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第一章 はじまり
第3話 茶会
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ついに茶会の日を迎えた。
客のメインはマゼンダ家と交流のある貴族の子女。
ロゼリアは招いた子女の顔を確認する。そこには幼いとはいえ見た事のある顔が混ざっていた。
(意外にも誘いに乗ってきたわね、チェリシア)
一人だけピンクの髪とあって、嫌でも目立ってしまう。ロゼリアはその姿を、代わる代わる挨拶に来る子女の相手をしながら追っていた。
しかし、チェリシアは動かないし、誰にも挨拶をされないでぽつんとしたままだった。予想外に孤立していて、ロゼリアはどういうわけか焦ってしまった。
(な、なんなの、あの子。なんで一人なのよ)
ロゼリアは、寄ってくる子女たちとの会話を一段落させると、チェリシアの方へと歩み寄っていく。
「ひっ!」
ロゼリアが近付くと、チェリシアは怯えたように驚きの声を発する。茶会の場では実に失礼な態度だし、ロゼリアも意外な反応にショックを受けている。
(な、なぜ、この方はこんなにも怯えているのかしら。……これは予想外だわ)
「あ、悪役令嬢……」
反応に戸惑っていると、チェリシアがポツリとこぼした言葉が耳に入る。
「ちょっ、それはどういう事なの?」
ロゼリアは声を荒げてチェリシアの肩を掴む。これに、チェリシアは更に怯え、周りの子女たちも何事かと騒めいた。
慌てたロゼリアは、チェリシアの肩を掴んだまま、そっと顔を近付けて小声で言う。
「茶会が終わった後で話があるわ。別に怒るとかそういう事はしないから、いいわね」
怯え切ったチェリシアは、涙目になりながら小さく頷いた。
「今のあなたには辛いかもしれないけど、これだけ騒ぎにしてしまったから、私の隣で立ってるだけでいいから茶会を楽しんでちょうだい」
「は、はい……」
涙目のままでいるチェリシアに、ロゼリアは内心ため息をついた。
(拍子抜けだわ。私を罠に嵌めた女が、小さい頃はこんなに臆病だなんて。何をどうしたらあんな風になるのかしら……)
ロゼリアは、チェリシアを隣に侍らせたまま、招いた子女たちと茶会を過ごした。時々、チェリシアに対して話題が振られていたが、ロゼリアは様子を見ながらチェリシアを庇って話題を捌いていった。
「ふう、終わったわ……」
茶会のはずが、途中からチェリシアを侍らせた事で、彼女との関係の質問が増えていき、さながら質疑応答の場へと変化してしまっていた。ロゼリアは今、チェリシアを連れて自室に戻ってくつろいでいる。
メイドのシアンに飲み物を持って来させ、ロゼリアはチェリシアと向き合って改めて茶会を行なっている。
「それで、さっきの“悪役令嬢”ってどういう事なの?」
ロゼリアはあまり威嚇にならないように、柔らかな口調でチェリシアに尋ねた。
「ごめんなさい。聞き間違いです、いじめないで」
チェリシアは怯えて、頭を手で抱えて首を左右に振っている。その様子には、未来でロゼリアを嵌めたような悪辣さは微塵も感じられなかった。
「いじめないから、正直に話して頂戴」
ロゼリアはとにかく優しく話し掛ける事に徹した。
「信じてもらえるかを問題にしてるのなら、私だって、とても人に信じてもらえそうにない体験をしてきたわ」
ロゼリアがそう言うと、先程まで怯えて震えていたチェリシアの動きがぴたりと止まる。それを見逃さなかったロゼリアは、もう一度優しく語り掛ける。
「だから、なぜ私を“悪役令嬢”と言ったのか話して頂戴」
そう言って微笑むロゼリアの姿に、チェリシアは意を決して口を開いた。
「……ロゼリア様がそこまで仰るのでしたら、お話しします。私は、こことは違う世界から転生したきた人間なんです」
ロゼリアは驚いた。別の世界、そんなものがあるとは、思ってもみなかったから。
しかし、ロゼリアはすぐに表情を戻し、ふと優しい笑みを浮かべて言葉を返す。
「なるほど、私がおかしく感じたのはそのせいなのね。心配しないで。私も未来から死に戻って来た人間だから、似たようなものよ」
「えっ、未来? 死んだ?」
ロゼリアの言葉に、チェリシアは混乱する。
「そうね。では、お互いの以前の事を話し合いましょうか」
そう言って、ロゼリアは未来で処刑されるまでの経緯を話した。
「そんな……。処刑なんて、どのルートにも無かったはず。私の遊んだゲームじゃ、一番悪い結末でも爵位剥奪の上で国外追放だったはずだわ」
チェリシアが叫んだ言葉に、ロゼリアは反応する。
「つまり、あなたが言うそのゲームっていう物の中では、私は死ぬ事はないっていうのね?」
ロゼリアの凄い剣幕に押されながらも、チェリシアは強く頷いた。
「そ、それに、ロゼリア様の仰る未来ではシルヴァノ王子とはただのご友人という事も、私の知るゲームの設定とは異なります」
チェリシアは強く言った。
さすがにロゼリアも興味を引かれた。
だが、その時、扉をノックする音が聞こえてきた。
「ロゼリア様、そろそろチェリシア様を帰らせた方がよろしいかと存じます」
部屋に入ってきたシアンはそう告げる。よく見れば外は日が暮れ始めていた。
「そうね。チェリシアさん、また今度お話ししましょう」
「は、はい」
「次は、こちらからお伺い致します」
ロゼリアはそう言って、護衛を付けてチェリシアを送るようにシアンに命じた。
「お嬢様、本当に八歳でございますか?」
シアンは、不躾にもロゼリアにそう尋ねる。
「悪い夢にうなされて、少し大人になっただけよ」
ロゼリアが笑ってそう答えると、シアンは「左様でございますか」と呆れたように呟いていた。
客のメインはマゼンダ家と交流のある貴族の子女。
ロゼリアは招いた子女の顔を確認する。そこには幼いとはいえ見た事のある顔が混ざっていた。
(意外にも誘いに乗ってきたわね、チェリシア)
一人だけピンクの髪とあって、嫌でも目立ってしまう。ロゼリアはその姿を、代わる代わる挨拶に来る子女の相手をしながら追っていた。
しかし、チェリシアは動かないし、誰にも挨拶をされないでぽつんとしたままだった。予想外に孤立していて、ロゼリアはどういうわけか焦ってしまった。
(な、なんなの、あの子。なんで一人なのよ)
ロゼリアは、寄ってくる子女たちとの会話を一段落させると、チェリシアの方へと歩み寄っていく。
「ひっ!」
ロゼリアが近付くと、チェリシアは怯えたように驚きの声を発する。茶会の場では実に失礼な態度だし、ロゼリアも意外な反応にショックを受けている。
(な、なぜ、この方はこんなにも怯えているのかしら。……これは予想外だわ)
「あ、悪役令嬢……」
反応に戸惑っていると、チェリシアがポツリとこぼした言葉が耳に入る。
「ちょっ、それはどういう事なの?」
ロゼリアは声を荒げてチェリシアの肩を掴む。これに、チェリシアは更に怯え、周りの子女たちも何事かと騒めいた。
慌てたロゼリアは、チェリシアの肩を掴んだまま、そっと顔を近付けて小声で言う。
「茶会が終わった後で話があるわ。別に怒るとかそういう事はしないから、いいわね」
怯え切ったチェリシアは、涙目になりながら小さく頷いた。
「今のあなたには辛いかもしれないけど、これだけ騒ぎにしてしまったから、私の隣で立ってるだけでいいから茶会を楽しんでちょうだい」
「は、はい……」
涙目のままでいるチェリシアに、ロゼリアは内心ため息をついた。
(拍子抜けだわ。私を罠に嵌めた女が、小さい頃はこんなに臆病だなんて。何をどうしたらあんな風になるのかしら……)
ロゼリアは、チェリシアを隣に侍らせたまま、招いた子女たちと茶会を過ごした。時々、チェリシアに対して話題が振られていたが、ロゼリアは様子を見ながらチェリシアを庇って話題を捌いていった。
「ふう、終わったわ……」
茶会のはずが、途中からチェリシアを侍らせた事で、彼女との関係の質問が増えていき、さながら質疑応答の場へと変化してしまっていた。ロゼリアは今、チェリシアを連れて自室に戻ってくつろいでいる。
メイドのシアンに飲み物を持って来させ、ロゼリアはチェリシアと向き合って改めて茶会を行なっている。
「それで、さっきの“悪役令嬢”ってどういう事なの?」
ロゼリアはあまり威嚇にならないように、柔らかな口調でチェリシアに尋ねた。
「ごめんなさい。聞き間違いです、いじめないで」
チェリシアは怯えて、頭を手で抱えて首を左右に振っている。その様子には、未来でロゼリアを嵌めたような悪辣さは微塵も感じられなかった。
「いじめないから、正直に話して頂戴」
ロゼリアはとにかく優しく話し掛ける事に徹した。
「信じてもらえるかを問題にしてるのなら、私だって、とても人に信じてもらえそうにない体験をしてきたわ」
ロゼリアがそう言うと、先程まで怯えて震えていたチェリシアの動きがぴたりと止まる。それを見逃さなかったロゼリアは、もう一度優しく語り掛ける。
「だから、なぜ私を“悪役令嬢”と言ったのか話して頂戴」
そう言って微笑むロゼリアの姿に、チェリシアは意を決して口を開いた。
「……ロゼリア様がそこまで仰るのでしたら、お話しします。私は、こことは違う世界から転生したきた人間なんです」
ロゼリアは驚いた。別の世界、そんなものがあるとは、思ってもみなかったから。
しかし、ロゼリアはすぐに表情を戻し、ふと優しい笑みを浮かべて言葉を返す。
「なるほど、私がおかしく感じたのはそのせいなのね。心配しないで。私も未来から死に戻って来た人間だから、似たようなものよ」
「えっ、未来? 死んだ?」
ロゼリアの言葉に、チェリシアは混乱する。
「そうね。では、お互いの以前の事を話し合いましょうか」
そう言って、ロゼリアは未来で処刑されるまでの経緯を話した。
「そんな……。処刑なんて、どのルートにも無かったはず。私の遊んだゲームじゃ、一番悪い結末でも爵位剥奪の上で国外追放だったはずだわ」
チェリシアが叫んだ言葉に、ロゼリアは反応する。
「つまり、あなたが言うそのゲームっていう物の中では、私は死ぬ事はないっていうのね?」
ロゼリアの凄い剣幕に押されながらも、チェリシアは強く頷いた。
「そ、それに、ロゼリア様の仰る未来ではシルヴァノ王子とはただのご友人という事も、私の知るゲームの設定とは異なります」
チェリシアは強く言った。
さすがにロゼリアも興味を引かれた。
だが、その時、扉をノックする音が聞こえてきた。
「ロゼリア様、そろそろチェリシア様を帰らせた方がよろしいかと存じます」
部屋に入ってきたシアンはそう告げる。よく見れば外は日が暮れ始めていた。
「そうね。チェリシアさん、また今度お話ししましょう」
「は、はい」
「次は、こちらからお伺い致します」
ロゼリアはそう言って、護衛を付けてチェリシアを送るようにシアンに命じた。
「お嬢様、本当に八歳でございますか?」
シアンは、不躾にもロゼリアにそう尋ねる。
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