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第64話 夏祭り
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あっという間にその日はやって来てしまった。時期は8月の中旬、世間的にはお盆と呼ばれる時期だ。
「いい天気ですね。さて、みなさん。ちゃんと準備はしてきましたか?」
駅前の集合場所で、調部長たちは栞たちに声を掛けている。夏祭りを手伝うとはいっても、やる事自体は実に多岐に渡っている。イベントやら出店などの情報と共に、用意しておいてほしい物が調部長からLISEで回ってきていた。調部長は集まるなり、その確認をしているというわけである。
しかしながら、今の新聞部のメンバーは軽部副部長以外は特に心配するような点はなかった。その軽部副部長もちゃんと準備してきているあたり、懸念材料はないようである。
こうして、集合時点での確認が終わると、栞たちは会場となる浦見市駅前商店街へと移動を始めた。
商店街へとやって来ると、その入口には見覚えのある男性が立っていた。浦見市駅前商店街の会長だった。
「いやぁみなさん、お久しぶりですね。本日はこの商店街のためにわざわざ来て下さり、誠にありがとうございます」
すごくご機嫌に挨拶をしてくる。予想外ににこにことしながら丁寧な言葉遣いで挨拶してくる会長に、栞と調部長は思わず引いてしまった。二人は以前の取材の際に先立って会っており、その時の態度のイメージがしっかりあるからである。ところが、この二人の態度は他の面々からは不思議がられてしまった。丁寧に接していた時の事しか知らないので、まあそうなってしまうのも無理はなかった。
さて、無事に挨拶を終えると、調部長が早速お手伝いの内容を確認している。その確認を終えた調部長はてきぱきと役割分担を決めていた。
調部長と栞、軽部副部長と真彩、詩音とカルディという組み合わせで今日は進めていく事となった。栞と調部長は積極的な協力者だし、カルディは調部長と詩音のボディーガードだ。こういう組み合わせしかなかったのである。気合いを入れた一同は、いざそれぞれの持ち場へと移動していく。
こうして、新聞部の夏祭りは始まりを告げたのである。
栞と調部長は、今現在会長の手伝いをしている。というのも、会長が二人に話があると持ち掛けたからだ。裏方の仕事をしながら、会長が話し掛けてきた。
「いやぁ、バーディアのお嬢様とこうやってご一緒できるとは、感激の極みですよ」
会長がジーンと感動しながら話していると、
「……今はその名で呼ばないで下さい。今の私は秘密裏に行動しているのです。素性を広げるような真似は慎んで下さい」
調部長は明確な不機嫌を示している。その表情から殺気が漏れ出しており、会長は怯んでしまっていた。さすがは方向転換しても、ギャングの血には抗えないようだ。
「ひっ、も、申し訳……ございません」
会長はただ謝る事しかできなかった。
「まあ、私もあそこで名前を明かしたのは迂闊でしたね。関係者を見つけた喜びに、私も焦ってしまったんでしょうね。なにぶん、二年間も過ぎてしまっていましたから」
調部長は反省するような表情を見せている。落ち着いているように見えても、責任感からくる焦りというものは相当のものだったようである。
「ただ、正直いってあの時の態度は、到底許せるものではありませんよ?」
額を押さえながら、会長を睨む調部長。その雰囲気に思わず飲み込まれてしまっていた。
「確かに、会長さんの普段の素行は褒められたものじゃありませんものね。私だって市役所で何度怒鳴られた事か……。本当に、来る度に何かしら怒鳴って帰るのはやめて下さいね?」
栞は追い打ちを掛けるように、市役所で怒鳴られた経験をぶちまける。調部長から睨まれて弱っていた会長は、栞にも謝る事しかできなかった。
「す、すまない。その事についてはここで謝る。だから許してくれ」
会長は焦ってそんな事を言っていたが、栞にはそんなつもりはまったくない。
「嫌ですよ? 許してほしいのでしたら、今後市役所で怒鳴るのはやめて下さい。私、就職したての頃に心折られかけたんですからね?」
栞の顔に血管マークが浮かんでいる。栞からの証言で、調部長もより一層呆れてしまったようだ。本当にダメな人のようだ、この会長さんは。
「本当に、本当に悪かった。お詫びついでにひとつ、俺の方からとっておきの情報を教えるから、もう勘弁してくれ」
「……内容によりますね」
調部長も容赦はなかった。ただじゃ許す気は無いらしい。
「じ、実は、この商店街を立て直した中心メンバーは、俺と同じ四方津組の元組員なんだ。お嬢たちが求めている答えは、もしかしたら誰かが持っているかも知れない。だが、俺の持っている情報はここまでだ。メンバーが誰かは教えられるが、あいつらも素性を隠して生活している身だ。分かってくれるだろ?」
何ともちょっとした有益な情報である。元四方津組の組員であるなら、噂に関しての情報を持っている可能性は確かにありそうだった。
ちなみに先日の取材の時の花屋の一件でも、会長は相談を受けていたらしい。だからこそ、あんな目立つ所に置いたのかも知れない。
まずは会長の手伝いを済ませた栞たちは、このお祭りを手伝いに便乗して、噂に関する情報収集を行う事にしたのだった。
「いい天気ですね。さて、みなさん。ちゃんと準備はしてきましたか?」
駅前の集合場所で、調部長たちは栞たちに声を掛けている。夏祭りを手伝うとはいっても、やる事自体は実に多岐に渡っている。イベントやら出店などの情報と共に、用意しておいてほしい物が調部長からLISEで回ってきていた。調部長は集まるなり、その確認をしているというわけである。
しかしながら、今の新聞部のメンバーは軽部副部長以外は特に心配するような点はなかった。その軽部副部長もちゃんと準備してきているあたり、懸念材料はないようである。
こうして、集合時点での確認が終わると、栞たちは会場となる浦見市駅前商店街へと移動を始めた。
商店街へとやって来ると、その入口には見覚えのある男性が立っていた。浦見市駅前商店街の会長だった。
「いやぁみなさん、お久しぶりですね。本日はこの商店街のためにわざわざ来て下さり、誠にありがとうございます」
すごくご機嫌に挨拶をしてくる。予想外ににこにことしながら丁寧な言葉遣いで挨拶してくる会長に、栞と調部長は思わず引いてしまった。二人は以前の取材の際に先立って会っており、その時の態度のイメージがしっかりあるからである。ところが、この二人の態度は他の面々からは不思議がられてしまった。丁寧に接していた時の事しか知らないので、まあそうなってしまうのも無理はなかった。
さて、無事に挨拶を終えると、調部長が早速お手伝いの内容を確認している。その確認を終えた調部長はてきぱきと役割分担を決めていた。
調部長と栞、軽部副部長と真彩、詩音とカルディという組み合わせで今日は進めていく事となった。栞と調部長は積極的な協力者だし、カルディは調部長と詩音のボディーガードだ。こういう組み合わせしかなかったのである。気合いを入れた一同は、いざそれぞれの持ち場へと移動していく。
こうして、新聞部の夏祭りは始まりを告げたのである。
栞と調部長は、今現在会長の手伝いをしている。というのも、会長が二人に話があると持ち掛けたからだ。裏方の仕事をしながら、会長が話し掛けてきた。
「いやぁ、バーディアのお嬢様とこうやってご一緒できるとは、感激の極みですよ」
会長がジーンと感動しながら話していると、
「……今はその名で呼ばないで下さい。今の私は秘密裏に行動しているのです。素性を広げるような真似は慎んで下さい」
調部長は明確な不機嫌を示している。その表情から殺気が漏れ出しており、会長は怯んでしまっていた。さすがは方向転換しても、ギャングの血には抗えないようだ。
「ひっ、も、申し訳……ございません」
会長はただ謝る事しかできなかった。
「まあ、私もあそこで名前を明かしたのは迂闊でしたね。関係者を見つけた喜びに、私も焦ってしまったんでしょうね。なにぶん、二年間も過ぎてしまっていましたから」
調部長は反省するような表情を見せている。落ち着いているように見えても、責任感からくる焦りというものは相当のものだったようである。
「ただ、正直いってあの時の態度は、到底許せるものではありませんよ?」
額を押さえながら、会長を睨む調部長。その雰囲気に思わず飲み込まれてしまっていた。
「確かに、会長さんの普段の素行は褒められたものじゃありませんものね。私だって市役所で何度怒鳴られた事か……。本当に、来る度に何かしら怒鳴って帰るのはやめて下さいね?」
栞は追い打ちを掛けるように、市役所で怒鳴られた経験をぶちまける。調部長から睨まれて弱っていた会長は、栞にも謝る事しかできなかった。
「す、すまない。その事についてはここで謝る。だから許してくれ」
会長は焦ってそんな事を言っていたが、栞にはそんなつもりはまったくない。
「嫌ですよ? 許してほしいのでしたら、今後市役所で怒鳴るのはやめて下さい。私、就職したての頃に心折られかけたんですからね?」
栞の顔に血管マークが浮かんでいる。栞からの証言で、調部長もより一層呆れてしまったようだ。本当にダメな人のようだ、この会長さんは。
「本当に、本当に悪かった。お詫びついでにひとつ、俺の方からとっておきの情報を教えるから、もう勘弁してくれ」
「……内容によりますね」
調部長も容赦はなかった。ただじゃ許す気は無いらしい。
「じ、実は、この商店街を立て直した中心メンバーは、俺と同じ四方津組の元組員なんだ。お嬢たちが求めている答えは、もしかしたら誰かが持っているかも知れない。だが、俺の持っている情報はここまでだ。メンバーが誰かは教えられるが、あいつらも素性を隠して生活している身だ。分かってくれるだろ?」
何ともちょっとした有益な情報である。元四方津組の組員であるなら、噂に関しての情報を持っている可能性は確かにありそうだった。
ちなみに先日の取材の時の花屋の一件でも、会長は相談を受けていたらしい。だからこそ、あんな目立つ所に置いたのかも知れない。
まずは会長の手伝いを済ませた栞たちは、このお祭りを手伝いに便乗して、噂に関する情報収集を行う事にしたのだった。
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