらく頭を下げ続けた。
そんな俺を心配そうに見ている周りの人達がいる事に頭を上げた時初めて気が付いた。


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お気に入り&お読み頂きありがとうございます！
ちょっと短いですけどキリがいいのでここまでです。
リアルの仕事が立て込んでまして、中々更新出来なくて申し訳ないです。
でも田中さんは必ず完結させますから！
次回もよろしくお願い致しますm(_ _)m