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第十章 乙女ゲーム最終年
第296話 特異分野がある弊害
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チェリシアは自由時間をいっぱい使って、写真用の紙を大量に作成し始めた。目標はなんと二万枚。どんだけ頑張るつもりなのだろうか。はっきり言って体力と魔力が持ちそうにないと思われた。
だが、チェリシアはたったの十日間で、写真用の紙二万枚を用意してみせた。とはいっても、紙の大きさはそれほど大きくはない。そこにあったのは通常の便箋ほどの大きさの紙の束だった。
実はこれ、大きめに一枚の紙を作って、それを便箋ほどの大きさの紙に切り分けていったのである。おおよそ八分割なので、二万枚ともなると元の大きさにしても二千五百枚というとんでもない数である。
学園もあるし、せいぜい放課後の数時間しか作業はできないはずだし、何より材料が足りないはずである。一体どうやって作ったのか。
材料となる樹皮なのだが、これは商会の伝手を使ったのだ。建物を建てる際に使う木材だが、樹皮は大体使われずにごみになってしまう。ウッドチップなんてものもないので、使うなら火種に使うくらいだった。チェリシアはそういった樹皮を買い集めたのだ。
足りない分は未開の森やコーラル領のあちこちを回り、倒木を集めて帰ってきた。それで三日間を費やす事となった。紙作りはそこから一週間である。人間、本気を出せばどうとでもなるものだった。もちろん、その間は王宮での魔法演習はお休みにさせてもらっていた。
「おはよう、ペシエラ」
「……お姉様、お目の下のくまが酷いですわよ。今日はお休みになって、よく寝て下さいませ」
完成させた翌日の朝は、ペシエラにそう言われて強制的に休まさせられた。チェリシアは必死に抵抗を試みる。
「他人の事は言えませんが、お姉様は程度が酷すぎますわ。紙は確認しましたけれど、このクオリティを出すのにどれだけ根を詰めたんですか、反省して下さい、休んで下さい、二度としないで下さいませ!」
さすがにペシエラにここまで怒られてしまい、結局チェリシアは凹んでふて寝をしたのだった。この人、まったく反省がない。
「聞いて下さらない? ロゼリア」
その日の学園で、ペシエラは早速ロゼリアにその事を告げ口する。するとロゼリアは、
「……、馬鹿なの?」
呆れたように首を傾げながら反応する。
「ですわよね。まだ準備期間が二週間残ってますのよ?」
「二年間見てましたけど、チェリシアは変なところに拘りますよね」
アイリスにまでこういう評価をされるチェリシアである。変なところに拘るのは、転生者の性が何かなのだろうか。
「部屋の中には大量の紙が積み上げられてましたわよ。全部写真魔法用の紙ですわ」
「山積みって……。何をしているのよ、チェリシアは」
「まあ、カメラは一般に出回ってませんし、この魔法を使えるのもお姉様と私だけです。よっぽど目玉にしたいらしいですわね。ですが、さすがにあの数は体力が持ちませんわよ」
「で、どのくらいの量があるの?」
「……二万枚らしいですわ」
「に、二万枚……」
場に沈黙が漂う。
「お姉様ったらね」
沈黙を破るようにペシエラが語り始める。
「ロゼリアに恩を返したいんだと思うわ」
「恩?」
ロゼリアが不思議に思って思わず口に出す。
「出会った頃の事は覚えていて? あの頃のお姉様は今では分からないくらいに内向的だったのよ」
これを聞いたロゼリアは確かにそうだったなと、かすかながら思い出した。
「私と仲良くしたいと言って声を掛けてくれた事を、今も感謝してるみたいですわ。……まぁ、私も同じ気持ちですけれど」
ペシエラがなぜか視線をずらしながらぼそぼそと言っている。だが、丸聞こえであった。すっかりツンデレ属性で落ち着いている元ヒロインである。
「普通に写真と撮るっていうだけなら、お姉様はそこまで無茶をしなかったと思いますわ」
ペシエラの熱弁が始まる。最初の頃こそ邪険にしていたチェリシアの存在も、すっかり危なっかしくて放っておけない存在に成り下がっている。
「今年が終わるとペイル殿下は留学を終えて自国モスグリネに戻られますわ。その年を迎えるタイミングでロゼリアとは婚約者同士になりましたわ。チャットフォンの事もありまし、単純に二人の事を考えて暴走していると思われますわよ」
推測とはいえ、ペシエラはきっぱり言い切った。なるほど納得のいく理由である。友人のためならと暴走する人間は一定数居る。チェリシアもそういう人間だという話だった。
それを聞いたロゼリアは、頭が痛くなってきた。
「いえ、気持ちは分かるんだけれどもね……。勢いがある上に限度というものを知らないから、どこか嬉しくないわね」
本当にめまいがしそうなくらいのチェリシアの暴走である。嬉しいはずなのに、どこかこう、もやもやとした気分にさせられる話だった。
ところがどっこい、この写真撮影の話を聞きつけたクラスメイトたちによって、マゼンダ商会の学園祭の出し物の話はあっという間に拡散されてしまった。食堂に顔を出したロゼリアたちは、その質問攻めに遭ってしまった。
昨年のピザの立体映像の話を持ち出す学生も居たので、それについての興味も再燃してしまったようだ。
新しい事業の案が出てきてしまったが、とりあえず「検討だけはします」と答えて、その日は逃げるように学園を去ったロゼリアたちだった。
だが、チェリシアはたったの十日間で、写真用の紙二万枚を用意してみせた。とはいっても、紙の大きさはそれほど大きくはない。そこにあったのは通常の便箋ほどの大きさの紙の束だった。
実はこれ、大きめに一枚の紙を作って、それを便箋ほどの大きさの紙に切り分けていったのである。おおよそ八分割なので、二万枚ともなると元の大きさにしても二千五百枚というとんでもない数である。
学園もあるし、せいぜい放課後の数時間しか作業はできないはずだし、何より材料が足りないはずである。一体どうやって作ったのか。
材料となる樹皮なのだが、これは商会の伝手を使ったのだ。建物を建てる際に使う木材だが、樹皮は大体使われずにごみになってしまう。ウッドチップなんてものもないので、使うなら火種に使うくらいだった。チェリシアはそういった樹皮を買い集めたのだ。
足りない分は未開の森やコーラル領のあちこちを回り、倒木を集めて帰ってきた。それで三日間を費やす事となった。紙作りはそこから一週間である。人間、本気を出せばどうとでもなるものだった。もちろん、その間は王宮での魔法演習はお休みにさせてもらっていた。
「おはよう、ペシエラ」
「……お姉様、お目の下のくまが酷いですわよ。今日はお休みになって、よく寝て下さいませ」
完成させた翌日の朝は、ペシエラにそう言われて強制的に休まさせられた。チェリシアは必死に抵抗を試みる。
「他人の事は言えませんが、お姉様は程度が酷すぎますわ。紙は確認しましたけれど、このクオリティを出すのにどれだけ根を詰めたんですか、反省して下さい、休んで下さい、二度としないで下さいませ!」
さすがにペシエラにここまで怒られてしまい、結局チェリシアは凹んでふて寝をしたのだった。この人、まったく反省がない。
「聞いて下さらない? ロゼリア」
その日の学園で、ペシエラは早速ロゼリアにその事を告げ口する。するとロゼリアは、
「……、馬鹿なの?」
呆れたように首を傾げながら反応する。
「ですわよね。まだ準備期間が二週間残ってますのよ?」
「二年間見てましたけど、チェリシアは変なところに拘りますよね」
アイリスにまでこういう評価をされるチェリシアである。変なところに拘るのは、転生者の性が何かなのだろうか。
「部屋の中には大量の紙が積み上げられてましたわよ。全部写真魔法用の紙ですわ」
「山積みって……。何をしているのよ、チェリシアは」
「まあ、カメラは一般に出回ってませんし、この魔法を使えるのもお姉様と私だけです。よっぽど目玉にしたいらしいですわね。ですが、さすがにあの数は体力が持ちませんわよ」
「で、どのくらいの量があるの?」
「……二万枚らしいですわ」
「に、二万枚……」
場に沈黙が漂う。
「お姉様ったらね」
沈黙を破るようにペシエラが語り始める。
「ロゼリアに恩を返したいんだと思うわ」
「恩?」
ロゼリアが不思議に思って思わず口に出す。
「出会った頃の事は覚えていて? あの頃のお姉様は今では分からないくらいに内向的だったのよ」
これを聞いたロゼリアは確かにそうだったなと、かすかながら思い出した。
「私と仲良くしたいと言って声を掛けてくれた事を、今も感謝してるみたいですわ。……まぁ、私も同じ気持ちですけれど」
ペシエラがなぜか視線をずらしながらぼそぼそと言っている。だが、丸聞こえであった。すっかりツンデレ属性で落ち着いている元ヒロインである。
「普通に写真と撮るっていうだけなら、お姉様はそこまで無茶をしなかったと思いますわ」
ペシエラの熱弁が始まる。最初の頃こそ邪険にしていたチェリシアの存在も、すっかり危なっかしくて放っておけない存在に成り下がっている。
「今年が終わるとペイル殿下は留学を終えて自国モスグリネに戻られますわ。その年を迎えるタイミングでロゼリアとは婚約者同士になりましたわ。チャットフォンの事もありまし、単純に二人の事を考えて暴走していると思われますわよ」
推測とはいえ、ペシエラはきっぱり言い切った。なるほど納得のいく理由である。友人のためならと暴走する人間は一定数居る。チェリシアもそういう人間だという話だった。
それを聞いたロゼリアは、頭が痛くなってきた。
「いえ、気持ちは分かるんだけれどもね……。勢いがある上に限度というものを知らないから、どこか嬉しくないわね」
本当にめまいがしそうなくらいのチェリシアの暴走である。嬉しいはずなのに、どこかこう、もやもやとした気分にさせられる話だった。
ところがどっこい、この写真撮影の話を聞きつけたクラスメイトたちによって、マゼンダ商会の学園祭の出し物の話はあっという間に拡散されてしまった。食堂に顔を出したロゼリアたちは、その質問攻めに遭ってしまった。
昨年のピザの立体映像の話を持ち出す学生も居たので、それについての興味も再燃してしまったようだ。
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