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新章 青色の智姫
第180話 三夜パーティー
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まさか、食事の席で婚約者の発表があるとは、誰が思っただろうか。
とはいえ、シアンにしてみればアイヴォリーに戻るきっかけになる。双方の王家が納得しているのであるのなら、特に気にする必要もない話だ。
「ずいぶんとペシエラ様にしては急なお話でしたね」
「そうですね、スミレ」
夜はパーティーに参加する予定なので、シアンは服を着替えている。
スミレに手伝ってもらいながら、昼間の話をしている。
急な話であったものの、シアンにもスミレにもそれほどの驚きはなかった。想定はしていたからだ。
ドレスに着替え終わり、あとは時間を待つばかりとなった頃、部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。
「どちら様かしら」
「シアン、私よ」
「お母様。どうぞお入りになって下さい」
扉が開き、ロゼリアとその侍女が入ってくる。
「お母様、どうなされたのですか?」
急に顔を出してきたロゼリアに、シアンはついつい尋ねてしまう。
「ええ、急な話だったからシアンがショックを受けていないか気になってね。ごめんなさいね、ろくに話もしないで急なことを決めてしまって」
「いえ、私は大丈夫です。王族の一人ですから、覚悟は決めておりましたから」
「そう。本当にシアンってば、しっかりしているわね」
きりっとした表情を見せるシアンを見て、ロゼリアの方がうろたえているようだった。
「心配は杞憂だったかしらね。でも、シアン」
「はい、お母様」
「嫌だったら断ってくれてもいいのですからね」
ロゼリアから言われて、シアンはつい驚いてきょとんとした顔をしてしまう。
スミレと顔を見合わせた後、シアンは微笑みを見せてロゼリアに返す。
「大丈夫ですよ、お母様。私はこの婚約、受け入れます。モスグリネとアイヴォリーの友好のためにも」
「シアン……。あなたは強いわね、昔から……」
シアンの心構えを聞いたロゼリアは、優し気な笑みを浮かべながら話している。
この時の真意をシアンは気が付かなかったようだが、侍女であるスミレはひしひしと感じ取っていた。
ロゼリアのこの言葉は、今のシアンだけではなく、その後ろにあるシアン・アクアマリンにも向けられていることを。
夕刻を迎え、いよいよ年末祭の通常の三夜パーティーが始まる。
もともと年末祭は、この三日間のパーティーだけを示していたものだ。
それが七日間に伸びたのは、チェリシアが前世で経験していたクリスマスのことを持ち込んだことによるものである。
クリスマスは年越しまで残り七日となった日だったがために、年末祭は七日間に延長されたのだ。
まったく、提案するチェリシアもそうだが、それを受け入れるアイヴォリー王家も王家である。
とはいえ、これだけ長くお祭りを開けるのは、国家が平和ということ他ならない。
アイヴォリーという国家がどれだけの国かということを示すにはちょうどいいお祭りなのである。
三夜パーティーの始まりを迎え、会場には多くの貴族が集っている。
その中には、いろいろと問題が起きていたオニオール家もやって来ていた。アイヴォリー王国民である以上参加資格はあるので、何も問題はない。だが、いろいろと問題があるのは広まっていたので、少々肩身が狭いようである。
「やあ、オニオールししゃ……男爵殿、お久しぶりですな」
「これはこれはマゼンダ侯爵様、お久しぶりです。その節はお世話になりました。我々の不始末の尻拭いをして頂いて、頭が上がりませんよ」
「いや、気にしないでおくれ。君たちの反省は十分に伝わって来たからね。私の妹が学園にいた頃に、似たようなことがあったから、このくらいなんていうことはない」
「……パープリア男爵家の話ですか。耳が痛いですな」
マゼンダ侯爵の地位を継いだカーマイルが、オニオール男爵と話している。トパゼリアとの縁を切ろうと奮闘するオニオール姿を見て、かつてのアイリスたちの姿が重なり、つい手を差し伸べてしまったのだ。
実際、パープリアと手を切ろうとして奮闘していたヴィオレス・パープリア改めヴィオレス・ノワールは、今では騎士団では重要な地位に就いている。
カーマイルもオニオール家は立ち直れると踏んで、こうやって援助を行っているというわけだった。
「トパゼリアやモスグリネのオニオール家の情報、ずいぶんと役に立ちましたよ。トップこそ問題はあるものの、土地としてはかなり魅力がある。どうにか活用できないか、妹とも相談しているところだよ」
「それはそれは、私どもの情報が役に立って、嬉しいかぎりでございます」
オニオール男爵は、カーマイルに深々と頭を下げていた。
「しっかりと心を入れ替えて、アイヴォリーのこれからのために尽力を頼むよ」
「もちろんでございます。いろいろと助けていただいたご恩、必ずや報いてみせますとも」
どうやらオニオール男爵家はもう問題なさそうだった。男爵の態度を見て、カーマイルは確信している。
「おや、そろそろ今日の主役の登場だな」
音楽が変わったことに気が付き、カーマイルは会場の前の方を見る。
パーティー会場内の照明とは違った白い光が、会場の一角を照らす。王族の登場である。
とはいえ、シアンにしてみればアイヴォリーに戻るきっかけになる。双方の王家が納得しているのであるのなら、特に気にする必要もない話だ。
「ずいぶんとペシエラ様にしては急なお話でしたね」
「そうですね、スミレ」
夜はパーティーに参加する予定なので、シアンは服を着替えている。
スミレに手伝ってもらいながら、昼間の話をしている。
急な話であったものの、シアンにもスミレにもそれほどの驚きはなかった。想定はしていたからだ。
ドレスに着替え終わり、あとは時間を待つばかりとなった頃、部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。
「どちら様かしら」
「シアン、私よ」
「お母様。どうぞお入りになって下さい」
扉が開き、ロゼリアとその侍女が入ってくる。
「お母様、どうなされたのですか?」
急に顔を出してきたロゼリアに、シアンはついつい尋ねてしまう。
「ええ、急な話だったからシアンがショックを受けていないか気になってね。ごめんなさいね、ろくに話もしないで急なことを決めてしまって」
「いえ、私は大丈夫です。王族の一人ですから、覚悟は決めておりましたから」
「そう。本当にシアンってば、しっかりしているわね」
きりっとした表情を見せるシアンを見て、ロゼリアの方がうろたえているようだった。
「心配は杞憂だったかしらね。でも、シアン」
「はい、お母様」
「嫌だったら断ってくれてもいいのですからね」
ロゼリアから言われて、シアンはつい驚いてきょとんとした顔をしてしまう。
スミレと顔を見合わせた後、シアンは微笑みを見せてロゼリアに返す。
「大丈夫ですよ、お母様。私はこの婚約、受け入れます。モスグリネとアイヴォリーの友好のためにも」
「シアン……。あなたは強いわね、昔から……」
シアンの心構えを聞いたロゼリアは、優し気な笑みを浮かべながら話している。
この時の真意をシアンは気が付かなかったようだが、侍女であるスミレはひしひしと感じ取っていた。
ロゼリアのこの言葉は、今のシアンだけではなく、その後ろにあるシアン・アクアマリンにも向けられていることを。
夕刻を迎え、いよいよ年末祭の通常の三夜パーティーが始まる。
もともと年末祭は、この三日間のパーティーだけを示していたものだ。
それが七日間に伸びたのは、チェリシアが前世で経験していたクリスマスのことを持ち込んだことによるものである。
クリスマスは年越しまで残り七日となった日だったがために、年末祭は七日間に延長されたのだ。
まったく、提案するチェリシアもそうだが、それを受け入れるアイヴォリー王家も王家である。
とはいえ、これだけ長くお祭りを開けるのは、国家が平和ということ他ならない。
アイヴォリーという国家がどれだけの国かということを示すにはちょうどいいお祭りなのである。
三夜パーティーの始まりを迎え、会場には多くの貴族が集っている。
その中には、いろいろと問題が起きていたオニオール家もやって来ていた。アイヴォリー王国民である以上参加資格はあるので、何も問題はない。だが、いろいろと問題があるのは広まっていたので、少々肩身が狭いようである。
「やあ、オニオールししゃ……男爵殿、お久しぶりですな」
「これはこれはマゼンダ侯爵様、お久しぶりです。その節はお世話になりました。我々の不始末の尻拭いをして頂いて、頭が上がりませんよ」
「いや、気にしないでおくれ。君たちの反省は十分に伝わって来たからね。私の妹が学園にいた頃に、似たようなことがあったから、このくらいなんていうことはない」
「……パープリア男爵家の話ですか。耳が痛いですな」
マゼンダ侯爵の地位を継いだカーマイルが、オニオール男爵と話している。トパゼリアとの縁を切ろうと奮闘するオニオール姿を見て、かつてのアイリスたちの姿が重なり、つい手を差し伸べてしまったのだ。
実際、パープリアと手を切ろうとして奮闘していたヴィオレス・パープリア改めヴィオレス・ノワールは、今では騎士団では重要な地位に就いている。
カーマイルもオニオール家は立ち直れると踏んで、こうやって援助を行っているというわけだった。
「トパゼリアやモスグリネのオニオール家の情報、ずいぶんと役に立ちましたよ。トップこそ問題はあるものの、土地としてはかなり魅力がある。どうにか活用できないか、妹とも相談しているところだよ」
「それはそれは、私どもの情報が役に立って、嬉しいかぎりでございます」
オニオール男爵は、カーマイルに深々と頭を下げていた。
「しっかりと心を入れ替えて、アイヴォリーのこれからのために尽力を頼むよ」
「もちろんでございます。いろいろと助けていただいたご恩、必ずや報いてみせますとも」
どうやらオニオール男爵家はもう問題なさそうだった。男爵の態度を見て、カーマイルは確信している。
「おや、そろそろ今日の主役の登場だな」
音楽が変わったことに気が付き、カーマイルは会場の前の方を見る。
パーティー会場内の照明とは違った白い光が、会場の一角を照らす。王族の登場である。
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