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第八章 二年次
第198話 手練れの暗殺者
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ロゼリアと別れたチェリシアたちは、マゼンダ商会の事務室に足を運んでいた。キャノルを見るシアンの目が、ずっと厳しいままである。とはいえ、チェリシアも複雑な気持ちの状態のままであり、とても心許せる状況ではなかった。
「……二人がそういう目で見るのは分かる。ただあたいは割り切るのは得意だから、今のあたいはあんたたちの下につく人間だよ」
キャノルは目を伏せて頭をぽりぽり掻きながら言う。アイリスも言っていた事だが、本当に裏稼業の人間は、こういう切り替えが早いのだ。
「口の固さと割り切りの良さは、あたいら裏稼業の人間ならほぼ当たり前のように持ってる。あたいの今の雇い主はあんたらなんだ。いいようにこき使ってくれよ」
キャノルが騒ぐので、シアンの方がいち早く諦めたようだ。チェリシアは諦めとかそういう事以前に、よく分かっていないようだが。
「まあそこまで言うのでしたら、暗殺の件はひとまず忘れておきましょう。ですが、私が信用できないと判断したら……、分かりますよね?」
シアンの目がギラリと光る。
「はー、怖い怖い。そんなに心配しなくとも、あたいは主人とした人物には忠誠を誓う。あのロゼリアって嬢ちゃんは面白そうだからね、よっぽどでもない限り裏切るつもりはないさ」
両手を突き出して、キャノルはシアンに言い訳をしている。根は悪い人ではなさそうだ。
「ふん、暗殺者なんてしている人物、そう簡単に信用されるとお思いで?」
「まあ無理だろうね。でも、ここで働くとなったからには、しっかりと働かせてもらうよ。このチェリシアって嬢ちゃんの作る魔道具も興味あるしね」
キャノルはちらりとチェリシアを見る。その視線に、シアンはどういうわけか怒りを覚えた。
ぐうううー……。
大きなお腹の音が、部屋に響き渡る。
「あ、ごめんなさい。お腹空いたみたい」
チェリシアのお腹の音だった。
「そうだ。私の魔道具をこの際、実際に見てもらおうかな」
自分がお腹を鳴らした事を誤魔化そうとして、チェリシアは収納魔法から小型調理窯とトッピング済の焼く前のピザを取り出した。
「……収納魔法?! この魔法はそう使い手の居ない魔法だぞ。……いや、殺せなくて正解だったな」
「キャノル、あなたはただの暗殺者ではなさそうですね」
キャノルの独り言に、シアンが反応する。
「基本的には報酬を貰ってるんだけどな。時には相手の懐に入ってしばらく過ごす事もある。対象が有能過ぎて、渋る事も度々あったんだ。暗殺者というには、情も厚いんだよ、あたいはさ」
「それにしては、私に対しては随分とあっさり殺しに掛かりましたね」
シアンがこう言ってきたので、キャノルはスッとシアンに顔を近づけた。
「あんた、アクアマリンの妹だろ。……なんで魔力が無いんだ? ちなみに、それが殺そうとした理由さ」
耳元で囁くキャノル。この言葉にシアンは動揺する。
「……根拠は?」
「暗殺者としての能力さ。相手の能力はある程度までなら測る事ができる。鑑定魔法の一種さ」
「……なるほど。ですが、ロゼリア様や他の方への口外は禁じます。知られるわけにはいかないですから」
「どうやら深い事情がありそうだね。いいよ、今のあたいはあんたらの部下だ。部下は上司に従うもんだろ?」
どうにも、このキャロルという口の悪い女は食えない人物のようである。ロゼリアやチェリシア、それにペシエラには気付かれず、兄に疑われた程度の事実に気付いているのだから。
「本当に、あなたは油断ならない人だわ。裏切れないくらいに使用人根性を叩き込んでやりますよ」
「ははっ、お手柔らかに頼む」
シアンとキャノルが話をしていると、何やらいい匂いが部屋に漂い始めた。
「へえ、あの魔道具から臭うな。何だい、あれ」
「あれは、パンなどを焼く窯を小型化した魔道具ですよ。ただ重量があるので、チェリシア様の収納魔法以外では持ち運びが難しい代物ですよ」
キャノルが訊くので、シアンは答える。キャノルはとても興味深そうに見ている。
「ふーん。って事は、あの箱の素材が問題って事か」
昼前まで牢に放り込まれていたとは思えないくらい、キャノルはチェリシアやシアンたちと馴染んでいるような感じだった。
アイリスの時もそうだったが、このキャノルも長い付き合いになりそうな雰囲気だった。
「……二人がそういう目で見るのは分かる。ただあたいは割り切るのは得意だから、今のあたいはあんたたちの下につく人間だよ」
キャノルは目を伏せて頭をぽりぽり掻きながら言う。アイリスも言っていた事だが、本当に裏稼業の人間は、こういう切り替えが早いのだ。
「口の固さと割り切りの良さは、あたいら裏稼業の人間ならほぼ当たり前のように持ってる。あたいの今の雇い主はあんたらなんだ。いいようにこき使ってくれよ」
キャノルが騒ぐので、シアンの方がいち早く諦めたようだ。チェリシアは諦めとかそういう事以前に、よく分かっていないようだが。
「まあそこまで言うのでしたら、暗殺の件はひとまず忘れておきましょう。ですが、私が信用できないと判断したら……、分かりますよね?」
シアンの目がギラリと光る。
「はー、怖い怖い。そんなに心配しなくとも、あたいは主人とした人物には忠誠を誓う。あのロゼリアって嬢ちゃんは面白そうだからね、よっぽどでもない限り裏切るつもりはないさ」
両手を突き出して、キャノルはシアンに言い訳をしている。根は悪い人ではなさそうだ。
「ふん、暗殺者なんてしている人物、そう簡単に信用されるとお思いで?」
「まあ無理だろうね。でも、ここで働くとなったからには、しっかりと働かせてもらうよ。このチェリシアって嬢ちゃんの作る魔道具も興味あるしね」
キャノルはちらりとチェリシアを見る。その視線に、シアンはどういうわけか怒りを覚えた。
ぐうううー……。
大きなお腹の音が、部屋に響き渡る。
「あ、ごめんなさい。お腹空いたみたい」
チェリシアのお腹の音だった。
「そうだ。私の魔道具をこの際、実際に見てもらおうかな」
自分がお腹を鳴らした事を誤魔化そうとして、チェリシアは収納魔法から小型調理窯とトッピング済の焼く前のピザを取り出した。
「……収納魔法?! この魔法はそう使い手の居ない魔法だぞ。……いや、殺せなくて正解だったな」
「キャノル、あなたはただの暗殺者ではなさそうですね」
キャノルの独り言に、シアンが反応する。
「基本的には報酬を貰ってるんだけどな。時には相手の懐に入ってしばらく過ごす事もある。対象が有能過ぎて、渋る事も度々あったんだ。暗殺者というには、情も厚いんだよ、あたいはさ」
「それにしては、私に対しては随分とあっさり殺しに掛かりましたね」
シアンがこう言ってきたので、キャノルはスッとシアンに顔を近づけた。
「あんた、アクアマリンの妹だろ。……なんで魔力が無いんだ? ちなみに、それが殺そうとした理由さ」
耳元で囁くキャノル。この言葉にシアンは動揺する。
「……根拠は?」
「暗殺者としての能力さ。相手の能力はある程度までなら測る事ができる。鑑定魔法の一種さ」
「……なるほど。ですが、ロゼリア様や他の方への口外は禁じます。知られるわけにはいかないですから」
「どうやら深い事情がありそうだね。いいよ、今のあたいはあんたらの部下だ。部下は上司に従うもんだろ?」
どうにも、このキャロルという口の悪い女は食えない人物のようである。ロゼリアやチェリシア、それにペシエラには気付かれず、兄に疑われた程度の事実に気付いているのだから。
「本当に、あなたは油断ならない人だわ。裏切れないくらいに使用人根性を叩き込んでやりますよ」
「ははっ、お手柔らかに頼む」
シアンとキャノルが話をしていると、何やらいい匂いが部屋に漂い始めた。
「へえ、あの魔道具から臭うな。何だい、あれ」
「あれは、パンなどを焼く窯を小型化した魔道具ですよ。ただ重量があるので、チェリシア様の収納魔法以外では持ち運びが難しい代物ですよ」
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「ふーん。って事は、あの箱の素材が問題って事か」
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