103 / 157
第103話 すべてはこの人の手の平
しおりを挟む
新聞部の部室の中で、栞、調部長、軽部副部長、詩音、そして顧問である校長先生の五人という不思議な絵面ができ上がっていた。
「まったく、私がよその事で手を焼いている間に、ずいぶんと好き勝手をしてくれていたものだよ。まあほとんどはあの教頭のせいだけれどね」
校長はものすごく落ち着いた風に話しているが、内容はとんでもない話である。
「その教頭を病院送りにしたわけだし、そのうち教育委員にも話がいくだろう。そうしたら彼は失職だ。そしたら、今回市の方が出していた調査の件もほぼすべて片が付くだろう」
驚きと困惑の表情を浮かべる栞たちにお構いなく、校長は話を続けている。浦見市の市役所が秘密裏に出していた調査の事も把握しているようである。
校長は今まで出てこなかった事に加えて、調査の件をも把握している事で、栞の中では警戒心が強くなっていった。だが、校長はそんな栞の心理状態も把握しているようだ。
「なに、そんなに警戒しなくてもいいよ。浦見市役所生活課の職員である、高石栞さん?」
「なっ?!」
校長は栞の方を見て、肩書きと名前をズバリ言い当ててしまっていた。この男、全部を把握しているらしい。栞の警戒感が最高潮を迎える。
「実にいい顔だね。昔はそういう顔を見て愉悦に浸ったものだが、今はさすがにそこまでではないよ」
また怖い事を言う校長である。
「まあ、君は私の正体にも迫っていたようだしね。正確に教えてあげよう」
校長は机に肘をついて両手を組むと、にこにこしながら栞の方を見る。本当にその笑顔が怖い。
「私の正体は君が推理していた通りだよ。10年前までは四方津組の若頭だった男だ」
さらりと正体を明かす校長。
「そういう事もあってね、こちらのメロディ嬢のお家であるバーディア家とも懇意にさせてもらっていたんだ。ちなみにこっちのリリック嬢の事も存じ上げているよ」
校長がこう言えば、詩音の体がびくっと震える。浦見市に着いた時の恐怖が蘇ったのかも知れない。
「いや、あれは正直私の落ち度だな。リリック嬢が向かっている事は把握していたのだが、着いた時には連れ去られた後だった。本当にその件は申し訳なかったね」
なんともまあ、家出をしてやってきた詩音の行動まで把握していたらしい。本当に得体の知れない男のようである。
「しかし、いろいろと報告ご苦労だったね、軽部瞬くん。……いや、ジャン・カルディ」
「いえ、俺は兄貴に言われただけなので、何もしてませんよ」
校長の言葉に反応する軽部副部長。これには調部長も驚いて軽部副部長を見ている。
「お嬢様にも秘密にするように言われてましたのでね。だからこそ、気取られないように自由人を演じてたまでですよ」
そうは言いながらも、軽部副部長は相変わらずスマホをガチャガチャと弄っている。こうやって見ていると、演じているというよりは素のようにしか思えない。
「こうでもして無能なフリでもしてないと、相手の油断は誘えないじゃないですか。まぁ、日本のゲームにはまったのは否定しませんがね」
珍しく軽部副部長がもの凄く喋っている。これは雨でも降る前触れなのだろうか。
それにしても、軽部副部長がマイペースに振舞っていたのには、こういうわけがあったのかと少し納得がいった。
「バロックとは結構頻繁に連絡を取り合っていましたのでね。そこで私の提案で、メロディ嬢に学校でのボディガード兼連絡役として彼を付けたのですよ。お兄さんでは学校には入れませんからね」
「という事は、自分が顧問を務めるこの新聞部に私たちを入らせたのも……」
「ええ、すべては私の計画通りというわけです」
調部長の疑念に対して、すんなりとすべてを話していた。
「本来この新聞部は別の人の担当だったのですけれどね。メロディ嬢が日本に来るという情報を聞かされた時に、急遽顧問を譲ってもらったのですよ。情報を集めるとして新聞部というのは最適な場所ですからね。それが証拠に、ジャンくんがやたらとここを勧めてきませんでしたか?」
調部長はハッとして、軽部副部長を見る。当の軽部副部長は、相変わらずスマホを弄り倒している。とぼけているのだ。
「しかし、高石さんには感謝していますよ」
「えっ?」
突然話を振られてびっくりする栞。
「あなたが関わって以降、あちらさんの企みはいくつか潰されていますからね。商店街に持ち込まれたケシなんかは、最たるものですよ」
「あっ、ああー……」
なんともまぁ、あの商店街での一件もしっかり把握されているようである。本当に油断ならない人物だ。
「そういった事が積み重なって、ようやくあちらさんは最終手段に手を付けましたからね」
「最終手段?」
校長がにやけながら話す言葉に、栞たちは一斉に反応する。
「ええ、凄腕スナイパーとして名の通っている、私の弟に依頼を持ち込んだのですよ」
校長は突然真面目な顔になる。
「とはいえども、かなり危険な賭けですけれどね。レオン・アトゥールは油断ならない相手ですから」
校長は目を伏せてため息を吐く。
「ですが、賭けてみましょうか。我が弟、通称『トラ』こと四方津義人に」
校長は、カッと強く目を見開いた。
「まったく、私がよその事で手を焼いている間に、ずいぶんと好き勝手をしてくれていたものだよ。まあほとんどはあの教頭のせいだけれどね」
校長はものすごく落ち着いた風に話しているが、内容はとんでもない話である。
「その教頭を病院送りにしたわけだし、そのうち教育委員にも話がいくだろう。そうしたら彼は失職だ。そしたら、今回市の方が出していた調査の件もほぼすべて片が付くだろう」
驚きと困惑の表情を浮かべる栞たちにお構いなく、校長は話を続けている。浦見市の市役所が秘密裏に出していた調査の事も把握しているようである。
校長は今まで出てこなかった事に加えて、調査の件をも把握している事で、栞の中では警戒心が強くなっていった。だが、校長はそんな栞の心理状態も把握しているようだ。
「なに、そんなに警戒しなくてもいいよ。浦見市役所生活課の職員である、高石栞さん?」
「なっ?!」
校長は栞の方を見て、肩書きと名前をズバリ言い当ててしまっていた。この男、全部を把握しているらしい。栞の警戒感が最高潮を迎える。
「実にいい顔だね。昔はそういう顔を見て愉悦に浸ったものだが、今はさすがにそこまでではないよ」
また怖い事を言う校長である。
「まあ、君は私の正体にも迫っていたようだしね。正確に教えてあげよう」
校長は机に肘をついて両手を組むと、にこにこしながら栞の方を見る。本当にその笑顔が怖い。
「私の正体は君が推理していた通りだよ。10年前までは四方津組の若頭だった男だ」
さらりと正体を明かす校長。
「そういう事もあってね、こちらのメロディ嬢のお家であるバーディア家とも懇意にさせてもらっていたんだ。ちなみにこっちのリリック嬢の事も存じ上げているよ」
校長がこう言えば、詩音の体がびくっと震える。浦見市に着いた時の恐怖が蘇ったのかも知れない。
「いや、あれは正直私の落ち度だな。リリック嬢が向かっている事は把握していたのだが、着いた時には連れ去られた後だった。本当にその件は申し訳なかったね」
なんともまあ、家出をしてやってきた詩音の行動まで把握していたらしい。本当に得体の知れない男のようである。
「しかし、いろいろと報告ご苦労だったね、軽部瞬くん。……いや、ジャン・カルディ」
「いえ、俺は兄貴に言われただけなので、何もしてませんよ」
校長の言葉に反応する軽部副部長。これには調部長も驚いて軽部副部長を見ている。
「お嬢様にも秘密にするように言われてましたのでね。だからこそ、気取られないように自由人を演じてたまでですよ」
そうは言いながらも、軽部副部長は相変わらずスマホをガチャガチャと弄っている。こうやって見ていると、演じているというよりは素のようにしか思えない。
「こうでもして無能なフリでもしてないと、相手の油断は誘えないじゃないですか。まぁ、日本のゲームにはまったのは否定しませんがね」
珍しく軽部副部長がもの凄く喋っている。これは雨でも降る前触れなのだろうか。
それにしても、軽部副部長がマイペースに振舞っていたのには、こういうわけがあったのかと少し納得がいった。
「バロックとは結構頻繁に連絡を取り合っていましたのでね。そこで私の提案で、メロディ嬢に学校でのボディガード兼連絡役として彼を付けたのですよ。お兄さんでは学校には入れませんからね」
「という事は、自分が顧問を務めるこの新聞部に私たちを入らせたのも……」
「ええ、すべては私の計画通りというわけです」
調部長の疑念に対して、すんなりとすべてを話していた。
「本来この新聞部は別の人の担当だったのですけれどね。メロディ嬢が日本に来るという情報を聞かされた時に、急遽顧問を譲ってもらったのですよ。情報を集めるとして新聞部というのは最適な場所ですからね。それが証拠に、ジャンくんがやたらとここを勧めてきませんでしたか?」
調部長はハッとして、軽部副部長を見る。当の軽部副部長は、相変わらずスマホを弄り倒している。とぼけているのだ。
「しかし、高石さんには感謝していますよ」
「えっ?」
突然話を振られてびっくりする栞。
「あなたが関わって以降、あちらさんの企みはいくつか潰されていますからね。商店街に持ち込まれたケシなんかは、最たるものですよ」
「あっ、ああー……」
なんともまぁ、あの商店街での一件もしっかり把握されているようである。本当に油断ならない人物だ。
「そういった事が積み重なって、ようやくあちらさんは最終手段に手を付けましたからね」
「最終手段?」
校長がにやけながら話す言葉に、栞たちは一斉に反応する。
「ええ、凄腕スナイパーとして名の通っている、私の弟に依頼を持ち込んだのですよ」
校長は突然真面目な顔になる。
「とはいえども、かなり危険な賭けですけれどね。レオン・アトゥールは油断ならない相手ですから」
校長は目を伏せてため息を吐く。
「ですが、賭けてみましょうか。我が弟、通称『トラ』こと四方津義人に」
校長は、カッと強く目を見開いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる