ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第8話 調部長と軽部副部長

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「私が草利中学校新聞部の部長、調鳥子しらべとりこです」
 すらりとした背筋に整った顔立ち。見るからに美人と呼ぶにふさわしいきれいな人物である。椅子に座る姿も実に決まっている。
(なんかこう……、できる秘書って感じね!)
 栞と真彩は、その姿に思わず見惚れている。
「さて、我が新聞部に見学に来られた事を大変歓迎致します。なので早速、部の活動内容などについて説明させて頂きます」
 調部長はそう言うと、別の机に置いてあるデスクトップパソコンのところに移動する。そして、カチャカチャと何やら操作し始めた。
「そちらにある大きなモニターにパソコンの画面を出しますので、そのままそっちを見ていて下さい」
 調部長がマウスを動かしながら、とあるファイルをダブルクリックして開いた。すると、栞たちの前にある大きなモニターに、何やら動画が映し出された。
『草利中学校新聞部の部活動について』
 この文言が流れる。声は調部長のようで、どうやら部活動紹介の動画のようである。はてと思った栞だったが、とりあえず動画を最後まで鑑賞する。時間にしてものの5分。実に分かりやすい形でまとめられており、栞たちは一発で理解する事ができた。
「いかがでしたか? 質問があれば受け付けますよ」
 動画の再生が終わると、調部長が言葉を投げ掛ける。それを受けて、栞がひとつ質問する。
「もしやと思ったのですが、部活動紹介には出てられませんでしたよね?」
 確認の質問だった。それに対して調部長はニコッと笑う。
「はい、確かに部活動紹介には出ておりませんでした。というのも、この動画を使いたかったですが、体育館での使用許可が下りなかったからです。ですので、動画が使えないならという事で、部活動紹介には不参加だったのです」
 またこれは理不尽な理由だった。部活動に力を入れているのに、その部活動で作った物が使えないとは、実に理解できなかった。
 そこで、栞が思い至ったのが顧問の存在だった。顧問の力不足で通らなかったとは限らないだろうか。そこで、栞は調部長に質問をぶつけた。
「あの、部活動なら顧問の先生がいらっしゃいますよね?」
 この質問に、調部長はちょっと表情を曇らせた。ひょっとしてまずい質問だったのだろうか。
「はい、いらっしゃるにはいらっしゃいますが、実は一度もお見かけした事ないんです。名前を見ても分からないかも知れないですが、この方、この草利中学校の校長先生なんです」
「はい?」
 栞はそう言って固まった。真彩も口に手を当てて、大口を開けて驚いている。新聞部の部長は、あろうことか校長先生なのである。しかし、顧問でありながら一度も部活動に、それどころか部員との面識もないとは普通はあり得る話ではなかった。
 調部長は、二人の様子に構わず話を続ける。
「一応、メールでのやり取りはしています。記事の確認もして頂いてますし、校長先生から合格を頂けなければ、記事は書き直しなんですよ」
 そう言って、調部長は新聞部が発行しているネット新聞を見せてくれる。『草利行脚新聞くさりあんぎゃしんぶん』という名前らしい。ホームページではバックナンバーも確認できるようで、浦見市にまつわる事を取材して記事にしているようだ。さすがは学生の作る新聞、普通の新聞とはだいぶ着眼点などが独特である。
 栞と真彩はこの新聞をじっくり見ていたのだが、なんだか途中から真彩の様子がおかしくなっていく。
「栞ちゃん、決めた」
「ま、まーちゃん?」
「私、新聞部に入るわ」
 そうやって真彩が叫ぶと同時に、部室の扉が開いて男子学生が入ってきた。関係者だろうか。
「おお、これは真新しい制服、一年生かい? ここに居るって事は新入部員かな? いやぁ、歓迎するよ」
 入ってきた男子学生が嬉しそうな声色で何か言っている。だが、言葉の内容から、やはり新聞部の部員のようである。
「ええ、待ちに待った新入部員ですよ」
 調部長は表情を一切変えない。そして、男子部員を睨んだ。
「それはそうと、軽部副部長。部室に入る時にはノックをするように、毎度言ってるではないですか。どうしていつもそう適当なんですか、あなたは」
 調部長のお小言である。しかしながら、
「いやぁ、すまないすまない。次からは気を付けるよ」
 と、軽部副部長は笑って済ませていた。
 このやり取りに呆気に取られている栞に、隣に座る真彩が話し掛けてきた。
「ねえ、栞ちゃん」
「えっ、何?」
「今後の調査のために、ここに所属していた方がいいと思うよ。陸上部もあって大変だと思うけど」
 真彩のこの言葉に、栞はちょっと心が揺れる。軽部副部長には引いたものの、調部長と新聞部の活動は信用できる感じがしたし、新聞部の活動を装っていれば、相手に質問がしやすくなると考えた。
 軽部副部長にお小言を言っている調部長は、この二人のやり取りに気が付いていたようで、頃合いを見計らって二人に話し掛ける。
「……どうやら気持ちは固まったようですね」
 そういう調部長の手には、入部届の用紙が二枚握られていた。なんて用意のいい事なのだろうか。だが、正直言って、栞にはまだ悩むところがあった。
「あの、陸上部にも入部したばかりですけれど、大丈夫ですか?」
 そう言った栞に、調部長は人差し指を立てて左右に振りながら言う。
「愚問ですね。部活動には最低5人必要なのですが、この部には現在、私と軽部副部長しか居ません。それがどういう意味か分かりますね?」
「……部活として成立しない」
「そういう事です。掛け持ちは禁止されていませんし、在籍だけでも歓迎しますよ」
 調部長はにこりと微笑んだ。
「という事は、もう一人必要なんですね」
 黙っていた真彩が反応する。
「まぁそうなんですよね。知り合いあたりに声を掛けてみましたが、誰もかしこも反応が悪いんですよ」
 調部長が軽部副部長を見ながら言っている。
「ですので、誰でもいいので形だけでもいいですし、部の存続のために力を貸してほしい次第です」
 調部長の言葉に、真彩はスマホを取り出して誰かに連絡を取る。
 それからしばらく、調部長の話を聞きながら過ごしていると、廊下からバタバタという足音が聞こえてきた。そして、部室の前でぴたりと止まると、ひと呼吸おいて扉を叩く音が響いた。
「どうぞ」
 調部長がこう反応すると、勢い良く扉が開いた。
「おい、真彩! 急用って何の用だよ!」
 現れたのは、真新しい制服を着た男子学生だった。どことなく真彩と似た雰囲気を持つ男子学生は、かなり走ってきたのか息が上がっていた。
まさる、早かったわね」
 真彩は入ってきた男子学生に声を掛けると、調部長の方を向く。
「私の双子の弟の勝です。新聞部の存続のためにお貸しします」
「おい、貸すってなんだよ。勝手に決めるな!」
 勝が怒鳴っているが、真彩はそれに構わず近付いていく。そして、勝の耳元で何かぼそぼそと呟くと、さっきまでうるさかった勝が段々とおとなしくなった。
「勝も入ると言っています。これで安心ですね」
 くるっと振り返った真彩は、それは会心の笑顔だった。一体何を言ったのだろうか。
「ありがとうございます。これで新聞部の部員が5人になって、無事に部が存続できます」
 調部長も頭を下げてお礼を言うほど嬉しそうにしている。この後は、3人そろって加入届に記入して解散となった。
 こうして、栞と水崎姉弟は新聞部に所属する事になったのだった。
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