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レオニダス獣王国編

死者達の行進!

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獣王王国国境の南砦では、いつもと同じ様に砦に常駐している騎士達に質素な食事が出されていた。

「今夜も薄いスープに固い黒パンかぁ~せめて肉が食べたいよ…。」
「まぁなぁ~肉食べたいよなぁ~…でも今夜のスープ…いつもより何か味が…。」
『キャーーーーーーっ!!!!』

そう話していた二人の騎士は食堂の外から響く悲鳴に席を立ち上がった。
しかし、その場にいた全ての騎士たちが席から立ち上がったが、すぐにその場に崩れ落ちた。

「な…体が…体が動かない…。」
「俺も…動かな…い!」

食堂の外の悲鳴はどんどん大きくなって行く!
食堂に逃げ込む様に召使いの男や女達が悲鳴を上げて逃げて来た後ろには青白い顔で口を真っ赤に染めた下男がゆっくりとした足取りで食堂に入って来た!
そして、動けなくなった食堂入り口近くにいた騎士に近寄ると、その騎士の首筋に思いっきり噛み付いた!!

「ギャーーーーっ!!!!」

吹き出す真っ赤な血…噛まれて騎士が絶叫と共に絶命したのを見て、周りはパニックになる!
近くで動けない騎士達が何とか離れようと踠いているが体が思うように動かないでいる!
全身を真っ赤な血で染めた下男が絶命した騎士から離れると…その絶命した筈の騎士が起き上がり下男と同じ青い顔で目の色が真っ赤に染まっていた。
そして、立ち上がると下男と同じ様に側で動けなくなっていた同僚の騎士の首筋に噛み付いた!!

こうして南の砦から大きな悲鳴と怒号が響いていたが…そのうち全ての音が消えて行った。
魔法陣から現れた赤い髪の女が呪文を唱えると南の砦から青い顔と真っ赤に染まった目と全身を赤く血に染めた騎士達…そして砦で働いていた下男や下女達も同じ様に青い顔と真っ赤に染まった目をしてゆっくりとした足取りで砦から出て来た。

「ふふふ…私の不死の兵隊が出来たわ~!これから獣王王国の全ての獣人を不死の兵隊へ作り変えて行くのよ…!さぁ~王都へ行くわよ!仲間を作りながらね!!」

南の砦にいた約50人が砦近くの街へゆっくり歩いて行く…街が…村が…不死の兵隊に飲み込まれ男も女も…老人も子供も関係なく増え続ける死者の行進は静かに…それでいて確実に人を増やしながら進んで行く…。

「ふふふ……あははははははは!!ご主人様!!予定通りになりましたわ!あのバカ女と違って私は優秀ですもの!待ってて下さいませ!間も無く獣王王国は我が手の中に落ちますわ!…本当は獅子を白、黒と揃えたかったのですけど…仕方ありませんね…。」

そう言って女が足元に出した魔方陣から大きな水晶の結晶体現れ、水晶が弾け飛び1頭の大きな白獅子が現れた。
白獅子が目を開けると目は真っ赤な目をしていた…そして胸には禍々しい青い大きな魔石が埋まっていた!

「さあ~貴女の愛する人の元に行きましょうか?」
『はい…ココ…様…』

白獅子を先頭に死者達の行進は続く…。
その数は数十から始まり数百、数千と膨らんで行き…王都へ…王都へと進んで行く。

ある村で小さな教会に逃げ込んだ村人達がドアの前にバリケードを作って立て籠もっていたが、ドアの外を大きな音がしてバリケードが今にも崩れてしまいそうになっている。

「早く…早く逃げなきゃ!もう、ここも保たない!せめて子供達だけでも!!」
「お母さん…。」

教会に逃げ込んだ大人達は話し合った…ここも時間の問題で結界の効力がどんどん削られている。
そして、大人達は隠し通路を使って子供達だけでも逃がそうという事になった。
残った大人は全員で死霊達の足止めをする事と村に火を付け時間を稼ぐ事が決まった。

「いいミーナ!山向こうの村…この前湖に遊びに行った事…覚えているわね?」
「う…ん…ハンスお兄ちゃんがいる村…。」
「そう!ハンス君のいる村…ハンス君のお母さんは、お母さんのお姉さんなの知っているわよね?」
「うん…。」
「あそこの村は最近聖女様が来たって噂がある村…邪な者は入れない村になったって聞いたわ!あそこなら助かるかもしれない!」
「お母さん…。」
「いい!ミーナ!ここにいる子供達を連れてみんなで、あの村に行くの!ミーナが案内するのよ!」
「お母さん!お母さんも一緒じゃなきゃイヤ!!」
「ミーナ…お母さん…昨日足を挫いて早く走れない…それに私は火魔法が使える!ここであの死霊達を少しは止める事が出来る!だから、大丈夫よ!」
「お母さん…」
「でも、子供達がここに居たら火魔法が使えない…だから安全な所に先に行くの!後で…お母さんも必ず迎えに行くから!」
「お母さん!」
「さあ!みんな!こっちの隠し通路から森に入って…今なら月が出てる…山の上に1本だけ出てる大きな木がある山…分かるわね?あの山向こうを目指してアルルの村まで急いで行くのよ!」
「「「「はい!」」」」
「お母さん…」
「ミーナ道案内お願いね!」
「うん…。」

バリケードを押さえる大人達が、それぞれの子供達を抱き締めて子供達の背中を押す!
教会の神父様が唱えた呪文で隠してあった通路が開き暗い道に薄っすらと灯りがついて行くのを見て、小さな入り口に子供達を入れると神父はまた呪文を唱えて入り口を閉ざした!

「「お母さん!!」」
「お父さん!!」
「神父様ぁ!!」

入り口の向こうで大きな音がする!
悲鳴と怒号…そして火魔法を唱える母の声!
涙を流しながらミーナ達は走りだした!
きっと…母達とはもう会えない…そう分かっていても信じたくない!

「神様…神様…お願いです…お願いです!お母さん達を助けて!!」

心の中で唱えていた言葉はいつしか声になって出ていた。
小高い裏山の上に隠し通路の出口があり、出口から村を見れば村からは火が出て家が燃えていた。
燃える家を迂回する様に多くの死霊達が歩いている。
その光景を泣きながら見ていたミーナ達だったが、ミーナが立ち上がり他の子供達に声を掛けた!

「みんな、こっち!アルルの村に行くよ!」
「「「うん!ミーナお姉ちゃん!」」」

10歳のミーナを先頭に6歳、7歳、8歳の子供達は森を歩き出した。
お姉ちゃんと呼ばれたミーナは服の袖で涙を拭いて、1番小さい子アインと手を繋ぎ残りのミランとユアンの手を繋がせ歩き出した。
轟々と燃える村を背にして急ぎ足で歩く!
子供達を見守っているのは大きな月だけだった。



そんな事態になっている事を王都に暮らす人々はまだ知りもしなかった。
今、王都では人族の姫君と王子との成婚で多くの獣人達が王都に来ていた。
それに合わせて多くの商人とそして、その護衛の冒険者と多くの人達で賑やかだ。
王都周辺の街や村から成婚式のパレードを見学ついでに王都観光に来ている人々は、まさか自分達の家が家族が友人が死霊になっているとは思いもしない。
華やかな花々が王子と可愛い姫君の成婚を祝うために王都の建物という建物を飾っていた。

その主役である千尋は今日も王宮の厨房で熊達を巧みに使って料理を作っていた。
昨日…獣王陛下の治療の後、千尋は獣王に聞いた。
どうして鎖国しているのか?そして、自分が悪いわけじゃないのに奴隷になった獣人達が獣王王国に帰れないのは何故なのか…?
千尋は獣王に聞いたのだ。

「我が国は…10年程前から不穏な空気になりつつあった…魔の者達が何が目的で動き出したのか分からぬが私は王として獣人の種を守らなけれなならない。
王国にいれば、それに巻き込まれるのは必定…ならば王国を出た者達には敢えて危険な王国に戻らない様にする為に鎖国にし、家族を取り戻した先で生きて貰いたいから例え奴隷で無くなったとしても戻れない様にした…王国の外で生きて欲しかったのだ。」
「陛下…。」
「神の愛し子様には感謝している…奴隷となった者達を解放してくれた事、本当に感謝しかない…ありがとう…。」
「うん!どういたしまして!」

にっこり笑う千尋を見て獣王も微笑んだ。
そして心の中で姫君じゃ無かった事が残念で仕方なかった。
だが、神の愛し子様はこれから一国だけに留まる事は無いのだろうとも分かっている。
神の愛し子が行く先は繁栄と混乱を齎す…そして、それが国に溜まっていた膿を出し誰もが笑顔になる国になって行くのだ!
変革とは痛みを伴うもの。
だがその先にある大きな幸せが待っているのなら変革する事も必要なのだと思うのだ。
大きく変わっていく世界を獣王は感じていた。

「婚姻の儀のある2日目くらいには僕の魔力も元に戻る…その時、永久凍土を解凍して天下殿下と公爵閣下の息子さんを助ける!」
「…凍土には多くの王家所縁の人々が眠っているが…その人達も復活する事になるのか?」
「病や怪我とかで若いうちに無くなっているのなら、生き返るかも…でも、大往生…老衰で無くなっている人はそのままだと思う…どういう原理なのか謎なんだけど、光魔法でも老人を若くする事は出来ないからね…僕が思うに細胞が歳を取って再生する力を持ってないと生き返らないし病も怪我も治らないのかもしれないって考えてるんだ。」
「さ…いぼ??」
「うん!人の身体を構成しているのが細胞!その数約37兆って言われているんだよ!」
「凄いな…。」

千尋くんは大森林に居た時、医学書を分からないながらも読んでいた。
しかも結構分厚い医学の専門書を地球から取り寄せて数十冊読んでいる。
これは千尋が最初に神様から千尋くんでも分かる魔術の使い方読本に書いてあったのだ。
鑑定の目があっても、それが分かる知識がなければ使えない!
診断の結果が出ても、どう対処したらいいのかが分からない事になる。
だから、地球から取り寄せた家庭の医学から始まり、最終的には専門書まで多くの医療の本を読んだ。
その膨大な情報はスキル鑑定の中に全てデータとして入っていった。
薬草辞典の内容も然りだ。
そうして出来上がったのがチーちゃん先生なのだ!
千尋の大森林での1年の修行は、それなりに大変だったが無駄にはなっていない。
そして、その事でマッドなブラック千尋が作られたのもここが原因である。
それに元々の千尋くんが理数系だったのもあったからかもしれない…。
小学校の時の得意科目は理科だったなぁ~。

「さて、本日のお昼のメニューは親子丼と豆腐の味噌汁に小鉢はポテサラ!」
「美味しそうです!師匠!!」
「熊達も覚えたね?さあ~作ってみて!」
『はい!!』

相変わらず熱い厨房の熊さん達は教えて貰ったメニューをレシピに従い作り出した。
そこに筆頭執事のセバスチャンが現れ、千尋に声を掛けた。

「姫様!」
「あ!セバスチャンさん陛下の昼食出来たから持って行ってね!」
「はい!…姫様のお陰で陛下がたくさん食べられる様になりました!本当に感謝致します!」
「エヘへ…どういたしまして!」
「姫様…昼食後は両殿下からお話しがあるとの事…お時間を頂けないかとご伝言でございます!」
「両殿下から?」
「はい。」
「そっか~そろそろ本当の事も話さなきゃいけないし…了解しました!お待ちしてますって伝えて下さい!」
「畏まりました、姫様。」

いよいよ、様々な事が動き出した獣王王国である。



続く!


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