ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第97話 深まる混迷

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 調べていくうちに、いろいろな点と点が線で結ばれ始める。
 決算書を見終えた栞だったが、残念な事にこれといって怪しいところは発見できなかった。数値が合っているし、予算内にちゃんと収まっている。なにせ公立中学校だから、予算の決定権は市議会にあるのだ。その市議会の承認した予算内にしっかり収まっているし、設備更新なんかも問題があるように見えなかった。
(はあ……、とんだ無駄足だったかしらねぇ。結局、草利中学校の校長の名字が、10年前に解散した暴力団の名前と一致する事くらいしか分からなかったわ……)
 これにしてもたまたまの一致かも知れないので、ぶっちゃけてしまえば結局何も掴めなかったという虚無感が栞に襲い掛かった。
「ずいぶんと遅くなっちゃったわね。帰りましょうか」
 窓の外を見ると、完全に陽が落ちてしまって真っ暗になっていた。時計を見れば夜の9時だ。これはさすがに帰った時には怒られそうである。栞はとりあえず電話で両親に連絡を入れておく事にした。
 本来なら20歳を超えている栞なので、こんな時間にうろついていても問題はない。しかし、今の栞の姿は中学生である。さすがに警察官に補導されかねない。散々経験してきた事ではあるものの、服装と生徒手帳のせいで本当に補導されてしまうだろう。そんなわけで、親に迎えに来てもらう事になった。
「はあ、それにしても、誰も見回りに来ないのはどういう事かしら。警備員が居ないのは知ってるけれど、職員の誰も見に来ないんだから……」
 あまりの警備のざる具合に、栞は盛大なため息を吐いた。
 しばらくして、母親がやって来た。
「ごめん、お母さん」
「本当に、遅くまで出歩いちゃって、心配させないでよ」
 とりあえず怒られておく栞である。
 自転車は車の後部座席を倒せば何とか積み込めた。そして、栞は助手席に座る。
 車を走らせながら、母親と少し会話をする栞。20歳を超えた栞とはいえ、危ない事に首を突っ込んでいるので、見た目の事もあって両親ともにかなり心配しているのだ。栞もその事は自覚しているので、母親のお小言を黙って聞いていた。そして、家に戻ると今度は父親にまで説教された栞である。さすがにこれには凹んでいた。
 とまあ、そんな感じにいろいろあった栞だが、せっかく掴んだ四方津という名字を元に、次の探りを入れてみる事にしたのだった。

 その頃、カルディの携帯が鳴り響く。
「はい、どちら様でしょうか」
 電話の応対を始めるカルディ。どうやら知らない番号だったらしい。
『俺だ。バロックだ』
「これは、旦那様ですか。失礼致しました」
 相手がバロックと名乗った事で、謝罪をするカルディ。声の威圧感からして、バロック・バーディアで間違いないだろう。
「旦那様、一体どういう用件でございましょうか」
 カルディは震えるようにして用件を尋ねる。
『うむ、四方津から連絡が入った。レオンが四方津の弟を呼び寄せたらしい』
「本当でございますか?」
 カルディの声が大きくなる。
 カルディも四方津という人物の事は知っている。なにせ、まだギャング時代に四方津組とは親交があったからだ。その関係で、カルディも四方津組の組員とは面識があるのだ。
 ここで話している四方津という人物は、当時の親分の息子二人なのだ。バロックと連絡を取っているのは兄の方で、当時は四方津組の若頭をしていた。
 この四方津兄弟はカルディとレオンのように袂を分かった……わけではなく、兄である若頭の入れ知恵で、弟は闇の世界に留まり続けたのだ。おそらくはレオンをはじめとした過激派の危険性を見抜いていたのだろう。そして、兄の方は表舞台の方からその過激派の封じ込めを行っているのである。
 これが、バロックによって語られた四方津という男の情報である。
「となれば、学校で行われている事も、当然把握してらっしゃるのでは?」
『だろうな。放置して尻尾を出すのを見計らっているのだろう。だが、レオンが思った以上に強敵だったようだな』
 カルディの疑問に対して、バロックからはそう答えが返ってきた。さすがにこれにはカルディも唸らざるを得なかった。
「なぜ、その四方津という人物は自分で動かないのでしょうかね」
『それはさすがに俺でも分からん。あいつの頭の中は、常人で理解できるようなものではないようだからな』
 この言葉の後、しばらく沈黙が流れる。
『……ともかくだ。四方津の弟を呼び出したという事は、レオンもそれなりに焦っているのかも知れんな。ここのところいろいろ失敗しておるようだしな』
「確かにそうかも知れませんが、先日会った時にはそのような感じには見えませんでしたね」
『なんだ会っていたのか』
「はい、中学校の体育祭という行事で顔を合わせました」
 それを聞いたバロックは、しばらく黙り込んだ。カルディと顔を合わせながらも何もしなかったという事に引っ掛かりを覚えたからだ。
『……妙な事だが、まあ今後のあいつの動向には気を付けろ』
「はっ、なんとしてもあいつの魔の手からお嬢様たちを守ってみせます」
『うむ、頼んだぞ』
 こうしてバロックからの通話が切れた。
(四方津組の組長の息子たちか……。立ち回りがいまいち読めないが、これは厄介そうだな)
 レオンが直に呼び出したところを思うに、おそらく奴にとっては切り札のようなものなのだろう。カルディはそのように考えた。
 草利中学校を中心とした混沌は、ますます混迷を深めていく。中学校の噂から始まったこの事態は、一体どこへ向かっていくのだろうか……。
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