人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

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【閑話】御厨勇大の言えない言葉

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俺の名前は御厨勇大。
現在京都大学に通う大学院生2年だ。
俺の家族は少し歳の離れた兄貴が1人。
俺がまだ小学3年生になった頃に両親は交通事故でいきなり2人とも亡くなった。
学校で授業に出ていた俺を呼び出し担任の先生が車で家まで送ってくれた所までは覚えているが、その後の怒涛の日々だったはずなのに流されるままに流れていく時間を当時高校3年生になっていた兄貴に縋り付いていたんだと思う。
兄貴は沢山の大人達に囲まれていたけど落ち着いていて喪主を勤めていた。
今思うと兄貴は何となく慣れていた感じがする。
親しい人との別れという事に慣れていた。
残された子供だけの世話をどうするか話し合う大人達の色々な意見を聞いて黙ったままだった兄貴の制服の裾を握り締めていただけの俺に黙っていた兄貴が俺に聞いた言葉は不思議と覚えている。

「勇大…勇大はどうしたい?」
「ぼ、僕は兄ちゃんと一緒がいい!」
「分かった…なら一緒にいよう。」
「うん!」

そこから兄貴は並み居る大人達を黙らせて兄弟だけで生活していく事を認めさせてた。
成績優秀でスポーツも色々な事を卒なく熟す兄貴だったが、俺の為に大学には行かずに就職する事を選んだ。
学校の先生達や良識ある親戚からもあれこれ言われていたようだったが兄貴は俺の為に就職を選んだ。
高卒だったが大手のコーヒーチェーン店に就職して、就職して1年でバリスタの資格を取り2年目には駅から離れた店の店長になり、その店を半年で日本全国で1番の売り上げを出す店舗にした。
若い上にイケメンで、たまに店に行くと凄い数の女性がいて、でも不思議なほど静かな落ち着いた店だった。
そして店長として3年経ったある日突然兄貴は会社を退職した。
あの時は会社の上の上のそのまた上に当たる人までが退職しないで欲しいと説得に来た位で退店する日は店舗には号泣するスタッフや常連客で凄い事になって、ある意味伝説になってるらしい。
そして兄貴は家を改装して小さいが自家焙煎の喫茶店を開業した。
俺も無事高校に入学して念願だった弓道部にも入った。
最初家の経済的な事を心配して中学の時も塾にも行かないで必死に勉強してた。
兄貴は特に何も言わなかったが高校も国公立に入学しなきゃいけないと思っていたし、兄貴は働いていても家の事もしっかりやっていたから少しでも早く帰って手伝っていたから部活動とかやっては駄目だと自分で自分に言い聞かせていた。
だがある日中学卒業して高校入学前の説明会で学校の中を見学している時見た弓道部の部活動を見ていいなって思ってしまった。
その時矢を射る姿がとても綺麗で思わず見惚れていた。
だが家の手伝いもあるし兄貴の進学を諦めさせた自分の存在をずっと何処かで申し訳なさを感じていたし何より自分の事より俺を優先する兄貴にこれ以上負担になりたくなかったからその場を離れた。
そんな俺を見ていたんだろう兄貴はその晩俺を居間に呼んで色々な物を見せた。

「勇大、お前ウチが貧乏だと思ってるだろう?」
「え…だってそうじゃないのか?両親の死亡保険があるって言っても兄貴は大学に行けなかったんだし…。」
「勇大俺は行けなかったんじゃ無いよ、行けたけど面倒だったから行かなかったんだ。大学行こうと思ったら余裕で行けたし…はっきり言って金は余裕であるからさ、まあこれを見ろ今我が家の全ての預金通帳と証券証書だ。」

複数の通帳の中は全て8桁から9桁の数字が並んでいた。
そしてその他の証書も俺でも知っている大手有名企業の名前が並んでいた。

「ウチって…貧乏じゃなかったのか?」
「誰がお前にそんな事言った?ウチは全然貧乏なんかじゃないぞ。俺が大学行かなかったのは勉強したい事が無かったからだよ、その時は珈琲焙煎とかバリスタとかに興味があったからこの道に入ったんだから。」
「…俺…俺のせいで兄貴は大学に行けなかったと思ってた。俺があの時兄貴と一緒にいたいと言ったから…それで兄貴は俺の為に色々諦めたんだと思って…。」
「俺は何も諦めてないし自分の好きな事やってるから心配するな!だから勇大も自分の興味がある事やってみたい事を俺に遠慮しないでやればいい。」
「……そっか…うん…ありがとう兄貴!」

そして俺は自分がやってみたかった弓道部に入部した。
そしてそこで更なる運命と出会う事になったのだが兄貴には内緒にしてる。
兄弟して恋人が男であるなんて両親がもし生きてたらどうなっていたやら。
でも、ポーカーフェイスというかアルカイックな微笑みしか浮かべなかった兄貴の心から幸せそうな顔が弟しては嬉しい今日この頃だ。
経済的な心配は無くなったけど、俺はやっぱり兄貴には感謝しかない。
俺を見放さず育ててくれたんだから…その事実は変わらない。
両親の代わりに色々な事をしてくれたのは兄貴だ。
だから俺は兄貴が誇る弟でいたいと今も思ってる。




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お気に入り&お読み頂きありがとうございます!
田中さん…苦しんでる途中…ふと思い立って書き始めたらこっちが先に出来てしまったので…(>_<)
とりあえず御厨兄弟の弟もよろしくって事で!
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