612 / 731
新章 青色の智姫
第243話 残り少し……
しおりを挟む
時が経つのは早いもので、もう十日もしないうちに今年の学園が終わってしまう。
そうなると、シアンはモスグリネ王国に戻らねばならない。プルネやブランチェスカたちともお別れということになってしまう。
「はあ、ライト殿下と結婚をするとなれば、またこちらには戻ってくるでしょうけれど……。もうあの二人と会うのは困難でしょうね」
そもそも今のシアンは王族である。王族となると、出会える人物など最初から限られている。
ライトと結婚して女王になるにしろ、王妃になるにしろ、自由に行動するのは難しいだろう。
「ペシエラ様やチェリシア様のように瞬間移動魔法を持っているなら……、うん?」
ため息まじりに呟いていたシアンは、つい何かに気が付いてしまう。
「そうです。私も瞬間移動魔法を覚えればいいのではないですか。私には昔の魔力量が戻ってきているのです。不可能ではないと思いますわ」
勢いよく立ち上がったシアンに、ちょうど部屋に入ってきたスミレが驚いている。
「どうなさったのですか、シアン様。そんな声を上げて」
紅茶を入れるためのティーポットを持っていたので、スミレの落ち着いた声とは裏腹に、カチャカチャと慌てたような音を立てていた。
「スミレ、私は瞬間移動魔法を習得します」
「はい?」
突然シアンが宣言した内容に、スミレは思わず動きを止めてしまう。
紅茶を注ぎ始めたところだったので、そのままカップから紅茶があふれ出してしまっている。
「スミレ!」
シアンが叫ぶと、スミレが我に返る。
「も、申し訳ございません。私としたことがショックのあまり取り乱してしまいました」
こぼしてしまった紅茶を、スミレは落ち着いた様子でふき取っている。
ひとたび冷静になればこの通りである。
すべてをふき終えると、スミレは改めて紅茶を入れ直す。
「また、急な話でございますね。瞬間移動魔法を習得しようなどとは」
「ええ。魔法に造詣の深いアクアマリンの者として、やはり他人に劣るのはどこか悔しいのかもしれません。前世は魔力を失っていたので、そういう感情を抱くこともありませんでしたけどね」
シアンは複雑な表情をしてスミレを見て話している。
シアンの気持ちの吐露に対して、スミレは相変わらず淡々としている。
「まったく、嘘が下手でございますね、シアン様は」
「う、嘘だなんて言っていませんよ」
スミレの指摘に必死に言い返す。
「友人に会えなくなるのが寂しいだけでしょうに。これでも、人間の感情というものを、シアン様を見ながら学んできましたからね。まだまだおおよそでしかありませんが、察せられるようになりました」
「……まったく、スミレにまで見抜かれるとは思いませんでしたね」
少し悔しそうな顔をすると、シアンは淹れられた紅茶を口に含む。
「うん、さすがスミレ。いい感じですね」
「恐縮でございます」
シアンの褒め言葉に反応しながら、スミレも先程入れ過ぎてしまった紅茶を飲んでいる。さすがにこのまま捨てるのはもったいないということで、スミレが飲むことにしたのである。
「それでスミレ」
「なんでしょうか、シアン様」
すっかり落ち着きを取り戻したところで、改めてシアンはスミレに話し掛ける。
「瞬間移動魔法ってどのような感じで使うのでしょうか。チェリシア様たちの魔法を体験しましたが、いまいち感覚がつかめないのです」
瞬間移動魔法について、尋ねているのである。
ここでなぜスミレに聞くかというと、スミレも幻獣であるので、頻繁に瞬間移動魔法を使って移動していたからだ。
神獣や幻獣というのは、その多くが瞬間移動魔法を当たり前のように使っている。だからこそ、シアンはスミレに話を聞こうとしているわけなのだ。
「そう難しいことではありませんよ。自分が行きたい場所を頭の中に思い浮かべて、自分がその場所にいるかのように感じながら魔力で自分を覆うんです」
「な、なるほど。なんとなくイメージはつかめましたね」
さすがはシアン。この説明だけで理解したようだ。スミレもスミレで、よくそこまでかみ砕けたものである。
「チェリシア様も初めて使われた頃は、そのように仰っていたはずですよ?」
「私はその場にいなかったような気がしますし、いたとしても今よりは関心がありませんでしたからね。一度魔力を失うと、いろいろと弊害が起きていたようです」
スミレの言い分に、シアンはいろいろと理由をつけて否定しようとしていた。
しかし、あれだけロゼリアと侍女として一緒にいたのだ。今さら知らないというのは無理があるというものだった。
「まぁいいでしょう。私でよければ特訓はお付け致します。モスグリネに戻られるまでに習得されたいのでしたら、それは厳しく参りますよ?」
「ははは、お手柔らかにお願いしますよ」
やる気十分のスミレに対して、シアンは実に苦笑いを浮かべていた。
アイヴォリー王国を去る日まで十日余り。
そのための準備をしながら、シアンはまた新しいことに挑戦を始めたのであった。
そうなると、シアンはモスグリネ王国に戻らねばならない。プルネやブランチェスカたちともお別れということになってしまう。
「はあ、ライト殿下と結婚をするとなれば、またこちらには戻ってくるでしょうけれど……。もうあの二人と会うのは困難でしょうね」
そもそも今のシアンは王族である。王族となると、出会える人物など最初から限られている。
ライトと結婚して女王になるにしろ、王妃になるにしろ、自由に行動するのは難しいだろう。
「ペシエラ様やチェリシア様のように瞬間移動魔法を持っているなら……、うん?」
ため息まじりに呟いていたシアンは、つい何かに気が付いてしまう。
「そうです。私も瞬間移動魔法を覚えればいいのではないですか。私には昔の魔力量が戻ってきているのです。不可能ではないと思いますわ」
勢いよく立ち上がったシアンに、ちょうど部屋に入ってきたスミレが驚いている。
「どうなさったのですか、シアン様。そんな声を上げて」
紅茶を入れるためのティーポットを持っていたので、スミレの落ち着いた声とは裏腹に、カチャカチャと慌てたような音を立てていた。
「スミレ、私は瞬間移動魔法を習得します」
「はい?」
突然シアンが宣言した内容に、スミレは思わず動きを止めてしまう。
紅茶を注ぎ始めたところだったので、そのままカップから紅茶があふれ出してしまっている。
「スミレ!」
シアンが叫ぶと、スミレが我に返る。
「も、申し訳ございません。私としたことがショックのあまり取り乱してしまいました」
こぼしてしまった紅茶を、スミレは落ち着いた様子でふき取っている。
ひとたび冷静になればこの通りである。
すべてをふき終えると、スミレは改めて紅茶を入れ直す。
「また、急な話でございますね。瞬間移動魔法を習得しようなどとは」
「ええ。魔法に造詣の深いアクアマリンの者として、やはり他人に劣るのはどこか悔しいのかもしれません。前世は魔力を失っていたので、そういう感情を抱くこともありませんでしたけどね」
シアンは複雑な表情をしてスミレを見て話している。
シアンの気持ちの吐露に対して、スミレは相変わらず淡々としている。
「まったく、嘘が下手でございますね、シアン様は」
「う、嘘だなんて言っていませんよ」
スミレの指摘に必死に言い返す。
「友人に会えなくなるのが寂しいだけでしょうに。これでも、人間の感情というものを、シアン様を見ながら学んできましたからね。まだまだおおよそでしかありませんが、察せられるようになりました」
「……まったく、スミレにまで見抜かれるとは思いませんでしたね」
少し悔しそうな顔をすると、シアンは淹れられた紅茶を口に含む。
「うん、さすがスミレ。いい感じですね」
「恐縮でございます」
シアンの褒め言葉に反応しながら、スミレも先程入れ過ぎてしまった紅茶を飲んでいる。さすがにこのまま捨てるのはもったいないということで、スミレが飲むことにしたのである。
「それでスミレ」
「なんでしょうか、シアン様」
すっかり落ち着きを取り戻したところで、改めてシアンはスミレに話し掛ける。
「瞬間移動魔法ってどのような感じで使うのでしょうか。チェリシア様たちの魔法を体験しましたが、いまいち感覚がつかめないのです」
瞬間移動魔法について、尋ねているのである。
ここでなぜスミレに聞くかというと、スミレも幻獣であるので、頻繁に瞬間移動魔法を使って移動していたからだ。
神獣や幻獣というのは、その多くが瞬間移動魔法を当たり前のように使っている。だからこそ、シアンはスミレに話を聞こうとしているわけなのだ。
「そう難しいことではありませんよ。自分が行きたい場所を頭の中に思い浮かべて、自分がその場所にいるかのように感じながら魔力で自分を覆うんです」
「な、なるほど。なんとなくイメージはつかめましたね」
さすがはシアン。この説明だけで理解したようだ。スミレもスミレで、よくそこまでかみ砕けたものである。
「チェリシア様も初めて使われた頃は、そのように仰っていたはずですよ?」
「私はその場にいなかったような気がしますし、いたとしても今よりは関心がありませんでしたからね。一度魔力を失うと、いろいろと弊害が起きていたようです」
スミレの言い分に、シアンはいろいろと理由をつけて否定しようとしていた。
しかし、あれだけロゼリアと侍女として一緒にいたのだ。今さら知らないというのは無理があるというものだった。
「まぁいいでしょう。私でよければ特訓はお付け致します。モスグリネに戻られるまでに習得されたいのでしたら、それは厳しく参りますよ?」
「ははは、お手柔らかにお願いしますよ」
やる気十分のスミレに対して、シアンは実に苦笑いを浮かべていた。
アイヴォリー王国を去る日まで十日余り。
そのための準備をしながら、シアンはまた新しいことに挑戦を始めたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる