656 / 731
新章 青色の智姫
第287話 悪は裁かれる
しおりを挟む
ティールの声に、扉が開く。
そこから姿を見せた人物に、大臣は驚いた表情を見せている。
当然だろう。自分が斬り捨てたはずの料理長が出てきたのだから。
それでも悟られまいと、平静を装う。
「この男がどうしたというのだ。ただの料理長だろうが。俺に何の関係がある!」
大臣は大声で抵抗を続けている。
「はっはっはっはっ、見苦しいねぇ。おとなしく縛につくといいよ」
「お、お前は、商業組合の猫。なぜ、こんなところにいるのだ」
「ボクがどこにいようが君には関係ないことじゃないか。ボクは自由気ままなのだからね、はっはっはっ」
相変わらずの自由なケットシーである。
だが、シアンたちはまったく状況がのみ込めないでいる。
料理に毒が入っていることは間違いないのだが、なぜここで断罪劇が始まっているのかということからして疑問に感じているのだ。
「すまぬな、あれの入れ知恵なのだ。晩餐会の直前に、血まみれの料理長を連れて妾の部屋に来た時は驚いたぞ」
「ああ、モスグリネの者がご迷惑をお掛けしております」
ケットシーの行動に、ロゼリアは王妃として謝罪している。
だが、当のティールの方は気にするなといった雰囲気だ。どうやら、自国のあるまじき行為をさらし出してくれたことに感謝をしているようである。
「大臣、私を斬り捨てた上に、指示通りに動いてくれた料理人たちをも捨てるというのですか。あなたには食事をする権利はありませんよ!」
料理長が怒っているが、怒っているポイントが料理人らしい。
「知らんといっている。何を怒っているというのだ!」
まだしらを切る大臣なので、ケットシーが呆れたように前に出てくる。
「まったく、困ったものだね。パープリアもそうだったけど、デーモンハートに強く汚染われた人間というのは、実に見るに堪えないね。こいつを見ても、まだしらを切るというのかな?」
「それは!」
ケットシーが取り出した魔道具に、ロゼリアが強く反応を見せている。
にやりと笑ったケットシーが、取り出した魔石を前に差し出す。
「さあ、真実を見せておくれ、記録魔石」
ケットシーが魔力を込めると、魔石の上になにやら映像が浮かび上がってきた。
映像の中では、二人の男が言い争っている様子が映し出されている。
『なに、ちょっと料理に混ぜ込めばいいだけだ。今来ているあいつらは、我々の先祖の裏切者なのだ。分からせてやればいい』
『わ、私は料理人です。料理にそんなことをするなど、食材に対する冒とく、農民たちへの裏切りです。それだけはできません』
妙な指示を出す大臣と必死に断る料理長の声が、魔石の映し出す光景から聞こえてくる。
「お母様、あれは確か……」
「ええ、チェリシアが開発した見ているものを記録する魔石よ。ケットシーが言ったように記録魔石と名付けられたわ」
そう、ケットシーが使ったのは、チェリシアが再現してみせた前世のビデオカメラと化した魔石である。
元々は、パープリアの一族として監視対象にあったアイリスの行動を記録するために作られたものだった。
それ以降は順次利用法が増えていき、アイヴォリー王国の式典が行われるたびに記録が取られるようになった。
国家機密ともいえる魔石を、なぜケットシーが持っているのだろうか。
「さあ、これでもまだ認めぬというか。妾には効かぬとはいえ、毒を盛ったことで国家反逆だ。覚悟はいいだろうな?」
ティールの裁きの声が響き渡ると、ようやく大臣は観念したようだ。
「魔力を封じて牢にぶち込んでおけ。生きて日の目を見れると思うな」
「はっ!」
兵士がやって来て、その場に座り込んだ大臣を連れ出していった。
大臣が連れ出されたのを見て、ティールはため息を漏らす。
「しかし、せっかく作った料理は毒にまみれ、すっかり冷めてもしまった。作り直しであるな」
「無念で、ございます」
料理長もがっくりと落ち込んでいた。
「料理長も災難であったな」
「はい。女王陛下が喜んで下さる姿を糧に作っておりますゆえ、効かぬとは分かっていても、毒を盛れという指示には従えませんでした」
「なんだ、毒が効かぬことは知っておったのか」
「王族の体調や体質を把握するのは、料理を作るものとして当然でございます」
「ふっ、大したものよ」
料理長の言葉に、ティールはようやく笑顔を見せていた。
一方、シアンはずっと料理を見つめている。
「どうした、シアン。毒が入っておるのだ、手を付けるでないぞ」
「あ、いえ。もしかしたらと思いまして」
「シアン、何をする気なのかしら」
ロゼリアも疑問に思う中、シアンは料理の並べられたテーブル全体を包むように魔法を使い始める。
赤茶色、緑、水色の三色の光が現れ、ぐるぐると周りを飛び始める。
「きれいだわ……」
三色の光が飛び交う光景は、なんとも幻想的である。
「シアン、まさかこれは……」
三色の光がやがて集まり、ひとつへとまとまっていく。
そして、床全体へと広がって、なにやら魔法陣が浮かび上がってきた。
「毒を消し去って!」
シアンが叫ぶと、魔法陣から光が解き放たれたのだった。
そこから姿を見せた人物に、大臣は驚いた表情を見せている。
当然だろう。自分が斬り捨てたはずの料理長が出てきたのだから。
それでも悟られまいと、平静を装う。
「この男がどうしたというのだ。ただの料理長だろうが。俺に何の関係がある!」
大臣は大声で抵抗を続けている。
「はっはっはっはっ、見苦しいねぇ。おとなしく縛につくといいよ」
「お、お前は、商業組合の猫。なぜ、こんなところにいるのだ」
「ボクがどこにいようが君には関係ないことじゃないか。ボクは自由気ままなのだからね、はっはっはっ」
相変わらずの自由なケットシーである。
だが、シアンたちはまったく状況がのみ込めないでいる。
料理に毒が入っていることは間違いないのだが、なぜここで断罪劇が始まっているのかということからして疑問に感じているのだ。
「すまぬな、あれの入れ知恵なのだ。晩餐会の直前に、血まみれの料理長を連れて妾の部屋に来た時は驚いたぞ」
「ああ、モスグリネの者がご迷惑をお掛けしております」
ケットシーの行動に、ロゼリアは王妃として謝罪している。
だが、当のティールの方は気にするなといった雰囲気だ。どうやら、自国のあるまじき行為をさらし出してくれたことに感謝をしているようである。
「大臣、私を斬り捨てた上に、指示通りに動いてくれた料理人たちをも捨てるというのですか。あなたには食事をする権利はありませんよ!」
料理長が怒っているが、怒っているポイントが料理人らしい。
「知らんといっている。何を怒っているというのだ!」
まだしらを切る大臣なので、ケットシーが呆れたように前に出てくる。
「まったく、困ったものだね。パープリアもそうだったけど、デーモンハートに強く汚染われた人間というのは、実に見るに堪えないね。こいつを見ても、まだしらを切るというのかな?」
「それは!」
ケットシーが取り出した魔道具に、ロゼリアが強く反応を見せている。
にやりと笑ったケットシーが、取り出した魔石を前に差し出す。
「さあ、真実を見せておくれ、記録魔石」
ケットシーが魔力を込めると、魔石の上になにやら映像が浮かび上がってきた。
映像の中では、二人の男が言い争っている様子が映し出されている。
『なに、ちょっと料理に混ぜ込めばいいだけだ。今来ているあいつらは、我々の先祖の裏切者なのだ。分からせてやればいい』
『わ、私は料理人です。料理にそんなことをするなど、食材に対する冒とく、農民たちへの裏切りです。それだけはできません』
妙な指示を出す大臣と必死に断る料理長の声が、魔石の映し出す光景から聞こえてくる。
「お母様、あれは確か……」
「ええ、チェリシアが開発した見ているものを記録する魔石よ。ケットシーが言ったように記録魔石と名付けられたわ」
そう、ケットシーが使ったのは、チェリシアが再現してみせた前世のビデオカメラと化した魔石である。
元々は、パープリアの一族として監視対象にあったアイリスの行動を記録するために作られたものだった。
それ以降は順次利用法が増えていき、アイヴォリー王国の式典が行われるたびに記録が取られるようになった。
国家機密ともいえる魔石を、なぜケットシーが持っているのだろうか。
「さあ、これでもまだ認めぬというか。妾には効かぬとはいえ、毒を盛ったことで国家反逆だ。覚悟はいいだろうな?」
ティールの裁きの声が響き渡ると、ようやく大臣は観念したようだ。
「魔力を封じて牢にぶち込んでおけ。生きて日の目を見れると思うな」
「はっ!」
兵士がやって来て、その場に座り込んだ大臣を連れ出していった。
大臣が連れ出されたのを見て、ティールはため息を漏らす。
「しかし、せっかく作った料理は毒にまみれ、すっかり冷めてもしまった。作り直しであるな」
「無念で、ございます」
料理長もがっくりと落ち込んでいた。
「料理長も災難であったな」
「はい。女王陛下が喜んで下さる姿を糧に作っておりますゆえ、効かぬとは分かっていても、毒を盛れという指示には従えませんでした」
「なんだ、毒が効かぬことは知っておったのか」
「王族の体調や体質を把握するのは、料理を作るものとして当然でございます」
「ふっ、大したものよ」
料理長の言葉に、ティールはようやく笑顔を見せていた。
一方、シアンはずっと料理を見つめている。
「どうした、シアン。毒が入っておるのだ、手を付けるでないぞ」
「あ、いえ。もしかしたらと思いまして」
「シアン、何をする気なのかしら」
ロゼリアも疑問に思う中、シアンは料理の並べられたテーブル全体を包むように魔法を使い始める。
赤茶色、緑、水色の三色の光が現れ、ぐるぐると周りを飛び始める。
「きれいだわ……」
三色の光が飛び交う光景は、なんとも幻想的である。
「シアン、まさかこれは……」
三色の光がやがて集まり、ひとつへとまとまっていく。
そして、床全体へと広がって、なにやら魔法陣が浮かび上がってきた。
「毒を消し去って!」
シアンが叫ぶと、魔法陣から光が解き放たれたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる