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レオニダス獣王国編

アルル村の攻防と婚姻の儀!

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死者の群れの数は膨れに膨れ、既に数千を越えていた。
ゆっくりとした足取りで進む群れの1番前にいる雌の白獅子が抵抗する王国の騎士達を蹂躙する!

「ひ、妃殿下!!目を!目を覚まして下さい!!」
『…ゆ…許…し…て…。』

白獅子の真っ赤に染まった目からは赤い血の涙が流れていた。
そして容赦無い力の風が騎士達を薙ぎ払って行く!

「うわぁーーーっつ!」
「ぐあっつ!!」

意識が朦朧とした騎士達に死者達が群がり、その首に齧りつき…騎士達は断末魔の悲鳴を上げて死んで…そして…立ち上がり死者の群れの一員になっていく。

『ガアァーーーーーッ!!』

白い獅子の咆哮が悲しくて響いていた…。

獣王王都近くでもあるアルルの村には近隣から逃げて来た人々が村の広場に集まっていた。
村では、ちょうどこの騒ぎの数日前に小麦粉の収穫を終えていたので食料に困る事は無かったし、逃げて来た人々の中には商人もいて王都である他国の姫君と王子の婚姻で賑やかになっている王都に野菜や食品を届ける為に移動している時に死者の群れに襲われた所を白銀に赤いメッシュが入った美しい少女に助けられ村に来たのだ。

「本当に助かりました…もうダメだと諦めた時に美しい方に助けて貰ったのです!きっとあの方は、神の御使様なのだと思います!」
「私達もです!本当に美しい青年でした!きっと神様の御使様です!」

広場では村人達が炊き出しをして逃げて来た人々にスープとパンを渡していた。
温かいスープを飲んでホッとしている時、村の入り口で見張りをしていた青年が叫んだ!

「みんな!来たぞ!!死者達がこちらに向かっている!!」
『!!!』

村長である老人が、その体からは信じられない程の大きな声で指示を出した!

「女、子供は家に入れ!男達は村の入り口に集合だ!!」
『おう!』
「大丈夫じゃ!この村は聖なる姫君が立ち寄り加護を授けて下さった村!邪な者は誰も入れん!!」
『おおおお!!』
「さぁ!皆動け!!」
『おお!!』

こうして男達が村の入り口に大きな松明を掲げていると村の10メートル先に白い獅子と、その後ろから死者の大群が村へゆっくり近付いて来る!

「あれは…白い雌獅子…まさか!まさか10年前に亡くなった王妃様か!?」
「村長…本当に?王妃様なのか??」
「ワシは8年前まで王都の近衛隊にいた…王妃様が亡くなって獅子の姿に戻られたのも見ておる…獣王陛下がずっと…ずっと探しておられた!!なんという事だ!!陛下がどれだけ悲しまれるか!!卑劣な!!」

白い獅子は口を赤く血で汚し…そして胸には青い大きな宝石が怪しく煌めいている。
白い雌獅子は村人の火を恐れもせず走り出し村の入り口へ向かって来た!!
その迫力に思わず村の男達の足が後ろに動いた!
雌獅子が村の簡素な木の門に入ろうとした瞬間!
その大きな体は見えない壁に弾かれた!!

『グガァァァァアア!!』
「!!!」

勢いよく弾かれた雌獅子だったが空中で一回転しスタッと地に着地した。

「おお!入って来れない!!ここには入って来られないぞ!!」
「やったー!!」

男達が歓声を上げた!
しかし、雌獅子は諦めないで何度も体をぶつけ始めた!
大きな音が響いて、透明な壁に光のヒビが小さく走り出した!!

「マズい!!このままだと結界が壊れてしまう!!」
「火を!火矢だ!火矢を射るんだ!!」

村長の言葉に男達が火矢を雌獅子に向かって射る!
しかし、その火矢は雌獅子に当たる前に雌獅子が風の魔法で弾いてしまった!

「クソォ~!諦めるな!!矢を!火矢を放て!!」

何度も何度も矢を放つも全て弾かれて透明な結界の壁のヒビは大きくなっていった!
もうダメかと思ったその時、あの勇気ある少年が塩壺を持って走って行き白い雌獅子に向かって塩壺ごと獅子に向かって投げた!!

「おととい来やがれ!!」

思いっきり塩を被ってしまった雌獅子は急に苦しみ出した!
塩が胸に輝く青い魔石に当たったのだ!
塩が当たった所から青い魔石に小さなヒビが走った!

『グガァ!』

そして雌獅子は逃げる様に村から離れて行った。
死人の大群も雌獅子を追う様にして村から離れて行く!
塩がばら撒かれた所を避ける様に死人達は村から遠ざかって行った…。
そして5時間かけて死人達が村から完全に見えない所に去った!!

「…行った…行ってしまった…。」
「ああ…行った…行ってしまった!!俺達!俺達は助かったんだ!!」
『うわぁぁぁーーーーっ!!』

男達の歓声が村に響いた!
その声を聞いた女達や子供達も家から出て来て泣きながら喜びあった!
あの勇気ある少年ハンスは大人達に胴上げされ、無茶をしてっと村長にゲンコツを貰い涙目になった所に母に泣きながら抱き締められた…。
こうしてアルル村の攻防は終わった。

「しかし、あの死者達は王都へ向かっている…王都は大丈夫だろうか…?」
「うむ…鳥を飛ばして知れせてはあるが…もう一度予備の鳥も飛ばして今の事も知らせておこう…王妃様がいた事も陛下に知らせよう!急ぎ手紙を書く!準備を頼む!!」
「はい!」

死者が王都に到着するまで…あと1日…。



王都では…。
グローディアス王国の姫君と獣王王国第2王子との婚姻の儀が執り行われる日となった!
王都は綺麗な青空が広がり朝早くから祝いの花々で通りが埋め尽くされ多くの人々が祭りの始まりを待つ様にパレードの見える場所取りで多くの人が大通りを歩いていた。
人出を見越した屋台からは美味しそうな匂いがあっちこっちで広がっていた。
警備をする騎士達も動いており王都は朝から賑やかな空気でいっぱいだ。
勿論、主役である千尋くんも早朝からドレスアップする為にローズから夜も明けない内から叩き起こされ入浴から始まり肌の手入れ、爪の手入れと準備に余念がない!
髪を結い上げられメイクを入念にされてからアース様渾身のウェディングドレスに着替えた。
純白のウェディングドレスはプリンセスなAラインタイプで胸から首までと肩から両手の甲まで繊細な刺繍に覆われている。ドレスの裾は腰から長く、ダイヤモンドと真珠のティアラを付けウェデングヴェールはマリアヴェールで清楚な感じで黒髪に映える。

「なんと…なんと可愛い花嫁だ!!ああ!本当に可愛いぞ!チ~ちゃん!!」
「エヘヘ…ありがとうママ…。」

千尋は朝からの準備だけで既に疲労困憊で目から光が消えている。
もうトラウマになりそうな感じでぐったりしていた。

「もう結婚式とか絶対しない!二度としない!偽りでもしないから!!」

そう固く決心をする千尋くんだった。
そこにドアをノックする音が響いてマリアンヌが返事をすると久し振りにアイリッシュ教会の枢機卿であるアーシュ卿とサクラ卿が入って来た。

「おお~これはこれは綺麗にお支度が出来ましたね!」
「本当に可愛い花嫁さんやな~!」
「アーシュ卿!サクラ卿!」
「本日の式は私が司祭を努めます…よろしくお願い致します!千尋様!」
「ウチは副司祭や、枢機卿が二人も出る婚姻の儀なんて滅多にないから皆驚くぞ~!」
「ははは…そうなんだ~」
「千尋様…今日で色々な事が片付きます!最後まで気を抜かずに頑張りましょう!」
「はーい…。」

そして!婚姻の儀が始まる刻限が来た!!
先に枢機卿達が教会に戻り、王家の人々が馬車で移動して最後に千尋の馬車が出発する事になっていて、マリアンヌにエスコートされて長い裾をローズが持ち長い城の回廊を歩く…。
正装した近衛騎士達が並ぶ回廊を抜けると教会へ行く馬車が用意されていた。
馬車も結婚式用に華やかに飾りを付けられている。
マリアンヌと一緒に幌のない馬車に乗って教会へ行く途中は大勢の人々が歓声を上げていた!
ヴェールを目深に被っているが千尋は歓声を上げている人々に応える様に小さく手をふった。
そうすると益々大きな歓声が上がり、それが教会まで続いていった。
馬車はゆっくり進んでアイリッシュ教会へ到着すると正装の白い典礼服を着た唯が緊張した顔で待っていた。
到着した花嫁を眩しそうに見て馬車から降りた姫君をエスコートする。
姫君は微笑んで唯殿下の腕に手を添えて、一緒に歩き出した。
可愛い姫君と凛々しい唯殿下が寄り添って歩くのを見た王国の民達は二人に声をかける!

「姫様~!お幸せに!!」
「唯殿下~!姫様を大事に!!」
「おめでとうございます!姫君!殿下!!」

そう声をかける民達の声に二人で振り向き照れながら手を振った!
それに更に大きな歓声が二人を包んだ!

そして、教会には獣王王国の貴族達が咳きひとつ上げずに待っていた。
王族席には獣王と宙殿下が一緒に座っていて、その横に公爵夫妻が座っている。
その反対側にマリアンヌ筆頭侯爵夫人が到着すると厳かに教会の鐘が鳴り始めた。
鐘の音が止むと今度はパイプオルガンの演奏が始まり教会のドアが開くと黒の枢機卿と白の枢機卿が一列に並びゆっくり祭壇へと進んで行き、祭壇の前の最上段に上がる。
そして、パイプオルガンの演奏が止まると黒の枢機卿が婚姻の儀を始める宣言をした!

「これよりレオニダス獣王王家獅子王唯殿下とグローディアス王家千尋・フォン・グロースディア姫の婚姻の儀を始める!」

アーシュ卿の宣言の後に再びパイプオルガンの演奏が響き出し教会の大きなドアが開き唯殿下にエスコートされた千尋姫の二人が祭壇へとゆっくり進んで行く。
純白のウェディングドレスの長く美しい裾を後ろに流して進む可愛い姫君と、少し緊張しているせいか固い顔をした唯殿下が貴族の令嬢達の憧れの溜め息を聞きながら祭壇へと進んでアーシュ卿の前で止まった。

「これより婚姻の宣言を行う…獅子王唯殿下、貴方は病める時も健やかな時もここにいる妻となる姫君を愛し守る事を誓いますか?」
「ち、誓います!」
「千尋姫、貴方は病める時も健やかな時もここにいる夫となる唯殿下を愛し支える事を誓いますか?」
「誓います。」
「ここに新たなる夫婦となる二人に婚姻の宣誓に従い契約の書にサインを頂く。」

そう言って祭壇の上に白の枢機卿が広げた契約の書に、それぞれが名前のサインをする。

「姫君…これは契約の書、本当の名前を書かなければ効力がありません…いいですか?」
「…はい、分かりました!」

唯殿下のサインの下に千尋はで“佐山千尋”と書いた。
契約の書が光り二人を祝福する様に天井から金色の光がキラキラ光りながら降って来る。

「主神様が認めた…これをもって婚姻の契約は結ばれた!!若き二人に祝福あれ!!」

そうアーシュ卿が宣言すると教会の鐘が厳かに鳴り響いた!!
そして、アーシュ卿が再び二人に向かい声をかけた。

「では、最後に殿下から姫君に祝福のキスを!」
「!!」

向かい合った二人は唯殿下が震える手で姫君のヴェールを上げた!
可愛い…いや今日は美しい姫君が顔を上げて、そっと瞳を閉じた。
その可愛いピンクの唇にキスをしようと、唯がそっと顔を近づけた時!
教会の大きなドアを激しく開き南方騎士団の騎士が大きな声を上げて入って来た!!

「大変です!!南門に!南門に死者の群勢が押し寄せて来ています!!しかも、先頭は白い!白い雌獅子です!!至急!応援をお願いします!!!」

教会は騒然とした空気が広がった!



続く!!

お気に入り、お読み頂きありがとうございます!
続きは明日更新しますよ~!

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