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第104話 校長登場の余波
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驚きの連続だった栞は、家に帰ると疲れたようにベッドにぶっ倒れていた。
一番の原因は突如として現れた、校長先生だろう。調部長が草利中学校に入ってから2年半もの間、一切学校に姿を見せていなかった彼が、ああやって自分たちの前に姿を見せたのだから。
見た感じは温厚そうなおじさんである校長だけれども、その考え方や人柄といったものは、どうにもつかみどころのない感じだった。あれでも暴力団の若頭だった人物らしいのだが、そういう感じがとても見て取れない。
極めつけは栞たちの行動をすべて把握していたというところだろうか。何かあれば水崎警部や生活課の課長などに報告するようになってはいるものの、そこから情報が出回るとは考えにくい。ただ、校長が実はこの調査団のメンバーでしたとなれば、把握していてもおかしくはないだろう。だとしても、いろいろと謎が多い事には変わりはなかった。
栞はベッドの上で悶々としていた。
(教頭が麻薬中毒とは、本当にあの学校っていろいろと問題を抱えていたのね……)
校長との会話を思い出しながら、栞はベッドの上で寝返りを打って仰向けになる。校長が登場しただけで、頭の中がこんがらがってしまい、栞は今一生懸命情報を整理し直しているのである。
「ああーもうっ! お風呂とご飯で落ち着きましょう!」
悶々としていた栞だったが、いつまでも制服でいるわけにもいかないので、ベッドから起き上がって部屋を出ていったのだった。
一方の調部長宅。
「そうか、マサトが出てきたのか」
「ああ、やっとこさ、演技を止められる事になった。まったく丁寧な口調は疲れるんだ」
「果たして……、演技なのかどうか、よく分かりませんね」
部屋に戻ってもスマホを弄り倒している軽部副部長を見て、兄であるカルディは小さく笑っている。
「しかし、マサトが出てきたとなると、事態は好転しているとは言えませんね。あちらがそれくらいに追い詰められているという事ですし、最悪の場合、この浦見市が血の海になる事だって考えられますからね」
「……レオンって、そんなにやばい奴なのかよ」
顎に手を添えて考え込むカルディに、軽部副部長は相変わらずスマホを触りながらカルディに尋ねる。
「やばいも何も、目的のためなら手段は選びませんし、部下や味方だって平気で捨て駒にするような奴ですよ。あれと一緒に仕事をしていて、本当に胃に穴が開く思いでしたからね」
カルディは答えながら苦笑いをしている。相当に思い出したくもない過去を思い出したようである。冷静沈着なカルディを取り乱させる人物、それがレオン・アトゥールなのである。
「レオンの面倒なところは、それだけ大胆不敵な事をやりつつも、頭が切れるし、洞察力もあるという点でしょう。無事に帰ってきても、何かしらミスをしていればそれを責め立てるような奴でしたからね」
「げえっ、そいつは本当に面倒な奴だな……」
カルディの話に、ものすごく嫌な顔をする軽部副部長である。
「奴は自分が頂点であると考えてますし、闘争こそが自分の居るべき場所と考えていたような節がありますからね。だからこそ、10年前のバロック様の方針転換に異を唱えて出ていったわけです」
「いわゆる戦闘狂って奴か……」
軽部副部長の手が止まる。
「そんな奴相手に、俺たちは尻尾を掴もうと動いてるってわけか」
「ええ。今までの調査結果もいろいろ奴の存在を臭わせるような事はあるのですが、奴に繋がる確実な証拠はありませんからね」
正直言って、現状はまったくのお手上げである。
「そんなイメージだったのに、あの体育祭は驚きましたよ。まさかあんなに娘に対して甘いとは思いもしませんでした」
先日の体育祭を思い出しながら、カルディは再び苦笑いである。昔を知るカルディからしたら、ハンマーで頭を殴られたような衝撃である。これは、調部長も一緒だった。
「でもまぁ、あれはこちらにとっても予想外の収穫でしたね。うまくいけば、彼女を使ってレオンの行動を制限できるかも知れませんからね」
「そううまくいくかな……。勘だっていいんだろう?」
カルディが考え込むが、軽部副部長は冷静に懸念を示している。
「確かにそうですね。ただ、レオンが差し向ける事になった新たな刺客が、マサトの関係者ですからね。あいつの鼻も鈍っているのかも知れませんよ?」
「だといいけどな」
「そういうところは、さすがは弟といったところですかね。何にしても、私たちの使命はレオンの企みを阻止して、お嬢様たちをお守りする事です。それを忘れないで下さいよ?」
「分かってるよ、兄貴」
カルディと軽部副部長が話を終えると、居間の方が賑やかになってきた。どうやらお風呂に入っていた調部長たちが出てきたようである。
「さて、お嬢様たちが出てこられたようですね。この話、今はここまでにしておきましょう」
「……だな」
軽部副部長はスマホを机に置くと、カルディと一緒に居間へと移動していった。
「お先に浴びてきました。お二人も入られてきてはどうですか?」
「ええ、そうさせて頂きます」
調部長の言葉に、カルディはそう答えると、タオルと着替えを持って軽部副部長を引きずりながらお風呂へと向かった。
「さて、私たちは夕食の準備と参りましょうか」
「はい、お姉ちゃん」
いろいろと謎が謎を呼ぶ状況が深まったわけだが、食卓の時間だけは今日も平和になりそうだった。
一番の原因は突如として現れた、校長先生だろう。調部長が草利中学校に入ってから2年半もの間、一切学校に姿を見せていなかった彼が、ああやって自分たちの前に姿を見せたのだから。
見た感じは温厚そうなおじさんである校長だけれども、その考え方や人柄といったものは、どうにもつかみどころのない感じだった。あれでも暴力団の若頭だった人物らしいのだが、そういう感じがとても見て取れない。
極めつけは栞たちの行動をすべて把握していたというところだろうか。何かあれば水崎警部や生活課の課長などに報告するようになってはいるものの、そこから情報が出回るとは考えにくい。ただ、校長が実はこの調査団のメンバーでしたとなれば、把握していてもおかしくはないだろう。だとしても、いろいろと謎が多い事には変わりはなかった。
栞はベッドの上で悶々としていた。
(教頭が麻薬中毒とは、本当にあの学校っていろいろと問題を抱えていたのね……)
校長との会話を思い出しながら、栞はベッドの上で寝返りを打って仰向けになる。校長が登場しただけで、頭の中がこんがらがってしまい、栞は今一生懸命情報を整理し直しているのである。
「ああーもうっ! お風呂とご飯で落ち着きましょう!」
悶々としていた栞だったが、いつまでも制服でいるわけにもいかないので、ベッドから起き上がって部屋を出ていったのだった。
一方の調部長宅。
「そうか、マサトが出てきたのか」
「ああ、やっとこさ、演技を止められる事になった。まったく丁寧な口調は疲れるんだ」
「果たして……、演技なのかどうか、よく分かりませんね」
部屋に戻ってもスマホを弄り倒している軽部副部長を見て、兄であるカルディは小さく笑っている。
「しかし、マサトが出てきたとなると、事態は好転しているとは言えませんね。あちらがそれくらいに追い詰められているという事ですし、最悪の場合、この浦見市が血の海になる事だって考えられますからね」
「……レオンって、そんなにやばい奴なのかよ」
顎に手を添えて考え込むカルディに、軽部副部長は相変わらずスマホを触りながらカルディに尋ねる。
「やばいも何も、目的のためなら手段は選びませんし、部下や味方だって平気で捨て駒にするような奴ですよ。あれと一緒に仕事をしていて、本当に胃に穴が開く思いでしたからね」
カルディは答えながら苦笑いをしている。相当に思い出したくもない過去を思い出したようである。冷静沈着なカルディを取り乱させる人物、それがレオン・アトゥールなのである。
「レオンの面倒なところは、それだけ大胆不敵な事をやりつつも、頭が切れるし、洞察力もあるという点でしょう。無事に帰ってきても、何かしらミスをしていればそれを責め立てるような奴でしたからね」
「げえっ、そいつは本当に面倒な奴だな……」
カルディの話に、ものすごく嫌な顔をする軽部副部長である。
「奴は自分が頂点であると考えてますし、闘争こそが自分の居るべき場所と考えていたような節がありますからね。だからこそ、10年前のバロック様の方針転換に異を唱えて出ていったわけです」
「いわゆる戦闘狂って奴か……」
軽部副部長の手が止まる。
「そんな奴相手に、俺たちは尻尾を掴もうと動いてるってわけか」
「ええ。今までの調査結果もいろいろ奴の存在を臭わせるような事はあるのですが、奴に繋がる確実な証拠はありませんからね」
正直言って、現状はまったくのお手上げである。
「そんなイメージだったのに、あの体育祭は驚きましたよ。まさかあんなに娘に対して甘いとは思いもしませんでした」
先日の体育祭を思い出しながら、カルディは再び苦笑いである。昔を知るカルディからしたら、ハンマーで頭を殴られたような衝撃である。これは、調部長も一緒だった。
「でもまぁ、あれはこちらにとっても予想外の収穫でしたね。うまくいけば、彼女を使ってレオンの行動を制限できるかも知れませんからね」
「そううまくいくかな……。勘だっていいんだろう?」
カルディが考え込むが、軽部副部長は冷静に懸念を示している。
「確かにそうですね。ただ、レオンが差し向ける事になった新たな刺客が、マサトの関係者ですからね。あいつの鼻も鈍っているのかも知れませんよ?」
「だといいけどな」
「そういうところは、さすがは弟といったところですかね。何にしても、私たちの使命はレオンの企みを阻止して、お嬢様たちをお守りする事です。それを忘れないで下さいよ?」
「分かってるよ、兄貴」
カルディと軽部副部長が話を終えると、居間の方が賑やかになってきた。どうやらお風呂に入っていた調部長たちが出てきたようである。
「さて、お嬢様たちが出てこられたようですね。この話、今はここまでにしておきましょう」
「……だな」
軽部副部長はスマホを机に置くと、カルディと一緒に居間へと移動していった。
「お先に浴びてきました。お二人も入られてきてはどうですか?」
「ええ、そうさせて頂きます」
調部長の言葉に、カルディはそう答えると、タオルと着替えを持って軽部副部長を引きずりながらお風呂へと向かった。
「さて、私たちは夕食の準備と参りましょうか」
「はい、お姉ちゃん」
いろいろと謎が謎を呼ぶ状況が深まったわけだが、食卓の時間だけは今日も平和になりそうだった。
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