逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第287話 悪は裁かれる

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 ティールの声に、扉が開く。
 そこから姿を見せた人物に、大臣は驚いた表情を見せている。
 当然だろう。自分が斬り捨てたはずの料理長が出てきたのだから。
 それでも悟られまいと、平静を装う。
「この男がどうしたというのだ。ただの料理長だろうが。俺に何の関係がある!」
 大臣は大声で抵抗を続けている。
「はっはっはっはっ、見苦しいねぇ。おとなしく縛につくといいよ」
「お、お前は、商業組合の猫。なぜ、こんなところにいるのだ」
「ボクがどこにいようが君には関係ないことじゃないか。ボクは自由気ままなのだからね、はっはっはっ」
 相変わらずの自由なケットシーである。
 だが、シアンたちはまったく状況がのみ込めないでいる。
 料理に毒が入っていることは間違いないのだが、なぜここで断罪劇が始まっているのかということからして疑問に感じているのだ。
「すまぬな、あれの入れ知恵なのだ。晩餐会の直前に、血まみれの料理長を連れて妾の部屋に来た時は驚いたぞ」
「ああ、モスグリネの者がご迷惑をお掛けしております」
 ケットシーの行動に、ロゼリアは王妃として謝罪している。
 だが、当のティールの方は気にするなといった雰囲気だ。どうやら、自国のあるまじき行為をさらし出してくれたことに感謝をしているようである。
「大臣、私を斬り捨てた上に、指示通りに動いてくれた料理人たちをも捨てるというのですか。あなたには食事をする権利はありませんよ!」
 料理長が怒っているが、怒っているポイントが料理人らしい。
「知らんといっている。何を怒っているというのだ!」
 まだしらを切る大臣なので、ケットシーが呆れたように前に出てくる。
「まったく、困ったものだね。パープリアもそうだったけど、デーモンハートに強く汚染われた人間というのは、実に見るに堪えないね。こいつを見ても、まだしらを切るというのかな?」
「それは!」
 ケットシーが取り出した魔道具に、ロゼリアが強く反応を見せている。
 にやりと笑ったケットシーが、取り出した魔石を前に差し出す。
「さあ、真実を見せておくれ、記録魔石レコーダー
 ケットシーが魔力を込めると、魔石の上になにやら映像が浮かび上がってきた。
 映像の中では、二人の男が言い争っている様子が映し出されている。
『なに、ちょっと料理に混ぜ込めばいいだけだ。今来ているあいつらは、我々の先祖の裏切者なのだ。分からせてやればいい』
『わ、私は料理人です。料理にそんなことをするなど、食材に対する冒とく、農民たちへの裏切りです。それだけはできません』
 妙な指示を出す大臣と必死に断る料理長の声が、魔石の映し出す光景から聞こえてくる。
「お母様、あれは確か……」
「ええ、チェリシアが開発した見ているものを記録する魔石よ。ケットシーが言ったように記録魔石レコーダーと名付けられたわ」

 そう、ケットシーが使ったのは、チェリシアが再現してみせた前世のビデオカメラと化した魔石である。
 元々は、パープリアの一族として監視対象にあったアイリスの行動を記録するために作られたものだった。
 それ以降は順次利用法が増えていき、アイヴォリー王国の式典が行われるたびに記録が取られるようになった。
 国家機密ともいえる魔石を、なぜケットシーが持っているのだろうか。

「さあ、これでもまだ認めぬというか。妾には効かぬとはいえ、毒を盛ったことで国家反逆だ。覚悟はいいだろうな?」
 ティールの裁きの声が響き渡ると、ようやく大臣は観念したようだ。
「魔力を封じて牢にぶち込んでおけ。生きて日の目を見れると思うな」
「はっ!」
 兵士がやって来て、その場に座り込んだ大臣を連れ出していった。
 大臣が連れ出されたのを見て、ティールはため息を漏らす。
「しかし、せっかく作った料理は毒にまみれ、すっかり冷めてもしまった。作り直しであるな」
「無念で、ございます」
 料理長もがっくりと落ち込んでいた。
「料理長も災難であったな」
「はい。女王陛下が喜んで下さる姿を糧に作っておりますゆえ、効かぬとは分かっていても、毒を盛れという指示には従えませんでした」
「なんだ、毒が効かぬことは知っておったのか」
「王族の体調や体質を把握するのは、料理を作るものとして当然でございます」
「ふっ、大したものよ」
 料理長の言葉に、ティールはようやく笑顔を見せていた。
 一方、シアンはずっと料理を見つめている。
「どうした、シアン。毒が入っておるのだ、手を付けるでないぞ」
「あ、いえ。もしかしたらと思いまして」
「シアン、何をする気なのかしら」
 ロゼリアも疑問に思う中、シアンは料理の並べられたテーブル全体を包むように魔法を使い始める。
 赤茶色、緑、水色の三色の光が現れ、ぐるぐると周りを飛び始める。
「きれいだわ……」
 三色の光が飛び交う光景は、なんとも幻想的である。
「シアン、まさかこれは……」
 三色の光がやがて集まり、ひとつへとまとまっていく。
 そして、床全体へと広がって、なにやら魔法陣が浮かび上がってきた。
「毒を消し去って!」
 シアンが叫ぶと、魔法陣から光が解き放たれたのだった。
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