逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
164 / 731
第八章 二年次

第161話 正式決定

しおりを挟む
 とまぁ、二年次も充実した日々を送っている。
 そんなある日の事、久しぶりに王宮から茶会の誘いがあった。女王からの誘いであるので断れるものではない。気は進まないが、ロゼリアたちはその日、王宮の例の花園へと赴いた。
 茶会集まった面々は、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリス、シアンの五人以外には、プラティナとシェイディアだけであった。二人には侍女がついて来ていない。なんとも不思議な状況である。よく見れば、男性陣もまったく居ないのだ。
「よく来てくれたな。とりあえず座りなさい」
 女王はそう告げて、全員を席に着かせる。
「今回呼び立てたのは、我が息子シルヴァノの婚約者の事だ。プラティナは正式な婚約者が決まっておるが、なにぶん公爵家の者なのでな、この場に来てもらった」
 女王がちらりとプラティナを見れば、プラティナは小さく頭を下げる。
 女王は視線を戻し、今度はペシエラを見た。その視線に、ペシエラはピクッと強張った。
「去年までの行動と今のシルヴァノの様子を見ていて思ったのだが、どうもあやつは一人の淑女にご執心のようだ」
 女王の言葉が重い。名前を出していないが、女王の雰囲気と視線が、それが誰なのかを如実に物語っている。
 その人物に対して、周りから視線が集中する。さすがに全員から見られては、黙っているのは難しいものである。
「な、何なんですの?」
 そう、ペシエラだった。
「そういう事だ、ペシエラよ」
「お言葉ではございますが、何が「そういう事」なのでございますでしょうか、女王陛下」
 すましたように言う女王に、ペシエラがくってかかる。だが、女王はそれを一笑して、
「シルヴァノの婚約者を、正式にペシエラ・コーラルに決定する。後日、大々的に発表するのからな。光栄に思うがよいぞ」
 キッパリと言い切って見せた。
 当のペシエラは、珍しく大口を開けて固まっている。その横でチェリシアは大喜びで、アイリスは控えめにおめでとうと祝福している。アイリスはいいとして、「チェリシア、ここは女王の御前なので控えた方がいい」と、ロゼリアは横でハラハラしていた。
 シルヴァノの婚約者の座は、ペシエラが望んでいた事ではあるが、時期的にまだ早いかなと思っていた。しかし、シルヴァノの方が今年は十四となるので、実はむしろ遅い部類なのである。
 ちなみに、お茶会に誘った面々を王族とペシエラの両方と親しい女性陣に絞ったのは、公式発表前に外部への情報流出を防ぐためだ。それとどうあれ心から祝福する事ができるとの、女王からの信頼の証でもある。一番困惑しているのは、婚約者に指定されたペシエラというのが現実である。
 実際、普段では見る事のできない表情を、これでもかと披露している。この人、これでも乙女ゲームでヒロイン張ってた人なのだ。それが今では、気が強くてお節介焼きな上に、どちらか言えば悪役令嬢に近い性格になってしまっている。経験は人を変えるのだ。
 それに加えて、魔力は膨大で扱いは上手い。更には王子を簡単にあしらうくらいには剣術の腕も立つ。これで女王にならないと言われたら、なんでと聞かれそうなものだ。仕方がない。
 周りも完全にお祝いムードになってしまっているので、ペシエラの予定からすれば早いが、
「みなさんにこう祝われてしまえば、仕方ありませんわね。女王陛下、婚約者の件、お受け致します」
 淑女の挨拶というより、騎士の挨拶で了承を伝えるペシエラ。その姿に女王は大変満足している。
 そういうわけで、シルヴァノの婚約者が正式決定した事で、王宮の問題はひとつ片付いたと言える。しかし、ここで女王がアイリスに目を向けた。
「して、アイリスよ」
 急に呼び掛けられたアイリスは、体が強張る。
「今の生活はどうじゃな?」
「は、はい。少々無茶な事は言われますが、概ねは満足しております」
「そうか」
 アイリスの返答に、女王は含みを持たせた反応をする。
「すまぬな。パープリアの件は秘密裏に調査はしておるのだが、なかなか情報が出てこぬ。安心できる日はまだ遠いようじゃ」
 女王が表情を曇らせた。
「時に、ノワール家で保護しておるお主の兄が、ちょうど騎士団の訓練に参加しておる。後で見に行くか?」
 ひとつ咳払いをした女王がそのように問い掛けると、
「はい、会いとうございます」
 アイリスは表情を変えずに即答する。だが、その声はどこか嬉しそうに聞こえた。その様子に、プラティナとシェイディアの二人もにこりと微笑んでいた。
 こうして、久しぶりの女王とのお茶会は和やかな雰囲気の中で行われたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...