300 / 731
第十章 乙女ゲーム最終年
第296話 特異分野がある弊害
しおりを挟む
チェリシアは自由時間をいっぱい使って、写真用の紙を大量に作成し始めた。目標はなんと二万枚。どんだけ頑張るつもりなのだろうか。はっきり言って体力と魔力が持ちそうにないと思われた。
だが、チェリシアはたったの十日間で、写真用の紙二万枚を用意してみせた。とはいっても、紙の大きさはそれほど大きくはない。そこにあったのは通常の便箋ほどの大きさの紙の束だった。
実はこれ、大きめに一枚の紙を作って、それを便箋ほどの大きさの紙に切り分けていったのである。おおよそ八分割なので、二万枚ともなると元の大きさにしても二千五百枚というとんでもない数である。
学園もあるし、せいぜい放課後の数時間しか作業はできないはずだし、何より材料が足りないはずである。一体どうやって作ったのか。
材料となる樹皮なのだが、これは商会の伝手を使ったのだ。建物を建てる際に使う木材だが、樹皮は大体使われずにごみになってしまう。ウッドチップなんてものもないので、使うなら火種に使うくらいだった。チェリシアはそういった樹皮を買い集めたのだ。
足りない分は未開の森やコーラル領のあちこちを回り、倒木を集めて帰ってきた。それで三日間を費やす事となった。紙作りはそこから一週間である。人間、本気を出せばどうとでもなるものだった。もちろん、その間は王宮での魔法演習はお休みにさせてもらっていた。
「おはよう、ペシエラ」
「……お姉様、お目の下のくまが酷いですわよ。今日はお休みになって、よく寝て下さいませ」
完成させた翌日の朝は、ペシエラにそう言われて強制的に休まさせられた。チェリシアは必死に抵抗を試みる。
「他人の事は言えませんが、お姉様は程度が酷すぎますわ。紙は確認しましたけれど、このクオリティを出すのにどれだけ根を詰めたんですか、反省して下さい、休んで下さい、二度としないで下さいませ!」
さすがにペシエラにここまで怒られてしまい、結局チェリシアは凹んでふて寝をしたのだった。この人、まったく反省がない。
「聞いて下さらない? ロゼリア」
その日の学園で、ペシエラは早速ロゼリアにその事を告げ口する。するとロゼリアは、
「……、馬鹿なの?」
呆れたように首を傾げながら反応する。
「ですわよね。まだ準備期間が二週間残ってますのよ?」
「二年間見てましたけど、チェリシアは変なところに拘りますよね」
アイリスにまでこういう評価をされるチェリシアである。変なところに拘るのは、転生者の性が何かなのだろうか。
「部屋の中には大量の紙が積み上げられてましたわよ。全部写真魔法用の紙ですわ」
「山積みって……。何をしているのよ、チェリシアは」
「まあ、カメラは一般に出回ってませんし、この魔法を使えるのもお姉様と私だけです。よっぽど目玉にしたいらしいですわね。ですが、さすがにあの数は体力が持ちませんわよ」
「で、どのくらいの量があるの?」
「……二万枚らしいですわ」
「に、二万枚……」
場に沈黙が漂う。
「お姉様ったらね」
沈黙を破るようにペシエラが語り始める。
「ロゼリアに恩を返したいんだと思うわ」
「恩?」
ロゼリアが不思議に思って思わず口に出す。
「出会った頃の事は覚えていて? あの頃のお姉様は今では分からないくらいに内向的だったのよ」
これを聞いたロゼリアは確かにそうだったなと、かすかながら思い出した。
「私と仲良くしたいと言って声を掛けてくれた事を、今も感謝してるみたいですわ。……まぁ、私も同じ気持ちですけれど」
ペシエラがなぜか視線をずらしながらぼそぼそと言っている。だが、丸聞こえであった。すっかりツンデレ属性で落ち着いている元ヒロインである。
「普通に写真と撮るっていうだけなら、お姉様はそこまで無茶をしなかったと思いますわ」
ペシエラの熱弁が始まる。最初の頃こそ邪険にしていたチェリシアの存在も、すっかり危なっかしくて放っておけない存在に成り下がっている。
「今年が終わるとペイル殿下は留学を終えて自国モスグリネに戻られますわ。その年を迎えるタイミングでロゼリアとは婚約者同士になりましたわ。チャットフォンの事もありまし、単純に二人の事を考えて暴走していると思われますわよ」
推測とはいえ、ペシエラはきっぱり言い切った。なるほど納得のいく理由である。友人のためならと暴走する人間は一定数居る。チェリシアもそういう人間だという話だった。
それを聞いたロゼリアは、頭が痛くなってきた。
「いえ、気持ちは分かるんだけれどもね……。勢いがある上に限度というものを知らないから、どこか嬉しくないわね」
本当にめまいがしそうなくらいのチェリシアの暴走である。嬉しいはずなのに、どこかこう、もやもやとした気分にさせられる話だった。
ところがどっこい、この写真撮影の話を聞きつけたクラスメイトたちによって、マゼンダ商会の学園祭の出し物の話はあっという間に拡散されてしまった。食堂に顔を出したロゼリアたちは、その質問攻めに遭ってしまった。
昨年のピザの立体映像の話を持ち出す学生も居たので、それについての興味も再燃してしまったようだ。
新しい事業の案が出てきてしまったが、とりあえず「検討だけはします」と答えて、その日は逃げるように学園を去ったロゼリアたちだった。
だが、チェリシアはたったの十日間で、写真用の紙二万枚を用意してみせた。とはいっても、紙の大きさはそれほど大きくはない。そこにあったのは通常の便箋ほどの大きさの紙の束だった。
実はこれ、大きめに一枚の紙を作って、それを便箋ほどの大きさの紙に切り分けていったのである。おおよそ八分割なので、二万枚ともなると元の大きさにしても二千五百枚というとんでもない数である。
学園もあるし、せいぜい放課後の数時間しか作業はできないはずだし、何より材料が足りないはずである。一体どうやって作ったのか。
材料となる樹皮なのだが、これは商会の伝手を使ったのだ。建物を建てる際に使う木材だが、樹皮は大体使われずにごみになってしまう。ウッドチップなんてものもないので、使うなら火種に使うくらいだった。チェリシアはそういった樹皮を買い集めたのだ。
足りない分は未開の森やコーラル領のあちこちを回り、倒木を集めて帰ってきた。それで三日間を費やす事となった。紙作りはそこから一週間である。人間、本気を出せばどうとでもなるものだった。もちろん、その間は王宮での魔法演習はお休みにさせてもらっていた。
「おはよう、ペシエラ」
「……お姉様、お目の下のくまが酷いですわよ。今日はお休みになって、よく寝て下さいませ」
完成させた翌日の朝は、ペシエラにそう言われて強制的に休まさせられた。チェリシアは必死に抵抗を試みる。
「他人の事は言えませんが、お姉様は程度が酷すぎますわ。紙は確認しましたけれど、このクオリティを出すのにどれだけ根を詰めたんですか、反省して下さい、休んで下さい、二度としないで下さいませ!」
さすがにペシエラにここまで怒られてしまい、結局チェリシアは凹んでふて寝をしたのだった。この人、まったく反省がない。
「聞いて下さらない? ロゼリア」
その日の学園で、ペシエラは早速ロゼリアにその事を告げ口する。するとロゼリアは、
「……、馬鹿なの?」
呆れたように首を傾げながら反応する。
「ですわよね。まだ準備期間が二週間残ってますのよ?」
「二年間見てましたけど、チェリシアは変なところに拘りますよね」
アイリスにまでこういう評価をされるチェリシアである。変なところに拘るのは、転生者の性が何かなのだろうか。
「部屋の中には大量の紙が積み上げられてましたわよ。全部写真魔法用の紙ですわ」
「山積みって……。何をしているのよ、チェリシアは」
「まあ、カメラは一般に出回ってませんし、この魔法を使えるのもお姉様と私だけです。よっぽど目玉にしたいらしいですわね。ですが、さすがにあの数は体力が持ちませんわよ」
「で、どのくらいの量があるの?」
「……二万枚らしいですわ」
「に、二万枚……」
場に沈黙が漂う。
「お姉様ったらね」
沈黙を破るようにペシエラが語り始める。
「ロゼリアに恩を返したいんだと思うわ」
「恩?」
ロゼリアが不思議に思って思わず口に出す。
「出会った頃の事は覚えていて? あの頃のお姉様は今では分からないくらいに内向的だったのよ」
これを聞いたロゼリアは確かにそうだったなと、かすかながら思い出した。
「私と仲良くしたいと言って声を掛けてくれた事を、今も感謝してるみたいですわ。……まぁ、私も同じ気持ちですけれど」
ペシエラがなぜか視線をずらしながらぼそぼそと言っている。だが、丸聞こえであった。すっかりツンデレ属性で落ち着いている元ヒロインである。
「普通に写真と撮るっていうだけなら、お姉様はそこまで無茶をしなかったと思いますわ」
ペシエラの熱弁が始まる。最初の頃こそ邪険にしていたチェリシアの存在も、すっかり危なっかしくて放っておけない存在に成り下がっている。
「今年が終わるとペイル殿下は留学を終えて自国モスグリネに戻られますわ。その年を迎えるタイミングでロゼリアとは婚約者同士になりましたわ。チャットフォンの事もありまし、単純に二人の事を考えて暴走していると思われますわよ」
推測とはいえ、ペシエラはきっぱり言い切った。なるほど納得のいく理由である。友人のためならと暴走する人間は一定数居る。チェリシアもそういう人間だという話だった。
それを聞いたロゼリアは、頭が痛くなってきた。
「いえ、気持ちは分かるんだけれどもね……。勢いがある上に限度というものを知らないから、どこか嬉しくないわね」
本当にめまいがしそうなくらいのチェリシアの暴走である。嬉しいはずなのに、どこかこう、もやもやとした気分にさせられる話だった。
ところがどっこい、この写真撮影の話を聞きつけたクラスメイトたちによって、マゼンダ商会の学園祭の出し物の話はあっという間に拡散されてしまった。食堂に顔を出したロゼリアたちは、その質問攻めに遭ってしまった。
昨年のピザの立体映像の話を持ち出す学生も居たので、それについての興味も再燃してしまったようだ。
新しい事業の案が出てきてしまったが、とりあえず「検討だけはします」と答えて、その日は逃げるように学園を去ったロゼリアたちだった。
2
あなたにおすすめの小説
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる