ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第4話 部活動紹介

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 入学式から帰宅した栞は、部屋で草利中学校の噂に関する資料を見直していた。A4サイズの紙で80枚はあろうかという分厚い資料ではあるが、栞は黙々と順番に目を通している。
 しかし、そこに書かれていた内容は本当に意外なものだった。
(いじめや裏サイトに関しては、まったくと言っていいほど記述がない。うまく隠してるのか、把握できていないのかは分からないけど、現状学生たちに関しては平和だと見ていいのかしらね)
 大なり小なり存在はしているだろういじめや教師からの暴力といったものが、ほぼまったく記述されていなかった。これはちょっと意外である。
 部活動に力を入れているのなら、叱咤激励に見せかけたものもあるかと思いきや、そういったものもなさそうである。
(これはこれで興味深いわね。私の通っていた中学校とは違うせいもあるけど、これは楽しみね)
 ひと通り資料を確認し終えた栞は、ノートに簡単にまとめておく。さすがに機密書類を持ち歩くわけにはいかない。
「明日は部活動紹介があるわね。どの部活にしようかしら……」
 夕食にお風呂も済ませてさっぱりした栞は、そんな事を考えながらベッドに身を放り投げる。
「さすがに陸上部は避けておこうかしらね。下手に同級生とかに顔を合わせたら、かつらを着けてるとはいえ、ばれそうで怖いわ」
 悶々と考え事をしながら、栞はそのまま眠りにつくのだった。

 翌日、昨日と同じように支度を済ませた栞は、自転車で颯爽と登校する。
 自転車を降りて駐輪場に停めると、下足場に向けて歩き始める。グラウンド側に植えられた花は今日も奇麗に咲いている。
 と、よく見ると花の手入れをしている人が居る。なので栞は、
「おはようございます」
 何気に挨拶をする。
 ところが、その人物が振り返った時、栞にとんでもない衝撃が走った。
「な、な、な……っ!! ち、ち、ちっ、千夏?!」
 振り向いた人物はなんと、幼馴染みで同僚の南千夏だった。予想外の人物の登場に、栞は後ずさってこけそうになった。
「酷い驚き様ね。教員側にも送り込んだ事は聞いてるんでしょ?」
「あー、なんかそういう話あったわね……」
 実は準備の間に市役所の市長や課長、警察署の水崎警部とのやり取りの中で、教員側からの調査も同時並行する事は聞いていた。だが、
「千夏だとは聞いてないわよ」
 という感じに名前を聞かされていなかったので、栞が面食らうのも無理はなかった。
「あはは、そうなんだ。……っと、あまり親しくしているところを見られるわけにもいかないわね。何かあったらLISEしてね。知ってるでしょ?」
 千夏が周りを見て小声で栞に話し掛ける。
「まあ、アカウントは知ってるけど。……とにかく分かったわ。そっちもそうしてよ?」
 栞は千夏をジト目で睨みつける。千夏の方はその栞の視線に慣れているのか、まったく堪える様子もなくあっけらかんとしている。
「反応を見るに、本当に聞かされてなかったみたいね。学校に居る間は、私の事は『南先生』って呼んでちょうだいよね」
「はいはい、分かったわよ」
 千夏の言葉に、栞は渋々頷いていた。
 そして、ホームルームの時間が迫っている事から、放課後に会う約束だけして先を急ぐのだった。

 ホームルームが終わると、一年生は体育館に集合させられていた。これから部活動紹介が始まるのである。
 その中で栞は、周りをきょろきょろと見回していた。部活動紹介を目を輝かせて期待を寄せる者、体育館での集会に退屈であくびを連発する者など、様々な生徒たちの反応が見える。
 しばらく待たされた後、生徒会長が壇上へと上がり、いよいよ部活動紹介が始まった。多くの新入生を獲得しようと、各部活ともに気合いの入った様子である。
 狭い壇上で精一杯のパフォーマンスをしたり、熱のこもった紹介文を読み上げたり、どの部活にも必死さが窺える。
 20~30はあろうかという部活動だったが、思ったよりは長く感じられなかった。二度目の中学生なので、栞は部活に対して少々冷めていたが、やっぱり昔していた部活にはちょっと興味を惹かれたようである。
 さて、部活動紹介が終わったので、一年生はすぐさま移動となった。この後は、身体測定と教科書配布が同時並行で行われる。
(ううう……、昔からだけど、身体測定だけはいつも憂鬱になるのよね)
 栞の表情がすこぶる曇っていた。というのも無理はない。中学生になって以降の栞の体形は面白いくらいに変化がなかったからだ。顔は童顔、身長は低いまま、胸も微々たるもの、周りはみんな大きくなっていくので取り残されたような感覚に陥ったものである。
 さて、身体測定と教科書の配布は、6組あるクラスを半々に分けてそれぞれに行われる。栞のクラスは教科書配布の方が先に行われる。
 5組であるので、順番が回ってくるまでにはしばらく時間があったので、栞は物思いにふける事にした。
 ところがどっこい、栞は突然前の席のポニーテールの少女に声を掛けられた。栞の席は列の一番前ではなかったのだ。
「あの、高石さん」
「はい?」
「ホームルームが終わったら、一緒に部活を見て回りませんか?」
 栞は面食らっていた。
 確かに今日は全学年とも午前中で授業が終わる。一年生以外は普通に部活をするはずなので、おそらく部活動紹介もあった事だし見学は可能だと思われる。
 ところがだ。昨日知り合ったばかりのクラスメイト、しかも自分より10も年下の相手と一緒に行動をするのは、なかなかにハードルが高いものである。
 この中学校を調査するという名目で来ている以上、変に仲良くするのは避けたいところだ。少しばかり悩んだものの、
「うん、ちょっとくらいならいいよ」
 と申し出を了承する。すると、相手の少女の顔が明るくなった。
「ありがとう。私は水崎真彩すいさきまあやといいます。よろしくね、高石さん」
「私は……」
 自己紹介されたので、お返しに名乗ろうとする栞。
「高石栞さんですよね。昨日の自己紹介がとても印象的でしたから、覚えていますよ」
 名乗るよりも先に真彩にこう言われてしまった。どこがそんなに印象的だったのか、栞は首を傾げた。
「だって、この中学校の位置を考えると茂森小の出身って珍しいですから」
「あ、そっか」
 栞は納得した。茂森小学校の学区はこの草利中学校の校区内から外れていたのだ。なにせ栞の家から自転車で30分は掛かる場所。離れすぎていたのである。これで印象に残るなという方が無理であった。
 しかし、珍しい割には誰も話し掛けてこない。この事に栞は疑問を感じた。
「でも、私に話し掛けてきたの、水崎さんが初めてですよ?」
「それは、高石さんが昨日さっさと帰ってしまったからじゃないですかね。一人を好む一匹狼だと思っちゃったのかも」
「あー、なるほど……」
 昨日は帰宅を促されてたとはいえ、それでも結構な一年生が残っていた。そんな中、誰とも絡まずにさっさと家に帰ってしまった栞。そっか、それで声が掛けづらくなってたのかと妙に納得してしまった。
「うーん、ごめんなさい。昨日は考え事してたのでつい。でも、それは勘違いなのでじゃんじゃん話し掛けてもらって大丈夫ですよ」
 どこか申し訳なさそうにしている真彩に、栞は笑顔で弁明した。
「そうなんですね、よかった。……あっ、ごめんなさい、友だちが呼んでるので行きますね。また後でお話ししましょう」
「ええ、また後でね」
 そう言って真彩は友だちの方へと移動していった。
 それから間を置かずして、教科書を取りに行くようにという伝言が伝えられる。栞たちはがたがたと立ち上がって、教室を出て行った。
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