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新章 青色の智姫
第289話 急に思い出さない
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「私、ふと思ってしまったのです」
翌朝、シアンがロゼリアとヒスイの目の前でこんなことを言い出した。
「いきなり、どうしたのです、シアン」
「そうですよ、シアン様。寝ぼけてらっしゃいますか?」
ヒスイがかなり酷いことを言っている。
「カイス村の奇跡の湖ですよ。あそこの小島、どうしてあるのでしょうかね」
「……そういえばそうね」
シアンがいきなり何を言い出すのかと思えば、アイヴォリー王国にあるとある湖のことだった。
カイス村とは、コーラル伯爵領の高台にある村で、かつては貧困にあえいでいたが、今では実りある場所となっていた。
それを可能にしたのが、シアンが口にした奇跡の湖である。
その場所にはかつて大きな渇いた窪地があり、瘴気が溜まり込んでいた。
溜まった瘴気を吸い込み、今はアイリスと幸せそうに暮らすニーズヘッグは、ロゼリアが十歳の時に復活した。
苦闘の末にニーズヘッグを倒すと、光と水の精霊であるレイニが出現して、窪地はたっぷりの水を湛えた湖へと変化した。その経緯から、そこは奇跡の湖と呼ばれているのである。
渇いていた時には気付かなかったものの、現在の湖には島が一つ浮いている。その浮き島がどこからやって来たのかは分かっていない。レイニ自身もよく分からないらしい。
あれから実に二十年以上の時を経て、今さらながらにシアンがあの島に疑問を抱いたのである。
なぜこんなことを急に思ったのかというと、ほとんどティールが原因である。
ひとつは宝珠だ。
かつてはアトランティス帝国で製造されていたという宝珠の製造法は、いまだに失われていない。つまり、製造法を知る者が生き延びたか、その製造法を記した記録が残っているということだ。
そして、今シアンが思い出しかのように言い出した奇跡の湖。
そこはアトランティス帝国の帝都があった場所なのだ。
ティールも言っていた宝珠を使った実験の中で、誤ってデーモンハートを使ってしまった。その力の暴走により大爆発を起こし、アトランティス帝国は一瞬にして滅びてしまったのだ。
その爆発の跡地こそが、現在の奇跡の湖なのである。
「もしかしたら、もしかします。あの浮き島は、アトランティス帝国の名残なのではないのでしょうか」
「考えられなくもないでしょうけれど、そんな都合のいい話なんてあるのかしらね」
「女王陛下にも聞いてみましょう」
そんなわけで、このあとの朝食の席で、ティールに話をしてみることとなった。
「なに、あの湖に浮き島があると?」
「はい。あそこはかつてアトランティス帝国があった場所です。もしかしたら、あの浮き島にはアトランティス帝国の何かが眠っている可能性があるのではと思うのです」
シアンから話を聞かされて、ティールは考え込み始めた。
「それは十分あり得る話だ。だが、帝都全体を一瞬で消し飛ばしてしまう程の爆発があったのだ。たとえ頑丈に作ったとしても、そんなことが可能であろうか」
「ないとも言えません」
「ヒスイ様、防護魔法の程度によっては、不可能ではないでしょう?」
「えっ、そこで私に振りますか?!」
急に話を振られて、ヒスイは困惑している。
しかし、聞かれた以上は答えなければならないだろう。ましてや魔法に関係した質問。魔法一門として答えなければならないと思ってしまった。
「可能性はありますね。一点集中させれば、それこそドラゴンの攻撃を受けてもびくともしない防護魔法を生み出すことは、理論上可能です」
ヒスイはそのように述べている。
「ただ、話を聞いていると浮き島とやらは大きさがありそうですね。そうなると、普通の防護魔法では都ひとつが吹き飛ぶような威力に耐えることは不可能です」
「ありがとうございます」
答えてくれたヒスイにお礼をいうと、シアンはティールを見る。
「ただ、アトランティス帝国にはこれがあります」
そう言ってシアンが取り出したのは、昨日ティールからもらった宝珠である。
「これに防護魔法を込めてやれば、かなり強靭な防護空間を作ることは可能でしょう。もしかしたら、あの浮き島にはアトランティス帝国に関する何かが眠っている可能性があると思うんです」
「ふむ……、可能性は無きにしも非ずといったところだろうか」
「まったく、この子ってばいきなり何を言い出すのかしら……」
ロゼリアとティールが違った理由で小さく俯いている。
「でも、行くとなれば、シルヴァノ陛下やペシエラの許可が必要よ。あと、コーラル伯爵の許可もね」
「それなら大丈夫でしょう。私たちにはあのうさん臭い猫がいますから」
「ケットシー……。確かに、みんな苦手にしてますけどね」
シアンの言い出したすべてに、ロゼリアは頭が痛くてたまらなさそうである。
「ふむ、アトランティス帝国の遺産が見つけられるとなるのなら、妾も出て行くだけの理由になるな。それに臣下たちを十分納得させられる」
ティールもずいぶんと乗り気のようである。
シアンの急な思いつきから、どうやらこのまま一行はコーラル伯爵領の奇跡の湖に向かうことになりそうである。
翌朝、シアンがロゼリアとヒスイの目の前でこんなことを言い出した。
「いきなり、どうしたのです、シアン」
「そうですよ、シアン様。寝ぼけてらっしゃいますか?」
ヒスイがかなり酷いことを言っている。
「カイス村の奇跡の湖ですよ。あそこの小島、どうしてあるのでしょうかね」
「……そういえばそうね」
シアンがいきなり何を言い出すのかと思えば、アイヴォリー王国にあるとある湖のことだった。
カイス村とは、コーラル伯爵領の高台にある村で、かつては貧困にあえいでいたが、今では実りある場所となっていた。
それを可能にしたのが、シアンが口にした奇跡の湖である。
その場所にはかつて大きな渇いた窪地があり、瘴気が溜まり込んでいた。
溜まった瘴気を吸い込み、今はアイリスと幸せそうに暮らすニーズヘッグは、ロゼリアが十歳の時に復活した。
苦闘の末にニーズヘッグを倒すと、光と水の精霊であるレイニが出現して、窪地はたっぷりの水を湛えた湖へと変化した。その経緯から、そこは奇跡の湖と呼ばれているのである。
渇いていた時には気付かなかったものの、現在の湖には島が一つ浮いている。その浮き島がどこからやって来たのかは分かっていない。レイニ自身もよく分からないらしい。
あれから実に二十年以上の時を経て、今さらながらにシアンがあの島に疑問を抱いたのである。
なぜこんなことを急に思ったのかというと、ほとんどティールが原因である。
ひとつは宝珠だ。
かつてはアトランティス帝国で製造されていたという宝珠の製造法は、いまだに失われていない。つまり、製造法を知る者が生き延びたか、その製造法を記した記録が残っているということだ。
そして、今シアンが思い出しかのように言い出した奇跡の湖。
そこはアトランティス帝国の帝都があった場所なのだ。
ティールも言っていた宝珠を使った実験の中で、誤ってデーモンハートを使ってしまった。その力の暴走により大爆発を起こし、アトランティス帝国は一瞬にして滅びてしまったのだ。
その爆発の跡地こそが、現在の奇跡の湖なのである。
「もしかしたら、もしかします。あの浮き島は、アトランティス帝国の名残なのではないのでしょうか」
「考えられなくもないでしょうけれど、そんな都合のいい話なんてあるのかしらね」
「女王陛下にも聞いてみましょう」
そんなわけで、このあとの朝食の席で、ティールに話をしてみることとなった。
「なに、あの湖に浮き島があると?」
「はい。あそこはかつてアトランティス帝国があった場所です。もしかしたら、あの浮き島にはアトランティス帝国の何かが眠っている可能性があるのではと思うのです」
シアンから話を聞かされて、ティールは考え込み始めた。
「それは十分あり得る話だ。だが、帝都全体を一瞬で消し飛ばしてしまう程の爆発があったのだ。たとえ頑丈に作ったとしても、そんなことが可能であろうか」
「ないとも言えません」
「ヒスイ様、防護魔法の程度によっては、不可能ではないでしょう?」
「えっ、そこで私に振りますか?!」
急に話を振られて、ヒスイは困惑している。
しかし、聞かれた以上は答えなければならないだろう。ましてや魔法に関係した質問。魔法一門として答えなければならないと思ってしまった。
「可能性はありますね。一点集中させれば、それこそドラゴンの攻撃を受けてもびくともしない防護魔法を生み出すことは、理論上可能です」
ヒスイはそのように述べている。
「ただ、話を聞いていると浮き島とやらは大きさがありそうですね。そうなると、普通の防護魔法では都ひとつが吹き飛ぶような威力に耐えることは不可能です」
「ありがとうございます」
答えてくれたヒスイにお礼をいうと、シアンはティールを見る。
「ただ、アトランティス帝国にはこれがあります」
そう言ってシアンが取り出したのは、昨日ティールからもらった宝珠である。
「これに防護魔法を込めてやれば、かなり強靭な防護空間を作ることは可能でしょう。もしかしたら、あの浮き島にはアトランティス帝国に関する何かが眠っている可能性があると思うんです」
「ふむ……、可能性は無きにしも非ずといったところだろうか」
「まったく、この子ってばいきなり何を言い出すのかしら……」
ロゼリアとティールが違った理由で小さく俯いている。
「でも、行くとなれば、シルヴァノ陛下やペシエラの許可が必要よ。あと、コーラル伯爵の許可もね」
「それなら大丈夫でしょう。私たちにはあのうさん臭い猫がいますから」
「ケットシー……。確かに、みんな苦手にしてますけどね」
シアンの言い出したすべてに、ロゼリアは頭が痛くてたまらなさそうである。
「ふむ、アトランティス帝国の遺産が見つけられるとなるのなら、妾も出て行くだけの理由になるな。それに臣下たちを十分納得させられる」
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