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第四章 学園編・1年後半

第168話 学園祭が始まった

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 そうして迎えた学園祭当日。学園のあちこちに看板やら花やらがいろいろ飾られており、いつもとは違った雰囲気になっていた。
「うひゃーっ、これが乙女ゲームの世界の実際の学園祭かーっ!」
 エスカが頭おかしいと言われそうな単語を発している。興奮するのは分かるけれども、ちょっとはしゃぎ過ぎかしらね。
 ちなみに私はエスカと一緒に普通に学園にやって来た。私が関わる出し物はないもの。剣術大会は午後からだし、午前中にゆっくり出て来れたのよ。
「モモは早く出ていったのに、アンマリアはゆっくりでしたね」
「モモは出店の手伝いがあるからよ。私には何一つ手伝わさせてくれなかったわ。まあ、ボンジール商会の手伝いですから、今頃はサキと一緒に居ると思いますよ」
「まあ、アンマリアは除け者にされたというよりは、剣術大会に早くから興味を示していたようだし、気を遣ったといった方が正解かしらね」
「ええ、おそらくは」
 モモは何かとアンマリアを優先してくれるところがある。多分、両親の暴力的な背景から逃れられた恩というのがあるのだろう。両親はテトリバー男爵家への嫌がらせによる自業自得だし、娘であるモモが八つ当たりされる筋合いはないわけだものね。助けて当然だと思うわ。
「そういうわけで、武術大会の会場に向かう前に、モモたちに会っておきましょうかしらね」
「それは賛成ね」
 そんなわけで、学園にやって来た私たちは、モモたちが出店している場所へとまずは向かったのだった。
 モモたちはボンジール商会と共同で出店をしている。場所は武術型と魔法型の講義棟の間で、悪くはない立地だった。
 私たちが来た頃にはほぼ設営が終わっており、いつでも商売ができるような状態になっていた。
「あっ、お姉様ーっ!」
 私たちに気が付いたモモが大声で呼んでくる。私はそれに対して手を振って答えた。
「これはアンマリア様。お久しゅうございます」
「改まった言い方はよろしくてよ。それよりも、一体何を出品しているのかしら」
 ギーモの挨拶に対して、少々冷たくあしらう私。
「ははは、そちらに興味がございますか。今回の目玉はこれでございます」
 ギーモが指し示した場所には何やら小さな板が置いてあり、その真ん中には魔石が取り付けられていた。一体何なのだろうか。
「こちらは今回の目玉商品であります、『魔石懐炉』でございます」
「カイロ?」
 ギーモの言葉に、私だけではなくエスカも反応する。
「カイロっていったらあれよね? 懐とかに入れて体を温めるやつ」
 エスカがタメ口で聞いてくる。
「はい、その通りでございます!」
 ギーモが大げさなくらい大きな声で反応している。
「先日、アンマリア様が仰られた『懐ばかり温めて』という言葉で閃いたのです。そこで火の魔法がお得意であられるモモ様にお手伝い頂きまして、完成させたものになるのです!」
「あ、あの言葉で?!」
 まさか先日の私の愚痴からこんなものを思いつくとは……。さすがは商人といったところだった。
 それにしても、確かにモモは火の魔法が得意だから人選も間違っていない。なにせ、コンロやストーブだってモモの魔法で作られているのだから。
「学生の方だけではなく、騎士団の方々もあると助かると思います。きっとこの懐炉は大ヒット商品となるでしょう!」
 ギーモは大した自信である。まったく、どこから来るのよ、その自信は……。
「そ、そうですか。私は剣術大会の事前招集がありますので、これにて失礼致しますわ。モモ、頑張ってね」
「はい。お姉様の方こそ、頑張って下さい」
 私たちは互いに挨拶を交わすと、そそくさとその場を去って武術型の講義棟へと向かった。
「えっと、ここですわね」
 エスカと一緒にやって来たのは、なんとミスミ教官の部屋だった。ミスミ教官は騎士団所属という事もあって、今回の剣術大会の責任者になっているのだった。なので、剣術大会の参加者の一人である私は、まずはミスミ教官に挨拶するために部屋に向かったというわけである。
「失礼致します」
 私はノックをして部屋の中に声を掛ける。
「おお、その声はアンマリアか。入ってこい」
 うっわ、すっかり声を覚えられちゃってるわ。
「改めて失礼致します」
 内心ビビりながらも、私は部屋に入ってミスミ教官の前に立った。
「魔法型からの参加、喜ばしく思うぞ。対戦表は講義で使っている訓練場の前に貼り出してある。試合が行われるのはその隣の闘技場だ。間違えるなよ?」
「はい、承知致しました」
 ミスミ教官の言葉に、私は元気よく返事をする。それを聞いたミスミ教官は、隣のエスカにも目を向ける。
「エスカ・ミール王女殿下か。君の兄であるアーサリー・ミール王子殿下も参加される。できればしっかり応援してあげたまえ」
「はい」
「いい返事だ。では、期待しておるぞ、アンマリア・ファッティ嬢?」
 怖いばかりの笑みを送られて、私たちはミスミ教官の部屋を出た。そして、深呼吸ひとつすると、訓練場の方へと向かうのだった。
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