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第八章 二年次
第160話 才能と努力
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パープリア男爵の手の者を退けてからは、しばらく平和なものだった。
あの一件の後の事を聞いたが、どうやらあの男は独断行動だったようだ。結局、パープリア男爵を追い詰める事はできなかった。
さて、魔法科に進んだロゼリアたちは、今日もアイリスの魔法を見ていた。それ以外にも、ロゼリアたち三人に魔法を教えてもらおうと思っている学生が、数人ばかり同席している。
どうでもいい話だが、今年はアイリスの制服を新調しておいた。去年の夏の合宿以降は、変装のために体格の近いチェリシアの制服を流用したのだが、あれだといざという時に動きにくいからだ。アイリスは神獣使いではあるが、パープリア男爵の手解きで暗殺術を身に付けている。それに見合った制服を拵えたのだ。
新しい制服は、スカート丈が膝下の規定ギリギリまで短くなっていて、左右にポケット状のスリットが入っている。
それ以外にもチェリシアとペシエラの制服と違い、ラッパ状の袖ではなく、一般的な袖になっている。ブーツもチェリシアやペシエラと同じ物だが、かかとが低い。そう、アイリスの制服はあくまで機動性を重視したものとなっているのだ。本人も動きやすくて気に入っている模様。
普通、かかとの高い靴で激しい動きなんてできるものではない。下手に力を掛けようものならヒールは折れてしまうだろうし、足首を捻る事だってありうる。剣術もできるロゼリアだってそこまでの動きができないのだから、ペシエラが特殊としか言いようがない。
さて、話を戻そう。
アイリス含め十人にも満たない人数ではあるが、ロゼリアたちの前で魔法の特訓をしている。この面々は魔法が多少使える程度ではあるが、親からどうしても魔法科に進めと言われてやって来た貴族たちである。可哀想な事に、親には逆らえないのだ。
で、肝心の魔法の指導は困難を極めている。なにせ教え方がどうしても抽象的になるからだ。手に触れて魔力の流し方を教えても、その感覚を覚えるのも難しい。二年次に上がってから頻繁にしているものの、できたのはアイリス一人だけだった。
「みなさん、少し難しく考えすぎてませんこと?」
「そうね。そこまで力まなくでも大丈夫よ」
「うんうん、頭でイメージして、それを放出する感じでいいのよ」
ペシエラ、ロゼリア、チェリシアがそれぞれに言う。
「イメージさえできてしまえば、詠唱なんて飾りですからね」
ロゼリアはそう言って、目の前に土壁を作り出した。軽く作り出しているので、参加している全員が驚いている。
「ロゼリア、あながち飾りとは言えませんわよ。わたくしたちは魔力が膨大なだけで、他の方がそうとは限りませんわ。詠唱とは、魔力とイメージを補うものなのですから」
ロゼリアの言葉を訂正して補うペシエラ。さすがに女王として研鑽してきただけの事はある。
「杖などの補助具を使うのもそのためですわ。ですが、魔力は増やす事ができますもの。ですので、日々訓練ですわ」
ペシエラは両手を腰に当てて息巻いている。
「あっ、そうか。運動と同じね」
「ええ、お姉様、その通りですわ。ただ、無理をし過ぎますと、逆に枯渇する可能性がありますから、見極めが重要ですわ」
そう言って、ペシエラは参加している学生たちを見る。
「というわけで、みなさん、続けましょうか。自分の得意な魔法をひたすら繰り返して下さいな」
ペシエラがにっこり微笑むと、全員が息を飲んだ。そして、火の玉や水の玉など得意な属性の簡単な魔法を使っている。
「そうそう、それを少しずつ大きくしていくのですわ。無理だと思ったところで、それをしばらくそのまま維持するのですわ。あとは、それを繰り返すのです」
ペシエラが言ってるこの方法。実は逆行前に自分で実行した方法である。確かに元々魔力はとんでもなかったのだが、制御がいまいちだったのだ。そこで制御をつけるために、地道に努力したのだ。
その理由こそは、同級生に居たロゼリアに負けたくなかったから。当時のロゼリアは、ゆくゆくはシルヴァノと結婚し、女王になるのは当然と思われていた存在だ。今思えば、どうしてそこまで目の敵にしたのかは分からない。
しかし、まったくもって皮肉なもので、逆行した今では、その時の努力のおかげで王国で最高の魔法使いと陰では言われているらしい。……本人は知らないのだが。そういう事もあって、学生たちはペシエラの言った方法を、黙々と実践している。
「本当、大したものね、ペシエラ」
「ふふっ、努力の賜物ですわよ」
感心するロゼリアと不敵に笑うペシエラ。それを見ているチェリシアは、ちょっと興奮気味に写真魔法を使っていた。
平和な日々もいいものである。
あの一件の後の事を聞いたが、どうやらあの男は独断行動だったようだ。結局、パープリア男爵を追い詰める事はできなかった。
さて、魔法科に進んだロゼリアたちは、今日もアイリスの魔法を見ていた。それ以外にも、ロゼリアたち三人に魔法を教えてもらおうと思っている学生が、数人ばかり同席している。
どうでもいい話だが、今年はアイリスの制服を新調しておいた。去年の夏の合宿以降は、変装のために体格の近いチェリシアの制服を流用したのだが、あれだといざという時に動きにくいからだ。アイリスは神獣使いではあるが、パープリア男爵の手解きで暗殺術を身に付けている。それに見合った制服を拵えたのだ。
新しい制服は、スカート丈が膝下の規定ギリギリまで短くなっていて、左右にポケット状のスリットが入っている。
それ以外にもチェリシアとペシエラの制服と違い、ラッパ状の袖ではなく、一般的な袖になっている。ブーツもチェリシアやペシエラと同じ物だが、かかとが低い。そう、アイリスの制服はあくまで機動性を重視したものとなっているのだ。本人も動きやすくて気に入っている模様。
普通、かかとの高い靴で激しい動きなんてできるものではない。下手に力を掛けようものならヒールは折れてしまうだろうし、足首を捻る事だってありうる。剣術もできるロゼリアだってそこまでの動きができないのだから、ペシエラが特殊としか言いようがない。
さて、話を戻そう。
アイリス含め十人にも満たない人数ではあるが、ロゼリアたちの前で魔法の特訓をしている。この面々は魔法が多少使える程度ではあるが、親からどうしても魔法科に進めと言われてやって来た貴族たちである。可哀想な事に、親には逆らえないのだ。
で、肝心の魔法の指導は困難を極めている。なにせ教え方がどうしても抽象的になるからだ。手に触れて魔力の流し方を教えても、その感覚を覚えるのも難しい。二年次に上がってから頻繁にしているものの、できたのはアイリス一人だけだった。
「みなさん、少し難しく考えすぎてませんこと?」
「そうね。そこまで力まなくでも大丈夫よ」
「うんうん、頭でイメージして、それを放出する感じでいいのよ」
ペシエラ、ロゼリア、チェリシアがそれぞれに言う。
「イメージさえできてしまえば、詠唱なんて飾りですからね」
ロゼリアはそう言って、目の前に土壁を作り出した。軽く作り出しているので、参加している全員が驚いている。
「ロゼリア、あながち飾りとは言えませんわよ。わたくしたちは魔力が膨大なだけで、他の方がそうとは限りませんわ。詠唱とは、魔力とイメージを補うものなのですから」
ロゼリアの言葉を訂正して補うペシエラ。さすがに女王として研鑽してきただけの事はある。
「杖などの補助具を使うのもそのためですわ。ですが、魔力は増やす事ができますもの。ですので、日々訓練ですわ」
ペシエラは両手を腰に当てて息巻いている。
「あっ、そうか。運動と同じね」
「ええ、お姉様、その通りですわ。ただ、無理をし過ぎますと、逆に枯渇する可能性がありますから、見極めが重要ですわ」
そう言って、ペシエラは参加している学生たちを見る。
「というわけで、みなさん、続けましょうか。自分の得意な魔法をひたすら繰り返して下さいな」
ペシエラがにっこり微笑むと、全員が息を飲んだ。そして、火の玉や水の玉など得意な属性の簡単な魔法を使っている。
「そうそう、それを少しずつ大きくしていくのですわ。無理だと思ったところで、それをしばらくそのまま維持するのですわ。あとは、それを繰り返すのです」
ペシエラが言ってるこの方法。実は逆行前に自分で実行した方法である。確かに元々魔力はとんでもなかったのだが、制御がいまいちだったのだ。そこで制御をつけるために、地道に努力したのだ。
その理由こそは、同級生に居たロゼリアに負けたくなかったから。当時のロゼリアは、ゆくゆくはシルヴァノと結婚し、女王になるのは当然と思われていた存在だ。今思えば、どうしてそこまで目の敵にしたのかは分からない。
しかし、まったくもって皮肉なもので、逆行した今では、その時の努力のおかげで王国で最高の魔法使いと陰では言われているらしい。……本人は知らないのだが。そういう事もあって、学生たちはペシエラの言った方法を、黙々と実践している。
「本当、大したものね、ペシエラ」
「ふふっ、努力の賜物ですわよ」
感心するロゼリアと不敵に笑うペシエラ。それを見ているチェリシアは、ちょっと興奮気味に写真魔法を使っていた。
平和な日々もいいものである。
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