逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
452 / 731
新章 青色の智姫

第83話 モスグリネ王城でのやり取り

しおりを挟む
 姿を消したケットシーは、モスグリネの王城に姿を見せていた。
「やあ、ペイルくん、ロゼリアくん。今は暇かい?」
 にこやかに手を振りながら執務室に乗り込んでくるケットシー。
「どう見たら暇なように見えるんだ」
「まったくですね。糸目だからよく見えないのかしら」
「はっはっはっ、二人とも相変わらず辛らつだね。いやぁ、いつも通りで安心したよ」
 ところが、ペイルとロゼリアから冷たくあしらわれてしまう。それでも笑っているのはさすがケットシーといったところだろう。
「で、何の用なんだ。お前は商業組合の仕事で忙しいはずだろ」
「はっはっはっ、ボクの部下は有能だからね。特にストロアは十分ボクの代わりになれる逸材だ。そしてなにより、このボクを縛り付けるなど、誰にもできないからね」
 ペイルの愚痴に、ケットシーはのんきに笑いながら話している。これには二人ともまともに相手をする気を失うというものだ。
 だが、ケットシーは二人に対してにやにやと笑いながら話を始める。
「いいのかね、そんな態度で。今日ボクが来たのは、二人の娘であるシアンくんに関連した話なんだよ」
「なんだと?!」
 ケットシーの言葉に、ペイルとロゼリアが揃ってケットシーへと顔を向ける。二人の分かりやすい反応に、さっきよりもいい笑顔を見せるケットシーである。
「はっはっはっはっ。それでは、報告させてもらうよ」
 ケットシーは室内のソファーに腰を掛けると、ゆっくりと報告を始めた。

「デーモンハート、まだそんな危険なものが転がっているのか」
「まあね。魔物さえいればいくらでも作り出せるよ。ただし、とても根気がいる作業だけどね。あちっ」
 ひと通り説明を終えたケットシーは紅茶を飲んでいる。だが、猫舌なのを忘れていたようで、その熱さに思わず困惑した表情を浮かべていた。
「それにしても、オニオール男爵家ですか。嫁いできてから国内の貴族は把握したつもりでしたが、初耳の貴族ですね」
「仕方がない。オニオール男爵家は、男爵自身も身内もほとんど公式の場に姿を見せないからな。籍だけがあるような状態だ」
 ロゼリアが深く考え込むと、ペイルはそのようにフォローを入れていた。
「そのようなことは許されるのですかね」
「普通は無理だろうな。だが、奴らは俺たちの結婚式にも即位式にも姿を見せなかった。辺境なのをいいことに、かなり自由気ままに行っているようだ」
「まあ……」
 ペイルの話を聞いて、驚きを隠せないロゼリアだった。
「そんなオニオール家だが、最近になってこの王都に姿を見せた」
「それはいつですか?」
「去年の秋だ。自分のところの息子も留学させろと直談判しに来たんだ」
「まあ、私がチェリシアと一緒に大豆の視察に出ていた頃ではないですか」
 話を聞いて、再び驚くロゼリアである。
「アイヴォリー出身の君と遭遇するのを避けての行動だろうな。留学自体は正当な権利なのですぐに了承されたよ」
 ペイルの話に黙り込んでしまうロゼリアだった。
「まぁそんなオニオール家だけど、どうやらサンフレア学園の合宿で少々やらかしてくれたらしい。本人はバレていないと思っているだろうが、ペシエラくんとアイリスくんが監視を送っていてね。そこで発覚したことなんだ」
「まぁ、さすがペシエラね」
 ケットシーの話を聞いて、おかしそうに笑うロゼリアである。
 もうすっかり昔のわだかまりなどなくなっているので、ペシエラの行動に素直に感心しているのである。
 ケットシーはそれ以外にも、監視をしていたキャノルとライの二人の報告をペイルとロゼリアに行う。
 途中から割り込んでいたくせに、まるで最初からいたようにすべてを話すケットシー。相変わらず神出鬼没でつかみどころのない幻獣なのだ。
「デーモンハートと宝珠か。また面倒な組み合わせだな」
「私たちの時は宝珠単独で魔物氾濫を起こしていましたけど、デーモンハートまで持ち出したということは、明確な殺意があったということですね」
「まぁそうだね。でも、そのデーモンハートはライくんが砕いてくれたし、その出処は分からない。証拠はあの宝珠と監視二人の証言だけだ。しらを切られれば、処罰をするとしても軽微なものになるだろうね」
「うーむ、確かにそうだな……」
 ケットシーの意見に、真剣に悩むペイルである。
 パープリア男爵の時は、ライの報告とアイリスの母親であるアメジスタの証言もあったからこそ、どうにか極刑までもっていけたようなものだ。
 今回はデーモンハートを先に壊してしまったことで計画は不発。王族を狙ったとはいえど確固たる証拠はなくなってしまった。これでは裁くに裁けないのだ。
「はぁ、仕方ないな。調査員を密かに送るしかないだろう。いくら辺境とはいえども、少々特別扱いが過ぎたな」
 ペイルはどうやらやる気のようである。
「王国にあだ名す可能性のある者だ。徹底的に監視して調べ上げてやろうじゃないか」
「そうですね。私たちの娘に手を出そうとしたのですから、それはもう無慈悲なくらいにやってやりましょう」
 ペイルもロゼリアもものすごい気迫である。あのケットシーですらも気圧されるくらいだった。
「まぁ、必要なものがあったらボクに相談をしておくれ。これでも精霊の森出身の幻獣だからね。ある程度のものの調達は可能だよ」
「必要になったらな」
 きっぱりと断るような言い方をするペイルである。自分の娘に危険を及ぼうとした存在なのだから、自分たちの手で下したいのだろう。
 こうして、ロゼリアたちは新たなる脅威との戦いに臨むことになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...