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第四章 学園編・1年後半
第170話 ええ対決
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国王が出席しての開会式が終わる。
みんなの注目が集まる中、早速第4試合の私の出番が回ってきた。目の前に立つのはミール王国の王子であるアーサリーだ。相変わらず人の悪そうな人相をしていて、これで王子かと言いたくなる態度である。
「はっ、相手が悪かったな、アンマリア」
試合用の刃を潰した剣を手のひらにぺちぺちと打ち付けながら、アーサリーは気持ち悪く笑っている。これが本当に王子っていうんだからね。さすがは海賊の子孫といったところかしら。
「いけーっ、お兄様なんてこてんぱんにされちゃえーっ!」
「エスカ、お前はどっちの応援をしてるんだよ!」
エスカの声にアーサリーが怒鳴る。そりゃねえ、妹から負けろって叫ばれてるんだから、怒るわよね……。
アーサリーはかなりご立腹ながらも、私に向き合って剣を構える。その構えを見る限りは、アーサリーもちゃんと鍛錬を積んできた事が読み取れた。
「覚悟しろよ。いくらこのサーロインの王子の婚約者とはいえ、太った女ごときにやられてたまるものか。……一瞬で決めてやる!」
「ふふっ、いい目ですわね」
アーサリーの構えにも、私は余裕だった。
私たちが睨み合う中、いよいよその時がやって来た。
「始め!」
審判をしている男性教官が号令を掛ける。
それと同時に、アーサリーは私へと突っ込んできた。
さて、どうしたものか。八角形の結界が囲む中では、一切の魔法の使用が禁止される。そして、その結界から外に出ると場外として負けになる。
会場に居る誰しもが、体重約100kgの私が何もできるわけがないと思っているだろう。
否、それができちゃうのよね。
普段から庭いじりに剣の素振りをしているし、後期に入ってからはミスミ教官の担当する交流授業を受けている。これだけ努力をしている私を、ただのデブだと思ってくれるなというものよ。
私はアーサリーの動きに合わせて、構えを取る。アーサリーは特に捻りもなく正面から力一杯剣を振り下ろしてきた。
キーンと金属がぶつかり合う音が響き渡る。
私はアーサリーの振り下ろした剣をきっちりと受け止めていた。
「はっ、ただのデブってわけじゃねえんだな。おもしれえが、その体格でいつまで耐えられるかな?」
アーサリーはそう言うと、ちょこまかと結界の中で走り始めた。さすがに魔法の使えないこの状況下では、実際に目で追うしかない。私の体格では振り向く事もままならないから大変だった。下手に体を捻ろうものなら、そのまま倒れちゃうもの。
だけども、それだからこそ、アーサリーの行動は丸分かりだった。
「なにっ?!」
甲高い音と共に、アーサリーの驚きの声が響き渡る。同時に会場からも驚きの声が上がっている。
それもそうだろう。私が完全に死角になっていた位置からのアーサリーの攻撃を受け止めたからだ。私が自由に動けないのなら、当然ながらそれは背後に多くの死角を持つ事になる。だったら、そこから攻撃を仕掛けてくる事など、容易に想像がつくというものだった。問題があるとすれば、その攻撃が高い位置からか低い位置からかという事だけだったのだ。
そして、私が読んだ通り、アーサリーは高い位置から攻撃を加えてきたので対処できたというわけ。そこまで驚く事じゃないわ。ちょっとした心理を突けば、こんなものは誰でも予想できる事なんだから。
「この程度で驚かれるなんて、甘いのではございません?」
「なんだと?!」
私がにやりと笑うと、アーサリーはさらに驚愕の表情を浮かべる。私に攻撃を止められただけで動きが止まるだなんて、甘いですわね。よくその程度で、ギガンテスを相手にできましたわよ。
キンと私がアーサリーの剣を払うと、驚いたままのアーサリーはそのまま体勢を崩してしまった。私は容赦なくそこへと剣を振りかざした。
「ぐっ!」
アーサリーは、驚きをまだ引き摺っておりまったく動けない。そして、私の剣はアーサリーの左肩の手前でぴたりと止められたのだった。
「さあ、アーサリー殿下、どうされますか?」
私は剣を振り下ろしたまま、じっとアーサリーを見つめている。アーサリーは何も言おうとしない。私に負けたなんて、とても認めたくないのでしょうね。太っただのデブだの散々言いまくっていたのだから、自分のプライドも相まってそれを口にしたくもないのだろう。
だが、現実は非情だった。
「そこまで、勝者アンマリア!」
審判による私の勝ちの認定である。
この宣言が出た事で、会場にはどよめきが響いている。その中でエスカは王女らしからぬ様子でピョンピョンと大げさに喜んでいた。こんな王女で大丈夫かしらね、ミール王国って……。
「俺が……負けた? こんな太った令嬢ごときに?」
アーサリーはその場に崩れ落ちてぶつぶつと言っている。私は剣を収めると、アーサリーに声を掛ける。
「試合としてはですわね。アーサリー殿下は行動が読め過ぎたのが敗因です。相手が格下だろうともう少し確実に仕留められるように動いていたら、勝負は分かりませんでしたわ」
そして、すっとしゃがみ込んでアーサリーに言う。
「殿下は私に負けたんじゃありません。驕る自分自身に負けたのですわよ」
「……」
私の言葉に、アーサリーはしばらく落ち込んで動けずにいた。
「仕方ありませんわね」
私がアーサリーをひょいと抱え上げる。
「な、何をするんだ! 不敬だぞ!」
「いつまでもここでくすぶってられると邪魔なのですわよ。次の試合がありますから、さっさと移動致しましょう」
「下ろせ、自分で歩ける、歩けるんだ!」
騒ぐアーサリーが鬱陶しかったけれども、私は気にせずにそのままアーサリーを抱えたまま会場から出ていったのだった。
※ タイトルの「ええ」は、アンマリアとアーサリーのイニシャルである「A」を並べただけでございます。
みんなの注目が集まる中、早速第4試合の私の出番が回ってきた。目の前に立つのはミール王国の王子であるアーサリーだ。相変わらず人の悪そうな人相をしていて、これで王子かと言いたくなる態度である。
「はっ、相手が悪かったな、アンマリア」
試合用の刃を潰した剣を手のひらにぺちぺちと打ち付けながら、アーサリーは気持ち悪く笑っている。これが本当に王子っていうんだからね。さすがは海賊の子孫といったところかしら。
「いけーっ、お兄様なんてこてんぱんにされちゃえーっ!」
「エスカ、お前はどっちの応援をしてるんだよ!」
エスカの声にアーサリーが怒鳴る。そりゃねえ、妹から負けろって叫ばれてるんだから、怒るわよね……。
アーサリーはかなりご立腹ながらも、私に向き合って剣を構える。その構えを見る限りは、アーサリーもちゃんと鍛錬を積んできた事が読み取れた。
「覚悟しろよ。いくらこのサーロインの王子の婚約者とはいえ、太った女ごときにやられてたまるものか。……一瞬で決めてやる!」
「ふふっ、いい目ですわね」
アーサリーの構えにも、私は余裕だった。
私たちが睨み合う中、いよいよその時がやって来た。
「始め!」
審判をしている男性教官が号令を掛ける。
それと同時に、アーサリーは私へと突っ込んできた。
さて、どうしたものか。八角形の結界が囲む中では、一切の魔法の使用が禁止される。そして、その結界から外に出ると場外として負けになる。
会場に居る誰しもが、体重約100kgの私が何もできるわけがないと思っているだろう。
否、それができちゃうのよね。
普段から庭いじりに剣の素振りをしているし、後期に入ってからはミスミ教官の担当する交流授業を受けている。これだけ努力をしている私を、ただのデブだと思ってくれるなというものよ。
私はアーサリーの動きに合わせて、構えを取る。アーサリーは特に捻りもなく正面から力一杯剣を振り下ろしてきた。
キーンと金属がぶつかり合う音が響き渡る。
私はアーサリーの振り下ろした剣をきっちりと受け止めていた。
「はっ、ただのデブってわけじゃねえんだな。おもしれえが、その体格でいつまで耐えられるかな?」
アーサリーはそう言うと、ちょこまかと結界の中で走り始めた。さすがに魔法の使えないこの状況下では、実際に目で追うしかない。私の体格では振り向く事もままならないから大変だった。下手に体を捻ろうものなら、そのまま倒れちゃうもの。
だけども、それだからこそ、アーサリーの行動は丸分かりだった。
「なにっ?!」
甲高い音と共に、アーサリーの驚きの声が響き渡る。同時に会場からも驚きの声が上がっている。
それもそうだろう。私が完全に死角になっていた位置からのアーサリーの攻撃を受け止めたからだ。私が自由に動けないのなら、当然ながらそれは背後に多くの死角を持つ事になる。だったら、そこから攻撃を仕掛けてくる事など、容易に想像がつくというものだった。問題があるとすれば、その攻撃が高い位置からか低い位置からかという事だけだったのだ。
そして、私が読んだ通り、アーサリーは高い位置から攻撃を加えてきたので対処できたというわけ。そこまで驚く事じゃないわ。ちょっとした心理を突けば、こんなものは誰でも予想できる事なんだから。
「この程度で驚かれるなんて、甘いのではございません?」
「なんだと?!」
私がにやりと笑うと、アーサリーはさらに驚愕の表情を浮かべる。私に攻撃を止められただけで動きが止まるだなんて、甘いですわね。よくその程度で、ギガンテスを相手にできましたわよ。
キンと私がアーサリーの剣を払うと、驚いたままのアーサリーはそのまま体勢を崩してしまった。私は容赦なくそこへと剣を振りかざした。
「ぐっ!」
アーサリーは、驚きをまだ引き摺っておりまったく動けない。そして、私の剣はアーサリーの左肩の手前でぴたりと止められたのだった。
「さあ、アーサリー殿下、どうされますか?」
私は剣を振り下ろしたまま、じっとアーサリーを見つめている。アーサリーは何も言おうとしない。私に負けたなんて、とても認めたくないのでしょうね。太っただのデブだの散々言いまくっていたのだから、自分のプライドも相まってそれを口にしたくもないのだろう。
だが、現実は非情だった。
「そこまで、勝者アンマリア!」
審判による私の勝ちの認定である。
この宣言が出た事で、会場にはどよめきが響いている。その中でエスカは王女らしからぬ様子でピョンピョンと大げさに喜んでいた。こんな王女で大丈夫かしらね、ミール王国って……。
「俺が……負けた? こんな太った令嬢ごときに?」
アーサリーはその場に崩れ落ちてぶつぶつと言っている。私は剣を収めると、アーサリーに声を掛ける。
「試合としてはですわね。アーサリー殿下は行動が読め過ぎたのが敗因です。相手が格下だろうともう少し確実に仕留められるように動いていたら、勝負は分かりませんでしたわ」
そして、すっとしゃがみ込んでアーサリーに言う。
「殿下は私に負けたんじゃありません。驕る自分自身に負けたのですわよ」
「……」
私の言葉に、アーサリーはしばらく落ち込んで動けずにいた。
「仕方ありませんわね」
私がアーサリーをひょいと抱え上げる。
「な、何をするんだ! 不敬だぞ!」
「いつまでもここでくすぶってられると邪魔なのですわよ。次の試合がありますから、さっさと移動致しましょう」
「下ろせ、自分で歩ける、歩けるんだ!」
騒ぐアーサリーが鬱陶しかったけれども、私は気にせずにそのままアーサリーを抱えたまま会場から出ていったのだった。
※ タイトルの「ええ」は、アンマリアとアーサリーのイニシャルである「A」を並べただけでございます。
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