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新章 青色の智姫
第288話 お人好し王女
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光が消え去ると、シアンはふぅっと息を吐いて椅子にもたれ掛かった。
「まったく、めちゃくちゃですね。確かに毒は消え去りましたが、このために浄化の魔法を発動させるなど、何を考えているのですか」
スミレがじっと料理を見つめながら愚痴をこぼしている。
「だって、せっかく心を込めて作ってくれた料理だもの。このまま食べないんじゃもったいないじゃないの」
「シアン様ってそんな考えを持っていましたかね」
「今回の料理は女王陛下もわざわざ無理をしてまで用意してくれたものなのに、それをあんな奴のせいで無駄にするのは、なんだかよろしくない気がするのです」
「……まったく、誰に似たのやら」
スミレは困った顔をしてシアンへと視線を向けている。シアンは照れ笑いをして、もう一度深呼吸をしていた。
「やれやれ、ずいぶんと面白いことをしてくれるものよな」
「我が娘ながら、まったく想像がつかなったですよ。誰の影響を受けたのやら」
ティールとロゼリアも呆れてしまう程である。
ただ一人、ヒスイだけは違った反応を示している。
「三属性の融合魔法……。この目の前でしっかりとした発動を見られるだなんて……。シアン様の付き人にして頂き、感謝します、お爺様」
珍しい魔法を目の当たりにしたことで、感涙に打ち震えていたのだ。
「おお、このような形で私どもの料理を召し上がって頂けるとは、料理人冥利に尽きるというものでございます」
大臣によって生死の境をさまよっていた料理長も感動している。
料理長もトパゼリアの人間でアトランティス帝国の血を受け継ぐ人間ではあるが、料理に対する真摯な態度の方が勝っているようだ。
「料理長たちも戻りなさい。それと、料理人たちは大臣に逆らえなかったとはいえども処罰は必要。覚悟しておくように伝えておくがよい」
「はっ、本当に申し訳ございませんでした」
料理長は頭を下げると、ケットシーと一緒に食堂から出て行った。
食堂の中は再びティールたちと使用人たちだけになる。
「ふぅ、まったく油断も隙もないものだ。あの大臣はいつかやらかすとは思っておったが、このような時を狙うとはな……。まことに申し訳なかったな」
「国家はそもそもまとめ上げることは難しいですからね。ましてやデーモンハートという制御の難しいものもあるのですから、苦労は絶えなさそうですね」
「うむ、まったくだ」
ロゼリアから気遣いを受けて、ティールは大きくため息をついていた。
「他国から人がやって来る度にこれでは困るというものだな。ようやく築くことのできた、自分たちの国だというに……」
その落ち込みようといったら、今までにまったく見たことのないくらいのものだった。
普段から自信たっぷりに振る舞っているティールの見たことのない姿に、シアンたちは戸惑いを隠しきれなかった。
「……起こったことを悔いても仕方あるまい。妾らしくないというものよな」
ティールはようやく顔を上げる。
「では、すまなかったな。改めて食事を頂くとしよう。せっかく料理長たちが作ってくれた上に、シアンが浄化までかけてくれたのだ。トパゼリアの味を堪能しておくれ」
ティールはこういうものの、先程まで毒に満たされていたかと思うと、いまいち食が進まないというもの。
ロゼリアとヒスイはつい、顔を見合わせてしまう。
そんな中、一人だけ違う姿を見せる者がいた。
「うん、おいしいですよ」
言わずと知れたシアンである。浄化を行った本人であり、侍女であるスミレからも大丈夫と言われたのだ。それはもう平然と口に放り込むのである。
「ただ、ちょっと冷めてしまったのは残念ですね。次は温かい状態のものを味わいたいですね」
にっこりと微笑むシアンの姿に、ロゼリアとヒスイも続いて食べ始める。
「あら、本当においしいですね」
「本当ですね。むむっ、トパゼリアの料理、侮れませんね……」
ロゼリアとヒスイからも褒め言葉が飛び出ていたのだった。
その後、無事に食事が終わって、シアンたちは部屋に戻ることになる。
「シアン、ちょっといいか?」
ティールがシアンを呼び止めている。
「なんでしょうか、女王陛下」
立ち止まってくるりと振り返る。
「今日はすまなかったな。みんなに集めてもらった食材も無駄にならずに済んだ。礼を言うぞ」
「いえ、私はせっかくの料理だから食べてみたかっただけですよ。食い意地が張っていただけなので、お礼を言われるほどではありませんよ」
シアンは照れ笑いを浮かべている。
「まったく、おぬしは不思議な娘よな」
「まぁ、そうでしょうね。逆行に転生までしている人物なんて、まずは存在しないでしょうから」
「それはまた、数奇なものよな。まったく、婚約などしておらぬのなら、妾の息子たちの嫁に欲しいものだがな」
「またまたご冗談を」
ティールが言い出したことに、シアンはおかしく笑っている。
「いやいや、冗談ではないぞ。妾たちの故郷へと自由に行けるようになったきっかけなのだから、お礼のひとつやふたつくらいしたいものだ」
「それでしたら、トパゼリアをもっとよくして下さい。それで十分ですから」
シアンは笑顔をまったく絶やさなかった。
「ふっ、そうだな」
ティールも笑顔をやっと見せていた。
ごたごたとした晩餐会も、最終的には穏やかな雰囲気で終われたのであった。
「まったく、めちゃくちゃですね。確かに毒は消え去りましたが、このために浄化の魔法を発動させるなど、何を考えているのですか」
スミレがじっと料理を見つめながら愚痴をこぼしている。
「だって、せっかく心を込めて作ってくれた料理だもの。このまま食べないんじゃもったいないじゃないの」
「シアン様ってそんな考えを持っていましたかね」
「今回の料理は女王陛下もわざわざ無理をしてまで用意してくれたものなのに、それをあんな奴のせいで無駄にするのは、なんだかよろしくない気がするのです」
「……まったく、誰に似たのやら」
スミレは困った顔をしてシアンへと視線を向けている。シアンは照れ笑いをして、もう一度深呼吸をしていた。
「やれやれ、ずいぶんと面白いことをしてくれるものよな」
「我が娘ながら、まったく想像がつかなったですよ。誰の影響を受けたのやら」
ティールとロゼリアも呆れてしまう程である。
ただ一人、ヒスイだけは違った反応を示している。
「三属性の融合魔法……。この目の前でしっかりとした発動を見られるだなんて……。シアン様の付き人にして頂き、感謝します、お爺様」
珍しい魔法を目の当たりにしたことで、感涙に打ち震えていたのだ。
「おお、このような形で私どもの料理を召し上がって頂けるとは、料理人冥利に尽きるというものでございます」
大臣によって生死の境をさまよっていた料理長も感動している。
料理長もトパゼリアの人間でアトランティス帝国の血を受け継ぐ人間ではあるが、料理に対する真摯な態度の方が勝っているようだ。
「料理長たちも戻りなさい。それと、料理人たちは大臣に逆らえなかったとはいえども処罰は必要。覚悟しておくように伝えておくがよい」
「はっ、本当に申し訳ございませんでした」
料理長は頭を下げると、ケットシーと一緒に食堂から出て行った。
食堂の中は再びティールたちと使用人たちだけになる。
「ふぅ、まったく油断も隙もないものだ。あの大臣はいつかやらかすとは思っておったが、このような時を狙うとはな……。まことに申し訳なかったな」
「国家はそもそもまとめ上げることは難しいですからね。ましてやデーモンハートという制御の難しいものもあるのですから、苦労は絶えなさそうですね」
「うむ、まったくだ」
ロゼリアから気遣いを受けて、ティールは大きくため息をついていた。
「他国から人がやって来る度にこれでは困るというものだな。ようやく築くことのできた、自分たちの国だというに……」
その落ち込みようといったら、今までにまったく見たことのないくらいのものだった。
普段から自信たっぷりに振る舞っているティールの見たことのない姿に、シアンたちは戸惑いを隠しきれなかった。
「……起こったことを悔いても仕方あるまい。妾らしくないというものよな」
ティールはようやく顔を上げる。
「では、すまなかったな。改めて食事を頂くとしよう。せっかく料理長たちが作ってくれた上に、シアンが浄化までかけてくれたのだ。トパゼリアの味を堪能しておくれ」
ティールはこういうものの、先程まで毒に満たされていたかと思うと、いまいち食が進まないというもの。
ロゼリアとヒスイはつい、顔を見合わせてしまう。
そんな中、一人だけ違う姿を見せる者がいた。
「うん、おいしいですよ」
言わずと知れたシアンである。浄化を行った本人であり、侍女であるスミレからも大丈夫と言われたのだ。それはもう平然と口に放り込むのである。
「ただ、ちょっと冷めてしまったのは残念ですね。次は温かい状態のものを味わいたいですね」
にっこりと微笑むシアンの姿に、ロゼリアとヒスイも続いて食べ始める。
「あら、本当においしいですね」
「本当ですね。むむっ、トパゼリアの料理、侮れませんね……」
ロゼリアとヒスイからも褒め言葉が飛び出ていたのだった。
その後、無事に食事が終わって、シアンたちは部屋に戻ることになる。
「シアン、ちょっといいか?」
ティールがシアンを呼び止めている。
「なんでしょうか、女王陛下」
立ち止まってくるりと振り返る。
「今日はすまなかったな。みんなに集めてもらった食材も無駄にならずに済んだ。礼を言うぞ」
「いえ、私はせっかくの料理だから食べてみたかっただけですよ。食い意地が張っていただけなので、お礼を言われるほどではありませんよ」
シアンは照れ笑いを浮かべている。
「まったく、おぬしは不思議な娘よな」
「まぁ、そうでしょうね。逆行に転生までしている人物なんて、まずは存在しないでしょうから」
「それはまた、数奇なものよな。まったく、婚約などしておらぬのなら、妾の息子たちの嫁に欲しいものだがな」
「またまたご冗談を」
ティールが言い出したことに、シアンはおかしく笑っている。
「いやいや、冗談ではないぞ。妾たちの故郷へと自由に行けるようになったきっかけなのだから、お礼のひとつやふたつくらいしたいものだ」
「それでしたら、トパゼリアをもっとよくして下さい。それで十分ですから」
シアンは笑顔をまったく絶やさなかった。
「ふっ、そうだな」
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ごたごたとした晩餐会も、最終的には穏やかな雰囲気で終われたのであった。
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