ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第121話 球子の家

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「ただいま」
「ああ、帰ったのかい、球子」
「あれ、お父さん?」
 球子が帰宅すると、どういうわけか仕事中であるはずの父親が出迎えた。
「もしかして、調査が進んだのかしら」
 靴を脱いで居間へと向かう球子は、父親に話し掛ける。
「ああ、一応ね。私の権限で調査するにはいろいろ制約があったものの、それなりに情報は得られたよ。今家に居るのは、その情報の整理のためさ」
 コーヒーを飲みながら、父親は目の前に散らばったメモの山を見ている。
「なんで居間でするのかしら。お父さんの部屋でして欲しいわね」
「何を言う。球子も気にしていたから、こうやって居間でやってるんじゃないか」
「ちょっと、私のせいにしないでちょうだいよ」
 ガミガミと言い合う親子である。
「うふふ、賑やかでいいわね」
「お母さん」
 そこへ母親まで乱入する。
「球子、とりあえず着替えてらっしゃい。お父さんが話があるらしいし、その間にお菓子とか用意しておくわね」
「……分かりました」
 母親に諭されて、とりあえず自分の部屋へ向かう球子。それを見送って、母親が父親に話し掛ける。
「……ずいぶんと面倒な事のようね。大丈夫なのかしら、あなた」
「まあ、確かに不安にはなるな。当時の市長たちのおかげで、私もこうやって今はただの役員をしているが、あの頃のごたごたが、いまだにこうやって尾を引いているなんて思いたくもない」
「四方津組でしたっけ。まさかあなたまでそこの構成員だっただなんて。知らなかったとはいえ、結婚して子どもまで授かるとは思ってなかったわ」
「それは私も同様だ。けれど、君の事は本気だからな。だからこうやって、市のための仕事に打ち込めるってものだよ」
「あなた……」
 なんとまあ、球子の父親も、バリバリに四方津組とのかかわりを持ったどころか中に居た人物だったのだ。さすがは浦見市を拠点にしていた暴力団な事はある。
 それにしても、元若頭である校長といい、球子の父親といい、まともになった人物も居るものである。駅前商店街の会長も少々問題行動はあるものの、まだマシな部類ようだ。
「お待たせ」
 両親が話をしていると、球子が戻ってきた。だぼだぼトレーナーにスキニーというまあずいぶんとすごい格好である。
「球子が戻ってきたようだな。しばらく二人にさせてくれ」
「分かりましたよ。私は買い物にでも行ってきますね」
「ああ、今日は唐揚げを頼む」
「はいはい」
 そう言って、母親は買い物の支度をしに、居間を出ていった。
 居間には球子と父親だけが残される。
「それで、分かった事ってどんな事なの?」
 改めて球子が父親に問い掛ける。それに対して、父親は静かに話し始めた。
「私が市のスポーツ振興を担当しているのは知っているな?」
 父親の言葉に静かに頷く球子。
「草利中学校に不正の疑惑が浮かび上がった事も知っているな?」
 これまた頷く。
「独自に調査してみた結果、校長先生のポケットマネーで拡充されていた事が分かったんだ。個人的なお金だから別に収支報告に入れなくてもいいという事なんだろうな」
「そんな、個人のお金を公的な設備に投入とかってできるの?」
「できなくはないさ。ただ、公的な設備である以上、その分もちゃんと管理者への報告は必要になるけどね」
 驚く球子に、父親は淡々と説明していく。
「多分、校長職に就くにあたって、そういうところの密約でもあったのだろうね。なにせ校長先生は、四方津組の若頭だったんだからな」
「!!?」
 父親からの思わぬ事実を告げられて、球子は声が出なかった。
「だけども、若頭は真面目な人物なんだよ。なにせ、時の組長だった自分の父親を説得して、四方津組の解体にこぎつけた功績者なんだから」
 父親の語る内容は、球子にとって驚きの連続である。
「でも、驚きだね。いくら組長の息子だとはいっても、そこまでの金額を簡単に動かす事ができたんだから。だから、今はほぼ資産はない状態なんだろうね」
 父親は腕を組み、椅子にもたれ掛かりながら語っていた。
「まあ、これが私の調べた限りの草利中学校の躍進の秘密だな。公立中学校であそこまで設備を持つ学校はまずないだろうからね。私立なら、それなりに存在しているけどね」
 確かに、運動部に関しては、大体はグラウンドを共有している場合が多い。せいぜいテニス部のコートが独立しているくらいだ。しかも、トラックの外周だってまさか400mあるなんてのはまずありえない。良くて200m、それなりで150mである。これらも、今の校長先生になってから増強された設備なのである。
「とりあえず球子。これは内密にな」
「分かりました、お父さん」
「まあ、表沙汰にされていないだけで、市長とかは把握してそうではあるけれどな。若頭に校長をさせたんだから」
 球子の父親がこう言っているが、確かにそれはありえそうな話だった。
「そんな事よりも、他にもいろいろ分かった事がある。だけど、こっちに関してはさすがにお前には言えない。まあそれに関係して明日は泊まり込みになるから、先に言っておくよ」
「分かりました。気を付けて下さいね、お父さん」
「ああ、気を付けて行ってくるよ」
 こうして親子の内緒話が終わった。
 それにしても球子の父親が突き止めた事とは、一体どんな事なのだろうか。
 翌日、父親はいつものように家を出ていったのだった。
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